それは、元の世界で孤独だった彼が“ひとりにならない”ための選択だった。
賑やかな昼休みの裏で、凛馬の小さな本音だけが誰にも届かずに消えていく。
放課後—。
「さあ、図書館行くにゃ!凛馬、リード付けるにゃ!」
ミケが赤いリードを首輪に取り付ける。
「学校の中でもリード?過保護ね♫」
「当たり前にゃ!凛馬が迷子になったら大変にゃ!」
一行は学内の図書館へ向かった。天井まで届く書架が並ぶ広い館内で、司書が眼鏡越しにこちらを見て静かに頷く。
「人間に関する資料ですね。事前に連絡は受けています。特別に閲覧を許可しましょう」
案内された書架の奥で、凛馬は首輪の鈴が鳴るたび、周囲の視線を意識した。一方でミケは、まるで自分の部屋のように堂々としている。
「にゃ〜、古い本がいっぱいにゃ!」
「人間の世界って、どんな場所だったんだろう……」
アオが小さく呟く。
ミナは資料を整理し、ヒョウカは周囲を警戒するように立っていた。
「まずは"異界に迷い込む者"の伝承から調べましょう」
ミナの提案に、凛馬は頷く。
——異界への門。世界の裂け目。迷い人。
だが、どの記述も曖昧で、帰還に成功した例はほとんどなかった。
凛馬は一冊の古い書物を手に取る。
表紙には《門の記録》。
「……"特異点"?」
「にゃ!"光の中に消える者"って書いてあるにゃ……戻れた者は稀、だって……」
「だからこそ、古文書が重要なんだ」
ヒョウカが静かに言う。その一言で、凛馬の胸が少しだけ軽くなった。
"戻れる可能性がゼロではない"と言われた気がしたからだ。
夕暮れが近づき、探索は区切りを迎える。
「…見つからなかったにゃ」
ミケが耳を垂らす。
「ごめんなさい。帰還記録は見当たりませんでした…」
ミナが頭を下げる。
「でも、また探そう!」
アオが明るく言った。
「今日はここまでね。凛馬くん、疲れたでしょう?」
コハクが優しく肩に触れる。
図書館を出ると、街は夕焼けに染まっていた。
「にゃ…凛馬。見つからなくて、ごめんにゃ…」
ミケが手を握る。
「でも……ここにいてくれたら、私は嬉しいにゃ」
「私もよ」
「僕も!」
「……悪くない」
「……大切な時間です」
夕暮れの中、五人の想いが向けられる。
「ありがとう。もし……帰れなくなっても、皆となら楽しいと思う」
凛馬は、自分の迷いを初めて言葉にした。
「にゃああ!凛馬ぁ!」
ミケが飛びつき、抱きしめる。
「そんなこと言われたら、離したくなくなるにゃ!」
「ふふ……本当にちょろい子ね」
コハクも腕を絡める。
「僕も!」
「あの…私も…」
「……図書館前だぞ」
ヒョウカは呆れつつ、視線を逸らした。
そのまま一行はミケの家へ向かい、夕食を囲んだ。
「今日は特別にステーキにゃ!」
「凛馬くん、厚切りよ」
「はい、あ〜んにゃ!」
賑やかな食卓。凛馬は笑いながら肉を頬張り、胸の奥で小さく思った。
—ここにいれば、もう「いらない存在」じゃなくていいのかもしれない。
獣人たちに囲まれた新しい日常が、静かに形を成し始めていた。
最後まで見てくださりありがとうございます!
次回のことなんですけど、カクヨムと投稿ペース合わせたいので1日だけ投稿休みます、申し訳ないです!
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