BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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霧崎レイナの猛攻に追い詰められるアオとミナ。それでも二人は逃げなかった。
震える手で銃を握るミナ。傷つきながらも前に立つアオ。自分達の想いをレイナへぶつける。


81話 Q.E.D

コンテナ港に銃声が響く。

 

パンッ!!ガンッ!!

 

アオの盾が弾丸を弾いた。火花が散り、アオの体が後ろへ押される。

 

「くっ……!」

 

腕も痺れる。だがそれでもアオは倒れない。

 

その瞬間——

 

パンッ!!

 

乾いた銃声。レイナの目がわずかに見開かれる。

 

「……っ?」

 

弾丸が頬を掠めるほどの距離にあった。

 

レイナが即座にコンテナの上へ跳んだ。

 

(今の射線——)

 

目線を落とす。コンテナの影にいたのは——

 

ミナだった。

 

相変わらず手は震え、呼吸は荒かった。それでも、銃だけは、真っ直ぐレイナへ向いている。

 

レイナが小さく目を細める。

 

(……初めてちゃんと撃った)

 

さっきまで震えていた少女は、実戦経験もない。

 

それなのに。今、明確に自分へ向けて引き金を引いた。

 

ミナの声が震える。それでも、前を向いていた。

 

「アオだけじゃ……ありません!」

 

銃を握る手に力が入る。

 

「私も、一緒ですから!!」

 

アオの目が見開かれる。

 

「ミナ……!」

 

レイナは静かにその姿を見る。

 

海風が吹く。

 

(……そう)

 

その目が少しだけ変わる。

 

レイナは高所から二人を見下ろしていた。

 

だが状況は変わらない。逃げ道は全て塞いだ。

 

爆発で崩れたコンテナ。逃げ道を塞ぐワイヤー。完全に、レイナの領域だった。

 

ミナの息が荒い。

 

「はぁ……はぁ……」

 

(今の弾丸……もし直撃させてしまったら)

 

アオも肩で息をしている。盾を持つ腕はもう限界に近かった。

 

それでも、アオは前に立ちミナは後ろから援護する。

 

その形だけは、一度も崩れない。レイナの目が細くなる。

 

(……なんで)

 

爆発、罠、射線。全部潰している。普通なら、とっくに心が折れている。

 

それなのに、この二人はまだ立っていた。

 

パンッ!!

 

ミナの弾丸が再び放たれる。レイナが横へ避けながらワイヤーを飛ばす。

 

その瞬間——

 

キィィン!!

 

ワイヤーへ弾丸が偶然当たった。

 

「……っ!?」

 

ワイヤーの軌道がズレる。その隙に、アオが前へ出た。

 

ガンッ!!

 

盾で残りのワイヤーを弾く。レイナの目が細くなる。

 

(今の……)

 

だが、ミナはそんな事考える余裕すらない。震える手で次の弾を装填する。

 

「アオ!!」

 

アオが振り返る。

 

「……うん!!」

 

言葉なんかなくても、何となく分かる気がした。

 

その瞬間——

 

ヒュンッ!!

 

小石が再び空を裂く。

 

カンッ!!

 

レイナのワイヤーのケースが弾かれる。レイナが即座に後ろへ跳ぶ。

 

(また小石……!)

 

アオは止まらない。盾を前へ出しながら、足元の石を蹴り上げる。

 

掴み、投げる。

 

ヒュンッ!!

 

レイナの目がわずかに見開く。

 

(威力がおかしい……)

 

ミナの援護、アオの防御、そして投石。

 

少しずつ、確実に二人はレイナへ食らいつき始めていた。

 

レイナが残りのワイヤーを放つ。

 

キィィン!!

 

アオが盾で受ける。

 

ガンッ!!

 

「っ……!」

 

衝撃で足が滑る。腕はほぼ限界だった。

 

その瞬間、ミナが叫ぶ。

 

「アオ!!」

 

パンッ!!

 

ミナの弾丸が飛ぶ。

 

(……っ!)

 

レイナが横へ避ける。だがその着地点へ——

 

ヒュンッ!!

 

アオの小石。

 

(嘘でしょ!?)

