穏やかな時間の裏で、確実に近づいていた視線があった。
地下訓練所に響いていた武器の音が、ふっと止まった。
そして、灰谷が手を叩く。
「よし、今日はここまでや」
張り詰めていた空気が、ゆっくりと緩む。ミケが大きく息を吐いた。
「はぁ〜……疲れたにゃ」
コハクも鎖を肩に担ぐ。
「本格的だったね」
ミナは銃の状態を確認しながら頷いた。
「いい訓練でした」
灰谷が武器棚を顎で指す。
「気に入った武器は持って帰ってええ」
ミケの目がぱっと輝く。
「ほんとにゃ!?」
コハクも笑う。
「やった!」
灰谷は肩をすくめる。
「どうせ――もう始まってるようなもんや」
一瞬、空気が沈む。
「さっきも言ったけど気ぃ抜いたやつから、死ぬで」
ヒョウカが短剣を腰に差した。
「……現実的だな」
ミナは無言で銃を握り直す。
「もっと練習しないと……」
アオは盾を持ち上げ、少し顔をしかめる。
「思ったより重い……」
ツキノがくすっと笑う。
「守る人は必要やべ」
凛馬が軽く頷く。
「似合ってるよ」
アオが少しだけ照れた。
「……ちゃんと守れるかな」
「あぁ、絶対守れるよ」
その言葉に、アオは小さく笑った。
「ほな次や」
ミケが首を傾げる。
「次?」
灰谷は出口へ歩き出す。
「拠点や」
外に出ると、夜の空気が冷たかった。数分歩き、辿り着いたのは学校の外れの古い倉庫。
錆びたシャッターを押し上げる。ギィ……と重い音。
中は広いが荒れている。壊れた棚、古い机、埃の積もった床。
ミケが目を輝かせた。
「秘密基地みたいにゃ!」
コハクも笑う。
「いいじゃん!ここ拠点にするの?」
灰谷が腕を組む。
「今日からここが仮アジトや」
ヒョウカが一瞥する。
「……悪くないな」
ミナも頷いた。
「拠点としては十分です」
灰谷がふっと笑う。
「せっかくやし、チーム名でも決めるか」
「いるかにゃ?」
コハクも続く。
「いらなくない?」
「絶対いるわ!!」
ツキノが肩をすくめる。
「楽しそうだべ」
灰谷が考え込む。
「チーム名は――」
ミケが腕を組む。
「なんかダサそうだにゃ〜……」
「まだ言ってへん!」
「……暁の牙」
全員が目を合わせる。
「ダサいにゃ」
「却下」
「ナシだべ」
「お前ら容赦ないな!?」
凛馬が苦笑する。
「名前はまた今度で……」
灰谷はため息をつく。
「……そうやな」
ポケットから小さな機械を取り出した。
「それと……これや」
机に人数分並べる。
「トランシーバーや」
コハクが目を丸くする。
「おお、それっぽい!」
ミナが手に取る。
「通信機ですね」
灰谷が頷く。
「これ鳴ったらな――」
灰谷は一瞬言葉を選ぶように言葉を区切った。
「“誰か危ない合図”や」
空気が一段沈む。アオの表情がわずかに強張る。
「……そこまで危ないの……?」
灰谷は軽く笑う。
「用心や」
ツキノが機械を見つめる。
「……これ、何だべ?」
一瞬の沈黙の後、コハクが吹き出す。
「え!?知らないの!?」
「機械触ったことねぇべ」
ミケが笑う。
「ツキノ原始人にゃ!」
「違うべ!」
ミナが優しく説明する。
「離れていても話せる道具です」
ツキノの目が少し丸くなる。
「……すげぇべなぁ」
凛馬は受け取り、軽く頷く。
「……分かりました」
灰谷が言う。
「誰か襲われたら、すぐ連絡や」
ミケがニヤッと笑う。
「ヒーロー参上するにゃ!」
灰谷は肩をすくめた。
「まぁ、そういうこっちゃな」
そして、シャッターが閉まる。
「今日はこのへんにしとくか」
「「先生、さようなら〜」」
「ガキかお前らは」
それぞれが帰路についた。
「気をつけろよ、ほんま」
夜の街。四人は並んで歩いていた。
ミケが伸びをする。
「疲れたにゃ〜」
アオも笑う。
「でも楽しかったね」
ツキノが頷く。
「ええチームだべな」
ミケも頷く。
「ほんとにゃ」
ツキノがふと凛馬とアオを見る。
少し首を傾げる。
「そういえば、凛馬さん」
「ん?」
「アオさんと……付き合ってるんべ?」
凛馬とアオがギクリとする。
「なんか、そこの2人だけ空気やけに柔らかいから……」
ミケがニヤッと笑う。
「急に核心いくにゃ〜」
アオの顔が一気に赤くなる。
「え、えっと……」
凛馬が少し困ったように笑う。
「……まぁ、そうだな……」
ツキノが頷く。
「やっぱりか」
そしてニヤリと笑う。
「あつあつだべなぁ」
ミケが吹き出す。
「それが言いたかっただけにゃ!?」
アオは完全に真っ赤だった。
「なんでそんな落ち着いてるの……」
ツキノが肩をすくめる。
「ええね、そういうの」
凛馬が苦笑する。
「……急に恥ずかしくなってきた」
夜風が吹く。
――その一瞬、街灯の下で影が揺れた気がした。
それに誰も気づかないまま、四人は歩き続ける。
一方その頃。コハクとミナ、ヒョウカは別の道を歩いていた。
「今日は疲れたね〜」
「ええ」
ヒョウカは無言で歩く。その時、ミナの足が止まる。
「……」
コハクが振り向く。
「ミナ?」
ミナは周囲を見渡す。
「……今、一瞬だけ」
少し迷うように間を置く。
「視線を感じた気がして……」
ヒョウカもわずかに視線を巡らせる。
(敵か……?)
だが、何もない。
コハクが笑う。
「気のせいじゃない?」
ミナも小さく頷く。
「……そうかもしれません」
(……気のせいだな)
違和感は消えない。そしてそのまま、分かれ道に差し掛かる。
「じゃあここで!」
「また明日」
ヒョウカは短く頷く。
「あぁ」
二人が去る。ヒョウカは一人、歩き出す。
静かな住宅街。
――のはずだった。ヒョウカがしばらく歩いた後。
「……一人か」
足が止まる。振り向くと、電柱に一つの影。そこに立っていた男が、ゆっくりと姿を見せる。
鷹城ガイ。鋭い目と、荒々しい気配。
ヒョウカが短剣を抜く。
「……誰だ」
ガイが一歩踏み出す。
「探す手間が省けた、混血の仲間だな?」
(混血……凛馬の事か)
「そうだが?」
ガイが笑う。
「なら簡単だ」
肩を鳴らす。
「……試させろ」
ヒョウカの目が細くなる。
「理由になってない」
ガイが肩をすくめる。
「そりゃそうだろ、難しいこと分かんねぇし」
一歩。それだけで空気が変わる。
「でもな――」
一瞬だけ、目の色が変わる。
「強ぇかどうかは、分かる」
次の瞬間――
音が消えた。気づいた時には、目の前にいた。ガイの拳が振り抜かれ、ヒョウカの短剣がわずかに光る。
静かな住宅街に、戦いの火蓋が、切って落とされた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
今回は束の間の日常回……と思いきや、ノクス機関の手はついに仲間に届いてしまいました。
次回、ヒョウカVSガイ開戦です。