朝の空気はまだ少し冷たかった。
仮アジトの倉庫のシャッターが半分開いている。
中にはすでに全員が集まっていた。
ミケがあくびをする。
「……ねむいにゃ」
コハクも目をこする。
「朝早すぎない?」
ヒョウカは腕を組んだまま言う。
「灰谷先生が来いと言ったんだ、仕方ない」
ミナが時計を見る。
「まだ七時前ですね」
アオが少し申し訳なさそうに言う。
「ごめん、僕ちょっと遅れた……」
凛馬が首を振る。
「全然大丈夫」
その時——
倉庫のシャッターが開いた。
ツキノが普通に入ってくる。
「おはようだべ〜」
「遅いにゃ!!」
ツキノが首を傾げる。
「朝弱いべ。許して〜や」
ミケが呆れる。
「こいつ、図太いにゃ……」
ツキノは普通に座った。
「で、なんだべ」
灰谷がため息をつく。
「……まぁええわ」
箱を机の上に置く。
「朝早から集まってもらって悪いな。今日は装備の話や」
灰谷は机の上に箱を並べた。
「一つ、装備を改造した」
ヒョウカが目を細める。
「改造?」
灰谷が箱を開ける。
中には、小さなキーホルダーが入っていた。
ミケがそれを持ち上げる。
「……キーホルダー?」
灰谷が頷く。
「実はそれ、武器や」
コハクが目を丸くする。
「えっ!?」
ヒョウカが手に取る。
「……なるほど」
カチッ。
ボタンを押した瞬間、一瞬で短剣が展開した。
ミケの目が輝く。
「かっこいいにゃ!!」
コハクも自分のキーホルダーを見る。
鎖が小さく巻かれていた。
「すごーい!」
ミナは弾丸型のキーホルダーを確認していた。
「携帯性重視ですね」
アオは盾のマークのキーホルダーを見て言う。
「……可愛い」
灰谷が笑う。
「バッグに付けとけ。何かあったらすぐ戦闘入れる」
ツキノが箱を覗き込む。
「……あれ?」
灰谷を見る。
「……うちのは?」
灰谷が頭をかく。
「……お前いらんやろ」
ツキノが首を傾げる。
「え〜?なんでだべ」
灰谷が言う。
「能力で全部凍らせるやん」
ミケが頷く。
「確かににゃ」
「でもうちも欲しいべな〜」
そう言いながら、ツキノは灰谷をじっと見る。
「悲しくてたまらんべ〜」
灰谷がため息をついた。
「……まぁ、そう言うと思ってな」
「お?」
ポケットをゴソゴソする。
そして取り出したのは、小さなキーホルダー。
デフォルメされた灰谷のミニキャラだった。
ツキノがじっと見る。
「……なんだべこれ」
灰谷が胸を張る。
「俺や」
沈黙した後、空気に耐えきれずミケが吹き出した。
「なんで先生のキーホルダーにゃ!!」
コハクも笑いながら言う。
「自分のキーホルダー作ってる人初めて見た!」
灰谷が言い返す。
「まて!!話を聞け!!」
ミケが指差す。
「いや完全にナルシストにゃ!」
コハクも追い打ちをかける。
「これは言い逃れできないよ先生!」
灰谷が少し焦る。
「違う違う!ノリで作っただけや!」
ミケがニヤニヤする。
「ナルシスト先生にゃ〜」
コハクも笑う。
「ナル先生!」
灰谷が凛馬達を見る。
「お前ら何とか言え!」
凛馬は少し考えて言った。
「……それは救えないです……」
ミケとコハクが爆笑した。
「凛馬冷たいにゃ!」
「さすが凛馬!分かってるぅ〜」
その横でアオが思わず笑っていた。
「……先生面白い」
ミナも口元を押さえる。
「ふふ……」
ヒョウカも小さく息を漏らした。
「……確かに、これは言い逃れできないな」
灰谷が頭を抱える。
「なんでこうなったんや!?」
その横でツキノは普通にキーホルダーをバッグにつけていた。
「……よいしょっと」
ミケが振り向く。
「受け入れたにゃ!?」
灰谷がため息をつく。
「……ほな学校行ってこい」
凛馬がバッグを持つ。
キーホルダーが静かに揺れた。
その時——
ミケがふと時計を見る。
「……まだ早いにゃ」
コハクも頷く。
「確かに。まだ時間あるね」
ツキノが立ち上がる。
「ほなコンビニ?寄ってみたいべ」
ミケの目が輝いた。
「行くにゃ!!」
アオが少し笑う。
「そっか……コンビニ初めてだよね」
ヒョウカが小さく息を吐く。
「……自由だな」
ミナも小さく笑った。
「まぁ……少しくらいなら大丈夫でしょう」
灰谷が呆れたように言う。
「お前ら緊張感どこ行ったんや……」
