罠だらけのコンテナ港。圧倒的な経験差を前に、震えながらも立ち向かう。
ミナが銃を下ろした。
「……今日はこのくらいにしましょうか」
アオも盾をゆっくりと下ろす。
「うん。だいぶ感覚も掴めてきた」
潮の匂いを含んだ海風が吹く。
コンテナの隙間から、夜の気配がゆっくり広がっていく。
ミナが軽く息を吐いた。
「これで私達も、ミケ達に近づけるでしょうか」
その時だった。
――カチ、と小さな音。
ミナの目が動く。
「……?!」
次の瞬間。
ドンッ!!
近くで爆発が起きた。
だが威力は低い。コンテナが崩れ、通路が塞がれる。
爆風に押され、ミナの体が大きく揺れた。
「きゃっ……!」
アオが咄嗟に腕を掴む。
「ミナ!」
二人が横に転がる。煙が辺りを包み込んだ。
ミナが慌てて銃を構える。その呼吸が少し荒くなっていた。
「爆発……?!」
アオが盾を前に出す。
「誰か……いるの?」
その瞬間。
キィィン――
アオの目の前にピアノ線が迫る。ミナの目が見開かれた。
「……え?」
「アオ!危ない!!」
「……!!」
アオが本能で盾を振る。
ギンッ!!
火花が散る。その衝撃でアオが一歩下がる。
「くっ……」
腕が痺れ、盾が重く感じる。
だが――
レイナの目がわずかに動く。
(ちゃんと防げるようね)
静かな確認。
(ここまでは予測できる)
ミナが周囲を見る。
コンテナの影。上?横?
どこから来るか分からない。
「これは……罠です」
その声は少し震えていた。コンテナの上から、静かな声が落ちてくる。
「反応は悪くないわね」
二人が見上げる。
コンテナの上に立っていたのは――
霧崎レイナだった。夜風に髪が揺れ、冷たい目が二人を見下ろしている。
ミナが銃を向ける。
「あなたは……!!」
レイナは微かに笑った。
「やっと会えたわね」
アオが盾を構える。
「霧崎……レイナ……!?」
レイナは小さく頷く。
「あなた達がここに来ることも分かってたわ」
そして周囲をゆっくり見渡す。
「この港、全部仕込んでおいたの」
その瞬間。
――カチ。
ミナの顔色が変わる。
「……危ない!」
ドォン!!
別の場所で爆発が起きた。コンテナが大きく揺れる。
だが狙いは二人ではない。逃げ道が轟音と共に通路が塞がれた。
アオが盾を構えたまま言う。
「なんで……」
レイナは淡々と答えた。
「甘えたことは言わせないわよ」
その声には感情がなかった。
「卑怯なんて可愛い言葉じゃない」
レイナの目が細くなる。
「ここはもう、私の戦場」
少し沈黙し、そして静かに続けた。
「安心して」
夜風が髪を揺らす。
「別に、殺すつもりはない」
ミナの目が揺れる。
「だったら……何故!」
レイナは淡々と続けた。
「ただ——」
コンテナの影へ視線を向ける。
「視る必要があるの」
静かな声。
「あなた達が、本当に“敵”なのか」
その瞬間。
パンッ!!
ミナが発砲した。
(撃たなきゃ……)
レイナが横に避ける。弾丸がコンテナに当たり、火花が散った。
「手が震えてるわよ」
本当にミナの手は震えていた。初めて感じる命の危機。
(落ち着いて……落ち着いて……!)
ミナが狙う。
パンッ!!
弾丸はコンテナの角に当たり、外れた。
「……っ」
レイナが小さく言う。
「やっぱり、実戦は初めてね」
ミナの手がわずかに震える。
その様子を見ながら、レイナは静かに目を細めた。
(えっ……実戦経験なし?)
ほんの少し、思考が止まる。
視線がアオとミナへ向く。
盾を構える少女と、震えながら銃を握る少女。
(それで、“混血の支柱”……?)
