現代ダンジョンでもRTA配信はできますか?【平和主義縛りレギュ】   作:出奥連

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現代でダンジョン配信は流行らない

 

 ダンジョンの窓口業務についている人間と客の大半は顔見知りであることが多い。

 理由は色々とあるが、まあ常連が多い事だけ覚えておけば良い。

 

 

 だだっ広いロビーにはそれなりに人の流れがあった。

 平日の真昼間。誰もかれもが入場受付で許可証を買った集団だ。人々は楽し気に雑談しながら、ロビー中央に存在する大きなエスカレーターを中心として人混みを作っている。

 

 そのエスカレーターの入り口部分には”杉並西迷宮ダンジョン”という看板が吊るされている。

 

 

「後衛の魔法職、魔法職をお探しのパーティいませんかー? 今から中層まで行けまーす」

 

「杉並ダンジョン完全攻略動画によると上層の広間までは、左行って右行って左左で右の突き当りを左行って最後にジャンプ。うーん、わからん」

 

「ここ最近ドロ率悪くってなぁ……。いっそのこと宝箱探索に切り替えた方が幸せ説を提唱したい」

 

「帰りにラーメン食って行かね? この間クーポン貰ったし」

 

「併設のダンジョン物資換金所マジでゴミ。あそこ行くぐらいなら、ちょっと遠出した方が絶対良い」

 

 

 などとこれからダンジョンに潜る者やダンジョンから帰る者達、探掘者の声が雑多に過ぎていく。

 

 軽装備の魔導士もいれば、高速近接戦闘用のぴっちりとしたタイツの者、あるいは重装甲に身を包んだ騎士。それぞれの戦闘スタイルに合った武装をしている。

 特にこの杉並西迷宮ダンジョンではそう言った明確に役割を分けたジョブシステムが盛んだった。

 

 それらを横目にある一人の男が受付嬢に声をかける。

 

「……入場窓口はここで合っているだろうか」

「あ、はい。いらっしゃいませー。おひとりでよろしいでしょうか?」

「ああ」

 

 ぶっきらぼうに返す男。初回には必ず書く決まりになっている書類を慣れた様子でさらりと書き、手早く入場許可書を買った男は他の探掘者と同様に中央に歩いて行く。

 

 別になんてことはない、このダンジョン施設初利用者だろう。

 だがその様子を見ていた誰かが、あるいは受付嬢が小さな声を漏らした。

 物珍しいとまでは言わないが、それでも疑問か興味かの口調で。

 

「珍し。新規か復帰の人? アー、いや手慣れてたし他のダンジョンからの出張かな~。……でも、なんでジャージ?」

 

 いくら()()()()()()()()()()()()()()()()だとは言え、少しラフすぎるのではないかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如として、現代社会にダンジョンが出現した!!

 

 

 確か、そんな感じで大昔に発行された新聞の大見出しになっていたはずだ。

 

 ある日突然世界中でダンジョンと呼ばれる地下に向かって広がる建造物が出現した。中には金品宝石ザクザクで、おまけにダンジョンでしか取れない貴重な品がたくさん存在する。内部にモンスターこそいるものの、死んでも身包み剥がされて入り口に放り出される親切設計。

 

 最初こそ国主導で攻略を行っていたが、数ばかりが膨大でその内民間企業に委託を始めたことでダンジョンという物が一般に普及し始めた。より正確に言えば、一部の企業が無断で一般市民向けの入場サービスを展開し始めてあら大変。でもなぜか特に目立った問題が起こらなかったのでそのまま許可。結果、今に至る。

 

 夢に満ち溢れたダンジョンは人気を博した。高い入場料だけ取って、入場者が手に入れた物は持ち帰って良い砂金取り体験のアレがオーソドックスなルールとして様々なダンジョンにサービスが展開され始め、入場料よりも高い報酬を得る事がある、そのギャンブル性に人は病みつきになった。内容故にR18であるものの一大レジャー施設となったのだ。

 

 

 であれば、テンプレよろしくダンジョンを攻略する様子を配信する行為、通称・ダンジョン配信が流行…………する訳なかった。

 

 

 当然の事であるが血生臭い映像がメインとなる配信だ。

 コンプラ違反で垢BANされる配信者が続出。それも「配信者の怪我の様子やモンスターの死体等が映る為」という至極真っ当な理由であったので誰も反論できなかった。

 

