凛馬の隣に立つため、彼女たちも刃を取る。
休日の朝。ミケの家はまだ静かだった。
カーテン越しの光が、床を淡く照らしている。
凛馬はそっと立ち上がり、音を立てないように靴を履いた。
「……」
ドアノブに手をかけた、その時。
「……どこ行くにゃ?」
振り向くと、ミケが寝ぼけ眼で立っていた。
「あぁ、ちょっとな」
「休日なのに朝早いにゃ……」
「すぐ戻るよ」
短く言って、凛馬は外へ出た。
ドアが閉まった後、ミケの尻尾がぴくりと動く。
「……最近、変にゃ」
布団に戻ろうとする。だが足が止まった。
「また一人で抱え込んでる顔だったにゃ」
数分後。ミケはこっそり家を出た。
電柱の影に隠れながら凛馬の背中を追う。
(私ストーカーみたいかな……?)
ミケの足が止まる。
(でもでも!これは確認だにゃ……)
そして再び進む。自分に言い訳しながら。
学園裏門。凛馬の前に灰谷が現れる。
「おお、早いな」
「なんか、早く振りたくて」
「なんやそれ、ハマってもうてるがな」
ミケは物陰から目を見開いた。
(灰谷先生……?)
二人は校舎の奥へ進む。資料室の棚が動いた。
地下へ続く階段が現れる。
「な、なにそれ……」
ミケは息を呑み、こっそりついていった。
地下の広い空間。凛馬は双剣を再び握った。
深呼吸し、踏み込む。右を振る。左を流す。
まだ荒いが昨日より確実に鋭くなっていた。
転んでも立つ。振る。
「……守るための形、か」
灰谷が腕を組む。
凛馬は答えず、ただ振り続けた。
その背中を、ミケは見ていた。
(私たちのため、だよね)
胸がきゅっと締まる。スマホを取り出し、みんなに連絡した。
『今すぐ来て』
数十分後。地下の扉が開いた。
「何してるの?」
凛馬が振り向くとそこには——
「……は?」
ミケ達が立っていた。
「ついてきてたのか?」
「確認にゃ!」
コハクが笑う。
「二刀流!?めっちゃかっこいいじゃん!」
ヒョウカが静かに言う。
「これがお前の出した答えか」
ミナが続く。
「私たちを戦わせないためですね」
凛馬は視線を逸らす。
「巻き込みたくないだけだ」
ミケが一歩前に出る。
「もう巻き込まれてるにゃ」
空気が少し張る。その空気を裂くようにコハクが言った。
「じゃあさ」
木の棒を肩に担ぎながら言う。
「アタシらも練習したい」
軽い口調だった。けれど目は真剣だった。
ヒョウカが静かに頷く。
「連携訓練をやるべきだ。」
ミナも続く。
「いい判断です。凛馬さんに依存する構造は、戦術的に良くないですからね」
ミケが一歩前に出た。
「一人で背負うのは禁止にゃ。……もう、見てるだけは嫌にゃ」
空気が静まる。凛馬は何も言わなかった。
四人の顔を見る。昨日までなら、止めていた。
だが――
(もし、みんなが戦えたら……)
あの時、胸の奥で浮かんだ言葉。自分で否定した考え。巻き込みたくないと、押し込めた思考。
でも今。彼女らは目の前に立っている。
逃げていない。震えながらも、前を見ている。
――こいつらの方が、よっぽど勇敢じゃないか。
心からそう思えた。
そして、凛馬はゆっくり息を吐いた。双剣を握る手に、わずかに力が入る。
――本当に守るだけじゃ、足りないのかもしれない。
小さく笑った。
「……基礎だけだぞ。怪我したらそこで終わりだ」
ミケの顔がぱっと明るくなる。
「やったにゃ!!」
コハクが拳を上げる。
「よっしゃあ!」
ヒョウカが小さく頷き、ミナはすでにメモを取り始めていた。
灰谷が壁際で小さく笑う。
「ええ判断や」
凛馬は双剣を構える。
「じゃあとりあえず連携だな」
「俺をどうやって倒すか、皆で考えて突っ込んで来い」
「了解にゃ!」
「おっけー!ケガしても知らないよー?」
「……よし」
「解析します」
四人が距離を取る。一瞬の静寂の後——
「いくにゃーー!」
ミケが最初に突撃。
「あっ!ミケ早い!」
コハクも続く。
ヒョウカが冷静に踏み込み、ミナが少し遅れて走る。
――結果。
ドンッ!!
