どこか距離を感じさせる彼女は、特別な理由を抱えてこの学園にやってきた。
何気ない昼休み、屋上での出会い。その瞬間、ツキノは凛馬の“異質”に気づく。
昼休み。屋上へ向かう階段を上がる途中。
「今日も屋上で食べるにゃー!」
ミケが先頭を歩く。その後ろを凛馬たちが続く。
扉を開けた瞬間、風が吹き抜けた。その中に――
すでに一人、立っていた。白銀の髪が揺れる。
「……あ」
ツキノが、屋上の端に立って空を見ていた。一瞬、全員の足が止まる。
ツキノが振り返る。
「……ここ使うん?」
コハクがすぐに笑う。
「使う使う!いつもここだよ!」
ミケがずいっと前に出る。
「一緒に食べるにゃ?」
ツキノは少しだけ考えて――
「……邪魔やなければ」
その言い方は控えめなのに、どこか距離を感じる。
ヒョウカが一歩だけ前に出る。
「好きにしろ」
それが許可の代わりだった。ツキノは小さく頷き、少し離れた場所に腰を下ろす。
風が、間を流れる。
凛馬はその距離を一瞬だけ見て――
何も言わなかった。
ミケがパンをかじりながら言う。
「龍族って珍しいにゃ!初めて見たにゃ!」
ツキノは小さく笑う。
「珍しい言われるんは、慣れてるべ」
穏やかだが、どこか距離がある。
ヒョウカが問う。
「里を出た理由は?」
ツキノの視線が遠くなる。
「……襲われた」
空気が止まる。今度はアオが質問する。
「えっ……誰に?」
「分からんべ。ただ……龍族を狙うもんは、昔からおる」
淡々とした声。それが逆に重い。ツキノが凛馬を見る。
「紅葉さん」
凛馬とミケが同時に振り向く。
「え?」
「ん?」
声がハモる。一瞬、沈黙。
コハクが吹き出す。
「あはっ!二人とも同じ苗字だもんね!」
ツキノが固まる。
「……あ」
ヒョウカが腕を組む。
「ややこしいな」
ミナがくすっと笑う。
「確かに、紛らわしいですね」
コハクが悪ノリする。
「どっちの紅葉かな〜?」
ミケも乗る。
「選んでいいにゃ?」
凛馬がため息。
「おい……」
ツキノが凛馬を見る。
「……凛馬さん?」
「「おお!!」」
「私じゃなかったにゃ!」
ツキノは真顔。
「ややこしかったべな……名前は混ぜたらあかん」
そして、ぽつり。
「血が、違うから」
空気が一瞬で締まる。ヒョウカが目を細める。
「どういう意味だ?」
ツキノは凛馬から目を逸らさない。
「あんた混血、だべ」
「ああ」
「龍族は……血の“揺らぎ”が見えるべ」
「揺らぎ?」
「血には色と音がある。普通はひとつや」
ツキノの瞳が静かに光る。
「でも凛馬さんは、重なってるべ」
凛馬の鼓動が跳ねる。
「五つの流れが、混ざらず絡んどる」
風が強まる。ツキノは胸に手を当てる。
「目で見たんやなくて……響いた」
凛馬の胸が、どくりと鳴る。
「初めて目が合った時、血が鳴ってたべ」
少しだけ恥ずかしそうに。
「やから、“あなた”って言うてしもたべ」
コハクがぽかんとする。
「すごい……?」
ツキノは続ける。
「龍族には古い言い伝えがあります」
白銀の髪が風に揺れる。
「“五つの血が交わる時、時代は揺らぐ”」
「それが誰かは分かりません。でも」
凛馬を真っ直ぐ見る。
「うちは、あんたに会う必要があると聞いたべ」
「守るために?」
アオが少し強い声で言う。ツキノは少し考える。
「……守るかどうかは、まだ分からへん」
「え?」
「凛馬さんは、守られる人やない」
鼓動が跳ねる。
「守る側の人やろ?」
その言葉が、凛馬に深く届いた。
「それでも……危うい」
角が、ほんの一瞬だけ光る。凛馬だけが気づく。
「凛馬さんの血は、揺れが大きい。波が荒い」
風が強く吹く。
「普段は抑えとる。でも、守ろうとした時……弾けよる」
全員が息を呑む。
「それは強さや。でも、一歩間違えたら自分も壊す」
凛馬の指先が震える。ツキノは静かに言う。
「せやから、守るというより……止める」
凛馬の目が揺れる。
「血が鳴ったら、分かる」
凛馬は理解する。
(あの時の鼓動……)
ツキノは淡々と言う。
「怖がらんでええ。壊れそうになったら、隣におる」
宣言だった。ヒョウカが問う。
「お前は……戦えるのか?」
ツキノは頷く。
「龍族は元素を操れる。必要なら、凍らせるべ」
ミケが目を輝かせる。
「ほんとに!?見たいにゃ!」
「えー、でも危ないべ?」
コハクも乗る。
「ちょっとだけ!」
ツキノは少し困る。
「……小さいやつだけだべ」
手をかざす。空気が一瞬、冷える。足元に透明な結晶が広がる。
その中心に、小さな氷の花が咲いた。誰もすぐに声を出せない。
ミケが叫ぶ。
「すごーいにゃ!!」
コハクが目を丸くする。
「こんな一瞬で!?」
アオが息を吐く。その息は白かった。
「綺麗……」
ヒョウカが冷静に見る。
「精度が高い」
ミナは氷ではなく、ツキノを見る。
「……優しい氷ですね」
ツキノが首を傾げる。
「優しい?」
「壊すための氷じゃない。守るための力」
角が淡く光る。ツキノは少し視線を逸らす。
「……言われたことないべ」
ミナが微笑む。
「少し、震えてましたよ」
コハクが慌てる。
「寒いから!?」
「絶対違うにゃ」
ツキノは小さく息を吐く。
「……ちょっと緊張してただけ」
「もっと大きいのもできるにゃ!?」
ツキノがほんの少し照れる。
「学校壊れるから、却下だべ」
「照れてる!」
「照れてないべ」
でも、笑っている。凛馬は思う。
(こいつ、強い……)
そして。
(……でも、無理してる)
風が吹き、氷の花がきらりと光った。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ツキノの氷の力、そして“血を読む力”。凛馬の中にあるものに、彼女はもう気づいています。
守るのか、止めるのか――
その距離感が、これからどう変わっていくのかも見どころです。
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