震える手で銃を握るミナ。傷つきながらも前に立つアオ。自分達の想いをレイナへぶつける。
コンテナ港に銃声が響く。
パンッ!!ガンッ!!
アオの盾が弾丸を弾いた。火花が散り、アオの体が後ろへ押される。
「くっ……!」
腕も痺れる。だがそれでもアオは倒れない。
その瞬間——
パンッ!!
乾いた銃声。レイナの目がわずかに見開かれる。
「……っ?」
弾丸が頬を掠めるほどの距離にあった。
レイナが即座にコンテナの上へ跳んだ。
(今の射線——)
目線を落とす。コンテナの影にいたのは——
ミナだった。
相変わらず手は震え、呼吸は荒かった。それでも、銃だけは、真っ直ぐレイナへ向いている。
レイナが小さく目を細める。
(……初めてちゃんと撃った)
さっきまで震えていた少女は、実戦経験もない。
それなのに。今、明確に自分へ向けて引き金を引いた。
ミナの声が震える。それでも、前を向いていた。
「アオだけじゃ……ありません!」
銃を握る手に力が入る。
「私も、一緒ですから!!」
アオの目が見開かれる。
「ミナ……!」
レイナは静かにその姿を見る。
海風が吹く。
(……そう)
その目が少しだけ変わる。
レイナは高所から二人を見下ろしていた。
だが状況は変わらない。逃げ道は全て塞いだ。
爆発で崩れたコンテナ。逃げ道を塞ぐワイヤー。完全に、レイナの領域だった。
ミナの息が荒い。
「はぁ……はぁ……」
(今の弾丸……もし直撃させてしまったら)
アオも肩で息をしている。盾を持つ腕はもう限界に近かった。
それでも、アオは前に立ちミナは後ろから援護する。
その形だけは、一度も崩れない。レイナの目が細くなる。
(……なんで)
爆発、罠、射線。全部潰している。普通なら、とっくに心が折れている。
それなのに、この二人はまだ立っていた。
パンッ!!
ミナの弾丸が再び放たれる。レイナが横へ避けながらワイヤーを飛ばす。
その瞬間——
キィィン!!
ワイヤーへ弾丸が偶然当たった。
「……っ!?」
ワイヤーの軌道がズレる。その隙に、アオが前へ出た。
ガンッ!!
盾で残りのワイヤーを弾く。レイナの目が細くなる。
(今の……)
だが、ミナはそんな事考える余裕すらない。震える手で次の弾を装填する。
「アオ!!」
アオが振り返る。
「……うん!!」
言葉なんかなくても、何となく分かる気がした。
その瞬間——
ヒュンッ!!
小石が再び空を裂く。
カンッ!!
レイナのワイヤーのケースが弾かれる。レイナが即座に後ろへ跳ぶ。
(また小石……!)
アオは止まらない。盾を前へ出しながら、足元の石を蹴り上げる。
掴み、投げる。
ヒュンッ!!
レイナの目がわずかに見開く。
(威力がおかしい……)
ミナの援護、アオの防御、そして投石。
少しずつ、確実に二人はレイナへ食らいつき始めていた。
レイナが残りのワイヤーを放つ。
キィィン!!
アオが盾で受ける。
ガンッ!!
「っ……!」
衝撃で足が滑る。腕はほぼ限界だった。
その瞬間、ミナが叫ぶ。
「アオ!!」
パンッ!!
ミナの弾丸が飛ぶ。
(……っ!)
レイナが横へ避ける。だがその着地点へ——
ヒュンッ!!
アオの小石。
(嘘でしょ!?)