コクヨウの言葉が頭をよぎる。
“先に折れ” “混血を支える脚だ”
だが——
レイナは小さく眉をひそめた。
(……矛盾してる)
もし本当に、混血を支える中核なら、もっと戦い慣れているはず。
もっと冷酷で。もっと、“壊れている”はずだ。
海風が静かに吹く。
レイナの指先が、静かにワイヤーへ触れる。
(……実戦経験のない相手を追い詰めるのは、あまり好きじゃないのだけれど)
海風が3人を通り抜ける。
(でも)
その目がゆっくり鋭くなる。
(証明してもらわないと、この小競り合いは前に進まない)
コンテナの影に、盾を構えるアオと震えながらも銃を握るミナ。
レイナは静かに息を吐いた。
(だから見せて)
冷たい目。
(あなた達の“答え”を)
その瞬間、コンテナの影が動く。
アオが叫んだ。
「ミナ!避けて!」
ミナが振り向く。
ドォン!!
巨大なコンテナが落下する。
だが狙いはまたミナではない。
通ろうとしていた道だった。轟音と共に通路が塞がれた。
地面が震え、煙が上がる。レイナの目は静かだった。
(……当てる気はないわ)
崩したのは、退路だけ。
レイナの声が響く。
「逃げてもいいけど、逃げ道はない」
その瞬間、また爆発。続いてピアノ線。間に銃撃。
コンテナ港の迷路の中で、罠が連続して作動していく。
ミナの息が荒くなる。
(完全に……読まれてる)
アオが盾を構える。レイナの攻撃を防ぐことしかできなかった。
「くっ……!」
パンッ!!
再び弾丸が飛ぶ。
ガンッ!!
盾へ命中するが、アオの体が後ろへ押される。
だが——
レイナの狙いは、徹底して盾の中心だった。腕も、脚も、頭もハナから狙っていない。
(……特訓の成果ってやつかしら)
レイナの目が静かに細くなる。
「いい連携ね」
レイナはコンテナから降り、二人の前に立つ。
「でも、経験が足りない」
その言葉が重く落ちた。爆発の煙がまだ漂っている。
アオは盾を構えたまま、荒い息を吐いた。
「……っ」
数々の奇襲で腕が痺れ切っていた。
ミナがコンテナの影から顔を出す。
「アオ……大丈夫ですか……?」
アオは答えなかった。その代わり、ゆっくり周囲を見る。
コンテナ。影。高所。そして、レイナ。
(……どうしよう)
頭の中で状況を整理する。地形も、射線も、全部向こうが握っている。
(このままだと……勝)
アオは歯を食いしばる。
(ミナはボクより頭が回る。でも――)
アオの視線がミナに向く。
ミナの手は、まだ少し震えていた。
(……ずっと躊躇ってる)
アオの中で、考えがまとまる。
「ミナ」
「……?」
「こっち」
アオはミナの腕を引いた。
コンテナの奥の深い場所まで押し込む。
ミナが驚く。
「アオ……?」
アオが盾を構え直す。
「ここにいて」
「え?」
「ボクがあの人を止めるから」
ミナの目が揺れる。
「何を言って……」
アオは短く言う。
「後ろから援護して」
その声は、珍しく強かった。
「……」
「それと」
アオが小さく息を吐く。
「凛馬たちに連絡して」
ミナが固まる。
「……一人で戦う気ですか」
アオは少しだけ笑った。
「大丈夫だよ」
そして盾を軽く叩く。
「時間稼ぎする」
アオは笑う。だがその笑顔の奥に底なしの恐怖が滲んでいた。
「こうするしか……思いつかなかった」
ミナの声が少し震える。
「無理です……相手は圧倒的です」
アオはコンテナの影から、ゆっくり外を見る。
場所も、射線も、罠までも。全部向こうが握っている。
(……怖い)
正直な感情だった。
それでも視線は前を向いていた。
「ミナ」
アオは振り向かないまま言う。
「ボク、絶対生き残るよ」
ミナが息を呑む。
アオが続ける。
