そして仲間達の連携によって、戦況は傾き始める。
夕焼けが校門を赤く染めていた。
その前で、凛馬と獅子王レオンが向き合う。
誰も声を出さず、空気だけが重かった。
そしてレオンが静かに言った。
「来い」
次の瞬間。地面が弾けた。
迷いのない踏み込みだった。そして間合いを一気に潰し、拳を振り抜いた。
「――ッ!!」
完璧に捉えた。そう確信した瞬間。
――手応えがなかった。拳が空を切っていた。
「……な」
背後から声が落ちる。
「速いな」
凛馬の瞳が見開かれる。振り向くより先に――
ドォン!!
体に重い衝撃が走る。
(……!?重い!!)
身体が地面を滑っていた。肺の空気が強制的に吐き出される。
息を整える暇もなく、二発目が飛ぶ。
凛馬が身体を捻るが、かすめた風圧だけで頬が裂けた。
「反応は悪くない」
レオンは膝蹴りを繰り出した。凛馬は体勢が悪く、その一撃を躱わせなかった。
ドゴッ!!
腹に衝撃が走る。視界が白く弾ける。
凛馬の身体が地面へ叩きつけられた。レオンがそこに堂々と立っていた。
「だが、経験が浅い」
夕焼けの光が長い影を作る。凛馬が歯を食いしばって起き上がる。
(動きが……全く見えなかった……!)
一方その頃——
凛馬の咆哮で実働隊の手が止まっていた。目が揺れ、本能的な恐怖が身体を硬直させる。
「な、なんだ今の……!」
「マズい……足が……!」
その瞬間——
拘束の力が緩んだ。その隙にヒョウカが叫ぶ。
「今だ!全員腕を引け!」
ミケが腕を引き抜く。
「外れたにゃ!」
コハクが肘打ちで距離を作る。
「離れなさいよ!!」
ミナが後退しながら状況を確認する。
「全員、動けます!」
ヒョウカが一瞬で見抜く。
(コイツら、俺らでもやれる……)
「……いける」
敵が踏み込む。
「立て直せ!数で押さえろ!」
それに対しミケが前へ出た。
「来るにゃ!」
拳を躱し、尻尾で足払い。一人が転んだ。
「なっ……速い!?」
コハクが笑う。
「ナイス!」
コハクの回転蹴りで、もう一人がよろめく。
「なんだこれ……!?ガキの動きじゃないぞ!」
ミナが後方から叫ぶ。
「右、死角です!」
ヒョウカが割り込み、肘打ち。連携が噛み合う。
さっきまでとは違う。訓練室で作った“形”が、戦場で動き始めていた。
「押し返されてる……!?」
「隊列を崩すな!」
ミケの目が輝く。
「……やれるにゃ!」
敵は強いが――届かない相手ではなかった。
凛馬がゆっくり立ち上がる。
血が頬を伝い、呼吸は荒かった。だが視線だけは、レオンから外れない。
(……速い。でも――)
頭の中で、さっきまでの動きが繰り返される。
踏み込み。肩の入り。拳の軌道。
そして――
振り抜いた後、ほんの一瞬だけ重心が流れていた。
(賭けるしかないな)
レオンが歩み寄る。
「まだ立つか」
拳が構えられる。だが凛馬は動かない。
ヒョウカが叫ぶ。
「避けろ!」
だが凛馬は――前へ出た。レオンの拳が一直線に振り下ろされる。
(……外せば、生き残れる。でも——)
凛馬は避けない。額で受けた。
ドォン!!
鈍い衝撃音。血が弾けた。視界が揺れる。
だが、倒れない。
レオンの拳が振り抜かれた、その瞬間——
確かに重心が僅かに流れる。
その刹那、凛馬の目が光る。
「……見えた」
凛馬も踏み込み、腰を捻る。全身の力を一点へ。
「お前も貰っとけ!!」
渾身の拳。
ドォォン!!
