BEAST BLOOD   作:ruemtrnmdxxx

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87話 信念の刃

放課後。チャイムが鳴り終わり、生徒達が次々と教室を出ていく。

 

凛馬も荷物をまとめながら立ち上がった。

 

「じゃあ帰るか」

 

そう言った瞬間だった。

 

「あっ!」

 

ミケが何かを思い出したように声を上げる。

 

「どうした?」

 

凛馬が振り返る。ミケは耳をぴこりと動かした。

 

「今日、先生の呼び出しあったにゃ」

 

「今思い出したのかよ」

 

凛馬は頭を抱えた。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃないにゃ!」

 

即答だった。

 

「マジかよ」

 

アオが思わず吹き出す。

 

「なんか、ミケらしいね」

 

「おバカだべ」

 

ツキノも乗っかる。

 

「いつもの事だな」

 

ヒョウカが冷静に言った。

 

「ギリギリまで忘れてるのも含めてね」

 

コハクも頷いた。

 

「ひどいにゃ!?」

 

教室に笑いが起きる。ミナも小さく口元を緩めていた。

 

ミケは不満そうに頬を膨らませる。

 

「とにかく!私は仕事してくるにゃ!」

 

「おう」

 

凛馬は頷いた。ミケはカバンを肩に掛ける。

 

「先帰ってていいにゃ!」

 

親指を立てた。

 

「終わったら追いかけるにゃ!」

 

「間に合うか?」

 

「無理かもにゃ!」

 

即答だった。再び笑いが起きる。

 

「じゃあまた後でにゃー!」

 

大きく手を振った。

 

「はいはい」

 

凛馬も軽く手を上げる。ミケはそのまま廊下の向こうへ消えていった。

 

静かになる教室。そしてアオが立ち上がる。

 

「じゃあ僕達も帰ろうか」

 

「そうだな」

 

そして全員で校門を出た。

 

 

 

 

 

 

いつも通りの帰り道。何気ない会話。だが——

 

皆少し違った。昨日のことが頭から離れない。

 

レイナ。ガイ。カイル。そして神城コクヨウ。嫌な予感が消えなかった。

 

止まっていた歯車が、今にも動き出しそうな気がしてならなかった。

 

やがて、それぞれの分かれ道へ着く。

 

「じゃあまた明日!」

 

アオが手を振る。

 

「また明日だべ!」

 

ツキノも元気よく返した。

 

「気をつけてー!!」

 

コハクが笑う。

 

「なにかあったらすぐ連絡しろ」

 

ヒョウカが即座に返した。

 

「お気を付けて」

 

ミナも軽く頭を下げた。そして、凛馬も軽く手を振った。

 

「また明日!」

 

仲間達がそれぞれの帰路へ進んでいく。残ったのは凛馬一人。

 

夕陽は既に傾いていた。

 

「……」

 

小さく息を吐く。そして、いつもの裏路地へ足を向けた。

 

その時だった——

 

ガッ、と上から何かが着地する音が響いた。

 

凛馬はため息を吐いた。

 

「嫌な予感はすると思ったけど……」

 

上には夕陽を背負って立つ男、獅堂カイルがいた。その眼光が赤く光る。

 

カイルも静かに凛馬を見る。先に口を開いたのはカイルだった。

 

「思ったより普通の顔だな」

 

「は?」

 

凛馬が眉をひそめる。カイルは腕を組んだ。

 

「もっと凶悪な面かと思っていたぞ、レオン様を惨殺した混血だからな」

 

凛馬の眉がぴくりと動く。

 

「そりゃどうも。お前は残念だな」

 

カイルが目を細める。

 

「何?」

 

「いやぁ……」

 

凛馬は肩を竦めた。

 

「かっこいい顔してんのに馬鹿なことやって恥ずかしくねぇのかなって」

 

カイルのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「ほう」

 

「お前んとこのレイナから聞いたぞ」

 

凛馬は続ける。

 

「真面目ちゃんなんだろ?」

 

「誰がだ」

 

「お前以外誰がいんだよ」

 

カイルの眉が引きつる。

 

「初対面で随分偉そうだな」

 

「人のこと殺人鬼扱いしといて礼儀求めてんのか?」

 

凛馬も言い返す。空気が少しずつ張り詰める。

 

カイルが鼻で笑った。

 

「少なくとも俺は仲間を泣かせたりはしない」

 

今度は凛馬の空気が変わる。

 

頭の中で自分の周りにいる仲間達、みんなの顔が頭を過った。

 

そしてふと、嫌な考えが浮かぶ。

 

――俺が混血じゃなかったら、誰かが傷つく必要もなかったんだろうか?

