BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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学園に現れた“戦争を終わらせた男”、獅子王レオン。
その圧倒的存在が、日常を踏み潰す。


58話 来訪

夕暮れの学園。訓練室を出た一行は、静まり返った校舎を歩いていた。

「はぁ〜……疲れたにゃ……」

ミケが大きく伸びをする。

「明日絶対筋肉痛だよ〜これ」

コハクが肩を回す。

「けど、有意義だった」

ヒョウカが静かに言う。

「いい経験になりました」

ミナは満足そうに頷いた。

凛馬は少し前を歩きながら、双剣の感触を思い出していた。

隣には、仲間がいる。それだけで、心の重さが少し違った。

「今日はここまでやな。校門まで見送ったるわ」

校門が見えてきた、その時だった。

――灰谷の足が止まった。

「……?」

凛馬も立ち止まる。

風が、止んでいた。さっきまで聞こえていたはずの街の音が、妙に遠い。

灰谷の表情が変わる。冗談も、余裕もない。

ただ、静かに前を見ていた。

校門の前に、一人の男が立っていた。長い影を背負い、夕陽を背にしている。

黄金の瞳。揺るがない立ち姿。

まるで、そこだけ世界が違うようだった。ミケが無意識に凛馬の後ろへ下がる。

「……誰、にゃ?」

灰谷が、小さく呟いた。

「……まさか」

数秒の沈黙の後——

「……教科書でしか見たことないはずの男や」

凛馬が灰谷を見る。

「知りあい?ですか?」

灰谷は目を離さないまま答えた。

「政府の“戦争を終わらせた男”――」

男がゆっくり口を開く。

「……まだ現場に立っていたか、灰谷」

低く、落ち着いた声。灰谷が苦く笑う。

「引退したって聞いとったで。獅子王さん」

獅子王レオン。その名が空気を重くした。

レオンの視線が、凛馬へ向く。ただそれだけで、圧が変わる。

「紅葉凛馬だな」

確認するような声。

「……そうですけど」

レオンは小さく頷いた。

「少し、話をしに来ただけだ」

灰谷が一歩前へ出る。

「ここは学園や。用事あるなら正式に――」

レオンが静かに言った。

「理解している」

一歩、近づく。

「だから君を眠らせる」

「――なっ!?」

次の瞬間。灰谷の視界が揺れた。

音も衝撃もない。ただ距離が消えた様に見えた。

灰谷の身体が崩れ落ちた。

「灰谷先生!!」

ミケの声が響く。

だがレオンは振り返らない。ただ静かに言った。

「失礼する」

背後から数人の影が現れる。純血の誇りの幹部たち。

「対象以外を拘束します」

幹部が動こうとした瞬間、レオンの声が落ちた。

「傷は付けるな。彼女たちは戦士ではない」

幹部たちはミケたちを取り囲む。

乱暴ではないが、逃げられない力強さだった。

「ちょ、ちょっと離せにゃ!」

ミケの腕が強く掴まれる。骨に食い込むような力。振りほどこうとしても、びくともしない。

「放せって!!」

コハクが体を捻る。だが関節を押さえられ、力が抜け、呼吸が詰まる。

「……くっ」

ヒョウカが一瞬だけ踏み込みかける。だが喉元に触れた手で止められる。動けば折られる――

そう理解した。

ミナは目を細める。視線だけで状況を測るが、逃走経路はすでに潰されていた。

(完全に制圧されてる……)

四人とも、動けない。力の差が、はっきりと分かる形で突きつけられていた。

そして、凛馬の腕に冷たい感触が巻き付いた。鈍い銀色の鎖。空気が重くなる。

「……っ」

力が抜け、膝が落ちる。

レオンが言う。

「暴走個体制圧用の遺物だ。獣人因子を沈静化させる」

凛馬の呼吸が荒くなる。身体が重い。

「凛馬!!」

ミケの声。

幹部の手が、ミケの腕を強く掴む。

凛馬の目が細くなる。

「……離せ」

低い声で幹部達に言った。

だが誰も止まらない。幹部は任務通り拘束を続ける。

その瞬間——

「触るなっつってんだろ!!」

怒号が校門に響いた。空気が震える。

今まで聞いたことのない声だった。

怒りでも、威嚇でもない。恐怖に近い焦りだった。

「離せ!!」

鎖が軋む。

「そいつらは関係ねぇだろ!!」

呼吸が荒れる。

「俺に用があるなら――」

拳を握る。

「俺だけ見ろよ!!」

「凛馬、だめにゃ……!」

一瞬、音が消えた。次の瞬間——

バキンッ!!

鈍い破裂音。鎖が砕け散る。空気が震えた。

凛馬はそのまま踏み込み、拳を固く握った。

ドォンッ!!

レオンの頬に直撃する。レオンの身体が一歩だけ下がった。

血が、一滴。地面に落ちた。

全員が息を呑んだ。

レオンはゆっくりと頬に触れる。血を指で拭い、見下ろす。

怒りはない。驚きもない。ただ、評価するような目。

凛馬は拳を握ったまま、真っ直ぐ見据える。

「伝説だかなんだか知らねぇけどな」

一歩前へ。

「俺の仲間に手出すなら」

空気が張り詰める。

「容赦はしない」

静かに、低くそう言い放った。

「……仲間、か」

小さく呟く。そして、低く言った。

「いい拳だ」

レオンの黄金の瞳が、わずかに細まる。

「だが——やはり危険だな」

その瞬間――

レオンの口元が、わずかに笑った。

その言葉は、怒りではなく、確信だった。

倒れた灰谷。拘束された仲間。

そして対峙する二人。王と、選ばれた少年。

空気が、次の瞬間を待っている。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
ついに対峙した凛馬とレオン。そして拘束されたミケ達。戦いの火蓋が、切って落とされました。
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