BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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凛馬達がツキノと少しずつ距離を縮めていく、その数週間前――
レオンを失い、行き場をなくした者達の前に、一人の男が現れる。


70話 影の勧誘

数週間前。夜の街に、冷たい風が吹いていた。

崩れかけた廃ビルの屋上。かつて獅子王レオンの旗が掲げられていた場所には、もう何も残っていない。

立っているのは三人だけだった。

獅子族、獅堂カイル。狐族、霧崎レイナ。犬族、鷹城ガイ。

誰も口を開かなかった。遠くでサイレンが鳴っている。

ガイが苛立ったように舌打ちする。

「……終わりだな」

その言葉は、風にさらわれて消えた。レイナが空を見上げる。

「王も消え、仲間も散りました。純血の国も……もう終わりです」

疲れた声だった。カイルは黙って街を見下ろしている。ネオンの光が揺れ、車のライトが流れていく。王が守ろうとした世界は、今日も何事もなかったように動いていた。

ガイが低く言う。

「……全部あいつのせいだ」

カイルは振り返らない。

「紅葉凛馬……」

ガイは拳を握った。

「王を殺したあの混血だ」

レイナが小さく言う。

「……本当なんですか?」

ガイが睨む。

「どういう意味だよ」

レイナは肩をすくめた。

「私達は戦いを見てません。けれど王が負けるなんて……」

カイルの指が、わずかに動いた。

ガイが吐き捨てる。

「事実だろ。王は死んだ」

――その時だった。

異様な気配が近づいてくる。

三人が一斉に振り向く。屋上の影の中に、一人の男が立っていた。

黒いコート。落ち着いた笑み。その目だけが、静かに冷たい。

ガイが牙を剥く。

「……誰だてめぇ」

男は軽く頭を下げた。

「初めまして」

そして名乗る。

「私は神城コクヨウ。ノクス機関の長だ」

空気が変わった。ガイが低く唸る。

「……聞いたことねぇな」

コクヨウは微笑む。

「表に出ない組織だからね。だが君達のことは知っている」

その目がカイルを見る。

「獅堂カイル。獅子王レオンの右腕」

次にレイナ。

「霧崎レイナ。純血主義者の参謀」

そしてガイ。

「鷹城ガイ。通称“猛犬”」

三人の名前を、正確に呼んだ。ガイが舌打ちする。

「で?機関さんが何の用だ」

コクヨウは屋上の縁まで歩き、街を見下ろした。「君達は居場所を失った」

静かな声だった。

「王を失い、思想を失い、戦う理由も失った」

レイナが目を細める。

「……何が言いたいんですか」

コクヨウは振り返る。

「復讐したくないか?」

空気が張り詰める。

ガイが睨む。

「……あ?」

コクヨウは淡々と言った。

「紅葉凛馬は、止まっていなかった」

一瞬の沈黙。

「理性があったかどうかは……私には判断できない」

視線を外す。

「ただ、レオンは防戦一方だった」

空気が、わずかに揺れる。ガイの拳が震える。

「あいつ……ふざけんな」

レイナの目が細くなる。

「……おかしいですね」

小さな声だった。コクヨウはレイナを見る。

「“見ていた”のに、“判断できない”んですか?」

一風が強く吹く。コクヨウは表情を変えない。

「戦場というものは、主観が混じる」

淡々と答える。

「だが――」

視線が三人を貫く。

「一方的だった、という事実は変わらない」

レイナの瞳が、わずかに揺れる。それ以上は言えなかった。

コクヨウは続ける。

「そして紅葉凛馬は、次の段階に進もうとしている」

カイルが眉をひそめる。

「……次?」

コクヨウは短く言う。

「次は、“龍”だ」

レイナの目が鋭くなる。

「……龍族?」

コクヨウは頷く。

「古い血を持つ種族だ。混血の時代には、少々都合が悪いらしい」

そして静かに言った。

「だから消す、と」

レイナの表情が変わる。

「……つまり、次は龍族ですか」

コクヨウは頷いた。

「その通りだ」

そして、もう一度。

「復讐したくないか?王を殺した男に」

ガイが笑う。

「……よくわかんねぇけど、やってやるよ」

レイナは黙っている。カイルだけが動かなかった。

コクヨウがカイルを見る。

「君はどうする?」

長い沈黙の末、カイルが言った。

「……条件がある」

コクヨウの目が細くなる。

「……聞こう」

カイルはゆっくり言った。

「紅葉凛馬は、俺が殺す」

コクヨウの口角が上がる

「……ほう」

「……あの人の最期を、見たのは俺じゃない」

そして顔を上げる。その目は決意に満ちていた。

「彼の仇は、俺が取る」

コクヨウはしばらく沈黙し、やがて微笑んだ。

「いいだろう」

そして静かに言う。

「では始めよう」

夜の街に声が落ちた。

「紅葉凛馬復讐計画を」

ガイが笑う。レイナは黙っている。カイルは夜の街を見下ろしていた。

小さく呟く。

「……待っていろ。紅葉凛馬」




最後まで読んでくださりありがとうございます!
コクヨウの言葉はどこまでが真実で、カイル達はその道をどのように進むのか。ここから再び物語は動きます!
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