BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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レイナとの戦いを終えた翌日。無傷で帰還したアオとミナはアジトへ報告する。そして束の間の平穏を過ごすことに……


82話 明日へ続く帰り道

翌日。凛馬達は朝早くから集まっていた。

 

アジトの空気は、いつもより少しだけ静かだった。その中心で、灰谷が腕を組んでいた。

 

「……で」

 

低い声に、アオの丸い耳がぴくりと動いた。

 

「お前ら、ホンマにどこも怪我してへんのか?」

 

視線の先には、アオとミナ。二人は顔を見合わせたあと、同時に首を振った。

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「まぁ、ちょっと擦り傷が……」

 

灰谷は眉間にしわを寄せた。

 

「……ほんまに?」

 

「ほんとだよ!」

 

アオが少し笑う。

 

その瞬間、丸い耳がまたぴくりと揺れた。無事を喜ばれているのが、少し照れくさい。

 

灰谷はしばらく二人を見ていた。そして、深く息を吐いた。

 

「……やっぱ俺の読み通りか」

 

「読み通り?」

 

凛馬が聞き返す。灰谷は椅子にもたれた。

 

「俺の理屈が正しいなら、2人が傷つかへん思ってた。せやけど……」

 

灰谷はアオを見る。

 

「まさか本当に無傷で帰ってくるとはな」

 

ミナの耳が分かりやすく揺れた。

 

ミケがそれを見て、にやっと笑う。

 

「ミナ、耳が喜んでるにゃ」

 

「えっ」

 

ミナが慌てて耳を押さえる。

 

「喜んでないです!」

 

「いや、めっちゃ喜んでるよ」

 

「うぅ……」

 

ミナは真っ赤になって俯いた。その様子に、アオと凛馬は少しだけ安心する。

 

ちゃんと戻ってきた。張り詰めた空気が、少しずつ日常へ戻っていく。その感覚だけは分かった。

 

「それで」

 

灰谷が話を戻す。

 

「レイナの戦い方、詳しく聞かせてくれ」

 

その一言で、空気が少し変わった。

 

アオの耳がゆっくり下がる。ミナの目が細くなる。灰谷はその変化を見て、表情を引き締めた。

 

「一応な?聞かせてくれ」

 

アオは少し考えてから口を開いた。

 

「とりあえず、僕らは逃げるしかなかったよ」

 

ミナが続ける。

 

「全て見透かされてるようでした……」

 

「罠だけじゃないよ。こっちの動き方を誘導してくる感じ」

 

アオが言うと、灰谷は目を細めた。

 

「誘導?」

 

「うん。なんか未来見えてるんじゃないかなって」

 

「最悪やな」

 

灰谷が即答した。ミナが静かに頷く。

 

「いつでも殺されそうでしたよ……」

 

灰谷は頭を抱えた。

 

「……嫌な奴やな」

 

「いや……それはちょっと違うかも」

 

ほぼ同時だった。灰谷が眉をひそめる。

 

「ん?」

 

アオは少し困ったように笑った。

 

「戦い方はまぁ……否定できないけど」

 

丸い耳がぴくりと動く。

 

「でも」

 

ミナが続ける。

 

「レイナさん自体は、いい人だと思うんです」

 

部屋が少し静かになった。灰谷が固まる。

 

「え?」

 

ミケが飲んでる飲み物を吹き出した。ツキノも目を丸くする。

 

「今の話聞いてたにゃ!?」

 

「聞いてたよ」

 

灰谷が言う。

 

「撃ってくるんやで?」

 

「撃ってきた」

 

「嫌な奴やん」

 

アオが苦笑する。

 

「でも、無駄に傷つけようとはしてなかった」

 

灰谷が少し黙る。

 

アオは思い出すように言った。

 

「本当に倒そうと思ってたなら、もっとやれたと思う」

 

ミナも続ける。

 

「撃てる場面も殺せる場面もあったのに……」

 

ミナの耳がピン、と立つ。

 

「それでも彼女はやらなかった。試されていた感覚に近いです」

 

灰谷は顔をしかめた。

 

「それが余計怖いわ」

 

全員が少し笑う。コハクが腕を組んだ。

 

「私もちょっとだけ話したよ」

 

全員の視線がコハクに向く。

 

「でも……確かに嫌な感じはあんまりしなかった」

 

ミケの尻尾が揺れる。

 

「もしかしていいやつなのにゃ?」

 

「どうだろうな……」

 

凛馬も頷いた。

 

「仲間に手を出してる時点で、俺は嫌だけどな」

 

一瞬、全員が黙った。

 

「まぁ……」

 

見事に意見が一致する。ヒョウカが小さくため息を吐いた。

 

「仕方のないことだな」

 

その空気が落ち着いた頃。

 

灰谷がアオを見る。

 

「お前らはアイツどうや?」

 

