それでも少しずつ前へ進む中で、新たな“気配”が静かに近づいていた。
凛馬たちがいつも通り教室へ向かうと、担任はどこか深刻そうな顔で教壇に立っていた。
「みんな、席について。今日は特別なお知らせがあります」
ざわめきが、すっと静まる。先生は一度、言葉を選ぶように視線を落とした。
「来週から、この学校に転校生が来ます。彼女は……少し特別な事情を抱えています」
教室の空気が揺れる。
「転校生にゃ?」
コハクが耳をぴくりと動かす。
「ええ。詳しくは来週説明しますが……皆さん、温かく迎えてあげてください」
その“温かく”という言葉に、妙な重みがあった。
「特別な事情……?」
ミナが小さく呟く。
「……また何か起こりそうだな」
ヒョウカが窓の外を見ながら言う。
凛馬は、胸の奥がわずかにざわつくのを感じていた。
不安と、そしてわずかな予感。
――何かが、動く。新たな物語が、静かに近づいていた。
ある日の放課後。凛馬は、なぜか校門の前で足を止めた。
誰もいないはずなのに、背中に視線を感じる。
(……守る)
理由のない言葉が、胸に浮かんだ。自分でも意味が分からない。
だが、確かに“何か”が近づいている感覚がある。
その夜。灰谷から珍しく連絡が入った。
『来週の転校生の日、少し警戒を強めた方がええかもな』
「警戒って、何かあるんですか」
『まだ断定はでけへん。ただ、妙な動きがありそうってだけや』
電話越しの声は、いつもより低い。
凛馬は空を見上げた。月が、薄く欠けている。
(今度は俺たちが守るって……何をだ?)
まだ会ってもいない誰かなのか、まだ知らない存在なのか。
胸の奥の鼓動は、消えなかった。
そして、校舎の屋上。遠くから、ひとつの影が学校を見下ろしていた。
「……保護、か」
低い声。灰谷は携帯端末を閉じる。
「間に合うとええな」
一週間が過ぎ、転校生が来る日。教室は朝から落ち着きがなかった。
「わくわくするにゃ! 新しい友達にゃ!」
コハクが尻尾を揺らす。
「でも、“特別な事情”って何だろうね」
ミナは少し心配そうだ。
「……面倒ごとでなければいいが」
ヒョウカは静かに呟く。
「凛馬、大丈夫? 最近また疲れてない?」
アオが心配そうに顔を覗き込む。
「ああ、大丈夫だよ。」
そう答えながらも、凛馬の胸の奥には、理由のわからない鼓動があった。
その時――教室のドアが開く。
「みんな、席について」
担任が入ってくる。その後ろに、一人の少女が立っていた。
白銀の髪。透き通るような白い肌。淡い光を宿した青い瞳。
そして――小さな白い角が二本。
教室が、完全に静まり返る。
「今日から皆さんのクラスメイトになる転校生を紹介します」
少女が一歩前に出た。その動きには、無駄がなかった。
「……初めまして。白雪 ツキノと申します。龍族です」
空気が張りつめる。
「龍族にゃ!?」
コハクが思わず立ち上がる。
「え……龍族って、本当に存在したんだ……」
コハクが興味津々の目で見つめる。
「……珍しいな」
ヒョウカの視線が鋭くなる。
ツキノは静かに頭を下げた。
「龍族は……数が少なくて、普段は人里離れた場所で暮らしています。でも、うちは……事情があって、こちらでお世話になることになりました」
ほんのり柔らかい言い回し。けれど声には、揺るぎない芯があった。
担任が続ける。
「白雪さんは特別な事情で保護対象となっています。皆さん、どうか温かく迎えてあげてください」
“保護対象”。その言葉に、凛馬の指先がわずかに強ばる。かつて自分もそうだった。
「席は……紅葉さんの隣ですね」
月乃が歩いてくる。白銀の髪が光を弾く。
凛馬の隣で止まり、目が合う。
その瞬間——
月乃の青い瞳が、大きく見開かれた。
「……あんた……」
凛馬がわずかに眉を寄せる。
「……?」
月乃は、すぐに表情を整えた。
「……いえ。何でもありません。よろしくお願いします、紅葉さん」
静かに席に座る。だが、その横顔はどこか緊張している。
「凛馬、知り合い……?」
アオが小声で尋ねる。
「いや、初めて会う」
「でも、何か反応してたにゃ?」
コハクが身を乗り出す。凛馬は答えられない。
ただ――
胸の奥で、赤い鼓動が、ほんの一瞬だけ強く脈打った。
(……なんだ、今の)
月乃は窓の外を見ている。遠くを見る目。懐かしむようで、警戒するようで――
まるで、戦場を知っている者の目だった。
龍族、白雪ツキノ。保護対象。
彼女は、一体何者なのか。教室の中に、まだ誰も気づいていない火種がある。
それだけは、はっきりしていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
突如現れた転校生、白雪ツキノ。彼女が来た理由とは?そしてどのように凛馬達と関わるのか?要注目です。
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