レオンを失い、行き場をなくした者達の前に、一人の男が現れる。
数週間前。夜の街に、冷たい風が吹いていた。
崩れかけた廃ビルの屋上。かつて獅子王レオンの旗が掲げられていた場所には、もう何も残っていない。
立っているのは三人だけだった。
獅子族、獅堂カイル。狐族、霧崎レイナ。犬族、鷹城ガイ。
誰も口を開かなかった。遠くでサイレンが鳴っている。
ガイが苛立ったように舌打ちする。
「……終わりだな」
その言葉は、風にさらわれて消えた。レイナが空を見上げる。
「王も消え、仲間も散りました。純血の国も……もう終わりです」
疲れた声だった。カイルは黙って街を見下ろしている。ネオンの光が揺れ、車のライトが流れていく。王が守ろうとした世界は、今日も何事もなかったように動いていた。
ガイが低く言う。
「……全部あいつのせいだ」
カイルは振り返らない。
「紅葉凛馬……」
ガイは拳を握った。
「王を殺したあの混血だ」
レイナが小さく言う。
「……本当なんですか?」
ガイが睨む。
「どういう意味だよ」
レイナは肩をすくめた。
「私達は戦いを見てません。けれど王が負けるなんて……」
カイルの指が、わずかに動いた。
ガイが吐き捨てる。
「事実だろ。王は死んだ」
――その時だった。
異様な気配が近づいてくる。
三人が一斉に振り向く。屋上の影の中に、一人の男が立っていた。
黒いコート。落ち着いた笑み。その目だけが、静かに冷たい。
ガイが牙を剥く。
「……誰だてめぇ」
男は軽く頭を下げた。
「初めまして」
そして名乗る。
「私は神城コクヨウ。ノクス機関の長だ」
空気が変わった。ガイが低く唸る。
「……聞いたことねぇな」
コクヨウは微笑む。
「表に出ない組織だからね。だが君達のことは知っている」
その目がカイルを見る。
「獅堂カイル。獅子王レオンの右腕」
次にレイナ。
「霧崎レイナ。純血主義者の参謀」
そしてガイ。
「鷹城ガイ。通称“猛犬”」
三人の名前を、正確に呼んだ。ガイが舌打ちする。
「で?機関さんが何の用だ」
コクヨウは屋上の縁まで歩き、街を見下ろした。「君達は居場所を失った」
静かな声だった。
「王を失い、思想を失い、戦う理由も失った」
レイナが目を細める。
「……何が言いたいんですか」
コクヨウは振り返る。
「復讐したくないか?」
空気が張り詰める。
ガイが睨む。
「……あ?」
コクヨウは淡々と言った。
「紅葉凛馬は、止まっていなかった」
一瞬の沈黙。
「理性があったかどうかは……私には判断できない」
視線を外す。
「ただ、レオンは防戦一方だった」
空気が、わずかに揺れる。ガイの拳が震える。
「あいつ……ふざけんな」
レイナの目が細くなる。
「……おかしいですね」
小さな声だった。コクヨウはレイナを見る。
「“見ていた”のに、“判断できない”んですか?」
一風が強く吹く。コクヨウは表情を変えない。
「戦場というものは、主観が混じる」
淡々と答える。
「だが――」
視線が三人を貫く。
「一方的だった、という事実は変わらない」
レイナの瞳が、わずかに揺れる。それ以上は言えなかった。
コクヨウは続ける。
「そして紅葉凛馬は、次の段階に進もうとしている」
カイルが眉をひそめる。
「……次?」
コクヨウは短く言う。
「次は、“龍”だ」
レイナの目が鋭くなる。
「……龍族?」
コクヨウは頷く。
「古い血を持つ種族だ。混血の時代には、少々都合が悪いらしい」
そして静かに言った。
「だから消す、と」
レイナの表情が変わる。
「……つまり、次は龍族ですか」
コクヨウは頷いた。
「その通りだ」
そして、もう一度。
「復讐したくないか?王を殺した男に」
ガイが笑う。
「……よくわかんねぇけど、やってやるよ」
レイナは黙っている。カイルだけが動かなかった。
コクヨウがカイルを見る。
「君はどうする?」
長い沈黙の末、カイルが言った。
「……条件がある」
コクヨウの目が細くなる。
「……聞こう」
カイルはゆっくり言った。
「紅葉凛馬は、俺が殺す」
コクヨウの口角が上がる
「……ほう」
「……あの人の最期を、見たのは俺じゃない」
そして顔を上げる。その目は決意に満ちていた。
「彼の仇は、俺が取る」
コクヨウはしばらく沈黙し、やがて微笑んだ。
「いいだろう」
そして静かに言う。
「では始めよう」
夜の街に声が落ちた。
「紅葉凛馬復讐計画を」
ガイが笑う。レイナは黙っている。カイルは夜の街を見下ろしていた。
小さく呟く。
「……待っていろ。紅葉凛馬」
最後まで読んでくださりありがとうございます!
コクヨウの言葉はどこまでが真実で、カイル達はその道をどのように進むのか。ここから再び物語は動きます!