BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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ノクス機関本部では、敗北したガイが医療班へ運び込まれていた。
コクヨウの冷徹な思想、揺れ始めるカイル、そして“敵かどうか”を見極めようとするレイナ。
一方その頃、アオとミナは誰にも秘密で何かを……?


79話 千里眼

ノクス機関本部。

 

重い鉄の扉が、ゆっくりと開いた。担架が運び込まれる。

 

その上に横たわっているのは——

 

鷹城ガイだった。体は血に濡れ、意識はない。

 

「……ッ、ぐ……」

 

微かに喉が鳴る。

 

床にぽたり、と赤い雫が落ちた。

 

運んでいた医療班の一人が焦った声を上げる。

 

「出血が止まってない!」

 

「早く処置室へ!」

 

担架が慌ただしく運ばれていく。

 

だが、その横を歩くカイルだけは無言だった。

 

その目だけが、静かに揺れている。

 

「……ガイがやられたのか」

 

低く呟いたのは、神代コクヨウだった。

 

担架の横に立つ男が答える。

 

獅堂カイル。

 

「龍族の女だ。氷を……操っていた」

 

コクヨウが目を細める。

 

担架の上のガイを見下ろした。

 

「龍族の女……か」

 

少し考えるように目を閉じる。

 

「やはり、私の予想は正しかったか」

 

そして小さく呟いた。

 

「……それほどまでに、洗脳が深いか」

 

カイルの眉がわずかに動く。

 

コクヨウは淡々と続けた。

 

「龍族ほどの存在が、混血の盾になるなど有り得ん」

 

机を軽く指で叩く。

 

「なら、もう戻らん」

 

そして、カイルを見る。

 

「殺せ」

 

部屋の空気が止まる。

 

カイルが眉をひそめた。

 

「……殺すのか」

 

コクヨウは淡々としていた。

 

「あれは完全に“向こう側”だ」

 

視線が冷たく細まる。

 

「排除に値する」

 

だがカイルは、すぐには返事をしなかった。拳がわずかに握られている。

 

「……理解できない」

 

コクヨウが目を向ける。カイルの声は低かった。

 

「俺達が潰すべきなのは、“混血”だ。なら、何故周囲まで狙う」

 

空気が少し張り詰める。カイルが続ける。

 

「森下アオも、兎原ミナも……ただ支えているだけだろう」

 

レイナの目がわずかに動く。カイルは視線を逸らさない。

 

「俺の狙いは最初から混血だけだ」

 

そして——

 

コクヨウが立ち上がった。

 

「甘いな、カイル」

 

その目に冷たい光が宿る。

 

「支える者がいるから、奴は立てる」

 

ゆっくりと近づく。

 

「守る者がいるから、奴は強くなる」

 

低い声が部屋に響く。

 

「なら、先に脚を折るのが“筋”だろう」

 

カイルは何も言わなかった。ただ、小さく答える。

 

「……了解」

 

だがその拳は、まだわずかに握られていた。

 

コクヨウが椅子に座り、背を預ける。そしてレイナを見た。

 

「霧崎」

 

レイナが視線を上げる。

 

「森下アオと兎原ミナの件はどうなっている」

 

レイナがタブレットをモニターへ繋げた。

 

「はい、情報は集まっています」

 

画面が点灯する。そこには地図が表示された。

 

学校。住宅街。いくつもの赤いライン。無数の行動記録。

 

コクヨウが目を細める。

 

「ほう」

 

レイナは淡々と説明した。

 

「行動パターンは意外と単純でした」

 

画面にアオとミナの写真が表示される。

 

「特にこの二人は、帰宅ルートがほぼ固定です」

 

住宅街の一本道。

 

「コンビニ、公園、バス停」

 

レイナの指が地図をなぞる。

 

「基本は七人で固まって行動しています。ですが——」

 

画面が切り替わる。人気のないコンテナ港。

 

「最近、帰宅前に寄り道をしている」

 

「寄り道だと?」

 

レイナは頷いた。

 

「場所はここ」

 

地図が拡大される。

 

「同じ時間、ほぼ毎日ですね」

 

静かな声。

 

「ここで初めて、二人きりになります」

 

カイルが口を開いた。

 

「……何をしている」

 

「……訓練でしょう」

 

モニターに映像が映る。

 

盾を構えるアオ。銃を向けるミナ。

 

パンッ、と銃声。

 

そして、ガンッ!と盾が弾丸を弾く。

 

コクヨウが静かに笑った。

 

「なるほど」

 

レイナは続ける。

 

「互いを鍛え合っているようです」

 

画面が切り替わる。

 

アオが盾を構える。ミナが撃つ。また防ぐ。

 

何度も、何度も。

 

レイナの目が細くなる。

 

「信頼関係は、想像以上に強いですね」

 

カイルが静かに呟く。

 

「……支柱」

 

コクヨウが頷いた。

 

「折る価値がある」

 

その時。

 

レイナが静かに口を開いた。

 

「ですが」

 

視線が集まる。レイナの目は冷たかった。

 

「まだ断定は出来ません」

 

コクヨウが目を細める。

 

「何?」

 

レイナはモニターを見る。

 

アオとミナ。二人の姿。

 

「本当に“敵”なのか」

 

静かな声だった。

 

「私はまだ、自分の目で確かめたい」

 

コクヨウが小さく笑った。

 

「いいだろう」

 

背を預ける。

 

「なら見極めろ」

 