2人は少し考える様に窓の外へ視線を向ける。昨日の戦いを思い出しているようだった。

 

丸い耳が小さく揺れる。そして——

 

「……たぶん」

 

静かな声だった。

 

「これから先、僕達だけじゃ届かない場所が出てくると思う」

 

灰谷は黙って聞いている。アオは続けた。

 

「強さとか、立場とかそういうの全部含めてさ」

 

ミナも隣で頷く。その瞳は真っ直ぐだった。

 

「その時、レイナさんは」

 

アオとミナが顔を上げる。

 

「良くも悪くも鍵になると思う」

 

誰もすぐには言葉を返さなかった。灰谷ですら黙っている。

 

昨日戦った相手。本来なら敵と呼ぶべき存在。それなのに二人は迷わずそう言った。

 

凛馬はそんな二人を見ていた。不思議と否定する気にはならなかった。

 

むしろ、こんなこと言える様になったのかと感心すら覚えた。

 

そして、レイナという人物がどういう未来を選ぶのか。それはまだ分からない。

 

あの人はただ強いだけじゃない。何かを背負っている人だった。だからこそ――

 

もしかすると本当に、いつか大きな意味を持つ日が来るのかもしれない。

 

そんな予感だけが、静かに胸の中へ残った。

 

「まあ」

 

灰谷が手を叩く。

 

「とにかく、お前らが無事ならそれでええ」

 

その声には、いつもの軽さの奥に、本気の安堵があった。

 

「今日は学校行ったら、あとはゆっくりしとけ。こっちの処理は俺がやる」

 

「いいの?」

 

アオが聞く。

 

「ええ。学生は学生らしくしとけ」

 

灰谷はそう言って、少し笑った。

 

「戦った次の日くらい、普通に飯食って、普通に笑ってくれや」

 

その言葉に、アジトの空気が少し緩んだ。ツキノが不思議そうに灰谷を見る。

 

「普通に笑う……」

 

その額の角が、ほんの少しだけ青白く光った。

 

まだこの場所の“普通”を掴みきれていないような、そんな光だった。

 

ミケの尻尾が元気よく揺れる。

 

「放課後、どっか寄ろうにゃ!」

 

コハクの狐の尻尾も楽しそうに揺れた。ヒョウカは無表情のまま立ち上がる。

 

「騒がしくなりそうだな」

 

「とか言って来るんだ?」

 

「行かないとは言っていない」

 

いつものやり取り。その音が、妙に心地よかった。

 

 

 

 

放課後。

 

「よーし!」

 

コハクが勢いよく立ち上がった。狐の尻尾が楽しそうに揺れている。

 

「コンビニ行こ!」

 

「賛成にゃ!」

 

ミケが即座に手を挙げた。

 

「新作のお菓子見たいにゃ!」

 

「僕も行く!」

 

アオも鞄を持つ。

 

「ヒョウカは?」

 

「行こう」

 

「珍しく乗り気だな」

 

「甘いものがあるなら行く」

 

「甘党だったっけ?」

 

凛馬が笑う。

 

そして、最後にツキノを見る。

 

「ツキノも行く?」

 

ツキノは首を傾げた。

 

「……こんびに?」

 

その場が静かになった。コハクが目を丸くする。

 

「え?」

 

「こんびにって何だべ?」

 

さらに静かになった。

 

ミケの尻尾がぴたりと止まる。

 

「知らないの?」

 

コハクが聞く。ツキノは真顔で頷いた。

 

「知らないべ」

 

凛馬は一瞬黙った。そして、ゆっくり頷いた。

 

「……よし」

 

「何がよしなの?」

 

アオが聞く。

 

「今日はツキノに文明を見せる日だ」

 

「大げさにゃ」

 

「いや、コンビニ知らないのは大事件だ!」

 

ツキノの耳が不安そうに少し下がる。

 

「そんなすごい場所なんだべか……?」

 

凛馬はニヤリと言った。

 

「どうだろうな?」

 

コハクも乗る。

 

「世界の全部があるよ」

 

「全部!?」

 

ツキノの目が見開かれた。

 

角が一瞬、変な色に光った。青白い光の中に、なぜか薄い紫が混ざる。

 

「ツキノの角なんか変だにゃ!」

 

ミケが笑う。ツキノはますます混乱した顔になった。

 

「うわぁ〜恥ずかしいべ……」

 

 

 

自動ドアが開いた。

 

「いらっしゃいませー」

 

その瞬間、ツキノは止まった。完全に、止まった。一歩も動かない。

 

目だけが、忙しく動いている。

 

右には色とりどりの菓子。左には様々な飲み物。

前にはボリューム満点弁当。奥にはキンキンに冷えたアイス。

 

横には雑誌。さらに横には日用品。

 

「……なんだべ……」

 