だが、レイナがギリギリで腕でガードした。その腕には鉄板が仕込まれていた。
「……痺れるわね」
海風が吹く。レイナの目が細くなる。
(さっきより遥かにいい連携……)
未熟で、実戦経験なし。
なのに、互いを守る動きだけは異様に完成されている。
(これ以上は蛇足かしらね)
レイナは静かに着地した。その動きに、アオが即座に盾を構える。
ミナも銃を向けた。だがレイナは、すぐには攻撃しなかった。
静かに二人を見る。
「……あなた達は」
その声は、さっきより少し低かった。
「なぜ戦うの?」
アオの眉が動く。レイナは続けた。
「そこまでして、何を守ろうとしてるの」
ミナが銃を握りしめる。レイナの目は真っ直ぐだった。
「怖いんでしょ?なのに、どうして——」
視線がミナへ。その手は相変わらず震えていた。
「震えながら——」
そして次はアオへ。盾を持つ腕はもう悲鳴をあげていた。
「自分を犠牲にしながら——」
波の音だけが響く。先に口を開いたのは、ミナだった。
「……本当は戦いたくないんです」
レイナの目がわずかに動く。ミナは銃を握る手を見つめながら続けた。
「怖いですよ。勿論」
震えながらも、その目には強い意志が宿った。
「撃つのも、傷つくのも……全部嫌に決まってるでしょう」
本音だった。今でも足は震えている。呼吸も苦しい。
逃げられるなら、逃げたい。それが本心だった。
だが。アオが小さく笑った。
「ミナの言う通りだよ」
盾を握る手が少し震えている。
「もし石とか、銃弾が当たってしまったらどうしよう……って思ってた」
レイナが黙って聞いている。アオは少しだけ空を見上げた。
「でも」
そして前を見る。
「大事な人を守るには、そうするしかないんだよ」
ミナが小さく頷いた。
「だから、私たちは戦う」
レイナは何も言わない。ただ、その目だけが揺れていた。
(……怖い?戦いたくない?)
コクヨウの言葉が脳裏をよぎる。
“混血の支柱” “危険因子” “先に折れ”
だが、目の前にいる二人はどう見ても、“怪物”じゃない。
むしろ自分の心配すらしていた。レイナは静かに息を吐く。
「……それでも」
その目がアオへ向く。
「混血を守れば、あなた達も狙われる」
海風が吹く。
「傷つき、苦しむ。それでも、何故そこまで——」
その瞬間、アオの中で何かが切れた。
「じゃあ……!!」
レイナの目が動く。アオが初めて感情を露わにした。
「ボクたちが何したっていうの!?」
港に声が響く。ミナが目を見開く。アオは止まらない。
「普通に学校行って!!皆で笑って!!仲良くしたかっただけなのに!!」
盾を握る手が震える。
「なんで狙われなきゃいけないの!?」
レイナの目が揺れる。アオの息が荒い。
そして——
「なんで皆を傷つけるの!!」
ドンッ!!
アオが踏み込んだ。完全にレイナの予想外だった。
(……来た!?)
アオが拳を振る。初めて、怒りに任せて人を殴るために。
ガンッ!!
拳が、レイナの頬へ直撃した。
「っ——!?」
レイナの顔が大きく横へ流れる。数歩滑り、コンテナへぶつかる寸前で止まった。
その目が見開かれる。
(……重い)
ただの力じゃない。怒り。恐怖。悔しさ。色んな感情が、全部拳に乗っていた。
レイナはゆっくり頬へ触れる。これまで感じたことのない痛み。だがそれより——
(この子……)
視線の先。アオは拳を握ったまま震えていた。
「っ……ぁ……」
呼吸が乱れる。目から涙が落ちる。
「なんで……」
声が掠れる。
「なんでボクたちがこんな目に遭わなきゃいけないの……」
アオは、自分の拳を見ていた。
初めて、怒りで人を殴った。その事実が、一番自分を傷つけていた。
ミナが駆け寄る。
「アオ……!」
アオの肩が小さく震える。
「ボク……」
涙が地面へ落ちる。
「こんなの……したくなかった……」
レイナは静かにその姿を見ていた。そして。小さく息を吐く。
(……あぁ)
この子達は戦争をしたい訳じゃない。ただ、大事な人を守りたいだけだ。
どっちが悪者かなんてもう明白だった。レイナが静かに目を閉じた。
「……もういいわ」
その瞬間だった。
ガシャァァン!!
