BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

77 / 82
白銀の瞳と共に“凍界”を展開したツキノ。
狂犬・鷹城ガイを相手に、氷の領域による圧倒的な支配を見せつける。そして戦いの果てに待っているものとは?


78話 龍は氷を統べる

白銀に染まったツキノの目。

 

その瞬間——廃工場の空気が、一瞬で静まった。

 

ガイが眉をひそめる。

 

「……なんだそれ」

 

次の瞬間、廃工場の音が消えた。

 

風も。鉄骨の軋みも。呼吸音すらも。

 

ツキノがゆっくり息を吐く。白い吐息だけが、世界に残る。

 

「凍界」

 

一瞬の“無音”の後——

 

ドンッ!!

 

爆発のように冷気が広がった。

 

床も、鉄骨も凍る。空気や空間そのものが白く染まっていく。

 

パキパキパキパキ――

 

廃工場全体が、氷に侵食されていく。

 

ガイが目を見開いた。

 

「……は?」

 

吐く息が白く、手の感覚が鈍い。肺に入る空気が酷く冷たい。

 

「なんだこれ……!」

 

ツキノの白銀の目が静かに光る。

 

「うちの領域だべ」

 

氷がさらに広がる。

 

ガイが笑った。

 

「ははっ……!」

 

拳を鳴らす。

 

「面白ぇじゃねぇか!!」

 

ガイが踏み込もうとした、その瞬間——

 

ツキノが小さく言った。

 

「これだけちゃうべ」

 

パンッ、と手を叩く音。

 

次の瞬間——

 

パキィッ!!

 

ガイの足元が、一瞬で凍りついた。

 

ガイの体が止まる。

 

「……は?」

 

足元を見る。氷が足元を完全に固定していた。

 

「な、なんだこれ!?」

 

ガイが足を動かそうとする。だが動かない。

 

ツキノがゆっくり近づく。

 

「あんたアホやから教えたる」

 

白銀の目が静かに光る。

 

「ここはな、うちの氷が支配する場所だべ」

 

さらに一歩近づく。

 

「さっきのは氷気」

 

足元の氷がさらに広がる。

 

パキ……パキ……

 

「うちが手ぇ叩いた場所」

 

冷たい息が広がる。

 

「全部凍るべ」

 

ガイが歯を食いしばった。

 

「ふざけんな!!」

 

力で氷を砕く。

 

バキィン!!

 

その瞬間——

 

ツキノが踏み込む。

 

ドン!!

 

——ではなかった。

 

ツキノの足元の氷が、一瞬で滑る。

 

ヒュンッ!!

 

まるで氷上を滑走するような加速。音すら消え、白い軌跡だけが残る。

 

ガイの目が見開かれた。

 

「っ!?」

 

次の瞬間——

 

ツキノは懐にいた。

 

ドゴォ!!

 

拳がガイの腹へ突き刺さった。衝撃が内側から爆発する。

 

ガイの体がくの字に折れた。肺の空気が一瞬で抜ける。

 

「ぐはぁっ……!」

 

ガイの体が吹き飛ぶ。コンクリートの床を転がった。

 

(こいつ……)

 

腹を押さえる。呼吸が乱れる。

 

(氷だけじゃねぇ……)

 

ツキノが静かに近づいてくる。白銀の目が冷たく光る。

 

ガイの目が見開かれる。

 

(力まであんのか!?)

 

その瞬間——

 

ツキノが右手を横へ伸ばした。冷気が集まる。

 

パキ……パキ……パキ……

 

空気が凍る。氷が形を作る。

 

長い刃。一本の武器。氷の槍が生成された。

 

ツキノが軽く握る。槍を一度回した。

 

氷の刃が空気を裂く。

 

ツキノがふと首を傾げる。

 

「……そういや」

 

ガイが眉をひそめる。

 

「ぁ?」

 

ツキノが普通のテンションで言った。

 

「あんた名前なんだっけ?」

 

一瞬、空気が止まる。ガイの眉がピクッと動いた。

 

「……は?」

 

ツキノは槍を肩に乗せたまま続ける。

 

「狂犬狂犬って呼んでたから忘れたべ」

 

数秒の沈黙。

 

そして——

 

ガイが牙を見せて笑った。

 

「鷹城ガイだァ!!」

 

拳を鳴らす。

 

「覚えとけ龍族ぅ!!」

 

ツキノが少し笑う。

 

「お前を倒すヤツの名前だ!!」

 

「そうかい」

 

白い息が広がる。

 

「ほな——」

 

槍を構える。

 

「鷹城ガイ、こっからは容赦せんべ」

 

ヒュン!!

