BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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幹部壊滅の報告を受け、ついに動き出す獅子王レオン。
その裏で、救い出されたアオは凛馬の“温もり”に触れていた。


53話 手の温度

暗く広い部屋。窓から見える夜景が静かに輝いていた。

一人の男が椅子に座り、報告書を読んでいた。

「…幹部が全滅。実働部隊も壊滅…か」

低く、威厳に満ちた声。金色の瞳が細められる。

「申し訳ございません。紅葉凛馬の戦闘力は予想を遥かに――」

「違う」

報告役の言葉を遮る。静かな声だった。だが部屋の空気が凍る。

「敗因は戦力差ではない」

報告書を机へ置く。

「誘拐などという愚策を選んだ時点で、勝敗は決まっていた」

部下が息を呑む。

「弱者は人質を取る。強者は正面から奪い取るものだ」

その男――獅子王レオンが立ち上がる。

「誇りを掲げながら、誇りを捨てた」

金色の瞳が冷たく光る。

「残存幹部は全員解任だ」

「えっ……!?」

「我が名を使う資格はない。組織は——もはや俺1人で十分だ」

静かに告げる。怒鳴る様な圧はなかった。だが絶対だった。

「純血の誇りは、恐怖で従わせる組織ではない」

窓の外を見つめる。

「……紅葉凛馬」

わずかに口元が上がる。

「久しく現れなかったな。本物が」

振り返る。

「私が、直接動く」

部屋の空気が震えた。

「お前の力――この目で確かめさせてもらおう」

 

病院を出たころには、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。

「本当に大丈夫か?」

「うん……平気だよ」

そう言った直後、アオの足元が少しよろめく。凛馬がとっさに支える。

「ほら、無理するな」

「ちょっと疲れただけ……」

言葉とは裏腹に、呼吸は浅い。

凛馬は一瞬だけ迷い――しゃがんだ。

「乗って」

「え?」

「帰り道、まだあるから」

「で、でも……」

「いいから」

そう言って。凛馬は半ば強引にアオを抱いた。

少しだけ躊躇したあと、アオはそっと腕を回した。

凛馬の背中は、驚くほど広くて、温かかった。

「……重くない?」

「うん。本当に乗ってるかわかんないぐらい」

アオは小さく笑う。

「強がり」

「強いんだよ、俺は」

そう言って歩き出した。静かな住宅街。

アオは凛馬の肩に顔を預けた。鼓動が聞こえる。

「……来てくれて、ほんとによかった」

その声は小さかった。凛馬は少しだけ歩幅をゆるめた。

「当たり前だ」

しばらくしてから、家の前に着いた。

勢いよく玄関が開いた。

「アオ!!」

母親が飛び出してくる。そして目に入る光景。娘を背負った少年。母は一瞬、言葉を失う。

次の瞬間――

「……よかった」

その一言に、すべてが詰まっていた。

玄関に静かな安心が広がった。アオが少し眠そうに目を細める。

それを見て、凛馬が口を開いた。

「……あの」

母が顔を上げる。

「今日は、俺がアオを見てます」

「え?」

「まだ精神的に不安定だと思うので。夜もそばにいます」

母は凛馬を見つめる。その目は、値踏みではなく――確認だった。

そして、ふっと柔らかく笑う。

「……お願いしてもいい?」

「はい」

「アオ、よかったわね」

「うん……」

少し照れながら頷く。母は安心したように肩の力を抜いた。

「じゃあ私は夕飯の準備してくるわ。凛馬くん、遠慮しないでね」

「ありがとうございます」

アオが小さく呟く。

「……凛馬、ほんとにいいの?」

「当たり前だろ」

「えへへ……」

その笑顔は、少しだけいつものアオに戻っていた。

 

夜。

アオの部屋には、柔らかな明かりだけが灯っていた。窓の外では街の光が静かに揺れている。

ベッドの上で、アオは毛布に包まり横になっていた。

その隣の椅子に、凛馬が座っている。

「……凛馬。起きてる?」

「起きてるよ」

すぐに返事が返る。それにアオは少し安心したように息を吐いた。

「……ごめんね。今日ずっと付き合わせちゃって」

「迷惑なんかじゃないよ」

凛馬は静かに言う。

「アオが無事でよかった。それだけだ」

アオの視線が、少し揺れる。

「……怖かった」

ぽつりと零れる。

「閉じ込められてる間、ずっと考えてたの。凛馬、来てくれるかなって……」

指先が震える。凛馬は何も言わず、そっと手を握った。冷えていた手が、ゆっくり温もりを取り戻していく。

「もう大丈夫だ。俺がそばにいる」

「……うん」

少し沈黙。時計の音だけが響く。

そして――

「ねえ、凛馬」

「ん?」

「目、閉じるの……ちょっと怖いかも」

凛馬の胸が、わずかに痛む。

「寝るまでここにいる」

「……ほんと?」

「ああ」

アオは安心したように目を細めた。無意識に、凛馬の手をぎゅっと握り直す。離したら、またいなくなる気がして。

凛馬は気づいていたが、何も言わない。ただ、指を包み込むように握り返した。

「ミケたち、明日来るって」

「……そっか」

アオが小さく笑う。

「みんな優しいね」

「ああ。俺たちは一人じゃないからな」

アオは静かに頷いた。しばらくして、眠気が訪れる。

「……凛馬」

「ん?」

「来てくれて、ありがとう」

その言葉に、凛馬は少しだけ目を細めた。そっと身を乗り出し、額に軽く口づける。

「安心しておやすみ」

「……うん」

アオはゆっくり目を閉じた。呼吸が少しずつ穏やかになっていく。

だが——

しばらくして、アオの肩が小さく震えた。眉が苦しそうに寄る。

「……や……」

かすかな寝言。夢を見ているようだ。

凛馬は何も言わず、握る手の力だけを少し強くした。すると、震えが少しずつ収まっていった。

凛馬は静かに息を吐く。どれだけ強くなっても。敵を倒せても。この震えを消してやることはできない。

それでも――そばにいることはできる。

凛馬は椅子にもたれ、アオの寝顔を見つめた。穏やかな顔だった。

その温度を確かめるように、手を握り続ける。戦いの疲労が、遅れて身体を襲う。瞼が重くなる。

「……もう二度と……」

言葉は途中で途切れた。凛馬は手を握ったまま、静かに眠りに落ちた。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
レオンがついに始動しました。今後に要注目です!
次回、アオの家に全員大集合します。
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