「諸君!決闘だ!」
ワッ! 盛り上がる広場、ルイズとギーシュの決闘の噂は瞬く間に広がり、学校に在学する殆どの生徒がこの大広場に集まっていた。
この野次馬達にギーシュやルイズを応援する者などいない。
彼らは刺激が欲しかったのだ。規則に作法という雁字搦めな貴族という生活。
毎日の様に繰り返される退屈で変わらない日常。
そんな彼らに投入された決闘という刺激的なイベントは彼らにとって魅力的に写ったのであった。
しかし渦中であるギーシュは
(嗚呼…どうしてこうなった…)
決闘なぞやる気なく、ただ落ちこんでいた。
あ、ありのままに話すぜ…"浮気がバレた憂さ晴らしにメイドを苛めていたら決闘する羽目になった"…な、何を言っているのか(ry
僕は浮気で二人の乙女を傷つけただけでなく、平民の少女を苛め、さらにまた僕は罪を犯すのか…
(いや、そもそも彼女は魔法が使えないんだ…適当に脅して勝ちをさり気なく譲って貰おう…)
と、チラッと自分の数メイル先にいるルイズを見る。が…
(な、なんだ…!彼女のこの無言の気迫は!こ、コレはまさか…やる気なのか!)
そう、ルイズから発せられるものは闘気そのもの。その姿は普段見ている臆病な彼女とは到底思えない。
仁王立ちをし、口を結び、こちらを睨んでいる。
(うぅ…し、しかし僕も誇り高き貴族!)
ギーシュはまるで何かを諦めたかのように溜め息を一つ吐くと、
「ルイズ!君はどうやら余程の覚悟があると見える!ならこの"青銅"のギーシュ・ド・グラモン!全力を持って、お相手しよう!せめて美しく薔薇のように散りたまえ!」
名乗りを挙げる。
ルイズは軽く鼻で笑うと、
「ふん、オツムが足りない割にはよく回る舌ね?あれかしら、頭が空な分ちっちゃい脳みそが動きやすいのかしら?カサカサと、…ね」
ギーシュの顔がみるみる赤くなる。拳を震わせ、ルイズをキッと睨みつける。
「ぐぅ…後悔させてやる!」
そう言うと杖を一振り、薔薇形の杖から三枚の花びらが舞、地面に落ちる。
するとそこから凝った装飾をした青銅作りのワルキューレが三体現れる。三体それぞれが規則正しく起立をしており、その風貌はまるで統率のとれた軍人の様であった。
誰かがゴクリと喉を鳴らす。それを皮切りに三体の青銅の塊がルイズに迫る…
◇
魅魔はシエスタを連れ、最前列でルイズを見守っている。
シエスタはガタガタと震え、決闘を直視できない。
「わ、私のせいで、こんなとんでもない事に…」
「いやいや、シエスタ。アンタには感謝しているくらいだよ」
「えっ?」
不意をつく様な魅魔の一言。それを聞いたシエスタは思わず素で返事をする。
「いや、アイツにはそろそろ実戦でもして自分の力ってヤツを自覚させないと…ってね」
「は、はぁ…」
「まぁ、アイツがシエスタを守ったのはアイツの意志さ、だからシエスタが重荷に感じることはないのよ」
「き、貴族様が自分の意志で私を守った…」
何やらシエスタ、間違った受け取り方をしたらしく、今度はルイズを熱っぽい目で見始めた。
魅魔は知ってか知らずかスルーである。
「ねぇ魅魔、アンタ止めなくて良いの?」
ヒョコっと魅魔の横から出てそう言ってきたのはキュルケ。横にはタバサが本を読んでいる…あっ、ちょっとぷるぷるしてる。
「私は一向に構わん」
キュルケはそれ以上何も言わず、呆れたようにルイズを見ている。
なぜなら魔法をロクに扱えないルイズがギーシュに勝てる道理などないのだから…
◇
場所は学院長の部屋、二人のおっさん達は今漂っているこのおかしな空気を払拭しようと話題を変えようとしていたのだが…
(むむむ…何も思いつかない…き、気まずい…)
(今日のワシの使い魔の報告によると、ミス・ロングビルのパンツの色は黒か…後で確かめないとの。所でこのハゲは何時まで此処に居るんじゃろうか?)