 最終的にはそういった手の映像を泣く泣くカット編集する実況動画と解説動画だけが生き残り、地味な映像を切り取りまくって雑談で間を取り持つ登山動画と似たような立ち位置に落ち着いた。

 

 ここはそんな世界の数あるダンジョンの一つ。杉並西迷宮ダンジョン。

 

 地下方向に広がる入り組んだ道を持つ迷宮型のダンジョン。企業の下調べによる情報によると地下一〇キロに広がる広大な迷宮で、基本的に複数の大部屋と階層からなるダンジョンが多い中やや変則的な構造。

 更に、ここ周辺に存在するダンジョンの中ではひと際深い物であった。

 

『ちょ、まずいって、アレってドラゴンですぜ? まずいっすよ旦那ァ!?』

「……ええ、そうね」

 

 今まさにそのダンジョンに一人、探掘者の女性が居た。今をときめくダンジョン動画投稿者の中の人でもある。いわゆる「ダンジョン実況解説」という体の動画をネット上に公開する登録者三〇〇〇人と少しの動画投稿者。

 

 活動名は「ARU子ーN」。完全には中二病が抜けきっていない名前を使う彼女は、動画登録者ウン千人記念で派手なピンクに染めた髪といかにもダンジョン探掘者らしい重装甲に身を包んでいた。

 

 その彼女に対して、半透明なウィンドウ越しから合成音声で勝手に慌ててるのは通称・カメラ。彼女が使っている編集ソフトの付属AIである。撮影した動画を要所要所を判断して抜き出してくれるらしいので、試しに導入してみたものの知らない内にこうして相棒ポジションで収まっているよくわからない奴であった。因みに滅多に仕事をしないらしい。

 そして、何故そのAIが慌てているかと言うと。

 

 先述の通り、ちょいと大広間となっている三叉路で少し小ぶりサイズの黒いドラゴンとにらめっこしてたからだった。

 

「……、」

 

 表面上だけはすまし顔ではあるがその内心。

 

 

(やっべぇ、やべぇよコレ。やべぇ、やっべぇ、ヤバイ。死んだわ私)

 

 

 などとビビり散らかしていた。

 理由としては、ドラゴンなんて上位種モンスターは最下層、それこそボス部屋のような場所でしか見られない。それが中層にほど近い上層で存在していたのだ。何らかの外部要因とかイレギュラーが無ければありえないレベルだった。

 

 これで「ドラゴンが出てくるなんて戦い甲斐があるぜ! 腕が鳴るぜ!!」とでも能天気に考えられれば良かったが生憎ARU子は戦闘狂ではない。

 

 そもそも今回はボスアタックではなく、上層で企画系動画の撮影がメインの目的。その証拠に今回の装備はちゃっちいサバイバルナイフと鉱石堀り用のツルハシとヘルメットといつものごつい鎧。いかにARU子がサバイバルナイフ一本で上層に湧くモンスターのほとんどを一蹴できる程の腕があるとしても流石にドラゴンは分が悪い。

 

 ボスに挑むならそれ相応の装備を持ち出し、他の探検者とパーティを組んで協力する。それがダンジョン動画投稿者云々以前に探掘者としての鉄則だ。

 それらを一切していなかったのだからこうして瞬殺されるのも仕方がないだろう。

 

『どうするんです? メイン武装はロビーのロッカーですぜ? 今持ってるツルハシだけじゃ何もできませんし、ナイフなんて硬い外皮の前では折れます。それに旦那ってば近接武装アタッカーなんだから、魔法系のスキルないでしょう?』

「知ってるわよ、一々言わんでよろしい」

『人がせっかくわかりやすい状況説明してんのに反応が冷たいんだから旦那は、これだから』

「その内本気で削除するから」

『酷いっ!?』

 

 とは言え、実際にどうしようもないのが現実としてあった。

 ARU子にはドラゴンを倒した経歴自体はある。けれどそれは先述の通り、綿密な用意と自分と同等以上の力を持つパーティメンバーのおかげだ。仲間どころか装備もないこの状況は逆立ちしたって無理だろう。

 

