狂犬・鷹城ガイを相手に、氷の領域による圧倒的な支配を見せつける。そして戦いの果てに待っているものとは?
白銀に染まったツキノの目。
その瞬間——廃工場の空気が、一瞬で静まった。
ガイが眉をひそめる。
「……なんだそれ」
次の瞬間、廃工場の音が消えた。
風も。鉄骨の軋みも。呼吸音すらも。
ツキノがゆっくり息を吐く。白い吐息だけが、世界に残る。
「凍界」
一瞬の“無音”の後——
ドンッ!!
爆発のように冷気が広がった。
床も、鉄骨も凍る。空気や空間そのものが白く染まっていく。
パキパキパキパキ――
廃工場全体が、氷に侵食されていく。
ガイが目を見開いた。
「……は?」
吐く息が白く、手の感覚が鈍い。肺に入る空気が酷く冷たい。
「なんだこれ……!」
ツキノの白銀の目が静かに光る。
「うちの領域だべ」
氷がさらに広がる。
ガイが笑った。
「ははっ……!」
拳を鳴らす。
「面白ぇじゃねぇか!!」
ガイが踏み込もうとした、その瞬間——
ツキノが小さく言った。
「これだけちゃうべ」
パンッ、と手を叩く音。
次の瞬間——
パキィッ!!
ガイの足元が、一瞬で凍りついた。
ガイの体が止まる。
「……は?」
足元を見る。氷が足元を完全に固定していた。
「な、なんだこれ!?」
ガイが足を動かそうとする。だが動かない。
ツキノがゆっくり近づく。
「あんたアホやから教えたる」
白銀の目が静かに光る。
「ここはな、うちの氷が支配する場所だべ」
さらに一歩近づく。
「さっきのは氷気」
足元の氷がさらに広がる。
パキ……パキ……
「うちが手ぇ叩いた場所」
冷たい息が広がる。
「全部凍るべ」
ガイが歯を食いしばった。
「ふざけんな!!」
力で氷を砕く。
バキィン!!
その瞬間——
ツキノが踏み込む。
ドン!!
——ではなかった。
ツキノの足元の氷が、一瞬で滑る。
ヒュンッ!!
まるで氷上を滑走するような加速。音すら消え、白い軌跡だけが残る。
ガイの目が見開かれた。
「っ!?」
次の瞬間——
ツキノは懐にいた。
ドゴォ!!
拳がガイの腹へ突き刺さった。衝撃が内側から爆発する。
ガイの体がくの字に折れた。肺の空気が一瞬で抜ける。
「ぐはぁっ……!」
ガイの体が吹き飛ぶ。コンクリートの床を転がった。
(こいつ……)
腹を押さえる。呼吸が乱れる。
(氷だけじゃねぇ……)
ツキノが静かに近づいてくる。白銀の目が冷たく光る。
ガイの目が見開かれる。
(力まであんのか!?)
その瞬間——
ツキノが右手を横へ伸ばした。冷気が集まる。
パキ……パキ……パキ……
空気が凍る。氷が形を作る。
長い刃。一本の武器。氷の槍が生成された。
ツキノが軽く握る。槍を一度回した。
氷の刃が空気を裂く。
ツキノがふと首を傾げる。
「……そういや」
ガイが眉をひそめる。
「ぁ?」
ツキノが普通のテンションで言った。
「あんた名前なんだっけ?」
一瞬、空気が止まる。ガイの眉がピクッと動いた。
「……は?」
ツキノは槍を肩に乗せたまま続ける。
「狂犬狂犬って呼んでたから忘れたべ」
数秒の沈黙。
そして——
ガイが牙を見せて笑った。
「鷹城ガイだァ!!」
拳を鳴らす。
「覚えとけ龍族ぅ!!」
ツキノが少し笑う。
「お前を倒すヤツの名前だ!!」
「そうかい」
白い息が広がる。
「ほな——」
槍を構える。
「鷹城ガイ、こっからは容赦せんべ」
ヒュン!!
ツキノが氷の上を滑る。一瞬で間合いへ入る。
ガキィン!!
氷槍と拳が衝突する。だが、先に氷が砕け散った。
ガイが笑う。
「ははっ!!脆いな!!」
拳の連打。
ドドドド!!
だが——
ツキノの体が滑り、流れ、曲がる。
拳が当たらない。足音すらない。ただ氷を滑る音だけが残る。
ガイの視界から、一瞬で消える。
「っ!?」
ドゴッ!!
槍の柄が脇腹へ叩き込まれた。
ガイが吹き飛ぶ。だがすぐ立ち上がる。
「逃げ回ってんじゃねぇ!!」
ドゴォォン!!
拳が地面を叩き割る。氷の床が砕け散った。
ガイが笑う。
「砕けるじゃねぇか!!」
だが次の瞬間——
パキパキパキッ!!
砕けた地面を、再び氷が覆った。
ガイの笑みが止まる。
ツキノが静かに言う。
「ほなもっかい作るだけやな!」
足元の氷が広がる。
「壊しても意味ねぇべ」
ガイが舌打ちする。
「チッ!!」
再び拳を振るう。
ドドドド!!
だがツキノの両手が動く。
流す。払う。ずらす。全部、紙一重だった。
ガイの拳が一発も当たらない。ガイの目が見開かれた。
「……は?」
その時、ツキノが言う。
「やっぱ雑だべな」
拳を横へ流し、裏拳を放つ。
「うおっ!?」
ガイの体勢が崩れる。
その瞬間——
ドン!!
ツキノの拳が再び腹へ突き刺さった。
「がはぁ!!」
ガイが数歩後ろへ下がる。
ツキノが再び槍を生成する。
「さっきの連打のお返しだべ」
ヒュン!!