「大丈夫。あの人は殺すつもりないって言ってたよ」
そして前を見る。
「……あと」
少しだけ照れたように笑う。
「凛馬に、かっこいいとこ見せたいし」
ミナは思わず目を見開く。
「僕も……もっと凛馬や皆の役に立ちたい」
ミナは思わず小さく笑った。
「……こんな時に、それですか」
アオは耳を少し赤くしながら言う。
「だ、だって大事だし……」
少しだけ空気が和らぐ。
その後、ミナはトランシーバーを握った。その手は、まだ少し震えている。
足も、心臓も、全部震えていた。
それでも——
ミナはゆっくり息を吐く。そして、小さく笑った。
「……アオ」
「?」
ミナはトランシーバーを握ったまま言う。
「証明しましょう」
静かな声だった。
「“私達”を」
アオが少し目を見開く。その後、少しだけ笑った。
「……うん」
盾を握る手に、力が入る。
「絶対、証明しよう」
ミナはコンテナの奥でトランシーバーを握っていた。
「聞こえますか、こちらミナ」
その声は今にも消えそうなぐらい小さかった。
だが、レイナの耳がわずかに動く。
「……通信」
銃口がゆっくりミナの方向へ向く。
「それはちょっと嫌ね」
コンテナの影。アオはそれを見ていた。
ミナの背中。レイナの銃口。
頭の中で状況が一瞬で整理される。
(……なんとしてでも止める)
アオはゆっくり息を吐いた。
そして――
コンテナの影から、盾を構えたまま姿を現す。
レイナの目が動く。
「……?」
アオが一歩前に出る。
パンッ!!
アオが弾を弾く。
ガンッ!!
弾丸が盾に弾かれ、火花が散る。アオの体が再びわずかに揺れる。
それでも止まらなかった。
もう一歩。そして、もう一歩。
レイナが小さく言う。
「……時間稼ぎのつもり?」
アオが答える。
「そうだよ」
その瞬間、レイナが銃を構え直す。
「いいわ。どれだけ持つか試してあげる」
レイナが引き金を引こうとした、その瞬間――
ヒュンッ!!
小石が空を裂いた。
カンッ!!
レイナの銃が大きく弾かれる。
「……?」
目がわずかに見開かれた。
(何を……したの?)
アオの手には、小石が握られていた。
レイナが静かに言う。
「へぇ、そんなことも出来るの?」
アオは何も答えない。
ただ、ミナに背を向けたまま立つ。
ミナの声が震える。
「アオ……」
アオは短く言った。
「ミナ、通信続けて」
レイナが小さく笑う。
「流石は熊族ね」
アオはナイフをもう一個石を拾う。
レイナを真っ直ぐ見据えた。コンテナ港の夜風が、静かに吹いた。
その背後で、ミナはトランシーバーを握っていた。
「……聞こえていますか」
そして――
『ミナ!?』
凛馬だった。ミナは短く言う。
「霧崎レイナと接触しました」
『……場所は』
「コンテナ港です」
その瞬間――
凛馬の空気が変わった。
『待ってろ』
“あの時”の低い声。
『今すぐ行く』
通信が切れる。
その頃。街の中で、凛馬はすでに走り出していた。
(レイナ……)
ミナとアオの顔が頭に浮かぶ。
(くそっ……!)
凛馬がさらに速度を上げる。街灯が流れていく。
(あの時ついていけば……!)
信号も、車も、全部無視して走る。ただ一つ、向かう場所は決まっている。
凛馬の目が鋭くなる。
「絶対に助ける」
小さく呟いた。その姿は、夜の街を切り裂くように駆けていった。
――コンテナ港へ。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
更新めちゃくちゃ遅れてすみません……!あげ忘れです
ついに2人がレイナと対峙しました。レイナの攻撃は強いですが、同時に優しさも見えますね。2人はどの様に自身を証明するのでしょうか?
次回も見てくださると嬉しいです!