『そ、そうです、あれは確かダークドラゴンとかそんな感じの名前。ネット検索で急所を……、えっと、あ、無いですね。諦めましょう』

「諦め早いわねお前」

 

 一瞬でも期待した自分がバカだった、と顔に手を当てるARU子。

 その間、ドラゴンはまるでこちらを値踏みするように細長い舌を蛇のように出したりしまったり。

 まさしく絶体絶命。

 

 死んだところで、全裸にひん剥かれて入り口に戻されるだけとは言え、それでも自ら望んで死ぬ者はいない。

 

 というか、着ているお気に入りの防具とかうん十万とかする撮影機材諸共紛失する為、いくらクソ高いダンジョン保険に入っていると言ってもできるなら乙りたくはない(死にたくはない)というのが切実な話だった。

 ARU子の切実な思いとは裏腹にどうしようもない現実でもあるが。

 

 

 と、その時だった。

 普段からやけに主張の激しいポンコツAIがこの時ばかりは珍しく有能だった。

 

『――だ、旦那、人! 人が来ます!! 右、⇒、→!』

 

 言葉と同時に右を向いた。

 

 確かに人がいた。全力疾走だった。

 わき目も逸らさず木製に金属の金具をあしらった箱――宝箱を抱えながら、その男はやってきた。

 

 軽装、いや、ダンジョン探掘者にしてはあまりにラフすぎる上下灰色のジャージとアウトドア用のリュックサック。左上に浮いているのはARU子も使っているオートマッピング用の半透明のウィンドウ。

 

 

 ならば、とARU子は決心する。

 

 

 向こうにとっては不運だろうが、それでもARU子にとっては丁度いい。三人寄れば何とやら……いや、実質二人と一体だが。このどうしようもないAIと一緒よりはまだ可能性がある。

 

 それに、いくら何でもこの場で全滅するのはその男も望まないだろう、と思った。

 

「丁度いいところに、倒すのを手伝っ――」

「なんだ、ただのダークドラゴンか。五秒以上奴の目に留まらなければ敵対されないな。……君もいい加減動け。奴は思いのほか執念深くない。以上だ」

 

 素通りだった。

 だーっ!! と助言のような言葉を残して真横を風のように通り過ぎて行った。コンマ数秒の出来事を前に脳が停止する。

 

「え」

 

 気が付いた時には既に遥か左遠方。風のようにこちらを無視していた。ついでにドラゴンに対しても一切気に留めず全力疾走。なんと潔い逃げ様だろうか。

 

「――――――は? はぁぁぁぁあぁあぁぁ!!?」

 

 

 

 

 

  ●

 

 

 

 

 

「うん、死んだわ」

 

 簡単に、あっさりと、ドラゴンの尻尾による薙ぎ払い直撃で。

 

 地上、ダンジョン入り口に構えられたロビー。個室になっている帰還者用の更衣室を出てすぐ。

 

 ダンジョン内で死んだ者は身包みを剥がされて帰還者用の入り口に放り出される。よって着ていた鎧とか武器とか、それこそ掘り当てたドロップ品も丸ごと存在しない。まごうことなき全裸から、あらかじめロビーに預けておいた普段着に着替え終わった所だった。それが指し示すのは死んだという実感なき実態であった。

 

 実際問題勝てるとは思っていなかったし、完全に敵として捕捉されてしまっては逃げることも困難だった、と一人納得する。

 

『旦那、もっと頑張りましょうぜ? 一応は探掘者の上澄みでしょう貴女。と言っても暇人特有の時間のごり押しで登り詰めた地位ですけど。プロ探掘者(笑)みたいな?』

「こいつ……!」

『探掘者としては上澄みも上澄みだけど、配信者のエンタメ性としては最底辺。だから視聴者がいつまで経っても増えないんですよ』

 

 そのまま、ARU子は慣れた手つきでウィンドウの音量をミュートした。

 猛抗議が吹き出しのポップアップ通知で飛んでくるが気にしない。

 

「にしても、あの男……」

 

 ガン無視して逃げたジャージ男。勿論面識なんてものはない。

 その彼は最下層にしか出ないダークドラゴンの情報を知っていた。こんなクソとは言え、仮にもAIの検索網に引っかからない情報をだ。

 ともすれば最深部に出入りする事の多い、それなりに名のある探掘者なのだろうか。少なくともARU子は知らなかったが。

 

