現代ダンジョンでもRTA配信はできますか?【平和主義縛りレギュ】   作:出奥連

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戦わなくてもダンジョン攻略

 

 第一に、平和主義者なんて仰々しい名前は他人が勝手につけたものとだけ。

 

 

 

 

 ……でもまあ、そのプレイングスタイルは自前の物ではあるけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンの中身は異世界そのものだと、いつかのテレビで偉い学者さんが言っていた。

 

 細かい理屈とかは正直ピンとこなかったが、要はダンジョンごとに世界観が変わるらしい。魔法を使えるダンジョンがあれば、そもそもの物理法則自体が違うダンジョンもある。その中でも死なないルールが存在するダンジョンだけが民間に攻略が許されたダンジョンだけなのだと言う。

 だからこそ、基本的にダンジョン共通で通用するノウハウって言うのは限られている。別のダンジョンでは自分の役割自体存在しない可能性が往々にしてあり得るからだ。

 

 そんな訳で、基本的には一つのダンジョンで一つの常識に籠ることが探掘者の初歩の初歩として扱われていた。

 

「マー、そんな感じが主流な訳だ。お前を除いてね」

「アッハイ」

 

 わかっているのか、わかっていないのか曖昧な返事をする俺に呆れたのか宮沢はため息をついた。

 

 彼女――宮沢とは高校時代からの付き合いだった。

 知り合った理由もやっていたゲームが一緒だったとか、何となく話が合うからだとか、そんな些細な理由だったと記憶している。

 不愛想と言うよりも、他人にそこまで興味のない俺を気にしてくれる良い人だと思う。

 

 

 カラン、とアイスコーヒーの氷がぶつかる音がした。

 宮沢との集合場所にしていたファミリーレストランには平日だと言うのにも関わらずそれなりに人がいる。

 軽快に響く食器の音をBGM代わりにしながら、南国キャンペーンがどうとかでメニューに並んでいた期間限定のガパオライスを食べていた。

 

「つってもお前は私と違ってダンジョンの収益で生計を立てている訳じゃないから、そこまで気にするものでもないんだけどねぇ」

 

 宮沢をはじめとしてダンジョン内のドロップ品を売って生計を立てる人をプロ探掘者と言う。

 と言ってもそれだけで生活できるほど金を稼げる人間はごく少数なようで、大半は動画をSNSに乗っけて広告収益を得たり、有料でダンジョンの情報を発信して買ってもらったりでドロップ品以外からの収入を得ている事が多いようだった。

 

 宮沢もどちらかと言えば後者の人間らしく、彼女の場合は神奈川の方にあるダンジョンで運営会社と提携した初心者向けのアドバイザーをやっているとか何とか。

 だから、時として彼女は俺を「共に働こう、汗を流そう」とスカウトしてくるのだが一つのダンジョンに籠るのは余り好かないため断っているという状況だった。

 

「俺はフリーターしてるだけだ」

 

 確かにダンジョンで拾ってきた物を質に入れることはあるが、それが主な収入源ではない。そもそも動きが鈍くなるのを嫌ってそこまで拾って帰って来ていないからだ。

 

 ダンジョンに興味を持ったのはもう何年も前になる。

 それからずるずると続けて今年で二一歳となった。フリーターを選んだのも自分都合で仕事を調整できるからに過ぎない。

 

 

「じゃあ他所からは平和主義者なんて言われてる自覚は?」

 

 

 ここ最近知ったことだが、どうやら俺は平和主義者なんて呼び名で呼ばれている。

 二つ名的なカッコいい感じがあってか憧れる面もあるのだが、いかんせん平和”主義者”だ。そこまで大層な考えを持った覚えも記憶もない。

 

「知らん。複数のダンジョンへ赴くのに逃げる方が楽だから逃げているだけだ」

「……それだけ?」

「それだけ」

「いや、そこもうちょっと飾ろうぜ? なんかこう敵を倒すのが忍びないーとか、もしくはダンジョンのルール上仕方なくって感じでさ」

 

 実際の所、ダンジョンにはダンジョンのルールが存在する。杉並はオーソドックスなRPGゲームのようなまだわかりやすいルールではあるが、場所によっては攻略が戦闘ではなく探索にすげ変わっていたり、重力が真逆のような物理法則そのものが別になっている事も往々にしてありえる。

