プリンセス・プリンシパルSS ーこの時、このキャラは、こう思っていたのかもー   作:Sano / セイノ

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推しアニメ『プリンセス・プリンシパル』の学園回『case11 Pell-mell Duel』にて、プリンセスたちが土俵入りしているシーン。あまりに好きすぎるので、もしかしたらちせはその時こんなこと考えていたのかも、という内容を書いてみました。楽しんでいただければ幸いです。


ちせ、学園にて土俵入りを思う

沈みかける夕日を浴びて、校舎が茜色の染まっている。

日本大使館から学園に戻ったちせは、待ち構えていたアンジェに気づき足を止めた。

「集合よ」

「分かった」

アンジェに視線で促され、頷いたちせは彼女を追って歩き出す。

 

 

アンジェに続いてプリンセスの部屋に足を踏み入れたちせは辺りを見まわした。

ベアトリスと共に瀟洒に紅茶を嗜むプリンセスもいなければ、我が物顔で酒を呷っているドロシーも見当たらない。常とは異なり、暗く人気のない部室に侍の少女は怪訝そうに眉を顰めた。

(……何だ?)

 

 

「プリンセス? 誰もおらんのか? ——ッ⁉」

背後で揺らめいた不穏な気配に、ちせは腰の刀に手を伸ばす。

 

 

やおら静けさを裂いたのは部屋に響いた太鼓の音。

大きな音に驚いて振り返る侍の少女、灯された照明の中で彼女が目にしたのはコルセット姿のプリンセスとベアトリスであった。

 

 

「ちせさん、おめでとう」

「おめでとうございます!」

二人の少女は口々に昨日の決闘の勝利を言祝ことほぎながら、腕を交互に突き出して歩くのである。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

ちせの決闘——ことの発端は数日前。少女が見守っていた羽化する蝶を無情に蹴り飛ばし、彼女の祖国をも足蹴にした虫同然であると嘲弄した男子学生らがいたのである。

 

 

その貴族の子弟たちの無礼千万な行いに、ちせはプリンセスに英国の流儀を聞いて、決闘を迫った。東洋からの留学生であるちせに、彼らは決闘などできるのかと囃し立てるだけに留まらず、あろうことか少女に壊れたピストルを渡して嘲笑ったのである。

 

 

だが、侍の少女は彼らが思いも寄らぬ手に出たのである。

襟元からリボンタイを解いたちせは、高速で振り回したタイの遠心力で弾丸を投擲して勝利を掴み取ったのであった。

 

 

 

×   ×   ×

 

 

 

「ひが~し~、に~し~」

着物をコルセットで縛って何とか纏ったドロシーは軍配を掲げ、そしてアンジェは抱えた太鼓をトントンと軽快に打ち鳴らし続ける。

 

 

あまりにも混沌とした不可思議な光景に瞠目している間に、ちせは珍奇な行動をとる仲間たちに囲まれてしまう。

「何じゃ、何なのじゃ! これは!?」

「……土俵入り」

狼狽したちせに、アンジェが淡々とした声で応じた。

 

 

「侍が勝負に勝った時は、こうやってお祝いすると聞きました」

へっぴり腰で四股を踏みながらプリンセスが笑う。

よく見れば、プリンセスもベアトリスも廻しのようにタオルを前に垂らし、ドロシーはハットを烏帽子に見立てて被っている。どうやらこれは相撲を模しているらしいと、漸くちせは気づく。

 

 

「これが日本スタイルなんだろ」

「なんというか……ユニークですね」

ドロシーは得意顔で軍配をひらひらと振り、そしてベアトリスは不思議そうに自分の格好を見ている。

 

 

「ふふ、あっはははははははは!」

ちせは得物から手を放して、さも痛快そうに笑い声を上げた。

思いも寄らぬ仲間の奇行、その正体はちせの勝利を日本風に祝おうとして起こった勘違いだった訳である。

 

 

あまりにも奇天烈であった土俵入りは、日本と英国の文化的隔たり故の間違い。

英国の学園生活に溶け込もうとするちせの姿も、彼女達からすればこのように頓智気に見えることだろう。

 

 

なにも違いは習慣だけではない。思えば、このロンドンと日本の町とは何から何まで異なっているのである。道を行き交うたくさん車、それを見下ろすように櫛比する城宛らの高い建造物群。そして天を仰ぐと、建物に切り取られた狭い空にゆっくり飛行船が横切っていくのである。

 

 

東洋の小国と西洋の大国の間にはそれだけ大きな壁がある。

それは時に形を変えて侍の少女の前に現れるのだ。

それはちせの主である堀川公が撤廃しようとしている不平等条約であり、それは今回貴族の子弟らが彼女に押し付けて決闘騒ぎの原因となったものでもある。

 

 

どこまでいっても日本と英国の間に横たわる壁。

だがこのチーム白鳩の面々は今、それをちせが思わなかった形で軽やかに乗り越え、侍の少女に手を伸ばしたのである。

 

 

決闘のお祝いに土俵入りはしないし、行司は烏帽子の代わりハットを被りもしない、廻しの代わりに腰にタオルも巻かない。何から何まで間違いであるが、少女らが優しさと敬意をもって自身に歩み寄ってくれたことがちせには分かった。

 

 

日本人のちせからすれば、彼女らは間違いなく変な英国人である。

この変な英国人達とであれば手を取り合えると、ちせはこの僅かな交流で見出した。自分たちは思いもよらぬことをする日本人と英国人なのである。

 

 

——きっとこの仲間たちとならば、思いもよらぬ方法で大きな壁すら打ち壊せるのではないか、そう希望をちせは抱いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

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