BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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“守る”ために、凛馬は新たな戦い方を選ぶ。
その手に握ったのは、二つの刃。



56話 選んだ刃

朝の光が、森下家のリビングを柔らかく照らしていた。

「……もう大丈夫だよ、凛馬」

ソファに座るアオが、少し照れくさそうに笑う。

顔色はまだ万全ではない。それでも昨日までの不安な影は薄れていた。

「無理するなよ」

「してないって。お母さんが凛馬の心配しだしてるよ」

キッチンからアオの母が顔を出す。

「本当にありがとうね、凛馬くん。ずっと付き添ってくれて」

「いえ……当然の事をしたまでです」

軽く頭を下げる。

玄関で靴を履きながら、凛馬は一度だけ振り返った。

アオがこちらを見ている。

「凛馬」

「ん?」

「……来てくれて、嬉しかった」

凛馬は少しだけ笑った。

「また来るよ」

ドアを開ける。朝の空気が胸に流れ込んだ。

久しぶりに、一人だった。

 

帰り道。足は自然と、近くの公園へ向いていた。

昼下がりの公園は賑やかだった。子供たちの笑い声。ボールを追いかける音。ベンチでは親たちが談笑している。

凛馬は少し離れた場所のベンチに腰を下ろした。

周囲は騒がしいのに、不思議と音が遠く感じる。

(……守れた)

そう思う。だが胸の奥のざわつきは消えない。

戦闘の光景がよぎる。倒れている敵。震えていた仲間たち。

そして――止まれなかった自分。

無意識に拳を握る。その時——

「いけー!」「やられたー!」

元気な声が響いた。

視線を向けると、子供たちが木の棒を手にチャンバラをしていた。

「二刀流だぞ!最強なんだからな!」

一人の子供が、棒を両手に構える。

右手で打ち込み、左手で受け止める。ぎこちない動きだった。

それでも――

攻撃と防御が同時に成立していた。凛馬の視線が止まる。

踏み込み。距離。体の軸。

(……両手が、空いていない)

攻めながら、守れる。止められる。選べる間合い。

子供が気づいて振り返る。

「あ、虹色のお兄ちゃん!お兄ちゃんもやる?」

無邪気な問い。凛馬は少し考えた。

そして――

「……良いな。二刀流。」

小さく呟いた。その言葉は、自分自身への答えだった。

子供たちの笑い声が遠ざかっていく。凛馬はしばらく動かなかった。

(……できるかもしれない)

ポケットからスマホを取り出す。

少し迷い――発信した。

『どうした、凛馬』

灰谷の声。

「……灰谷さん、今大丈夫ですか」

『珍しいな、君から連絡て』

凛馬は公園を見渡した。子供たちが走り回る、何気ない光景。

「戦い方のことで、相談したくて」

『ほう?』

「両手で戦えたら、止められる気がするんです。攻撃しながら、守れるっていうか……」

電話の向こうで小さく息を吐く音。

『……武器か?』

凛馬が少し驚く。

「わかるんですか」

『まあな。そう考える奴は、だいたいそこに辿り着く』

そして――

『一回学園来い』

「え?」

『面白いもん見せたるわ』

通話が切れた。凛馬はスマホを下ろし、小さく息を吐く。

「……いってみるか」

そう言って学園に歩き出した。

 

夕暮れの学園。

校舎の窓が橙色に染まり、人の気配はほとんどなかった。

「こんな時間に入って大丈夫なんですか」

凛馬が小声で聞く。灰谷は肩をすくめる。

「心配すんな。こういうのはな、見つからんように歩くのがコツや」

警備員の視線が一瞬こちらを向いた――気がしたが、そのまま通り過ぎた。

「……今、見られませんでした?」

灰谷が笑う。

「昔からな。視線掻い潜るん、ちょっと得意やねん」

それ以上は語らなかった。

 

校舎の奥。使われていない資料室の扉が開く。

中は部屋ではなく、地下へ続く階段だった。

「……?」

「驚くのはまだ早いで」

降りた先には扉があった。

その扉が開いた瞬間――

広大な空間が現れた。

「男の子はな、こう言うの好きやろ?」

壁一面に並ぶ武器。

剣、槍、斧、棍、盾。床には無数の傷跡。

静かな照明だけが空間を照らしている。

「学園の裏訓練室や。表には出とらん」

凛馬は思わず息を呑んだ。

「……こんなの、あったんですね」

「教師いうんはな、見えへん所も守る仕事や」

灰谷は壁際へ歩く。

「ほら。好きなん選べ」

「……俺が?」

「戦い方は人に決められるもんちゃう」

凛馬は武器棚の前に立った。

大剣を持つ。重い。振る。

破壊力はあるが、動きが止まる。しっくりこなかった。

槍。距離は取れる。だが守る時、遅れる。これも違う。

 

