全てを消し飛ばす魔法:メドローア   作:鳩胸な鴨

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みんな、メドローア大好きでしょ?

続きません


大魔道士マトリフ

「……ああ、ここら辺だったね」

 

 魔法都市オイサーストに向かう道すがら。その景色を見て何を思ったか、ふと道を逸れるフリーレン。

 どう考えてもオイサーストに向かう道ではない、整備もされてない道に入るフリーレンに、その弟子であるフェルンが疑問を呈する。

 

「フリーレン様、どうかしましたか?」

「ここに古い知り合いがいるんだ。禁術まがいの魔法ばっか使ってたせいで、今生きてるかどうかはわかんないけど」

 

 古い知り合い。フリーレンは元々、29年前に没した勇者ヒンメルのパーティとして各地を巡っていた。その中で知り合った人間のほとんどは寿命で死んでいるか、はたまた長命のエルフかのどちらかだ。

 フェルンとパーティの戦士シュタルクがフリーレンに続くと、やけに生活感のある洞窟へと行き着いた。

 

「おうい、マトリフー」

「マトリフ…?」

 

 マトリフ。フェルンにはその名に聞き覚えがあった。

 70年ほど前、彗星の如く現れ、今までのものとは違う新しい魔法体系…「マトリフ式魔法」を作り上げた自称大魔道士。

 そんな偉人がこんなところにいるのか、と疑念をこぼすより先、洞窟の奥からひょっこりと人影が現れた。

 

「なんでぇ、フリーレンじゃねぇか」

 

 そこにいたのは、とうに90は過ぎているだろう老父。それがゆったりとしたローブを引きずり、腰を曲げて佇んでいる。

 一見すればただの老人だ。だが、その魔力を見れば、その評価は一変する。

 まるで研ぎ澄まされた剣のように鋭く、冷ややかなのだ。敵意を見せれば、一瞬で返り討ちにされる。そう確信を持てるほどに。

 フェルンが戦慄を覚える中、フリーレンは出てきた老父に軽く挨拶を交わした。

 

「や、マトリフ」

「30年ぶりの挨拶がそれかよ。エルフってのはほんっと淡白で薄情な奴らだぜ」

 

 フリーレンと知己の仲なのは本当らしい。彼女の態度に呆れ、ため息をつく彼。

 そのギラついた瞳がふと、フェルンへと向けられた。

 

「お、いいケツした子が居るじゃねぇの。見た感じ、おめーの弟子か、フリーレン」

「うん。フェルンっていうんだ」

「ほーん…」

 

 わきわきといやらしく手を動かすマトリフ。

 フェルンはそれを前に己の戦慄が冷えていくのを感じ、フリーレンの手を取った。

 

「フリーレン様、行きましょう。このおじいさんは不潔です」

「まあ、待ちなよ。確かに、マトリフは横暴が服着て歩いてるみたいな性格な上、無断で女性のお尻を触ったりする変態さんだけど、魔法使いとしては超一流だよ」

「魔法を抜きにしたらいいとこないじゃん」

 

 散々な評価にシュタルクが呆れる。

 フリーレンがそれに「だって本当に魔法くらいしかいいとこないもん」と返すと、その脳天にマトリフの拳が落ちた。

「いたい…」と叩かれた部分をさするフリーレンを尻目に、フェルンは淡々と、しかし本人からすれば恐る恐る問いかける。

 

「…もしかして、本当に『マトリフ式』の開祖なのですか?」

「大魔道士式だ!!」

 

 マトリフ式、と聞いて不満げに叫ぶマトリフ。

 彼は咳払いをすると、胸を張って告げた。

 

「……ゲフン。そう、オレこそが泣く子がもっと泣く大魔道士、マトリフよ」

 

 本当に本物なのか。そんな驚愕と疑いが含まれた瞳が、フリーレンに向けられた。

 

「うん。間違いなくマトリフ本人だよ」

「な、なんで大魔道士マトリフがこんな洞窟に…?」

「お偉いさんのゴタゴタに巻き込まれて大変な思いをしたから、らしいよ。詳しくは知らないけど」

 

 新しい魔法体系を開発したのだ。権力争いに巻き込まれてもなんらおかしくない。それに嫌気がさし、人里離れた場所に暮らしているわけか。

 フェルンがそう納得する横で、シュタルクが質問を続ける。

 