レオンの腹部へ直撃。衝撃が空気を震わせた。
レオンの身体が――
半歩、下がった。夕焼けの光が揺れる。
「……肉切らせて」
凛馬が血を吐きながら笑う。
「骨断つってな……」
レオンが腹に手を当てる。静かに息を吐く。
黄金の瞳が細まる。
「……ようやく、戦士になったか」
その時初めてレオンは、戦士を見る目をした。
一方その頃——
実働隊との戦闘は続いていた。だが、それは肉弾戦ではなかった。
「来るにゃ!」
ミケが半歩だけ下がる。振り下ろされた拳を真正面で受けない。手首を添え、軌道を逸らす。
相手の体勢がわずかに崩れるその隙に、横へ抜けた。
「当たらないにゃ」
「こいつちょこまかと!?」
コハクが滑り込む。真正面からは行かない死角へ回り、足元を軽く払う。
倒そうとはせず、バランスだけを崩す。
「はいストップ〜、突っ込みすぎ!」
敵がよろめく。
ヒョウカが静かに前へ出る。最小限の動き。腕を絡め、進行方向だけを封じる。
(押すな。流せ。力で勝てないなら、崩せばいい)
力を使わない制圧。
ミナが後方から声を飛ばす。
「次、左から来ます!」
その声で全員が位置を変える。まるで最初から決まっていたように。
攻撃は当たらない。だが倒しきれもしない。戦場は拮抗していた。
「なんだこいつら……!」
「さっきと動き違うぞ!」
コハクが後退した、その時。
校門脇の地面に黒いケースがある事に気づいた。
訓練室で見た、あの形。
(……あれ)
その瞬間、記憶がよぎる。
“もしもの時はな、校門の脇、見とき”
灰谷の軽い声。
(……先生、そういうことね)
コハクの目が細まる。戦いながら視線を送る。
凛馬はレオンと向き合っている。ボロボロで、それでも立っている。
ほんの一瞬、凛馬と視線が交わる。
言葉はないが、それだけで伝わる気がした。
(いるよね、アレ)
凛馬の目が、ほんの僅かに動いた。
次の瞬間、コハクはわざと派手に吹き飛ばされるフリをした。
「うわーっ!」
転がる勢いのまま、ケース方向へ。実働隊が一人、追う。
「逃がすか!」
コハクが立ち上がり、笑う。
「ついてこないでよ〜!」
蹴りで距離を作る。少しずつ、ケースへ近づく。
ヒョウカが戦況を読む。凛馬は押されている。仲間は善戦しているが、長くは持たない。
(時間が足りないな)
視線がミナへ向く。
「ミナ!」
「はい!」
「警察を呼べ!」
一瞬、動きが止まる。
「で、でも……」
「ここは俺たちで持たせる!」
ミケが頷く。
「ミナ!お願いにゃ!」
ミナの胸が締め付けられる。
(もし、置いていってしまったら——)
だがその時、凛馬が吹き飛ばされるのが見えた。
「……ごめんなさい」
小さく呟く。だが目は強い。
「必ず戻ります!」
踵を返し、走り出す。
実働隊の一人が追おうとするが、ヒョウカが割り込む。
「行かせない」
ミケが前へ出る。
「絶対時間稼ぐにゃ!」
コハクの指先が、ついにケースに触れた。
カチリ。ロックが外れる音。双剣が夕焼けに光る。
コハクが叫ぶ。
「凛馬!」
ケースから双剣を掴み、思いきり投げる。双剣は回転しながら空を裂いた。
実働隊が気づく。
「止めろ!」
ヒョウカが割り込む。
「触んな!」
ミケが滑り込み、足払いで進路を塞ぐ。双剣が空を舞う。
一瞬、世界の音が遠のいた。
レオンの瞳がわずかに動く。凛馬が踏み込む。
片膝をついた状態から跳ぶ。
手を伸ばす。
カシャン――
両手に重く、指に馴染む感触を覚えた。そして、
双剣が握られた。
凛馬が血を垂らしながらゆっくり立ち上がる。
夕焼けがその背を赤く染めた。
レオンが静かに構え直す。
「……ほう」
凛馬が剣を構える。荒い息のまま、笑う。
「今の俺は一味違うぞ」
夕陽が地平線に沈み始め、影が伸びる。
校門は完全に戦場へと変わっていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
コハクのナイスプレーで、凛馬は双剣を手にしました。ここから巻き返せるのか?要注目です!