「――先生、俺死にたいんですよ」 作:性癖×
「――君が、君だけはそう言ってはダメ!!」
おかしい、とてもおかしい。俺はただ冗談を言っただけのはずだ。友達間で「お前バカだろww」とか「ちょ、お前死ねよww」とか笑って言い合うくらいの温度感……俺にそんな友達居ないけど(自傷ダメージ)。
でも先生相手にこれくらいの口の悪い冗談を笑いながら言っても許されるくらいの距離感だったはず。だってこれでもシャーレ配属初日から先生と付き合いがあったんだぞ? 一番古株なんだぞ俺。
なのはずなのに、俺は今先生に抱き締められている。俺これ解る、ガチ怒りじゃないですかヤダー!
とはいえ先生の豊満なパイを顔いっぱいで感じられるのは余りにも気分が良い。本当に気分が良い。男だぞ俺は、デカパイウッヒョー!!!! やっぱ乳だよ乳! 尻も脚も良いけどな!!
童貞だから女体ってだけでもう最高に思える。許してくれんか。
すぅ~……これ俺まさか許されない感じっすか? 俺、なにかやちゃいました?(震え声)
どうしてこうなったんですか……?
「やっぱり、なんやかんや言って湿度のある女の子って最高だと思うんですよ」
「君は急に何を言い出すんだ」
彼の傷も随分癒えてこうして通常業務に復帰してくれた。それなりに喧騒に溢れてるはずのシャーレの部室を静かに思えたのは、やっぱり君がこうした軽口を言って笑うことが無かったからだろう。
とはいえちょっと今回は何言ってるかわかんないけど。
「正直な所あの別世界の砂狼が、俺を通して俺じゃない俺を見ながら涙を流してるのとか、いやもうぶっちゃけスゲェ良いと思ったんすよ。俺自身を見てるはずなのに、視線の焦点が微妙にズレてて、そこに映ってるのが「俺」でありながら「俺じゃない存在」だってのがはっきり伝わってくる感じがして。分かってて重ねてるのも、分かってないふりをして縋ってるのも全部混ざったあの表情がさ、どうしようもなく刺さるというか。感情の置き場がなくて、俺を媒体にして過去とか別の世界とかを見ちゃってるのが分かるからこそ、あの涙に重さがあって、見てて胸の奥が変にざわつくんすよね。」
「この前お見舞いに来てくれた時は、砂狼なりにちゃんと俺を見ようと努力してたみたいなんすよ。視線も言葉も、なるべく今ここにいる俺に向けようとしてるのが分かって。でもそれでも結局、俺を通して俺じゃない俺を見てしまってるって自覚があるみたいでさ。その瞬間にハッとした顔になって、罪悪感が一気に押し寄せてきたみたいな、すげぇ苦い表情をしながら何度も謝ってきて。悪いことしてる自覚があるのに、どうしてもやめられない感じが露骨で、正直言ってしまうと興奮したし、ああこの人ほんとに追い詰められてるんだなって妙にリアルに感じてしまったんすよね。」
「それで言うと、あんなに元気で明るくて、普段は場の空気を引っ張ってくタイプのアリスちゃんが、俺がちょっとでも苦しそうにしてると一気にトーンを落として、静かに、ほんとに静かに俺のことをいたわってくれるのとか、なんかスゲェクるものありません?? 大げさなことは何もしないし、言葉も最小限なんだけど、ちゃんと「今の俺」を見てくれてる感じがしてさ。無理に励ましたりもしないで、そばにいるって選択をしてくれるあの距離感が逆に刺さるというか、普段との差がある分だけ余計に効いてくるんすよね。ああいう瞬間に、人の優しさって暴力的だなって思うことあるんすよ。」
「わ、わかんないかな……」
変な情報で殴って来ないで。
まぁでも、こうやって色んな事を沢山喋れるようになったのは。やっぱり彼の傷がちゃんと癒えている証拠なんだろう。ちょっと言ってることが悪趣味な気はするけど。まぁ冗談の範囲だろうから。
「ふぅ……」
ここまでほぼ一呼吸で喋り切ったからか、彼は一つ大きく呼吸する。そして、いつものような笑顔で――
「――先生、俺死にたいんですよ」
「ッ! 君が、君だけはそう言ってはダメ!!」
気が付いたら、彼の事を抱きしめてしまった。
彼:割と終わってる性癖。童貞拗らせてるだけ。
先生:どんな時も同じ笑顔で無茶をする彼に助けられている。あの時もいつものような笑顔で彼だけが箱舟に残って死んでしまうかと思って、今回は離れてしまわないように抱きしめてしまった。