二人が黙ったまま割と真剣に物事を考えていると、ドアをノックし、秘書のミス・ロングビルが入ってきた。
「失礼しますオールド・オスマン。ちょっとした面倒事が起こりました。」
「おお!ミス・ロングビル!実に空気が読めるのう…で、なんじゃ?その面倒事とやらは?」
「決闘です」
喜から哀へ、オスマンは溜め息を一つ。
「やれやれ…なんで若者はみんなこんなにも血気盛んなんじゃ…して、一体誰が?」
「はい、グラモン家、ミスタ・グラモンがミス・ヴァリエールにです…広場にて決闘が始まるらしいのですが、一体どうしますか?」
「所詮は子供のする事じゃ万が一の為に監視をつけ、ほうっておきなさい。」
ロングビルはわかりましたと、一言。
部屋から出て行った。
オスマンはロングビルが行ったのを確認すると、小さい置き鏡…マジックアイテム"遠見の鏡"に軽く杖を振ると、その鏡に今の広場が映し出された。
「良いのですか?オールド・オスマン」
「うわっ!びっくりしたのぉ…まだ居たんかい」
コルベールが不意に呟く。オスマンの反応はふざけたワケではなく、どうやら本物らしい。
「ひ、酷い…」
哀れコルベール。虚しさから涙をボロボロ流し始めてしまった。…この時、涙と一緒に髪の毛もボロボロ零れていったのにオスマンが触れなかったのは優しさと信じたい。
若干引きつりつつ、オスマンは
「まぁ、良いか悪いかはともかく使い魔とは、その主人が必要なモノを持って現れるらしいぞい?ならその使い魔がルイズを応援するのは悪い事では無いとワシは思うわい」
そこまで言うとオスマンは鏡に再度向き直った。
◇
ルイズはルーン"ガンダールヴ"で強化されている体を確認するべくまずは目の前から迫って来るゴーレムの攻撃を避けるコトにした。
「よっ…と」
ゴーレム達が素手である事もあってか楽に避けるコトができる。
しかしギーシュにはコレがまるでルイズがゴーレムから逃げ回っているように見えたのか、
「どうした!?さっきの覚悟は偽物のなのかい?」
と、ルイズを煽る。
「…ふん、なら見せてあげるわ!」
ルイズは手刀を作りその側面をビール切りの要領でゴーレムにブチ当てた。
「ハッ!何をすると思えば、そんなコトで僕のワルキューレが…」
ボガン!!
ルイズの"ガンダールヴ"により五体が凶器と化した手刀をモロに受け、頭が可笑しな形にひしゃげ、ワルキューレが吹き飛んだ。
頭から地面に叩きつけられたワルキューレは最早ただの鉄屑であり、動くことは無かった。
ルイズはそのまま流れる様に杖を取り出し…
「"錬金"!"錬金"!」
と、錬金を二回唱えると、残り二体のワルキューレも活躍もなく土に還った。
シーン…
広場は水を打ったように静かになる。
静かになった理由は様々である。ある者は目の前に起きた出来事が信じれなくて、またある者はルイズの強さに更にあるものはルイズの可能性に…
しかし大多数の者はこう思った。
―――化け物と、
青銅を一瞬で破壊する人外めいた膂力。たった一言でゴーレムを土に還す"今まで"馬鹿にしてきた失敗魔法。
どう見ても化け物である。
ルイズから発せられる人外の凄みをギーシュも感じたらしく、
「う、うわぁぁぁ!!」
ギーシュは必死に詠唱。ルイズの足元を泥沼に錬金。
続いて四体のワルキューレを精製、泥沼に腰までハマっているルイズを袋叩きにした。
「み、ミス・ヴァリエールが死んじゃう…」
シエスタが掠れそうな声で呟く。
魅魔は目を細め、
「さて、どうなるかね…」
と、呟いた。
野次馬達はギーシュの攻撃に最初は熱狂していたが、段々と心配になってきた。つまり、ギーシュがルイズを殺してしまうのではないかと…
「止めろ!ギーシュ!」
「お前の勝ちだ!」
「もう止めて!ルイズのライフはゼロよ!」
周囲の悲鳴にも気づかずギーシュはルイズをひたすらに攻撃していた。
何故なら…
(く…間違いなく僕が善戦している!間違いなく僕は勝利に近づいている!なのに…なのに!なぜ彼女は"笑っている"!?)
そう、泥沼に腰まで浸かりもはや動く事すらままならず、その上ゴーレム達の青銅の拳と、蹴りが絶え間なくルイズを襲う。…なのにそれでもルイズは笑っている。
圧倒的劣勢、地の利は相手の手の内に。
その上でルイズは歓喜をする。
何故ならゴーレム達から自分に向けられる"暴力"。
一発殴られるごとにギーシュへの激情が満ちていく…憎悪、悲壮、怒り。
感情という液体が自分という器を満たしていく。
"コレ"を解放すれば、一体私はどうなってしまうのだろうか?
しかし…まだだ、まだ足りぬ。その時が来るまで今は我慢だ。
そうして最後に相手の"勝利への確信"、"実力"、"体裁"、"心情"、"自負"それら纏めて───
"全て、台無しにしてやろう"
☆
…一体どれだけ殴られたのだろう。
幾ら"ガンダールヴ"の恩恵を受けているとはいえ、骨の二、三本では済まないだろう。
しかし、それももうすぐ終わりだ。…溢れ出す。
それは突然であった。
沼にハマっていたルイズの手の甲から何やら文字が浮き出てきた。それが眩いくらいに発光し、同時にルイズから吹き出る圧倒的なプレッシャー…
そのプレッシャーが放たれるのと、四体のゴーレム達がひしゃげ、冗談みたいに数十メイル弾け飛ぶのは同時であった。
力が…溢れる。
自分の手の甲に突然現れた"ガンダールヴ"のルーン。
コレが出現し、眩い光を放ってから力が身体中を満たすようだ。
彼女は沼に腰まで浸かっていたが、脚力のみで爆発的な力を生み出し、一気に5メイルも空を飛ぶ。
封印されし魔力と"ガンダールヴ"。2つの力が混ざりあい、不完全ではあるが───ルイズに上位の力を与えた。
…ギーシュは見た。
数メイルも飛んだ彼女は左手の清い光も相まって、女神の様に見えたと言う。
清き光が視界いっぱいに広がる。一瞬顔に鋭い痛みが奔ったが、すぐに意識を引きずり、共に暗闇へ落ちていく。
───勝負は決した。