BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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戦いは終わり、獅子王レオンはこの世を去った。

だが、世界は終わらない。
純血と混血。均衡を巡る議論は、今も続いている。


65話 更新

あの夜から、いくつかの朝を越えた。世界は変わっていないようで、確かに少しだけ傾き直していた。

消毒液の匂いが、静かに鼻を刺した。目を開けた瞬間、白い天井が滲んで見える。

(……生きてるのか)

身体が重くて、胸が軋む。腕が上がらない。視線を横に向けると——

アオが椅子に座ったまま、ベッドに突っ伏して眠っていた。目元は赤く、指は凛馬の袖を握ったまま離していない。

凛馬は小さく息を吐く。

「……泣きすぎだろ」

声は掠れていた。その声で、アオの睫毛が震える。

「……凛馬?」

顔を上げた瞬間、涙が溢れる。

「ばか……」

拳で軽く胸を叩こうとして、包帯の多さに気づいて止まる。

「死ぬかと思った」

凛馬は少しだけ黙る。そして、ぽつりと呟いた。

「……俺がさ」

アオが顔を上げる。

「俺が、あの人殺したのか?」

空気が止まる。アオは、すぐには否定しない。

その代わり、凛馬の手を強く握る。

「凛馬」

まっすぐ見つめる。

「それは違うよ。凛馬は止めたんだよ」

「……え?」

「だってあの時、壊すのやめたでしょ」

赤が消えた瞬間を思い出す。

「もし凛馬が殺してたら、あの人は立って死なないよ」

静かな声だった。

「普通なら逃げたかもしれない。恨んだかもしれない。呪ったかもしれない。」

アオが何かを思うように上を見上げた。

「でも、あの人は笑ってた」

凛馬の喉が動く。アオが続ける。

「それってね、負けた人の顔じゃないと思うよ」

少しだけ微笑む。凛馬の目が揺れる。

「……俺は、止めれたのか」

「うん」

即答だった。

「凛馬は、止めて、受け取った」

長い沈黙が流れた。凛馬はゆっくり目を閉じる。

「なんか……重いな」

アオは少しだけ困ったように笑う。

「一人で持つからでしょ」

指を絡める。

「前にも言ったでしょ」

握る手に力を込める。

「全部背負わなくていいから、僕にも預けてよ」

逃げ場のない、まっすぐな距離でそう言った。

凛馬が小さく息を吐く。

「……離れないで」

「当たり前じゃん」

空気が柔らかくなった。その時――

病室のドアが勢いよく開いた。

「っしゃあああ!!やっと退院やーーー!!!」

灰谷が両手を広げて入ってくる。

灰谷は2人を見て沈黙した。凛馬とアオまだ手を握っていて、顔の距離が近い。

灰谷、固まる。

「……邪魔した?」

アオが慌てて手を離す。

「ち、違います!」

凛馬は顔を逸らす。灰谷がニヤッと笑う。

「いや〜〜〜??いい空気やったやん??」

枕が飛ぶ。

「空気察してよ!!!」

病室に、久しぶりの笑い声が響いた。窓の外では、風が静かに揺れていた。

 

テレビの音が小さく流れている。

『先週発生した大規模衝突事件について――』

画面に映るのは校門前。立ったまま倒れなかった獅子王の姿は、映像にはない。既に処理された後だった。

『純血思想を掲げていたと見られる組織の実働隊は壊滅』

『一方で、一部では獅子王レオンを“戦争終結の功労者”と再評価する声も上がっており――』

「混血政策の見直しを!」

「レオンは危険思想だ!」

声が交錯する。凛馬は静かに画面を見つめる。

(まだ、終わってない)

レオンは死んだ。だが、均衡の議論は今も揺れている。

 