 

ツキノが氷の上を滑る。一瞬で間合いへ入る。

 

ガキィン!!

 

氷槍と拳が衝突する。だが、先に氷が砕け散った。

 

ガイが笑う。

 

「ははっ!!脆いな!!」

 

拳の連打。

 

ドドドド!!

 

だが——

 

ツキノの体が滑り、流れ、曲がる。

 

拳が当たらない。足音すらない。ただ氷を滑る音だけが残る。

 

ガイの視界から、一瞬で消える。

 

「っ!?」

 

ドゴッ!!

 

槍の柄が脇腹へ叩き込まれた。

 

ガイが吹き飛ぶ。だがすぐ立ち上がる。

 

「逃げ回ってんじゃねぇ!!」

 

ドゴォォン!!

 

拳が地面を叩き割る。氷の床が砕け散った。

 

ガイが笑う。

 

「砕けるじゃねぇか!!」

 

だが次の瞬間——

 

パキパキパキッ!!

 

砕けた地面を、再び氷が覆った。

 

ガイの笑みが止まる。

 

ツキノが静かに言う。

 

「ほなもっかい作るだけやな!」

 

足元の氷が広がる。

 

「壊しても意味ねぇべ」

 

ガイが舌打ちする。

 

「チッ!!」

 

再び拳を振るう。

 

ドドドド!!

 

だがツキノの両手が動く。

 

流す。払う。ずらす。全部、紙一重だった。

 

ガイの拳が一発も当たらない。ガイの目が見開かれた。

 

「……は?」

 

その時、ツキノが言う。

 

「やっぱ雑だべな」

 

拳を横へ流し、裏拳を放つ。

 

「うおっ!?」

 

ガイの体勢が崩れる。

 

その瞬間——

 

ドン!!

 

ツキノの拳が再び腹へ突き刺さった。

 

「がはぁ!!」

 

ガイが数歩後ろへ下がる。

 

ツキノが再び槍を生成する。

 

「さっきの連打のお返しだべ」

 

ヒュン!!

 

氷上を滑走し一瞬で距離を詰める。

 

槍が突き出される。ガイが拳で弾く。

 

だが——

 

ヒュン!!

 

次の一撃が肩を裂いた。血が飛ぶ。

 

さらに間髪入れず突き。

 

ドゴッ!!

 

腹を抉る。

 

「ぐあっ……!」

 

槍が止まらない。

 

ヒュン!!ヒュン!!ヒュン!!

 

連続の突き。氷上を滑りながら、槍が嵐のように襲う。

 

ガイが必死に拳で防ぐ。

 

氷が砕ける。血が飛ぶ。

 

ガイが叫んだ。

 

「くそがぁぁ!!」

 

ツキノが静かに言う。

 

「吠えるだけじゃなんも変わらんべ」

 

槍を縦に薙ぐ。

 

ザグッ!!

 

その一閃が、ガイの胸を裂いた。

 

「痛ぇなゴラァ!!」

 

ガイが拳を飛ばす。

 

だがツキノは氷を滑って回避した。

 

「闇雲にやっても当たらんべ」

 

「はぁ……はぁ……」

 

ガイが息を吸う。

 

その瞬間。

 

胸が痛んだ。

 

「……っ」

 

ガイが眉をひそめる。

 

(なんだ……?)

 

もう一度呼吸する。

 

冷たい空気が肺へ流れ込む。胸の奥が刺されるように痛い。

 

体温が奪われていく。視界が少し揺れる。

 

ツキノがゆっくり槍を構え直した。

 

「やっと気づいたべ?」

 

ガイが睨む。

 

「……何をした?」

 

ツキノが静かに答える。

 

「凍界の中の空気」

 

白い息が広がる。

 

「吸えば吸うほど、体温奪うべ」

 

ガイが歯を食いしばる。

 

「ちっ……!」

 

拳を握る。

 

「関係ねぇ!!」

 

一直線に突っ込む。

 

だが——

 

一瞬遅い。体がすでに悲鳴を上げていた。

 

その隙にツキノが踏み込む。

 

ヒュン!!

 

氷上を滑り、一瞬で距離を詰める。槍が一直線に突き出された。

 

「王手」

 

ドゴォ!!

