BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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一人で守る。その選択は、仲間たちによって覆される。
凛馬の隣に立つため、彼女たちも刃を取る。



57話 並ぶ者達

休日の朝。ミケの家はまだ静かだった。

カーテン越しの光が、床を淡く照らしている。

凛馬はそっと立ち上がり、音を立てないように靴を履いた。

「……」

ドアノブに手をかけた、その時。

「……どこ行くにゃ?」

振り向くと、ミケが寝ぼけ眼で立っていた。

「あぁ、ちょっとな」

「休日なのに朝早いにゃ……」

「すぐ戻るよ」

短く言って、凛馬は外へ出た。

ドアが閉まった後、ミケの尻尾がぴくりと動く。

「……最近、変にゃ」

布団に戻ろうとする。だが足が止まった。

「また一人で抱え込んでる顔だったにゃ」

数分後。ミケはこっそり家を出た。

電柱の影に隠れながら凛馬の背中を追う。

(私ストーカーみたいかな……?)

ミケの足が止まる。

(でもでも!これは確認だにゃ……)

そして再び進む。自分に言い訳しながら。

 

学園裏門。凛馬の前に灰谷が現れる。

「おお、早いな」

「なんか、早く振りたくて」

「なんやそれ、ハマってもうてるがな」

ミケは物陰から目を見開いた。

(灰谷先生……?)

二人は校舎の奥へ進む。資料室の棚が動いた。

地下へ続く階段が現れる。

「な、なにそれ……」

ミケは息を呑み、こっそりついていった。

地下の広い空間。凛馬は双剣を再び握った。

深呼吸し、踏み込む。右を振る。左を流す。

まだ荒いが昨日より確実に鋭くなっていた。

転んでも立つ。振る。

「……守るための形、か」

灰谷が腕を組む。

凛馬は答えず、ただ振り続けた。

その背中を、ミケは見ていた。

(私たちのため、だよね)

胸がきゅっと締まる。スマホを取り出し、みんなに連絡した。

『今すぐ来て』

 

数十分後。地下の扉が開いた。

「何してるの?」

凛馬が振り向くとそこには——

「……は?」

ミケ達が立っていた。

「ついてきてたのか?」

「確認にゃ!」

コハクが笑う。

「二刀流!?めっちゃかっこいいじゃん!」

ヒョウカが静かに言う。

「これがお前の出した答えか」

ミナが続く。

「私たちを戦わせないためですね」

凛馬は視線を逸らす。

「巻き込みたくないだけだ」

ミケが一歩前に出る。

「もう巻き込まれてるにゃ」

空気が少し張る。その空気を裂くようにコハクが言った。

「じゃあさ」

木の棒を肩に担ぎながら言う。

「アタシらも練習したい」

軽い口調だった。けれど目は真剣だった。

ヒョウカが静かに頷く。

「連携訓練をやるべきだ。」

ミナも続く。

「いい判断です。凛馬さんに依存する構造は、戦術的に良くないですからね」

ミケが一歩前に出た。

「一人で背負うのは禁止にゃ。……もう、見てるだけは嫌にゃ」

空気が静まる。凛馬は何も言わなかった。

四人の顔を見る。昨日までなら、止めていた。

だが――

(もし、みんなが戦えたら……)

あの時、胸の奥で浮かんだ言葉。自分で否定した考え。巻き込みたくないと、押し込めた思考。

でも今。彼女らは目の前に立っている。

逃げていない。震えながらも、前を見ている。

――こいつらの方が、よっぽど勇敢じゃないか。

心からそう思えた。

そして、凛馬はゆっくり息を吐いた。双剣を握る手に、わずかに力が入る。

――本当に守るだけじゃ、足りないのかもしれない。

小さく笑った。

「……基礎だけだぞ。怪我したらそこで終わりだ」

ミケの顔がぱっと明るくなる。

「やったにゃ!!」

コハクが拳を上げる。

「よっしゃあ!」

ヒョウカが小さく頷き、ミナはすでにメモを取り始めていた。

灰谷が壁際で小さく笑う。

「ええ判断や」

凛馬は双剣を構える。

「じゃあとりあえず連携だな」

「俺をどうやって倒すか、皆で考えて突っ込んで来い」

「了解にゃ!」

「おっけー!ケガしても知らないよー?」

「……よし」

「解析します」

四人が距離を取る。一瞬の静寂の後——

「いくにゃーー!」

ミケが最初に突撃。

「あっ!ミケ早い!」

コハクも続く。

ヒョウカが冷静に踏み込み、ミナが少し遅れて走る。

――結果。

ドンッ!!

