ではなかった。恐れていたことが、現実になってしまう。
純血の誇り本部。薄暗い部屋に、五人の幹部が集まっていた。
「……報告を聞いた。実働部隊五人が、たった一人の混血のガキに全滅させられただと?」
虎族の幹部が低く唸る。
「紅葉凛馬……五種族混血。能力測定で規格外の数値を記録した少年ですね」
鷹族の女性が資料を広げた。
「ふふふ……面白い。実に面白い。あの子は、我々の計画に最適な素材だ」
蛇族の男が舌なめずりをする。
「だが、あの子は我々に敵対的だ。協力は望めまい」
「ならば力づくで従わせるまでです。弱点を突けばいい」
猫族の女性が冷たく言った。
「弱点、か。あの子には大切な者たちがいるな。特に……熊族の少女、森下アオ」
「彼女を人質にすれば、紅葉凛馬は従うでしょう」
「それだけではない。紅葉ミケ、金城コハク、黒瀬ヒョウカ、兎原ミナ……利用できる駒は多い」
幹部たちが不気味に笑う。
「よし。次の作戦を立てる。今度は――確実に仕留める」
暗闇の中で、陰謀が動き始めていた。
会議室を出た後、虎族の幹部は廊下を歩く。壁には黄金の鬣を持つ獣人の肖像画。
「……もうすぐです、獅子王様」
「五種族混血。あれほどの器、そう現れるものではない」
「その力を捧げれば、完全なる世界は近づく」
「すべては、獅子王様に喜んでいただくために」
五人は静かに頭を垂れた。その瞳には狂信的な忠誠が宿っていた。
その夜。森下家。
アオは食器を片付けながら伸びをした。
「ふぅ……明日も学校だし、早く寝よっと」
スマホを見る。凛馬とのメッセージ画面を開いた。
『凛馬、おやすみ。今日も一日、ありがとう。明日も一緒に頑張ろうね』
「……えへへ」
――ガタン。大きい物音が鳴った。振り向いた瞬間、窓ガラスが砕け散った。
「っ!?」
黒い影が侵入する。
「森下アオだな」
「な、なに……!?来ないで!!」
アオは踏み込み拳を振るう。だが背後から拘束されてしまう。
「くっ……!」
「さすがだ。だが戦闘向きではない」
口元を塞がれ、意識が揺らぐ。
(凛馬……)
倒れる椅子。割れる食器。
「……凛馬……」
意識が途切れ、静寂だけが残った。
数時間後。夜勤明けのアオの母が帰宅した。
「ただいま、アオ……?」
リビングに入り、凍りつく。荒れた室内。
「アオ……どこいったの!?」
震える手でスマホを取り出す。
――圏外。固定電話も沈黙。電波が遮断された様だ。
「どうして……!」
テーブルの紙を読む。
『森下アオは我々が預かった。彼女を無事に返してほしければ紅葉凛馬、一人で指定の場所に来い。
場所:旧工場跡地
時間:今日10:00
警察や他の者を連れてくれば、彼女は二度と君の名前を呼べなくなる。
――純血の誇り』
「……誘拐……?」
母の膝が崩れる。
「アオ……ごめん……」
だが次の瞬間、立ち上がった。
「……凛馬くんに伝えなきゃ……!」
彼女は家を飛び出した。
翌朝。凛馬は家の前でアオを待っていた。
7:40……7:50……8:00……
来ない。電話も繋がらない。胸に嫌な予感が広がる。
その時――
「凛馬くん!!」
息を切らした女性が駆け寄る。アオの母だった。
「アオが……いなくなったの……!」
差し出された紙。凛馬が読む。
「……」
その時、凛馬の纏う空気が変わった。虹色の瞳が冷たく光る。
母親は思わず一歩下がってしまった。怒気。圧倒的な怒り。
だがその奥にあったのは――覚悟だった。
「旧工場跡地……十時までに一人でって……」
「大丈夫です」
凛馬は静かに言った。
「俺が助けます」
母親は息を呑む。怖いはずなのに、不思議と安心した。
(この子なら……)
「必ず、連れて帰ります」
凛馬は走り出した。
その時、スマホが鳴る。ヒョウカからだった。
「もしもし」
『凛馬、アオが学校に来てない。何かあったか?』
「……アオが、純血主義者に連れ去られた」
『……何だと!?アイツらふざけやがって……』
「今から旧工場跡地に行く。一人で」
『待て!危険すぎる!』
「でも他を連れて行ったらアオが……」
長い沈黙が流れた。
『……わかった。だが居場所だけ教えろ。何かあればすぐ行く』
「……ありがとう、ヒョウカ」
『アオを必ず助けろ。俺たちも準備しておく』
電話が切れる。凛馬は拳を握った。
「アオ……待ってろ。必ず助ける」
最後まで読んでくださりありがとうございます!
次回から、この物語一気に動き出します。凛馬の本当の力が見えそうです……
あとX初めてみたので、フォローしてくれると嬉しいです☺️
@uemtrnmdxx