 

腹へ直撃。ガイの体が吹き飛ぶ。

 

「くそぉぉ!!!」

 

地面へ叩きつけられる。

 

ドゴォ!!

 

コンクリートが砕ける。

 

だが——

 

ガイは立ち上がった。

 

「ぐっ……」

 

血を吐きながらも拳を構える。

 

だが足がふらつく。白い息が止まらない。

 

ツキノが静かに見つめていた。ガイが笑う。

 

「は……」

 

血を拭い、再び構える。

 

「まだだぜぇ……龍族」

 

一歩踏み出す。だが体がついてこない。

 

視界が激しく揺れる。ツキノが静かに槍を構えた。

 

「……もう限界だべ」

 

ガイが吠える。

 

「黙れ!!」

 

最後の拳。

 

ドン!!

 

ツキノが横に滑る。槍を持ち替える。

 

そして——

 

ガイの首元へ、槍の柄を叩き込んだ。

 

ドッ。

 

一瞬遅れて、意識が落ちる。拳が止まった。

 

ガイの体が前へ崩れる。

 

ドサッ。

 

ツキノが槍を消した。氷が空気へ溶けていく。

 

倒れたガイを見る。

 

「鷹城ガイ、よう粘ったべ」

 

ツキノがゆっくり息を吐く。白銀の目が静かに光っていた。

 

その時——

 

上から音がした。ツキノの目が動く。

 

廃工場の鉄骨の上。そこに、一人の男が立っていた。

 

赤いマフラー。冷たい目。

 

獅堂カイルだった。その視線は真っ直ぐガイへ向いている。

 

「ガイ……」

 

倒れたガイと、血と氷に染まった床。

 

その瞬間——

 

カイルの表情が歪む。低い声が落ちた。

 

「……よくもやってくれたな」

 

ドン!!

 

カイルが飛び降りる。着地の衝撃で氷が砕けた。

 

ツキノが槍を構える。

 

「あんたもやりに来たべ?」

 

カイルがゆっくり顔を上げる。その目には、明確な怒りがあった。

 

「お前達を許さない」

 

静かな殺気。ツキノが少し笑う。

 

「へぇ、仲間思いだべな」

 

カイルがガイを一瞬見て、ツキノを睨む。

 

その瞬間——

 

小さな玉を地面へ落とした。

 

その瞬間、煙が一気に広がる。

 

白い煙に視界が覆われた、

 

ツキノが冷気で煙を払う。

 

だが——

 

そこにはもう誰もいなかった。ツキノが静かに息を吐く。

 

「終わったべな」

 

白銀の目が徐々に戻っていく。

 

その瞬間——

 

「……っ、ゲホッ」

 

小さく咳き込む。ツキノが口元を押さえた。

 

吐息がやけに白い。胸の奥が、じわりと痛む。

 

「……やっぱこれは、きついな」

 

白銀の冷気が、まだ体の内側に残っていた。ツキノは小さく息を吐く。

 

「長くは使えんべなぁ……」

 

そして視線を上げた。

 

「あ、連絡連絡」

 

ポケットからトランシーバーを取り出す。

 

「……ボタン押すんやっけ」

 

ボタンを押した。

 

「聞こえるか?」

 

次の瞬間——

 

『ツキノ!!』

 

凛馬の声。

 

『大丈夫か!?』

 

続いて灰谷の声。

 

ツキノが軽く肩を回した。

 

「ガイは無力化したべ」

 

向こう側で息を呑む音。

 

『まじにゃ!?』

 

ツキノが続ける。

 

「せやけどな」

 

目が細くなる。

 

「獅堂カイルと接触した」

 

通信の向こうが静まり返る。

 

凛馬の声が低くなる。

 

『……カイル』

 

ツキノが空を見上げた。

 

さっきまでカイルが立っていた鉄骨。そこにはもう誰もいない。

 

ツキノが小さく言う。

 

「逃げられたべ」

 

トランシーバーの向こうで灰谷が言った。

 

『分かった。今すぐ戻れ』

 

ツキノが頷く。

 

「了解だべ」

 

通信を切る。廃工場には、冷たい空気だけが残されていた。

 

「……獅堂カイル、厄介だべ」

 

そして——

 

戦いは、新たなステージへ進み始める。




最後まで読んでくださりありがとうございました!
ツキノの底力はガイをも圧倒しました。この出来事がこの争いにどのような影響を与えるのでしょうか?
次回も見てくださると嬉しいです!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。