 

心臓が嫌な音を立てる。じわじわと怒りとは別の“何か”が湧いてくる。

 

違う、そんな訳がない。そうだと認めた瞬間、今までの全部が否定されてしまう。

 

凛馬はその考えを無理やり押し込んだ。そしてゆっくり顔を上げる。

 

「お前……」

 

その声は低くなっていた。

 

「なかなか口が達者じゃねぇか」

 

カイルも睨み返す。

 

「何だ?事実だろう」

 

凛馬が笑った。だが全く笑っていない笑顔だった。

 

「お前は今すぐにでもレイナに謝ってこいよ」

 

カイルの耳が動く。

 

「お前のこと、心配してたぞ?」

 

「……黙れ」

 

カイルの声色に怒りが滲み出す。

 

「仲間泣かせてんのはどっちだろうな?」

 

――ピシッ。

 

何かが切れる音がした気がした。カイルの表情から感情が消える。

 

その言葉は今のカイルにとってあまりに地雷だった。 

 

建物の上に立つカイルから感情が消える。先程まで見えていた怒りも全部消えた。

 

残ったのは静かな殺意だけだった。

 

「……やはり」

 

低い声。カイルはゆっくり睨む

 

「やはりお前は殺さなきゃいけない」

 

凛馬は肩を竦めた。

 

「図星だったか?」

 

そして——

 

ドンッ!!

 

建物の屋上が砕けた。カイルが空中から拳を振り下ろす。

 

「っ!」

 

凛馬は咄嗟に横へ飛ぶ。次の瞬間——

 

ドゴォォン!!

 

拳が地面へ叩き込まれる。アスファルトが砕ける。

 

砂埃が舞った。

 

「いきなりかよ!」

 

凛馬が距離を取る。だが、カイルは止まらない。

 

着地と同時に再加速し、再び拳を振り上げる。カイルの拳は速く、そして重い。

 

だが、凛馬はわずか半歩だけ動いた。拳が頬を掠める。

 

たったそれだけだった。

 

「なっ――」

 

カイルが目を見開く。凛馬は既に横へ回り込んでいた。

 

軽く、踊るような足運び。重心移動。滑るようなステップ。

 

ドゴッ!!

 

そして凛馬はカイル脇腹へ拳を叩き込む。鈍い音が響く。カイルの身体が僅かに揺れた。

 

「チッ」

 

「ただでやられる訳には行かないからよ」

 

だが次の瞬間、肘が飛んでくる。凛馬は身体を反らした。

 

「お前!」

 

カイルが睨む。

 

「本当に腹が立つな!」

 

カイルが追撃に、拳の嵐を叩き込む。

 

「奇遇だな!」

 

凛馬も応戦する。

 

「俺もだ!」

 

ドンッ!!ドンッ!!と再び激突。

 

カイルは一直線に、凛馬は受け流す。だが全ては受けきれない。

 

(……重い)

 

拳の一つ一つが、かつての獅子王を彷彿とさせる様な重さだった。

 

だが、そのわずかな隙へ拳を最短距離で叩き込む。カイルは心なしか、笑っているようにも見えた。

 

「紅葉凛馬ァ!」

 

そして、凛馬は違和感に気づく。

 

(……本当に効いてんのか?)

 

攻撃の全てが、決定打にならない。カイルがあまりにも硬すぎる。

 

「っ!」

 

カイルは凛馬の拳を掴む。

 

「……捕まえたぞ!」

 

そのまま振り回した。

 

ドォォン!!

 

凛馬は壁へ叩き付けられ、コンクリートが砕ける。

 

「ぐあっ……!」

 

肺の空気が抜ける。だが、凛馬はすぐ立つ。口から出た血を拭い、そして笑う。

 

「なぁ、お前って鉄でできてんのか?」

 

カイルも鼻血を拭った。

 

「お前も大概だろう」

 

二人は再び構えた。今度は、先程よりも本気で互いを殴るために。

 

そして、再びカイルが地面を蹴る。

 

ドンッ!!