レイナが静かに頷いた。

 

「了解」

 

そしてタブレットを閉じる。

 

「作戦準備は、もう出来ていますから」

 

 

 

夕方。

 

学校の門を出ると、オレンジ色の光が街を染めていた。

 

七人で並んで帰り道を歩く。ミケが大きく伸びをした。

 

「はぁ〜、今日も疲れたにゃー!」

 

ヒョウカが横目で見る。

 

「いつも疲れてるな」

 

「多忙なんだにゃ!」

 

コハクが何かを思い出したように言う。

 

「あれ?そういえば今日作戦会議ないの?」

 

アオが少し青ざめる。

 

「あっ……!」

 

だがツキノが余裕そうに言った。

 

「灰谷さんが言ってたべ?今日は収穫なしだから休みだって」

 

その瞬間、皆の顔が明るくなる。

 

「マジ!?ラッキー!」

 

凛馬が少し驚いた顔をする。

 

「へぇ、珍しいな」

 

「今日はゆっくり休むにゃー!」

 

いつもの帰り道。いつもの会話。

 

その時——

 

ミナがふとアオを見る。アオも視線を返す。そして、ほんの一瞬だけ小さく頷いた。

 

誰も気づかなかった。

 

だが、コハクだけがそれを見ていた。

 

「……?」

 

少しだけ首をかしげる。だが何も言わなかった。

 

(……まぁ気のせいだよね)

 

少し歩くと、分かれ道に差し掛かる。

 

アオが足を止めた。

 

「……僕、こっち」

 

ミナも続く。

 

「私もそっちです」

 

ミケが手を振る。

 

「あー!また明日にゃ!」

 

凛馬も小さく手を振った。

 

「アオ、気をつけろよ」

 

アオが少し笑う。

 

「うん、また明日」

 

ミナも軽く頭を下げた。

 

「お疲れさまでした」

 

二人は夕日の中へ歩き出す。

 

コハクがぽつりと言う。

 

「そういえばさ、最近あの二人よく一緒に帰ってない?」

 

「そういえば、そんな気もするな……」

 

「まぁ仲良いのはいい事にゃ!」

 

凛馬は少しだけ二人の背中を見ていた。

 

「……」

 

何かを考えるように。

 

(……なんだこの胸騒ぎ)

 

だが、何も言わず前を向いた。

 

(……気のせいだよな)

 

そして、歩き出す。

 

二つの影だけが、ゆっくり仲間たちから離れていった。

 

 

 

 

コンテナ港。海風が静かに吹いている。

 

ミナが銃を構える。アオは盾を持って立っていた。

 

盾の中心には、赤い丸い的。

 

ミナが少し困ったように言う。

 

「……本当に良いんですか?」

 

アオが少し照れたように笑った。

 

「……こっちの方が、ミナも狙いやすいかなって」

 

ミナが少し目を伏せる。

 

「……人を狙う感覚に、慣れたくないんです」

 

海風だけが吹く。

 

アオは少し考えてから、盾を構え直した。

 

「じゃあ、いつも通りみたいに盾を狙って」

 

ミナの目が揺れる。

 

「……え?」

 

「僕を動くマネキンとして捉えてみてよ」

 

アオが少しだけ視線を逸らす。

 

「……でも弾は怖いから」

 

少し間。

 

「痛くないやつで……」

 

ミナが一瞬ぽかんとする。そして思わず吹き出した。

 

「ふふっ……なんですかそれ」

 

アオが少し恥ずかしそうに言う。

 

「だ、だって怖いものは怖いし……」

 

ミナの表情が少し柔らかくなる。

 

「……分かりました」

 

ミナはポーチを開け、中から別の弾倉を取り出し、装填する。

 

「練習用のゴム弾です」

 

アオが少し安心した顔をする。

 

「……準備いいね」

 

ミナが少し笑い、銃を構える。

 

「ちゃんと痛くないように撃ちます」

 

アオが盾を構え直した。

 

「うん……お願い」

 

パンッ!!

 

乾いた音がコンテナ港に響く。

 

ガンッ!!

 

盾が弾を弾く。アオが少しだけ後ろへよろけた。

 

「わっ……!」

 

ミナが慌てる。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

アオが盾の後ろから顔を出す。

 

「……ちょっとびっくりしただけ」

 

ミナが目を見開く。

 

「アオ……」

 

アオは少し笑った。

 

「実戦だと、もっと怖い物が飛んできそうだから」

 

ミナが小さく笑う。

 

「……分かりました」

 

再び銃を構える。

 

パンッ!!ガンッ!!

 

銃声と金属音が、静かな港へ響いた。

 

 

 

その頃——

 

コンテナの影。霧崎レイナが静かに立っていた。

 

スマホの画面には位置情報。アオとミナの位置が特定されていた。

 

その目が細くなる。

 

「……目標確認」

 

指先に細いワイヤーが光る。

 

レイナはゆっくり歩き出した。

 

迷路のようなコンテナの間に海風が静かに吹く。

 

レイナは小さく目を細めた。

 

(……混血の支柱)

 

静かな視線が二人へ向く。

 

(本当に、敵なのか——)

 

そして覚悟を決める。

 

(この目で確かめさせてもらうわ)

 

夜の海風が、静かに吹いた。

 

まるで——戦いの前触れのように。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
カイルとコクヨウの思想、そしてレイナが本当に何を見ようとしているのか。
次回、2人の前にレイナが現れます。
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