圧倒的な力と本能的な戦闘センスにヒョウカは立ち向かう。
ドンッ!!
ガイが地面を蹴った。アスファルトが爆ぜる。
迷いのない突進。ヒョウカの目がわずかに見開いた。
(速い――)
拳が迫る。だがヒョウカは咄嗟に体をひねる。拳が頬をかすめた次の瞬間――
ドゴォンッ!!
背後の壁が粉砕された。コンクリート片が夜空へ散る。
ヒョウカはそのまま後方へ跳び、短剣を構え直した。
「避けたか!」
ガイが楽しそうに笑う。ヒョウカは静かに言う。
「……速いな」
ガイが首を鳴らした。
「そりゃ、どうも」
次の瞬間——再び地面が砕ける。ヒョウカの目の前にガイがいた。
「っ――!」
ヒョウカは短剣を滑り込ませる。
キィンッ!!
だが、なんとガイが拳受け止めていた。ヒョウカの目が細くなる。
(拳で……受けた?)
ガイがニヤリと笑う。
「軽いなぁ、女」
振り下ろされる拳。ヒョウカは後ろへ跳ぶ。
ドゴォォン!!
アスファルトが陥没した。衝撃だけで足元が揺れる。
(まともに受けたら終わる)
ガイが笑う。
「いいねぇ!!お前、強ぇな!!」
ヒョウカは無言のまま距離を詰めた。
最短距離で短剣が閃く。
シュッ!!
喉元の狙った刺突。だが――
「危ねぇな」
ガイの肘が横から飛ぶ。
「っ!」
ヒョウカが腕で受け流す。だが止まらない。
(マズイ……!)
ヒョウカはそのまま体を回転させ、脚を払う。ガイの体勢がわずかに崩れた。その隙に短剣が脇腹を裂いた。
先に血を流したのはガイだった。
自分の脇腹を見て――笑った。
「……いい」
口元が吊り上がる。
「すげぇいい」
ヒョウカの目が細くなる。
(この状況で……こいつ)
ガイが拳を鳴らした。
「速ぇじゃねぇか!!だから好きだぜ、こういうの!!」
次の瞬間。
「ならこれならどうだ!?」
拳の嵐がヒョウカを襲う。
ドドドドドドォッ!!
住宅街が揺れる。電柱が軋み、アスファルトが次々砕ける。
ヒョウカは後方へ流れながら躱す。
(重い、速い)
拳が頬を掠める。それだけで頬から血が流れた。
(そして何より、読めない)
ヒョウカが間に短剣を滑り込ませる。
しかしガイが半歩だけズレた。刃が空を切る。
ガイが笑う。
「それ、二回目だぜ?」
立て続けにガイが反撃する。ヒョウカは躱した——はずだった。衝撃が体をなぞる。
「っ……!」
吹き飛ばされ、地面を滑る。
(さっきよりも……パワーもスピードも別物みたいだ)
ガイは本能だけで動いている。それなのに常に最適だの行動を起こす。
ヒョウカが立ち上がる。ガイは楽しそうに笑っていた。
「もっと来いよ!!まだ終わってねぇだろ!?」
その瞬間——ガイが深く踏み込む。獣のような圧。
その姿を見た瞬間――
ヒョウカの脳裏に、映像が走った。
古い木の床。
暗い部屋。
冷たい声。
『立て』
刃の音と、血。
「……っ」
ヒョウカの動きが、一瞬だけ止まる。ガイの拳が迫る。
(これは——)
絶対に間に合わない。その時——
脳裏に別の動きが浮かんだ。
地下訓練所。凛馬のステップ。力を受けずに流し、潜る。
(受ければ終わるだろう)
(でも……賭けるしかない)
ヒョウカの体が沈む。紙一重。
ガイの拳は空を切った。目が見開かれる。
「っ!?」
次の瞬間——短剣が閃く。
シュバッ!!
ガイの腕に深い裂傷が走った。再び血が飛ぶ。
ガイが初めて停止する。
そして――笑った。
「いいねぇ……!!」
拳を握る。瞳が獣のように光り、呼吸が荒くなる。
極度の興奮と高揚。
「もっとだ……!」
地面を踏み砕く。
「もっと来いよ!!」
ヒョウカが短剣を構える。
「……うるさい犬だ」
ガイが牙を見せて笑った。
「俺は――」
深く沈む。まるで怪獣のような圧。
「猛犬だぁぁッ!!!」
ドンッ!!!
踏み込みだけで地面が陥没する。今まで見たことないような爆発的加速。
風圧だけでヒョウカの髪が揺れた。
拳と刃が衝突する。
キィィィンッ!!!
衝撃波で住宅街の窓ガラスが震える。ヒョウカの刃が押され始める。
「くっ……!」
(純粋なパワーじゃ勝てない……!)
ガイが笑う。
「このまま押し切ってやるぜぇ!!」
その時――
「――ガイ」
静かな女の声。
ピタリ、とガイの動きが止まった。ガイの表情がわずかに歪む。ヒョウカの目が細くなる。
そこに、隠れる様子もなく一人の女が立っていた。
長い髪。静かな瞳。霧崎レイナ。
ガイが舌打ちする。
「……レイナ」
ヒョウカが短剣を向ける。
「仲間か」
レイナはヒョウカから目を逸らさないまま言う。
「ガイ。今日はここまでよ」
「はぁ?」
「勝手に1人で行くなって言ったでしょ……」
ガイが不満そうに眉をひそめる。
「まだやれんだろ」
「ダメです」
静かな声だが、逆らわせない圧があった。ガイが舌打ちする。
「……チッ」
ヒョウカが低く言う。
「逃げる気か?」
レイナが静かに視線を向ける。その目に、敵意はない。ただ観察している。
「今回は、です」
ガイが最後に笑う。
「じゃあな豹女!次はもっと遊ぼうぜ」
次の瞬間——
レイナがガイを引きずって、闇夜へ消えた。
ヒョウカは短剣を下ろす。少しだけ息を吐いた。
(追ったところで……勝ち目はない)
荒れた呼吸。夜風が頬を撫でる。
その時――
脳裏に、さっきの光景がよぎる。
古い木の床。冷たい声。血。刃の音。
ヒョウカの眉がわずかに動いた。
「……」
戦闘中、一瞬だけ動きが鈍った。あれは何だったのか?胸の奥が妙にざわつく。
「……いや」
ヒョウカは小さく目を伏せた。
「今の俺に、必要ない」
切り捨てるように呟く。
そして、ポケットの中の小さな機械が触れた。
ヒョウカは視線を落とす。灰谷から渡されたトランシーバー。
しばらく見つめ、ゆっくり取り出した。そしてボタンを押す。
「……聞こえるか」
一瞬の沈黙。次の瞬間——
『ヒョウカ!?』
ミケの声。
『早くないかにゃ!?』
続いて凛馬。
『何かあったのか!?』
ヒョウカは夜道を見つめたまま言う。
「……敵と接触した。恐らく……ノクス機関だ」
向こう側の空気が変わる。凛馬の声に焦りが見える。
『場所は!?』
「俺の家近くの住宅街だ」
『今行く!動くなよ!』
通信が切れる。ヒョウカはトランシーバーをポケットへ戻した。
「始まったか……」
夜空を見上げ、小さく呟いた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
ガイの力はかなり圧倒的でした。これから凛馬達はどう立ち向かっていくのか注目です!
次回、ついにレイナと凛馬たちが動き出します。