ミケが振り返る。
「糖分補給にゃ!」
コハクが笑いながら扉を開ける。
「先生、行ってきまーす!」
朝の冷たい空気が流れ込む。
凛馬は少しだけ、その光景を見つめていた。
普通の学生みたいだった。けれども、鞄には、常に武器が静かに揺れていた。
教室にはいつもの朝のざわめきが広がっていた。
凛馬たちは席につく。
ミケはバッグを机の横に掛けた。
すると、前の席の女子が振り向く。
「あ!ミケちゃん、それ可愛い!」
ミケが首を傾げる。
「にゃ?」
女子が指差す。
「そのキーホルダー!」
ミケは自分のバッグを見る。
猫の肉球の形をしたキーホルダーが揺れていた。
ミケがニヤッと笑う。
「可愛いでしょ!」
コハクのバッグにも視線が行く。
「コハクのも可愛い!」
コハクが笑う。
「ありがと!」
ミナのバッグには弾丸型のキーホルダー。
「ミナのはちょっとカッコいい系だね」
ミナが軽く頷く。
「そうですね……変じゃないですか?」
アオの盾のキーホルダーも揺れていた。
「アオのも可愛い!」
アオが少し照れる。
「ありがとう……」
その時——
ヒョウカの視線がふと窓の外へ向いた。
校舎の向こう。
誰かが立っていた気がした。
長い髪が、風で揺れる。
「……?」
だが次の瞬間には、もう誰もいない。
ヒョウカの眉がわずかに動く。
その時——
女子の視線がツキノのバッグに止まった。
そこには小さなデフォルメキャラのキーホルダーが揺れていた。
女子が首を傾げる。
「白雪さん?それは?」
ツキノは一瞬だけキーホルダーを見る。
そして普通に答えた。
「先生だべ」
一瞬、教室が静かになる。
「え?先生?」
ツキノは頷く。
「灰谷先生だべ」
コハクとミケが吹き出す。
「……やめるにゃ……!!」
ヒョウカも小さく息を漏らした。
「早速、だな」
ミナも口元を押さえていた。
「先生、どうするんでしょうか」
凛馬は小さくため息をつく。
その時——
教室前の廊下を、灰谷が歩いていた。
ふと教室の中を見る。
ツキノのバッグが目に入る。
そこには——
自分のデフォルメキーホルダー。
灰谷が足を止める。
「……まだ付けとる」
ツキノが気づいて振り向く。
手を振る。
「先生おはようだべ」
灰谷は少し困った顔で言った。
「……外してもええぞ」
この日から灰谷は——
一部の生徒に「ナル先生」と呼ばれるようになった。
放課後。仮アジトの中に、全員が集まっていた。
灰谷が机の上のノートパソコンを軽く叩く。
「今日色々レオンの残党たちの事調べててん。今分かってること共有するで」
倉庫の空気が少し引き締まる。
ミナが真剣な顔で聞く。
「ノクス機関の三人ですね」
灰谷が頷いた。
「せや」
指を二本立てる。
「まずカイルとレイナ」
ヒョウカが言う。
「……レオンの右腕と参謀」
灰谷が続ける。
「あいつらは慎重や」
画面を指差す。
「姿見せへんし、情報も全然掴めへん」
ミケが眉をひそめる。
「めんどくさいにゃ」
灰谷が肩をすくめる。
「まぁここまでは想定内なんやけど……」
そして三本目の指を立てた。
「鷹城ガイだけは別や」
アオが首を傾げる。
「前……ヒョウカと戦った人?」
灰谷が苦笑する。
「そうそう、あいつな」
少し呆れた声で言った。
「アホやから街ほっつき歩いとる」
その場の全員が驚く
「それでいいのにゃ!?」
ヒョウカが小さく頷く。
「まぁ……奴ならやりかねん」
ツキノが腕を組む。
「分かりやすい奴だべ」
灰谷が画面を見ながら言う。
「やから位置追いやすい」
キーボードを軽く叩く。
「まぁ……ちょっと探ってみるわ」
画面が切り替わる。
街角。路地裏。古いビルの屋上。
いくつもの映像。
コハクが目を丸くする。
「え、何これ」
灰谷が普通に答える。
「監視カメラ」
ミケが引く。
「いつの間にそんなもん仕掛けたにゃ!?」
灰谷は肩をすくめる。
「暇人なもんで……」
ヒョウカが静かに呟く。
「……用意が良すぎる」
灰谷は映像を切り替えていく。
「あいつは隠れるタイプちゃうからな」
その時——
一つの画面で、男が映った。
錆びた廃工場。
そこに立つ、鷹城ガイ。
拳を鳴らしながら歩いている。
灰谷が指を差した。