鎖がコンテナへ巻き付く音。
「2人ともーーーー!!!」
上から飛び降りてきたのは、コハクだった。鎖を振り回しながら勢いよく着地する。
「無事!?!?」
ミナが息を吐く。
「コハク……!」
コハクは周囲を見回す。
壊れたコンテナ。ワイヤー。そしてレイナ。
「……?」
だがレイナは銃を向けなかった。そして敵意も感じなかった。
レイナは小さく息を吐く。
(増援……)
目的は達した。これ以上の戦闘は不要だった。レイナは静かにワイヤーを引いた。
コハクが眉をひそめる。
「……なんで攻撃してこないの?」
レイナは答えない。だが、撤退する前に一度だけ振り返った。
「……一つだけ」
アオ達の目が向く。レイナの目が静かに細くなる。
「紅葉凛馬」
静かな声。
「あなた達にとって、あれは何?」
アオが少し目を見開く。ミナは迷わなかった。
「……“希望”です」
アオも小さく頷く。
「“大切な人”」
レイナの目がわずかに揺れる。
(希望、か)
その瞬間——
ヒュンッ!!
煙玉が数個地面に落ち、煙幕が視界が白く染まる。
コハクが鎖を構える。
「待っ——!」
だが。煙が晴れた時そこにはもう、レイナの姿は無かった。
静かな港に壊れたコンテナだけが残される。
コハクがぽかんとする。
「……え?」
その直後。
「アオォォォ!!!」
遠くから声が響いた。
次の瞬間、凛馬が全力で駆け込んでくる。
汗だくで呼吸も荒い。完全に全速力で来た顔だった。
「無事か!?」
アオへ駆け寄る。ミナの怪我も確認する。
「怪我は!?大丈夫か!?」
ミナが少し苦笑する。
「だ、大丈夫です……」
アオも小さく頷く。
「……うん」
凛馬が周囲を見る。
壊れた港に——レイナがいない。
「……間に合わなかった」
低い声には、悔しさが滲んでいた。
だが、そこで気づく。空気が何かおかしい。
アオも、ミナも、コハクまで妙に複雑な顔をしていた。
凛馬が眉をひそめる。
「……何があった」
少し沈黙した後、ミナが静かに言った。
「……あの人、悪い人じゃないかもしれません」
凛馬が固まる。
「……?」
アオが拳を見る。
「怖かったけど……」
小さな声。
「でも、最後優しい顔してた」
コハクも腕を組む。
「……うん。よくみてないけど、そんな感じ……」
凛馬が困惑する。
「じゃあ、この壊れたコンテナ達は……?」
ミナが静かに首を振る。
「致命傷を狙った攻撃は一度もありませんでした」
アオも続ける。
「最後、武器すら持ってなかった」
「……」
凛馬が黙る。夜風が吹く。
「……なんなんだ」
その頃、コンテナ港から少し離れた高所。レイナは一人夜風を受けながら歩いていた。
ワイヤーを回収しながら、小さく息を吐く。
頬へ触れる。アオの拳を受けた場所が、まだ少し熱を持っていた。
「……なかなか痛いわね」
静かな声。あれはただの力じゃない。
怒り。恐怖。守りたい気持ち。全部、あの一撃に乗っていた。
レイナは夜空を見上げる。
「戦いたくない……か」
小さく呟く。コクヨウの言葉が脳裏をよぎる。
“混血は危険だ” “先に折れ” “排除しろ”
だが、アオとミナの存在はその言葉とあまりにも違っていた。
レイナは静かに目を閉じる。
「……十分証明された」
夜風が髪を揺らす。
「次は、私が結論を出す番」
レイナが頬を軽く擦る。
「……近いうちに、また会うことになるわね」
そしてレイナは夜の街へ消えていった。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
戦いたくない。それでも大切な人を守るために立ち向かう。そんな二人の覚悟は確かにレイナへ届きました。次回からのレイナの動きに注目です!