「にゃ!?」

「うわっ!?」

「ぐっ」

「きゃっ!!」

同時に踏み込んで、四人まとめて衝突した。床に団子状態で倒れた。

……数秒誰も動かなかった。

灰谷が腕を組んだまま言う。

「……息ぴったりやな。悪い意味で」

コハクが笑いながら起き上がる。

「いや今の凛馬避けるの上手すぎでしょ!」

「直線的すぎるな。これなら誰でも避けれる」

ミケが床から顔だけ上げる。

「連携むずかしいにゃ……」

ヒョウカが真顔で分析する。

「突入タイミングが一致しすぎているな……」

ミナがメモを取りながら頷く。

「個体ごとにあったスタイルで突入するのも良いですね」

凛馬は双剣を下ろした。

「いいか、戦うってのは強い順に動くんじゃない」

四人を見る。

「隣を見るんだ」

少しだけ優しい声。

「誰がどこにいるか、それだけで変わる」

ミケが立ち上がる。

「じゃあもう一回にゃ!」

「次はぶつからないようにね」

コハクが笑いながら、再び構える。

今度はゆっくり。呼吸を合わせて踏み込んだ。

ミケが右。コハクが左。ヒョウカが後ろを抑え、

ミナが距離を保つ。

凛馬が軽く受け流す。

「……お」

灰谷が小さく呟いた。

「形になってきたやん」

凛馬も少し驚いた顔をする。

「今の感じだ」

四人の顔が明るくなる。

「できたにゃ!」

「チームっぽくない?」

凛馬は小さく笑った。

「……悪くない」

その声は、昨日よりずっと柔らかかった。

 

訓練の合間。

「ちょ、ちょっと休憩にゃ……」

ミケが床に座り込む。

コハクも息を切らして笑った。

「思ったよりキツいねこれ」

凛馬が双剣を下ろした、その時――

ブブッ。スマホが震える。

画面には《アオ》。

凛馬の表情が、それだけでわずかに柔らいだ。

「もしもし」

『凛馬?今、大丈夫?』

少しだけ遠慮がちな声。

「ああ。どうした?」

『……みんな、訓練してるんでしょ』

凛馬は周囲を見る。仲間たちが静かに様子をうかがっている。

『僕も行きたい』

静かな言葉だった。

冗談じゃなかった。本気の声。

凛馬はすぐには答えなかった。小さく息を吐く。

「……来たいのは、分かる。」

電話の向こうで小さく笑う気配。

「でもな。今は、じっとしててくれ」

責める響きはない。お願いに近い声だった。

「無理して来る場所じゃない」

少し迷ってから続ける。

「無理して欲しくないんだ」

短い沈黙。

『……うん。凛馬ならそう言うと思った……でもね』

少しだけ強い声。

『早く、隣に立てるようになりたい』

凛馬の指がわずかに強くなる。視線が落ちる。

「……待ってるよ」

小さく答えた。声が柔らかくなる。

『頑張ってね』

通話が切れる。凛馬はしばらくスマホを見つめていた。

少しだけ、悔しそうに息を吐く。

「アオ?」

ミケがそっと聞く。

「来たいってさ」

優しく答える。

「ははーん?」

にやっと笑う。

「隣に立ちたい、だって?」

「……聞いてたのかよ」

「聞こえる距離で電話してたじゃん」

一歩近づく。

「凛馬ってさ」

肩を軽くつつく。

「守る守る言うけど、ちゃんと信じられてるよね」

凛馬が少しだけ困った顔をする。

「……そういう話じゃない」

「あ、照れてる」

「照れてない」

「でも耳赤いよ?」

「赤くない」

ヒョウカが横から言う。

「いや、赤いな」

ミナが冷静に補足する。

「凛馬くん、汗ダラダラですよ」

「お前らな……」

笑いが広がる。

灰谷が壁際で小さく笑った。

「ええ空気やな」

凛馬は再び双剣を構える。

今度の視線は――守るためではなく。並ぶためのものだった。

凛馬は一歩、前へ踏み出した。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
ミケ達は、守られるのではなく並ぶことを選びました。チームとしての第一歩ですね。
次回、あの男が、ついに来訪します。
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