「にゃ!?」
「うわっ!?」
「ぐっ」
「きゃっ!!」
同時に踏み込んで、四人まとめて衝突した。床に団子状態で倒れた。
……数秒誰も動かなかった。
灰谷が腕を組んだまま言う。
「……息ぴったりやな。悪い意味で」
コハクが笑いながら起き上がる。
「いや今の凛馬避けるの上手すぎでしょ!」
「直線的すぎるな。これなら誰でも避けれる」
ミケが床から顔だけ上げる。
「連携むずかしいにゃ……」
ヒョウカが真顔で分析する。
「突入タイミングが一致しすぎているな……」
ミナがメモを取りながら頷く。
「個体ごとにあったスタイルで突入するのも良いですね」
凛馬は双剣を下ろした。
「いいか、戦うってのは強い順に動くんじゃない」
四人を見る。
「隣を見るんだ」
少しだけ優しい声。
「誰がどこにいるか、それだけで変わる」
ミケが立ち上がる。
「じゃあもう一回にゃ!」
「次はぶつからないようにね」
コハクが笑いながら、再び構える。
今度はゆっくり。呼吸を合わせて踏み込んだ。
ミケが右。コハクが左。ヒョウカが後ろを抑え、
ミナが距離を保つ。
凛馬が軽く受け流す。
「……お」
灰谷が小さく呟いた。
「形になってきたやん」
凛馬も少し驚いた顔をする。
「今の感じだ」
四人の顔が明るくなる。
「できたにゃ!」
「チームっぽくない?」
凛馬は小さく笑った。
「……悪くない」
その声は、昨日よりずっと柔らかかった。
訓練の合間。
「ちょ、ちょっと休憩にゃ……」
ミケが床に座り込む。
コハクも息を切らして笑った。
「思ったよりキツいねこれ」
凛馬が双剣を下ろした、その時――
ブブッ。スマホが震える。
画面には《アオ》。
凛馬の表情が、それだけでわずかに柔らいだ。
「もしもし」
『凛馬?今、大丈夫?』
少しだけ遠慮がちな声。
「ああ。どうした?」
『……みんな、訓練してるんでしょ』
凛馬は周囲を見る。仲間たちが静かに様子をうかがっている。
『僕も行きたい』
静かな言葉だった。
冗談じゃなかった。本気の声。
凛馬はすぐには答えなかった。小さく息を吐く。
「……来たいのは、分かる。」
電話の向こうで小さく笑う気配。
「でもな。今は、じっとしててくれ」
責める響きはない。お願いに近い声だった。
「無理して来る場所じゃない」
少し迷ってから続ける。
「無理して欲しくないんだ」
短い沈黙。
『……うん。凛馬ならそう言うと思った……でもね』
少しだけ強い声。
『早く、隣に立てるようになりたい』
凛馬の指がわずかに強くなる。視線が落ちる。
「……待ってるよ」
小さく答えた。声が柔らかくなる。
『頑張ってね』
通話が切れる。凛馬はしばらくスマホを見つめていた。
少しだけ、悔しそうに息を吐く。
「アオ?」
ミケがそっと聞く。
「来たいってさ」
優しく答える。
「ははーん?」
にやっと笑う。
「隣に立ちたい、だって?」
「……聞いてたのかよ」
「聞こえる距離で電話してたじゃん」
一歩近づく。
「凛馬ってさ」
肩を軽くつつく。
「守る守る言うけど、ちゃんと信じられてるよね」
凛馬が少しだけ困った顔をする。
「……そういう話じゃない」
「あ、照れてる」
「照れてない」
「でも耳赤いよ?」
「赤くない」
ヒョウカが横から言う。
「いや、赤いな」
ミナが冷静に補足する。
「凛馬くん、汗ダラダラですよ」
「お前らな……」
笑いが広がる。
灰谷が壁際で小さく笑った。
「ええ空気やな」
凛馬は再び双剣を構える。
今度の視線は――守るためではなく。並ぶためのものだった。
凛馬は一歩、前へ踏み出した。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ミケ達は、守られるのではなく並ぶことを選びました。チームとしての第一歩ですね。
次回、あの男が、ついに来訪します。