氷上を滑走し一瞬で距離を詰める。
槍が突き出される。ガイが拳で弾く。
だが——
ヒュン!!
次の一撃が肩を裂いた。血が飛ぶ。
さらに間髪入れず突き。
ドゴッ!!
腹を抉る。
「ぐあっ……!」
槍が止まらない。
ヒュン!!ヒュン!!ヒュン!!
連続の突き。氷上を滑りながら、槍が嵐のように襲う。
ガイが必死に拳で防ぐ。
氷が砕ける。血が飛ぶ。
ガイが叫んだ。
「くそがぁぁ!!」
ツキノが静かに言う。
「吠えるだけじゃなんも変わらんべ」
槍を縦に薙ぐ。
ザグッ!!
その一閃が、ガイの胸を裂いた。
「痛ぇなゴラァ!!」
ガイが拳を飛ばす。
だがツキノは氷を滑って回避した。
「闇雲にやっても当たらんべ」
「はぁ……はぁ……」
ガイが息を吸う。
その瞬間。
胸が痛んだ。
「……っ」
ガイが眉をひそめる。
(なんだ……?)
もう一度呼吸する。
冷たい空気が肺へ流れ込む。胸の奥が刺されるように痛い。
体温が奪われていく。視界が少し揺れる。
ツキノがゆっくり槍を構え直した。
「やっと気づいたべ?」
ガイが睨む。
「……何をした?」
ツキノが静かに答える。
「凍界の中の空気」
白い息が広がる。
「吸えば吸うほど、体温奪うべ」
ガイが歯を食いしばる。
「ちっ……!」
拳を握る。
「関係ねぇ!!」
一直線に突っ込む。
だが——
一瞬遅い。体がすでに悲鳴を上げていた。
その隙にツキノが踏み込む。
ヒュン!!
氷上を滑り、一瞬で距離を詰める。槍が一直線に突き出された。
「王手」
ドゴォ!!
腹へ直撃。ガイの体が吹き飛ぶ。
「くそぉぉ!!!」
地面へ叩きつけられる。
ドゴォ!!
コンクリートが砕ける。
だが——
ガイは立ち上がった。
「ぐっ……」
血を吐きながらも拳を構える。
だが足がふらつく。白い息が止まらない。
ツキノが静かに見つめていた。ガイが笑う。
「は……」
血を拭い、再び構える。
「まだだぜぇ……龍族」
一歩踏み出す。だが体がついてこない。
視界が激しく揺れる。ツキノが静かに槍を構えた。
「……もう限界だべ」
ガイが吠える。
「黙れ!!」
最後の拳。
ドン!!
ツキノが横に滑る。槍を持ち替える。
そして——
ガイの首元へ、槍の柄を叩き込んだ。
ドッ。
一瞬遅れて、意識が落ちる。拳が止まった。
ガイの体が前へ崩れる。
ドサッ。
ツキノが槍を消した。氷が空気へ溶けていく。
倒れたガイを見る。
「鷹城ガイ、よう粘ったべ」
ツキノがゆっくり息を吐く。白銀の目が静かに光っていた。
その時——
上から音がした。ツキノの目が動く。
廃工場の鉄骨の上。そこに、一人の男が立っていた。
赤いマフラー。冷たい目。
獅堂カイルだった。その視線は真っ直ぐガイへ向いている。
「ガイ……」
倒れたガイと、血と氷に染まった床。
その瞬間——
カイルの表情が歪む。低い声が落ちた。
「……よくもやってくれたな」
ドン!!
カイルが飛び降りる。着地の衝撃で氷が砕けた。
ツキノが槍を構える。
「あんたもやりに来たべ?」
カイルがゆっくり顔を上げる。その目には、明確な怒りがあった。
「お前達を許さない」
静かな殺気。ツキノが少し笑う。
「へぇ、仲間思いだべな」
カイルがガイを一瞬見て、ツキノを睨む。
その瞬間——
小さな玉を地面へ落とした。
その瞬間、煙が一気に広がる。
白い煙に視界が覆われた、
ツキノが冷気で煙を払う。
だが——
そこにはもう誰もいなかった。ツキノが静かに息を吐く。
「終わったべな」
白銀の目が徐々に戻っていく。
その瞬間——
「……っ、ゲホッ」
小さく咳き込む。ツキノが口元を押さえた。
吐息がやけに白い。胸の奥が、じわりと痛む。
「……やっぱこれは、きついな」
白銀の冷気が、まだ体の内側に残っていた。ツキノは小さく息を吐く。
「長くは使えんべなぁ……」
そして視線を上げた。
「あ、連絡連絡」
ポケットからトランシーバーを取り出す。
「……ボタン押すんやっけ」
ボタンを押した。
「聞こえるか?」
次の瞬間——
『ツキノ!!』
凛馬の声。
『大丈夫か!?』
続いて灰谷の声。
ツキノが軽く肩を回した。
「ガイは無力化したべ」
向こう側で息を呑む音。
『まじにゃ!?』
ツキノが続ける。
「せやけどな」
目が細くなる。
「獅堂カイルと接触した」
通信の向こうが静まり返る。
凛馬の声が低くなる。
『……カイル』
ツキノが空を見上げた。
さっきまでカイルが立っていた鉄骨。そこにはもう誰もいない。
ツキノが小さく言う。
「逃げられたべ」
トランシーバーの向こうで灰谷が言った。
『分かった。今すぐ戻れ』
ツキノが頷く。
「了解だべ」
通信を切る。廃工場には、冷たい空気だけが残されていた。
「……獅堂カイル、厄介だべ」
そして——
戦いは、新たなステージへ進み始める。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
ツキノの底力はガイをも圧倒しました。この出来事がこの争いにどのような影響を与えるのでしょうか?
次回も見てくださると嬉しいです!