小さな声が漏れた。角が淡く明滅する。

 

「いや、なんだべこれ……」

 

凛馬は思わず笑いを堪えた。

 

「コンビニだぞ、ツキノ」

 

「これが……こんびに……」

 

ツキノの耳がぴんと立つ。瞳は完全に未知の世界を見ていた。

 

「なんか……多すぎるべ」

 

「何が?」

 

「全部全部」

 

「あぁ、全部か」

 

コハクは腹を抱えて笑いそうになっていた。ミケも尻尾を揺らしながら、にやにやしている。

 

「まず何見るにゃ?」

 

「何を見ればいいんだべ……?」

 

「やっぱりお菓子?」

 

「お菓子だけで棚が一つあるべ……」

 

「飲み物?」

 

「カラフルすぎて怖いべ……」

 

「アイス?」

 

「氷菓子まで!?」

 

ツキノの角が激しく明滅した。

 

「コンビニでバグる人初めてにゃ……」

 

ミケが感心したように言う。

 

「いや、ツキノだけだと思う」

 

アオが苦笑する。その間も、ツキノは真剣だった。弁当コーナーの前で立ち止まる。

 

「これは……ご飯?」

 

「弁当だよ」

 

弁当を手に取ってみる。その弁当は冷たかった。

 

「……これって食べれるんだべ?」

 

「温められる」

 

「ここで?」

 

全員がうん、と頷いた。

 

「すごいべなぁ……」

 

角の先が、ふわっと光った。今度は穏やかな光だった。

 

本当に感動している。

 

コハクが小声で言う。

 

「ツキノって、かわいいとこあるよね」

 

「分かるにゃ」

 

「聞こえてるべ?」

 

ツキノの耳が動いた。怒っている割に、目は少し嬉しそうだった。

 

 

 

 

結局、ツキノは店内を三周した。

 

一周目は驚き。二周目は確認。三周目は迷走。

 

凛馬達は適当に飲み物を選んだ。だがツキノだけは、まだ悩んでいた。

 

「決まった?」

 

凛馬が聞く。

 

ツキノは真剣な顔で頷いた。

 

「……決めたべ!」

 

その手にあったのは、百円のバニラアイスだった。

 

全員が沈黙した。

 

「……それ?」

 

コハクが聞く。

 

「これだべ」

 

「三周して?」

 

「これだべ」

 

ミケが耐えきれず吹き出した。

 

「にゃははは!ツキノ、かわいいにゃ!」

 

「な、なんで笑うんだべ!」

 

ツキノの耳がぴんと立つ。角が焦ったように点滅する。

 

「だって1時間くらい悩んでアイス一個にゃ!」

 

「そんな悩んでないべ!」

 

「三十分くらいは経ってるぞ」

 

ヒョウカが訂正した。

 

「それでも長いよ……」

 

アオも笑っていた。

 

無理して作った笑顔じゃない。ちゃんと、今この瞬間を楽しんでいる笑顔だった。

 

凛馬はそれを見て、胸の奥が少し温かくなる。

 

昨日まで戦っていた。怖い相手と向き合っていた。それでも今日は、こうしてコンビニで笑っている。

 

それが、どうしようもなく大事なことに思えた。

 

会計を終え、外に出ると、夕暮れの空が街を柔らかく染めていた。

 

ツキノは買ったアイスを両手で持っている。まるで宝物みたいに。

 

「そんな大事そうに持つのか?」

 

凛馬が聞く。

 

ツキノは少しだけ目を逸らした。

 

「……初めて自分で選んだべ」

 

その言葉に、皆が少し黙った。ツキノの角は、穏やかな青白い光を灯していた。

 

さっきまでの変な明滅ではない。静かで、澄んだ光。

 

アオが優しく笑う。

 

「そっか」

 

ミケの尻尾がゆっくり揺れる。コハクもからかうのをやめた。ヒョウカは何も言わなかったが、少しだけ目を細めていた。

 

凛馬は空を見上げる。戦いは、まだ終わっていない。

 

きっとまた、嫌なことも起きる。傷つく日も来る。

 

それでも、こういう時間があるから前に進める。

 

「じゃあ次は」

 

ミナが言った。

 

「街中にでも行きましょうか」

 

ツキノの目が丸くなる。

 

「……まちなか?」

 

角が、また変な光り方をした。あおが

 

「僕達が全部教える!」

 

全員が笑った。

 

夕暮れの帰り道。その笑い声は、戦いの後の街に、少しだけ長く残っていた。




最後までよんでくださりありがとうございます!
突然なんですけど、BEAST BLOODの更新スケジュールを変更します。

土日18時更新→水曜1話・日曜1話の午前0時更新

更新頻度は変わらず週2話予定です。今後ともBEAST BLOODをよろしくお願いします!
あと今週も遅れて申し訳ないです!!!
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