夕方。学校終わりの4人がお見舞いに来てくれた。

ミケはベッドの足元で尻尾を揺らし、コハクは腕を組み、ヒョウカは窓の外を見ている。ミナは資料を抱えたまま黙っている。

空気が重い。最初に口を開いたのはミケだった。

「……なんか、勝った感じしないにゃ」

誰も否定しなかった。コハクが小さく呟く。

「ラスボス倒した感、ゼロなんだけど」

ヒョウカが低く言う。

「獅子王は死んだ。でも思想が残った」

ミナが静かに頷く。

「世論は割れています。混血政策の再議論も始まりそうです」

凛馬はゆっくり目を閉じる。そして言った。

「……あいつ、間違ってなかった」

全員が凛馬を見る。

「え?」

コハクが素で聞き返す。凛馬は続ける。

「守るって言いながら、あいつは壊すことを恐れてた」

喉が少しだけ震える。

「でも俺は……壊す気で行った」

拳を握る。

「守るだけじゃ足りない。でも壊すだけでもダメなんだ」

レオンの言葉が蘇る。

――更新する者だ。

凛馬は静かに言う。

「止めるんじゃない。進める」

部屋が静まる。その沈黙を、アオがそっと受け止めるように口を開いた。

「更新、ってさ。壊したものの上に立つことじゃないと思う」

凛馬を見る。

「隣に立ち直すことだよ」

ミケの尻尾が止まる。

「……隣?」

アオは頷く。

「一人で進むと、また均衡は崩れる。だから、みんなで進むんでしょ」

静かに、でもはっきりとそう言った。

コハクが小さく息を吐く。

「……なんか、難しい話だね」

ヒョウカが短く言う。

「だが間違っていない」

ミナも頷く。

「なら、私たちも始めるべきです」

その時、不意に低い声が混ざった。

「それが社会というものやな……」

全員が一斉に振り向く。

ベッド脇の壁にもたれ、腕を組んでいたのは――灰谷だった。

「……そうですね……」

頷きかけて、凛馬は一瞬固まった。

「――ってなんでいるんですか」

コハクが吹き出す。ミケが笑いを堪える。

灰谷は続ける。

「理想だけでは世界は動かん。だが理想がなければ、世界は変わらん」

静かに凛馬を見る。

「お前ら、ちょうどええ位置に立っとるわ」

凛馬は少しだけ目を細める。

アオが小さく笑う。空気が、ほんの少し軽くなった。

灰谷がカルテをぱらりと閉じる。

「そういえば凛馬。退院は一週間後らしいで」

「は?」

凛馬が素で返す。

「世界更新する前に、まず傷更新せぇ」

病室に笑いが広がった。窓の外では、夕陽が沈みかけている。

戦いは終わった。だが――

進む準備は、もう始まっていた。

 

夜。5人は帰り、灰谷はそそくさと退院して行った。

病室に風が入り、カーテンが揺れる。

その足元に、ふわりと一枚、紫の花びらが舞い込んだ。

凛馬はふと、顔を上げた。

――そこに。

街灯の淡い光の中に、誰かが立っていた。

長い髪が夜風に揺れる。狼耳。柔らかな笑顔の少女だった。

一瞬だけ、凛馬と目が合う。驚きはない。

ただ――安心したように笑った。

そして、小さく頷く。

「……ありがと」

声は聞こえなかった。だが確かにそう言われた気がした。

次の瞬間、風が強く吹いた。

視界が揺れ――もうそこには誰もいなかった。

「……見てろよ、獅子王」

小さな声。

「ちゃんとやるからな」

風が止む。花びらは床に落ちたまま動かない。

だが物語は、止まらない。

――均衡は、更新される。




三章エピローグです!最後まで読んでくださりありがとうございました!
「更新する者」として生きていく凛馬はこれからどのような選択をするのか?次章から注目です!

【報告】
私情ではありますが、しばらくの間作品の更新日を、毎日投稿から毎週土曜日、日曜日に変更させていただきます。

今後とも凛馬達をよろしくお願いします!
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