BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

55 / 82
獅子王レオンが本格的に動く。誇りを貫く為、そして試す為に。
一方で、凛馬にも静かな揺らぎが芽生える。


55話 王の準備

重い衝撃音が、広大な訓練場に響いた。

ドォン――。

石床が低く震える。中央で拳を振り抜いた男が、ゆっくり息を吐いた。

獅子王レオン。

上半身には無数の古傷が刻まれている。だがその動きに迷いはない。踏み込み、拳を打ち込むたび空気が裂ける。

ドンッ!!

鋼鉄製の訓練柱が歪み、鈍い音を立てた。背後で控えていた部下が口を開く。

「獅子王様、観測結果が出ました。対象――紅葉凛馬。覚醒反応、現在も継続中です」

レオンは振り返らない。

「……そうか」

怒りも焦りもない返答だった。ただ、事実を受け入れる声だった。

「対象の周囲には常時同行者が確認されています」

拳を下ろす。

「仲間、か」

小さく呟く。レオンはしばらく黙考した。

「対象の同行者は四名だったな」

「はい」

金色の瞳がわずかに細まる。

「……あの者たちが戦闘に加われば、状況は複雑になる」

部下が首を傾げる。

「脅威、ということでしょうか?」

「違う。未熟な戦士が混じれば、守るべきものが増える」

静かにそう告げた。

「戦いが乱れると互いの成長を歪める」

レオンは窓の外へ視線を向けた。

「……これは、彼女らのためでもある」

部下が息を呑む。

「少しの間、じっとしてもらおう」

視線が戻る。

「拘束準備を進めろ」

部下がわずかに戸惑う。

「我々が、ですか?」

レオンはゆっくり振り返った。金色の瞳が静かに向けられる。

「ああ」

一歩、近づく。

「少しは役に立て」

厳しい言葉だが侮蔑はない。任務を与える声だった。

部下が姿勢を正す。

「能力抑制装置を展開します」

レオンは頷く。

「私は少年と話をしに行くだけだ」

一拍。

「虐殺に行くのではない」

訓練場の空気が引き締まる。

「戦士は、戦士として立たせろ」

低く、揺るがない声。

「仲間を盾にした勝利に価値はない」

「非殺傷拘束へ移行します」

「不要な流血は避けろ」

部下がケースを差し出した。中に収められていたのは一本の鎖。

鈍い銀色。ただの金属ではない。

周囲の空気がわずかに重くなる。

「獣人封鎖鎖です。対象の獣人因子を一時的に沈静化させます」

レオンはそれを手に取った。触れた瞬間、鎖が低く共鳴した。

「……古い遺物か」

「はい。暴走個体制圧用に保管されていたものです」

レオンはしばらく鎖を見つめる。そして静かに言った。

「――備えは礼儀だ」

部下たちが深く頭を下げた。レオンは再び訓練柱の前へ戻る。

拳を軽く握る。

「私は――あの少年を試す」

振り抜く。

ドォォン!!

鋼鉄が大きく歪んだ。

 

その頃。森下家。

部屋の灯りはまだ消えていなかった。アオは静かな寝息を立てていた。

その横の椅子に、凛馬が座っていた。腕を組み、壁にもたれている。

凛馬はしばらくその寝顔を見つめる。

“守れた”。そう思うはずなのに、胸の奥のざわつきは消えない。

窓の外へ視線を向ける。夜の住宅街は、何事もないように静かだった。

「……」

ふと、工場の光景がよぎる。倒れていた敵。震えていた仲間たち。自分達だけが立っていた場所。

無意識に拳を握る。

(もし――)

思考がよぎる。

(みんなが、もう少し戦えたら……)

すぐに首を振った。

「……いや」

危険な考えだ。巻き込みたくない。

そう思っているはずなのに——

胸の奥で、別の感情が小さく残った。

一人では、届かない瞬間が来るのかもしれない。

凛馬は息を吐き、椅子にもたれた。

「……守るって、難しいな」

小さく呟く。

アオの手をそっと握り直した。眠っているようで、眠っていない。

わずかな物音に視線が動く。

「……」

理由は分からない。だが胸の奥が落ち着かない。

無意識に拳を握る。

瞳の奥に、ほんの一瞬だけ赤が揺れた。だがすぐに消えた。

「……大丈夫だ」

小さく呟く。守るように視線を落とす。

そして再び外を見る。言葉にできない予感だけが残っていた。

 

高層ビル最上階。青白い光が静かに広がる。能力抑制装置が起動を開始する。

レオンが夜景を見下ろしていた。

「……混血は、いずれ世界を歪める」

わずかな沈黙。

その瞬間――脳裏に光景がよぎる。

砂煙の舞う戦場。背中合わせに立つ一人の獣人。

血に濡れながらも笑っていた。

『背中は任せたよ、レオン』

拳を交え、共に敵を打ち倒した記憶。

そして――崩れ落ちる影。

赤く染まる大地。伸ばされた手が、届かなかった。

レオンの瞳がわずかに揺れる。だが次の瞬間、感情は消えた。

「だからこそ――」

目を閉じる。

「消さねばならんのだ」

その声に怒りはない。ただ、揺るがぬ確信だけがあった。

夜景の光が、金色の瞳に静かに燃えていた。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
レオンの脳裏によぎった獣人は、一体何者なのでしょうか?
次回、凛馬が新たな戦い方を得そうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。