拳。握る。

――昨日の自分がよぎる。

止まれなかった拳。これはダメだ。

ゆっくり息を吐く。

視線が止まった。棚の端。並ぶ二振りの剣。

手に取ると、軽かった。

構えるとぎこちないが――

体の中心が自然に残る。一歩踏み込む。

右を振る。左が自然に防ぐ様に前へ出た。

凛馬の目がわずかに開く。

(……守れる)

灰谷が腕を組んだまま言う。

「それ選ぶか」

「……なんか。止められる気がします」

灰谷が小さく笑った。

「ええ理由や」

凛馬は構え直し、振る。

――ガンッ。

剣同士がぶつかり、体勢が崩れた。

「うわっ!」

よろけて、転げてしまった。その様子を灰谷が笑った。

「最初から上手くいくかいな」

凛馬は苦笑し、もう一度構える。

何度も振る。何度も失敗する。

夕焼けの光が地下へ差し込み、剣が淡く光った。

段々息が荒くなり、汗が落ちる。

それでも止めない。

「……難しいな」

「せやろ」

灰谷が静かに言う。

「せやけどな」

少し真面目な声になった。

「守るための戦い方は、時間かかるもんや」

凛馬は剣を握り直した。もう一度、踏み込む。

今度は――少しだけ動きが繋がった。

灰谷の口元がわずかに緩む。

「……ちょっと形なってきたやん」

双剣の軌道が、初めて“形”になった。

何度目かの振り下ろした後。凛馬の呼吸が荒くなる。剣先がわずかに震えていた。

灰谷が壁にもたれたまま言う。

「……今日はこの辺にしとき」

凛馬が顔を上げる。

「もうですか?」

「焦ってもしゃーない。体に覚えさせるもんや」

灰谷は凛馬に近づき鍵を見せる。

「また言うてくれたら開けたる。いつでもええ」

静かな声だった。押し付けるでもなく、突き放すでもない。

凛馬は双剣を見下ろす。まだぎこちないけど、確かに手に馴染み始めていた。

「……ありがとうございます」

「礼はいらん。強なってくれたらそれでええねん」

照明が落ち、訓練室が薄暗くなる。二人は静かに階段を上がった。

 

夜。凛馬は家の前に立っていた。

玄関の明かりが、静かに足元を照らしている。

少しだけ迷ってから、インターホンを押した。

――ピンポーン。

「はーい……」

扉が開く。

「……え?」

ミケが固まった。

「り、凛馬!?」

「ただいま……って言っていいのか分かんないけど」

次の瞬間——

「おかえりにゃーー!!」

勢いよく抱きつかれ、凛馬が一歩後ろによろけた。

「ちょ、落ち着けって」

「帰ってきたにゃ!帰ってきたにゃ!」

尻尾がぶんぶん揺れている。奥から母の声が聞こえた。

「どうしたの、そんな大声出して――あら」

キッチンから顔を出した母が微笑む。

「凛馬くん。久しぶりねぇ」

「ただいまです。急にすみません」

「何言ってるの。ここはあなたの家みたいなものでしょう?」

温かい匂いが玄関まで流れてくる。シチューの匂いだった。

「今日はご飯あるにゃ!絶対食べてくにゃ!」

「いや、悪いよ」

「何も悪くないにゃ!」

腕を引かれ、半ば強引に中へ。リビングの灯りが柔らかかった。

ソファやテレビの音。食卓の湯気。

凛馬はふっと息を吐いた。

「……なんか、久々に帰ってきた感じするな」

小さく呟く。胸の奥の張りつめていた何かが、ようやくほどけた気がした。

ミケの母が優しく笑った。

「おかえりなさい」

その一言が、静かに胸に落ちた。凛馬の喉が、わずかに詰まった。

ミケは嬉しそうに隣へ座る。

「今日はいっぱい食べるにゃ!」

凛馬は少しだけ笑った。

「……じゃあ、遠慮なく」

窓の外では、夜が静かに更けていった。

 




最後まで読んでくださりありがとうございます!
凛馬の双剣スタイルが確立されました。これで本格的にアオや、ミケ達を守れそうです。
次回、訓練所にとある人影が……?
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