「そうなんだけど」

 

 ダンジョンの情報は今時ネットに溢れている。

 しかし、それは上層から中層にかけてが中心だ。

 つまり、頻繁に最下層に訪れるような頭のおかしい探掘者に違いないとあたりをつけた。

 

 頭のおかしいと、こき下ろしたのにも訳がある。

 最下層は少なくとも単独で複数回潜るような場所ではない。何せ上層から中層に潜るよりもメリットがない。

 

 第一に敵が強いし、単独ではそもそも敵の数に押しつぶされる。

 さらには一人で持ち込める物資の数も限られ、帰還の際に持ち帰れる物品もたかが知れている。

 

 故にパーティが半ば必須事項なのだ。そして下層に潜る面子は実力の関係でほとんど固定化されている。

 だから自慢ではないがこの杉並西迷宮ダンジョンで何度も最下層に挑んでいる自分が知らない可能性は限りなく低い。

 

「……マー、どうでもいっか」

 

 そう思考を打ち切って、ARU子はだだっ広いロビーを歩いて外に向かう。

 

 壁沿いには様々なテナントが並んでおり、ダンジョン道具から始まって飯屋や換金所にお土産屋、果てにはホテルなんかが併設されている。

 

 まるで金のかかった商業施設。または外面だけを気にしたエンタメ施設。

 運が良ければ大儲け、悪ければ手ぶら――そんな都合のいい建前の下で、ダンジョンは現代社会に組み込まれていた。

 

「ARU子ちゃんARU子ちゃん、今回の調子はどうでした?」

「まずまずって感じ。企画用の動画はちょっと取りそびれちゃったけど」

 

 受付から身を乗り出して一人の受付嬢が声を掛ける。

 彼女とARU子とは面識がある。と言ってもここで働く大半の人間とは知り合いではあるが。それは彼女が太い実家の金で得た暇な時間を使ってダンジョンに入り浸っている事で、ここに勤める大半の人間とは何度も顔を合わせているからだ。

 

「珍しいですね。あのARU子ーNともあろうお方が乙るなんて。それこそ数か月振りじゃないですか?」

「……へ、変な奴見つけて気が逸れたからね。うん」

 

 思いっきり嘘である。

 普通に挑んでいたとしても死んでいた事だろう。

 無駄に高いプライドが彼女の口から平然と嘘を言わせる。

 

「変な奴?」

「そう、ドラゴンを見向きもせずに逃げた探掘者がいたのよ。いや、あの感じはドラゴンだけじゃない気もするけど」

 

 それを言うと受付嬢はうーんと顔を顰めて。

 

「なんだったかなぁ……。えーと」

 

 と唸っていると唐突に「あ」と声を上げる。

 

「それ平和主義者ってやつじゃないですか? 実際に見てないので多分ですけど」

「平和主義者?」

 

 何を言い出すかと思えば平和主義者と来た。

 普通に考えれば反ダンジョン主義者とかの頭にアルミホイル巻いたちょっとアレな人間が思い浮かぶが、どうにも違うようだった。

 

「そう。名前の通り殺生を一切行わないで攻略する探掘者の事ですよ。なんでもボス部屋まで一目散に直行して、ボス無視して宝箱担いで帰ってくるとか。前は新宿の方の空中都市型ダンジョンに居たって風の噂で聞きましたけど」

「うーん、確かに理にかなってるけど……。バカなんじゃないの?」

「まあ、普通の人はそこまでしてまでして攻略しようとしないですからねぇ」

 

 実際、ダンジョンをクリアしたからって何かある訳じゃない。例えボスを撃破しても数日後には戻っているし、宝箱も同様だ。

 記念トロフィー以外に意味のない行為となって久しいこの頃。

 

 だったらわざわざ強敵に挑まずとも自然に出てくる宝箱や倒せる範囲の敵を倒して得たドロップ品を売った方が遥かに効率的だろう。

 その上で平和主義者という存在は、愚行に近い行為をしているようだ。

 

 それを聞いたARU子は、ちょっと考えを巡らせたのち。

 

「ふーん。へぇ。成程ねぇ……」

 

 面白いネタが出来そうだ、と。

 

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