「フリーレンとはどこで知り合ったんだ?」

「ヒンメルたちと冒険していた頃、何度か助けられたことがあってね。見たことのない魔法ばかり使っていたから、よく覚えているよ」

「それが、マトリフ式ですか…」

「マトリフ式じゃねぇ、大魔道士式だ!」

 

 よほどマトリフ式という名前が気に食わないらしい。「ドスが利いちゃいねぇ」と愚痴を漏らすマトリフ。

 彼は下品にも鼻をほじりながら、フリーレンに怪訝な瞳を向けた。

 

「んで、今更何しに来やがったんだ、フリーレン。まーたオレの魔法を教えろとか言うつもりじゃないだろうな?」

「そう言いたいのはやまやまだけど、今は旅の途中でね。近くを通りがかったから挨拶しようかなって」

「なんでぇ、30年も音沙汰なかったくせによ」

 

 ぴんっ、と鼻をほじった小指を弾き不良親父っぷりを晒すマトリフ。

 シュタルクがそれに呆れていると、その瞳が一瞬にして鋭いものへと変わった。

 

「………赤髪の坊主はアイゼンの弟子か?鍛え方がそれっぽい」

「そうだよ。シュタルクっていうんだ」

「やっぱりな」

 

 大魔道士と呼ぶに相応しい洞察力だ。専門外のはずなのに、ぴたりとシュタルクの師まで言い当てた。

 シュタルクが愕然としていると、マトリフの瞳が彼から逸れ、フェルンへと向けられる。

 

「んで、こっちがフェルンっつったか。

 フリーレン。お前が育てるにゃ勿体無い弟子だな。センスの塊だぜ、こりゃ」

「わかるんだ」

「オレを誰だと思ってやがんだ。天下の大魔道士様だぜ?」

 

 はん、と鼻を鳴らすマトリフ。

 セクハラをかました先ほどとは違う、まるで武器を吟味しているような瞳だ。

 フェルンがそれに緊張していると、フリーレンがマトリフに期待を込めた声音で問いかけた。

 

「見た感じ、どう?『使え』そう?」

「んー…。普段の魔力制御がこの精度なら、十分使えるだろうな。お前の弟子じゃなかったらオレが弟子にしてたとこだぜ」

「あの、フリーレン様。『使える』とは、なんのことでしょう?」

 

 フリーレンの質問の意図がわからず、思わず声をかけるフェルン。

 それに答えたのはフリーレンではなく、マトリフだった。

 

「こいつが逆立ちしても使えねー魔法さ」

「………!」

 

「魔王を打破した勇者、ヒンメルのパーティの魔法使いだった」という事実を抜きにしても、フリーレンは1000年もの間魔法と向き合ってきた魔法使いだ。

 そんな彼女が逆立ちしても使えない魔法があるのか。

 フェルンが愕然と、しかしながら興味を込めてマトリフとフリーレンを交互に見やる。

 マトリフはそれに微笑み、顎で森を指した。

 

「ちょっと来い。お前のセンスを買って、『最強の魔法』ってのを見せてやる」

 

 ♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 マトリフが棲家にしている洞窟から少し離れた、ひらけた空間にて。

 その中心に立ったマトリフが、フェルンと向き合うように振り返る。

 

「お前さん、大魔道士式の『火を出す魔法(メラ)』と『氷を出す魔法(ヒャド)』は使えるか?」

 

火を出す魔法(メラ)」と「氷を出す魔法(ヒャド)」。マトリフ式の中でも最も初歩的な魔法だ。

 フェルンはその問いに首肯するも、自信がないと言わんばかりに眉を顰めた。

 

「はい。ですが、戦闘で使うことはあまりなく、日常生活で使う程度の出来ですが…」

「いや、いい。今から教えるのは、その二つの威力が大きけりゃいいって魔法でもねぇ。

 逆に言えば、その二つさえ使えりゃできる。そのくらいシンプルな魔法だ」

 

 そんなのが最強の魔法なのか?