「……あ、いたわ」
コハクが身を乗り出す。
「早っ!?」
灰谷が画面を指差す。
「街外れの廃工場っぽいな」
ツキノが肩を回した。
「ほな、うち行ってくるべ」
凛馬がすぐに言う。
「じゃあ、俺も行く」
ツキノが軽く首を振る。
「いらんべ」
「えっ?」
凛馬にしては、珍しく腑抜けな声が出た。
そしてツキノはニヤッと笑う。
「大将こんなとこで出すわけにはいかんべ」
ミケが少し心配そうに言う。
「大丈夫にゃ?」
ツキノは軽く手を振った。
「すぐ終わるべ」
そして——
数秒沈黙。
ツキノが首を傾げた。
「……で、どこいけばいいんだべ?」
空気が止まる。
ヒョウカが目を細める。
「お前、行く気満々だっただろ」
ツキノが普通に頷く。
「うん」
ミケが呆れる。
「分からんまま行こうとしてたにゃ!?」
ツキノが悪びれもなく言う。
「案内してくれるもんかと」
コハクが吹き出す。
「なんて自由な子なの……」
灰谷が頭を押さえた。
「まぁしゃあないか……」
ツキノが凛馬を見る。
「誰か案内して欲しいべ」
凛馬が苦笑する。
「……じゃあ途中まで俺行くよ」
ツキノが少し笑った。
「助かるべ」
別れ際、灰谷が言う。
「まぁ無理はすんなよ。トランシーバーは常に開いとけ」
ツキノが親指を立てた。
「ピンチなったら連絡するべ」
そして少し笑う。
「まぁ、そのカメラでうちが圧倒してる様子でも見といてーや」
「自信満々にゃ……」
コハクが苦笑する。
「負ける気ゼロじゃん」
ヒョウカは小さく息を吐いた。
「……嫌いじゃない」
灰谷が頭をかく。
「フラグか……?」
ツキノは気にした様子もなく笑った。
「まぁなんとかならんかったら、その時はその時ってことで」
そして倉庫の扉を押し開け、夕方の街へ出ていった。
しばらく歩いた後、路地裏に入り凛馬が前を指差した。
「この道まっすぐ行けば、廃工場に着く」
ツキノが頷く。
「ありがとだべ」
少し黙った後、凛馬が前を見たまま言う。
「……ほんとに、俺も行かなくていいのか?」
ツキノが少し笑う。
「心配性だべなぁ」
凛馬は眉をひそめる。
「相手はノクス機関の幹部だぞ」
ツキノはポケットに手を入れたまま歩く。
「分かっとるべ」
白い息を吐く。
「でもな——」
ツキノが少しだけ笑った。
「あいつの相手は、うちの方が得意そうだべ?」
凛馬が少しだけ苦笑する。
「……それは確かに」
ツキノは立ち止まり、そして振り返った。
「任せとけべ!ちゃんとやるから」
凛馬は数秒だけ黙る。そして小さく頷いた。
「……頼んだぞ」
ツキノは軽く手を振った。
「おう」
白い息が夜へ溶ける。
そしてツキノは、一人で奥へ歩いていった。
凛馬はその背中をしばらく見つめる。
やがて、小さく息を吐いた。
「……無茶すんなよ」
その頃——街外れの廃工場。
錆びた鉄骨。
崩れかけたコンクリート。
静まり返った工場の中央で、男が一人立っていた。
鷹城ガイ。拳を鳴らしながら、退屈そうに空を見上げている。
「どこ行っても何も居ねぇな」
ガイが拳を鳴らす。
「つまんねぇな」
その時。
足音が響いた。
ガイの耳がピクリと動く。
ゆっくりと振り向いた。
そこに立っていたのは——
白い息を吐く少女。
ツキノだった。
ツキノはポケットに手を入れたまま言う。
「ほんまにおったべ」
ガイが眉を上げる。
「……あ?」
ツキノがゆっくり歩き出す。
「“狂犬”、探してたんだべ」
ガイの口元が歪む。
(額の角……混血のとこの龍族か)
「へぇ、面白ぇじゃねぇか」
ガイが戦闘体勢に入る。
「ちょうどいい。混血のこと教えてくれよ」
ツキノが立ち止まった。
次の瞬間——
足元から氷が広がる。
パキン、と地面が一瞬で凍りついた。
「犬はな、氷で躾けるもんだべ」
ガイが笑った。
「最高だ!」
拳を握る。
「遊ぼうぜ」
氷がさらに広がる。
二人が向き合う。
そして——
戦いが始まろうとしていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
鷹城ガイとは2度目の衝突です。最高戦力の2人の戦い、どちらに戦況は傾くのでしょうか?次回からバトルスタートです!
反応くださると励みになります!