プリンセス・プリンシパルSS ーこの時、このキャラは、こう思っていたのかもー 作:Sano / セイノ
女たちの威勢の良い歌声が洗濯工場にこだましていた。
彼女らに故郷の民謡を教えたちせも、腕まくりしてせっせとアイロンがけに精を出しており、幾人かの女たちはちせに倣って額に鉢巻を結んでいる。
片や洗濯場の隅では、ドロシーがセールスレディたちに化粧を教えながら、得意顔で女の闘いとはなんぞやと講釈を垂れ、片やベアトリスが油に塗れながら機械整備の方法を女たちに実演して見せている。
(……ふふ、素敵な光景ですね)
活き活きと働く洗濯婦たちを、社長室で眺めていたプリンセスは目を細めた。
そこにあるのは、かつてのその日の糧のために苦しんだ弱者たちの在り様ではない。
しなやかにそして強《したた》かに生きる女たちの姿である。
以前の酷いあり様の洗濯工場、それを王女はこのロンドンの写し鏡のように見ていた。
水道管や蒸気を通すパイプが工場内で複雑怪奇に絡み合う。機械に生じた破綻にはその場しのぎ応急処置が繰り返され、結果としてしわ寄せは従業員に向かうのである。それはまさに無為に権力争いに明け暮れ、弱者を踏みにじってゆく国そのものだ。
ここに集っているのは、全員が虐げられてきた者たちなのである。
ロンドンを分かつ高い壁、だがここの女たちの道を閉ざしてきたのは社会に聳《そび》える様々な見えない壁だ。
チーム白鳩の面々もまた、スパイとして、凶手として、そして差別される対象としてしか居場所のない少女たちなのである。
アイロンを握るちせ、だが人切りの才を見込まれた彼女が手にするのは血濡れた刃である。ドロシーが少女たちに指導している色仕掛けもスパイとして情報を盗み出すための武器であり、ベアトリスが機械に長けているのも気が触れた父親に体を弄られたが故である。そして工場内の機械配置をCボールを使って正したアンジェ、だが彼女のCボールも敵の裏をかき陥れるための戦争の道具なのであった。
そんな血生臭い場所以外が、もし彼女たちに与えられていたら——
だからこそ、この眩いばかりの光景はきっと、彼女たちのあり得たもう一つの姿なのだ。
王女は目を瞑って、何かを確かめるように胸に当てていた手を握りこんだ。
このちっぽけな胸には、入れ替わりの中で友に託された借り物の誓いしかないと思っていた。だが、胸中に灯った火が強い光を放っていることに、今更ながら彼女は気づく。
このひと時の尊い嘘を、嘘のまま終わらせたくない。
——だからプリンセスは嘘をつき続けることを誓ったのである。
了