 フェルンが訝しむ背後で同じことを思ったのだろう、シュタルクがフリーレンに問いかける。

 

「なぁ、フリーレン。本当にその程度で『最強の魔法』が出来るのか?」

「出来るんだよ。…まあ、マトリフ自身は『おっかないから数える程度しか使ったことがない』って言ってたけど」

「作った人でもおっかない魔法ってなに、こわい」

 

 相変わらずの臆病っぷりを晒すシュタルク。

 と。その弱音を遮るように、ぶわっ、と火と冷気が肌を撫でた。

 マトリフの右手には冷気が、左手には炎が灯る。その異様な光景を前に呆然とするフェルンに、マトリフが快活な笑みを浮かべた。

 

「どうだ?できるか、これ?」

「どうでしょう?魔法の同時使用はできますが…、マトリフ式だとやったことはないです」

「大魔道士式だ。…ま、お前さんなら簡単にできるだろうよ」

 

「大魔道士としてのカンだがよ」と付け足すマトリフ。

 彼が言うのなら出来るのかもしれない。確かに、マトリフのように両手に魔法を展開する自分をイメージできる。

 魔法はイメージの世界だ。それはこれまでの魔法もマトリフ式も変わらない。

 フェルンが確信を覚えたことに満足したのか、マトリフは「よし」と深く頷く。

 

「実はこの『火を出す魔法(メラ)』と『氷を出す魔法(ヒャド)』。熱を操るって点じゃ、ほぼ同じ原理の魔法だってのは知ってるか?」

「はい。以前、フリーレン様から『魔力がプラスのエネルギーか、マイナスのエネルギーかの違いで魔法の種類が変わることがある』とお聞きしたことがあります」

「正解だ。フリーレンのやつ、いい師匠してんじゃねぇの」

 

 師を褒められるのは悪い気がしない。

 思わず漏れそうになる笑みを抑え、フェルンはマトリフの話に集中する。

 

「このプラスとマイナスのエネルギーを同時にスパークさせたとき、すべての物質を消滅させる『最強の魔法』が完成する」

 

 原理はわかった。だが、どうしても疑問が残る。

 フェルンはその疑問を放ることができず、首を傾げた。

 

「でも、その二つの魔法を混ぜたところで、その場でどちらかが消えるだけでは…?」

「その通りだ。だから、全く同じ力でぶつけなけりゃ、この魔法は完成しねぇ。

 フリーレンはそこんとこのセンスがなくて、こいつを使えねーのよ」

「フリーレン様が…!?」

 

 思わずフリーレンを見やると、彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。

 

「おう。この魔法の合成は超ムズカしい。失敗すると腕が丸焦げになるか、氷漬けになるのよ。センスのねーやつァ、一生できねぇ」

 

「フリーレンのやつは氷像になってたな」と付け足し、けけけ、と笑うマトリフ。

 だが、次の瞬間。彼の顔から笑みが消え失せた。

 

「その名も、『全てを消し飛ばす魔法(メドローア)』。あらゆる物質を消し飛ばす、最強の魔法だ」

 

 ばちっ、と音がする。マトリフが二つの魔法を組み合わせ、拳を合わせた音。

 プラスとマイナスのエネルギーが複雑に混ざり合い、合わせた拳を中心に弓のような形の光を生み出した。

 

「試しに撃ってやる。見て覚えな」

 

 ぐっ、と光の弓を引き絞るマトリフ。

 その先にあるのは、樹齢何年かも想像できないほどの大木。

 マトリフがその拳を解放した、次の瞬間。

 

 大木のほとんどが、音もなく消え失せた。

 

「お、おっかねー…!」

 

 削られたわけじゃない。『消された』。

 その事実を前に愕然とするフェルンの心を代弁するように、シュタルクが涙目で戦慄をこぼす。

 そんな彼女らへと振り返り、マトリフは口の端から血を垂らしながら、再び笑みを浮かべてみせた。

 

「どうよ。できそうか、これ?」

 

 フェルンはその問いに、思わず頷いていた。




マトリフ…みんな大好きメドローアの生みの親。フリーレン世界で生まれた大魔道士。ヘタレダメ魔法使いを自分に並ぶ大魔道士に育て上げたことがある。

フリーレン…マトリフの知り合い。メドローアを無理矢理に使おうとして氷像になった過去がある。

フェルン…センスの塊。メドローアを覚えちゃったせいで、一級魔法使い試験の難易度が爆上がりした。
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