 

一直線に迷いのない踏み込み。そして凛馬も再び躱す。

 

躱して、反撃。その繰り返しだった。

 

カイルの攻撃は重いし、速い。普通なら対応できない。

 

だが——

 

「……」

 

凛馬の目が細くなる。

 

カイルの拳の流れ、重心の動きが少しずつ読めるようになってきた。

 

「チッ!」

 

カイルが再び拳の嵐を繰り出す。だが、凛馬は全て躱していく。

 

「何っ!?」

 

カイルの眉が動いた。さっきまでなら掠っていた攻撃が、今は当たらない。

 

凛馬は後ろへ下がらない。半歩身体を捻り、重心をずらす。

 

最小限の動きだけで避けていく。カイルが拳を大きく振り抜く。

 

だがその瞬間、凛馬が笑った。

 

「やっぱりな」

 

カイルの目が見開く。

 

「何?」

 

凛馬は踏み込む。

 

「お前はな!!」

 

真正面の、カイルの懐へ。

 

「頭に血が登って直線的なんだよ!!」

 

その言葉と同時に、カイルの腕を掴む。そして腰を落とし、重心を崩す。

 

「っ!?」

 

カイルの身体が浮いた。

 

次の瞬間——

 

ドォォォンッ!!!

 

一本背負い。体が地面へ叩き付けられる。衝撃でアスファルトが砕け、砂埃が舞い上がった。

 

「がっ……!」

 

初めて、カイルの口から苦しそうな声が漏れる。

 

凛馬は少し距離を取り、息を吐く。そして、倒れたカイルを見る。

 

「アイツの言う通りだな」

 

静かな声だった。カイルが睨み上げる。凛馬は血を拭った。

 

「真面目なのはいいけど」

 

少し肩を竦める。

 

「熱くなったら周り見えなくなるタイプだろ」

 

カイルの目が揺れる。図星だった。

 

レイナにも。ガイにも。昔から何度も言われてきたことだった。

 

「……黙れ」

 

低い声。凛馬は鼻で笑う。

 

「また図星か?」

 

「黙れと言ったはずだ!!」

 

カイルが地面を殴る。

 

ドンッ!!

 

砕けたアスファルトが跳ね上がる。そして勢いのまま立ち上がった。

 

呼吸は荒い。額から血も流れている。だが、その瞳から闘志は消えていない。

 

むしろ先程より燃えていた。

 

両者構える。もうお互い分かっていた。この男は簡単には止まらない。なら——

 

(獅堂カイル、お前を止める)

 

(紅葉凛馬は、俺が終わらせる)

 

カイルはしばらく黙っていた。そして——

 

「もう遊びは終わりだ」

 

ゆっくり背中へ手を伸ばした。

 

「……!」

 

凛馬の目が細くなる。次の瞬間——

 

辺りに金属音が響く。カイルが背負っていた刀が抜かれる。

 

夕陽を反射する刀身。今までとは違い、空気そのものが変わった。

 

凛馬も自然と表情を引き締める。

 

カイルは剣を凛馬へ向ける。その姿はまるで戦場の軍人だった。

 

先程までの怒り任せの獣ではない。殺すために戦う兵士の様だった。

 

「やっと本気か」

 

だがカイルは答えない。ただ剣先を向ける。

 

「紅葉凛馬。戦士としての最後の礼儀だ」

 

風が吹く。沈みかけた夕陽が二人を照らす。そして——

 

「遺言はあるか」

 

その声は今までとは違う、完全な殺意だった。

 

凛馬も構える。

 

「ねぇよ」

 

そして右手をポケットへ入れる。取り出したのは、双剣のキーホルダーだった。一見するとただのかっこいいキーホルダー。

 

カイルが眉をひそめる。

 

「……?」

 

「まぁ見てろよ」

 

凛馬は軽くそれを握る。

 

カチッ。

 

次の瞬間——

 

ガシャァァン――!!

 

金属が展開する音が裏路地へ響いた。キーホルダーが分解され、無数のパーツが空中で組み上がる。

 

そして、二振りの双剣が凛馬の両手へ収まった。

 

カイルの目が細くなる。

 

「それが……」

 

凛馬は肩へ双剣を担いだ。少しだけ笑う。

 

「うちの先生の自信作だ」

 

刃を構える。それだけで空気が変わる。

 

先程までの喧嘩とは違う。ここから先は、本当の戦いだ。

 

「お前こそレイナとガイに言い残したことはないか?」

 

カイルは答えない。代わりに刀をゆっくり構える。

 

その瞳には怒り。憎しみ。そして、少しの迷いが宿っていた。

 

凛馬も双剣を握り直す。

 

互いに一歩、踏み出した。

 

夕陽が沈み、風が吹く。

 

そして――

 

「「行くぞ」」

 

ドンッ!!

 

二人は同時に地面を蹴った。

 

答えを求める者と、答えを背負う者。二つの刃が、今まさに激突した。




最後まで読んでくださりありがとうございます!

実は、、、先日から1話からアップデートしよう企画をしています。良ければ1話からまた見て言ってくれると嬉しいです!

反応くださると励みになります!
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