 

だが、レイナがギリギリで腕でガードした。その腕には鉄板が仕込まれていた。

 

「……痺れるわね」

 

海風が吹く。レイナの目が細くなる。

 

(さっきより遥かにいい連携……)

 

未熟で、実戦経験なし。

 

なのに、互いを守る動きだけは異様に完成されている。

 

(これ以上は蛇足かしらね)

 

レイナは静かに着地した。その動きに、アオが即座に盾を構える。

 

ミナも銃を向けた。だがレイナは、すぐには攻撃しなかった。

 

静かに二人を見る。

 

「……あなた達は」

 

その声は、さっきより少し低かった。

 

「なぜ戦うの?」

 

アオの眉が動く。レイナは続けた。

 

「そこまでして、何を守ろうとしてるの」

 

ミナが銃を握りしめる。レイナの目は真っ直ぐだった。

 

「怖いんでしょ?なのに、どうして——」

 

視線がミナへ。その手は相変わらず震えていた。

 

「震えながら——」

 

そして次はアオへ。盾を持つ腕はもう悲鳴をあげていた。

 

「自分を犠牲にしながら——」

 

波の音だけが響く。先に口を開いたのは、ミナだった。

 

「……本当は戦いたくないんです」

 

レイナの目がわずかに動く。ミナは銃を握る手を見つめながら続けた。

 

「怖いですよ。勿論」

 

震えながらも、その目には強い意志が宿った。

 

「撃つのも、傷つくのも……全部嫌に決まってるでしょう」

 

本音だった。今でも足は震えている。呼吸も苦しい。

 

逃げられるなら、逃げたい。それが本心だった。

 

だが。アオが小さく笑った。

 

「ミナの言う通りだよ」

 

盾を握る手が少し震えている。

 

「もし石とか、銃弾が当たってしまったらどうしよう……って思ってた」

 

レイナが黙って聞いている。アオは少しだけ空を見上げた。

 

「でも」

 

そして前を見る。

 

「大事な人を守るには、そうするしかないんだよ」

 

ミナが小さく頷いた。

 

「だから、私たちは戦う」

 

レイナは何も言わない。ただ、その目だけが揺れていた。

 

(……怖い?戦いたくない?)

 

コクヨウの言葉が脳裏をよぎる。

 

“混血の支柱” “危険因子” “先に折れ”

 

だが、目の前にいる二人はどう見ても、“怪物”じゃない。

 

むしろ自分の心配すらしていた。レイナは静かに息を吐く。

 

「……それでも」

 

その目がアオへ向く。

 

「混血を守れば、あなた達も狙われる」

 

海風が吹く。

 

「傷つき、苦しむ。それでも、何故そこまで——」

 

その瞬間、アオの中で何かが切れた。

 

「じゃあ……!!」

 

レイナの目が動く。アオが初めて感情を露わにした。

 

「ボクたちが何したっていうの!?」

 

港に声が響く。ミナが目を見開く。アオは止まらない。

 

「普通に学校行って!!皆で笑って!!仲良くしたかっただけなのに!!」

 

盾を握る手が震える。

 

「なんで狙われなきゃいけないの!?」

 

レイナの目が揺れる。アオの息が荒い。

 

そして——

 

「なんで皆を傷つけるの!!」

 

ドンッ!!

 

アオが踏み込んだ。完全にレイナの予想外だった。

 

(……来た!?)

 

アオが拳を振る。初めて、怒りに任せて人を殴るために。

 

ガンッ!!

 

拳が、レイナの頬へ直撃した。

 

「っ——!?」

 

レイナの顔が大きく横へ流れる。数歩滑り、コンテナへぶつかる寸前で止まった。

 

その目が見開かれる。

 

(……重い)

 

ただの力じゃない。怒り。恐怖。悔しさ。色んな感情が、全部拳に乗っていた。

 

レイナはゆっくり頬へ触れる。これまで感じたことのない痛み。だがそれより——

 

(この子……)

 

視線の先。アオは拳を握ったまま震えていた。

 

「っ……ぁ……」

 

呼吸が乱れる。目から涙が落ちる。

 

「なんで……」

 

声が掠れる。

 

「なんでボクたちがこんな目に遭わなきゃいけないの……」

 

アオは、自分の拳を見ていた。

 

初めて、怒りで人を殴った。その事実が、一番自分を傷つけていた。

 

ミナが駆け寄る。

 

「アオ……!」

 

アオの肩が小さく震える。

 

「ボク……」

 

涙が地面へ落ちる。

 

「こんなの……したくなかった……」

 

レイナは静かにその姿を見ていた。そして。小さく息を吐く。

 

(……あぁ)

 

この子達は戦争をしたい訳じゃない。ただ、大事な人を守りたいだけだ。

 

どっちが悪者かなんてもう明白だった。レイナが静かに目を閉じた。

 

「……もういいわ」

 

その瞬間だった。

 

ガシャァァン!!

