なんとかルイズを落ち着かせることに成功したコルベールはその代償と引き換えに興奮したルイズの怒りの鉄拳……この細腕のどこにそんな力が隠されているのか、どこぞのギャラクティカファントムよろしく数十メイル吹っ飛ばされた───。
空という空を切り、遠目から見ると乱雑なシャドーボクシングにも見える奇妙な動きを止めたかと思うと、今度は事態に気付きルイズは青ざめ、平謝り、そして現在に至る訳なのである。実に忙しないのである。
「すみません!すみません!」
「はは…だ、大丈夫ですよ…それよりミス・ヴァリエール。契約の方を…」
「は、はい!」
そう言うとルイズは少しだけ目を瞑りその後改めて魅魔を見つめ、
「はぁ…もうこの際貴方が何者でも構わないわ…私は貴方を召喚したの。貴方は私の使い魔になるべきであり、私に従うべきな「いいよ。」えっ!?」
「なってあげる、と言っているのよ。それとも私じゃだめかい?」
「…本当に良いの?」
「ふふっ、別に"契約"をしないなんて一言も言ってないさ」
ニカッとまるで無邪気な子供の笑みを見せる魅魔。
はぁ、とルイズは内心溜め息を吐き彼女―――魅魔に最初からずっとからかわれていただけだと気付かされた。先程からの態度もただ遊ばれていただけなのだ。
「…後悔しない?」
「せいぜい楽しむさ」
…突然私の前に現れた規格外のメイジ。とてつもないプレッシャーを放つと思ったら、まるで子供の様な笑みを浮かべるメイジ。
私の使い魔になってくれると言ってくれた私だけのパートナー。意を決し、ルイズはルーンを紡ぐ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔と為せ! 」
ルーンを紡ぎ、魅魔に近づく。相手が人間…しかも女性とあり少しばかりの抵抗はあったものの、ルイズは魅魔のその唇にゆっくり自分の唇を重ねた。
───儀式を終え、左手の甲に少なくない痛みが走り…なんだか恐ろしく複雑な術式が身体に浸透するような感覚を感じ、左手の甲に蓋をするようにルーンが刻まれた。
魅魔は早速このルーンを調べようと意識を集中させた。
(ふ~ん。これはこれは…)
このルーン"ガンダールヴ"にはまず、刻まれた者に対する「存在するあらゆる武器、兵器を自在に操る程度の能力」
───それと、主人に対する好意を刷り込む術式。
他にも、
"ブリミル"
"神の盾"
">>301"
などを含む様々な単語をザッと見つけることが出来たがまぁコレは後で調べることにしよう。
「おめでとうございますミス・ヴァリエール」
タイミングを見計らったようにコルベールが労う。女性と女性が接吻をするというある意味禁断の光景を見ていたコッパゲの顔は若干赤い。
「今日はコレで終了です。疲れているでしょうから、早めに休むように。…それとミス・魅魔」
「なんだい?」
「何故、あなたはミス・ヴァリエールと契約を?」
何故コルベールはこの様な質問をしたかというと…それは純粋な好奇心である。
直感だが恐らく…いや、間違いなく彼女は人の下につくような器では無い。それを感じた上での疑問であった。
「ん、なんとなくさ」
「そんなことで…っ!?」
「そんなものさ」
予想外の答えだったのか、コルベールは納得しかねる様子であった。
「私は長生きなのさ、その長い寿命の中こういう事も悪くないと思っただけだよ。」
そう…ですか…と一言。コルベールはもう何も言わずに学園へと帰って言った。
「ん、さて新しい我が家住処に行こうかね」
「そうね。案内するわ」
と、歩いて帰ろうとするルイズ。
「あら、アンタは他のみんなみたいに飛んで行かないのかい?」
どうやらその言葉は彼女にとっての地雷であったらしく、
「う、うううううるさいわね!!」
と、プンスカ機嫌を損ねて大股早足になった。
魅魔はその理由を察したらしく意地の悪くニヤリと笑い
「ほらほら、早く帰らないと日が沈んじまうよ」
そう言うと、ルイズを後ろから抱きしめ
「ふへっ?」
一気に数十メイル飛行した。
「あああああ、アンタ空ととと飛べるの?」
若干恐怖でどもりながら質問する。
「そりゃ魔法使いですもの空くらい飛べるさ」
と、更に上昇する。
「ほ~らきりもみ飛行だよ~」
「ギャアアアア!!離して離して~!」
もはや乙女とは思えない叫び声を上げながら魅魔に懇願する。
「ん、離して欲しいのかい?ほら。」
と、上空約五百メイルでパッとルイズを投下。
「ちょ、今じゃなくて…って、ギャアアアア!!」
「うひゃひゃひゃwwwww」
それにしてもこの悪霊、ノリノリである。
☆
「で、アンタの部屋はどこだい?」
「もう怒る気力すらないわよ…ウプッ、あそこよ…」
暫くルイズ"で"ひとしきり遊んだ後部屋を案内させ、無事…ではないが、到着である。
気分が優れないらしくルイズは部屋の中央にある豪華な造りをしたベッドに倒れこんだ。
「…ウプッ、私はこの調子だし色々な事は明日説明するわ…」
「どうやらベッドは此処には一つしかないみたいだね…私は別に寝なくて平気だから、朝までそこらへんをうろちょろしとくよ」
と、ドアへ向かう魅魔。しかし途中で後を引かれる感覚。裾に何かが引っかかったか?
振り向くと…ルイズが寝そべりながら魅魔の服の裾を掴んでいたのである。
「行っちゃヤダ、アンタ今日は此処にいなさい」
魅魔は察した。
この子は恐らくだが…1人だったのだ。
魔法の才能が無いばかりに周囲から蔑まされていたのだろう魔法が使えるのが当たり前、しかし自分だけ使えない。それはどれだけ悲しいことだろう、どれだけ苦しいのだろう…
しかしだ、突然魔法が成功した私という"成功の証明"未だに彼女はソレが信じられなく今にも消えてしまうんじゃないかと、この子は恐れている。
そこまで理解し…苦笑。
やれやれ…私も丸くなったね…
「ほらほら、詰めな詰めな」
「ふぇ!ちょ!いるだけで良いのに~」
「安心しな。あたしゃここにいるよ」
「?当たり前じゃない」
「まぁまぁ、気分悪いんだろ?早く寝なよ」
「誰のせいでこうなったと…まぁ良いわ…お休み~」
とても長く感じた召喚試験。そこであった私だけのパートナー。彼女に抱きしめられその日はそのまま眠り、久しぶりにぐっすり眠れたのだった。
「ぐがー」
「この子寝相悪いわね…」