 

鎖がコンテナへ巻き付く音。

 

「2人ともーーーー!!!」

 

上から飛び降りてきたのは、コハクだった。鎖を振り回しながら勢いよく着地する。

 

「無事!?!?」

 

ミナが息を吐く。

 

「コハク……!」

 

コハクは周囲を見回す。

 

壊れたコンテナ。ワイヤー。そしてレイナ。

 

「……?」

 

だがレイナは銃を向けなかった。そして敵意も感じなかった。

 

レイナは小さく息を吐く。

 

(増援……)

 

目的は達した。これ以上の戦闘は不要だった。レイナは静かにワイヤーを引いた。

 

コハクが眉をひそめる。

 

「……なんで攻撃してこないの?」

 

レイナは答えない。だが、撤退する前に一度だけ振り返った。

 

「……一つだけ」

 

アオ達の目が向く。レイナの目が静かに細くなる。

 

「紅葉凛馬」

 

静かな声。

 

「あなた達にとって、あれは何?」

 

アオが少し目を見開く。ミナは迷わなかった。

 

「……“希望”です」

 

アオも小さく頷く。

 

「“大切な人”」

 

レイナの目がわずかに揺れる。

 

(希望、か)

 

その瞬間——

 

ヒュンッ!!

 

煙玉が数個地面に落ち、煙幕が視界が白く染まる。

 

コハクが鎖を構える。

 

「待っ——!」

 

だが。煙が晴れた時そこにはもう、レイナの姿は無かった。

 

静かな港に壊れたコンテナだけが残される。

 

コハクがぽかんとする。

 

「……え?」

 

その直後。

 

「アオォォォ!!!」

 

遠くから声が響いた。

 

次の瞬間、凛馬が全力で駆け込んでくる。

 

汗だくで呼吸も荒い。完全に全速力で来た顔だった。

 

「無事か!?」

 

アオへ駆け寄る。ミナの怪我も確認する。

 

「怪我は!?大丈夫か!?」

 

ミナが少し苦笑する。

 

「だ、大丈夫です……」

 

アオも小さく頷く。

 

「……うん」

 

凛馬が周囲を見る。

 

壊れた港に——レイナがいない。

 

「……間に合わなかった」

 

低い声には、悔しさが滲んでいた。

 

だが、そこで気づく。空気が何かおかしい。

 

アオも、ミナも、コハクまで妙に複雑な顔をしていた。

 

凛馬が眉をひそめる。

 

「……何があった」

 

少し沈黙した後、ミナが静かに言った。

 

「……あの人、悪い人じゃないかもしれません」

 

凛馬が固まる。

 

「……?」

 

アオが拳を見る。

 

「怖かったけど……」

 

小さな声。

 

「でも、最後優しい顔してた」

 

コハクも腕を組む。

 

「……うん。よくみてないけど、そんな感じ……」

 

凛馬が困惑する。

 

「じゃあ、この壊れたコンテナ達は……?」

 

ミナが静かに首を振る。

 

「致命傷を狙った攻撃は一度もありませんでした」

 

アオも続ける。

 

「最後、武器すら持ってなかった」

 

「……」

 

凛馬が黙る。夜風が吹く。

 

「……なんなんだ」

 

 

 

その頃、コンテナ港から少し離れた高所。レイナは一人夜風を受けながら歩いていた。

 

ワイヤーを回収しながら、小さく息を吐く。

 

頬へ触れる。アオの拳を受けた場所が、まだ少し熱を持っていた。

 

「……なかなか痛いわね」

 

静かな声。あれはただの力じゃない。

 

怒り。恐怖。守りたい気持ち。全部、あの一撃に乗っていた。

 

レイナは夜空を見上げる。

 

「戦いたくない……か」

 

小さく呟く。コクヨウの言葉が脳裏をよぎる。

 

“混血は危険だ” “先に折れ” “排除しろ”

 

だが、アオとミナの存在はその言葉とあまりにも違っていた。

 

レイナは静かに目を閉じる。

 

「……十分証明された」

 

夜風が髪を揺らす。

 

「次は、私が結論を出す番」

 

レイナが頬を軽く擦る。

 

「……近いうちに、また会うことになるわね」

 

そしてレイナは夜の街へ消えていった。




最後まで読んでくださりありがとうございます!
戦いたくない。それでも大切な人を守るために立ち向かう。そんな二人の覚悟は確かにレイナへ届きました。次回からのレイナの動きに注目です!
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