 

 その複雑に絡み合ったルールの中で共通している攻略法。それが”逃げること”だったから実践しているに過ぎない。

 

『攻略補佐AIより提案:なにも戦うことだけが攻略を行う方法ではありません。ただし、攻略することだけがダンジョンではありませんが』

「うお、AIが喋った。……私のはもう改造しちゃって音声システム取り外しちゃったからなぁ。なんか新鮮」

『攻略補佐AIより御礼:毎度のご利用ありがとうございます。引き続きご愛顧のほどお願いします』

 

 そう言うとAIは再び引っ込んだ。

 攻略用途のAIだからこうして勝手に飛び出てくることが多々あるのだ。設定でそこらへん弄れるけど、緊急時に出てこなくなるのを嫌ってそのままにしてある。

 

「話の腰が折れちゃった。えーとだから、その攻略終わったら次行こ次って感じでダンジョン移動するの辞めたら? って話なのよねこれが」

「そもそもダンジョンアタックが趣味みたいな物なのだから、すまないな」

「そうだなぁ。うん」

 

 これ以上は無駄か、と宮沢はため息をついた。

 いや、もごもごと何かを言いそうになって直前で飲み込んだ。

 

 恐らくは多分、心理的には――いや、普通に俺と一緒に仕事をしたかったんだろうか。確か以前からそう言った感じで話を切り出してきていたはずだ。そこに嬉しさを感じないと言えばウソになるが、可能な限り全てのダンジョンを攻略するという夢を諦める事になってしまうので断るしかない訳だった。

 

 え、じゃあ終業後に他のダンジョンに行けば良いと?

 どうにも運営会社の意向なのか法律上なのか知らないが、そこらへんに面倒なルールが多くてそう簡単に別のダンジョンに行くことができないのだ。

 

『攻略補佐AIより解説:同時に複数のダンジョン攻略は法律によって禁止されています。移籍する場合は運営会社によって発行されるメンバーズカードをその都度変更する必要があります』

「いまいちそのルールの必要性を感じないけどね。かと言ってわざわざ変える理由がないって話もあるけど」

 

 丁度、料理を食べ終わったので席を立つ。

 宮沢はとっくにコーヒーを飲み終わっており、こちら待ちだったのでつられて立ち上がった。

 

「さて、約束の物も貰ったし、今日はこんな所でいいか?」

 

 財布と一緒に伝票を持って会計に向かおうとすると、もじもじした様子で宮沢は少しだけ言い淀んだ。

 

「ねえ、これから予定ある? もしよければ……」

 

 立ち上がり際、少し遅れて声が飛んできた。

 

「杉並」

「アッハイ」

 

 返事が早すぎたのか、宮沢は一瞬だけ苦笑する。

 その後、一瞬考えを巡らせて。

 

「……そう言えばあそこ、最近上層付近にドラゴン出たって話あるよ。多分まだうろついてるかも」

「アー、知っている。数日前に宝箱回収の途中で、直に見た」

 

 俺を心配していた宮沢が固まった。

 いや、どちらかと言えば点と点が繋がったようで顔に手を当てた。

 

「そうかー。最下層級のモンスターは通常上層まで出っ張ってくることはほとんど無い。誰かがボス級を倒さずに宝箱を持ち逃げしない限りは」

 

 合点がいったようで、こちらの方を訝しみながら彼女は言った。

 

「……つまり、やらかしたのはお前でしょ」

「多分?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダークドラゴンは通常最下層のボス部屋周辺でのみ姿を見せる竜種モンスターの一体だ。このダンジョンのルールに則って簡単に言えば、RPGのラスボス手前の中ボスモンスターに当たる。

 

 竜種共通の硬い外皮による尻尾の薙ぎ払いの質量攻撃にばかり目が行くが、実際は竜種の中でもひときわ小さく素早い竜種である。

 初見の探掘者はどうしてもその分かりやすい破壊力に目を奪われがちだが、厄介さの本質は別にある。

 

 岩肌を這うように駆け、跳ね、死角から食らいつく様はもはや巨大なトカゲというより、鎧を纏った肉食獣だと初見の時に感じた。

 耐久力も竜種相応に高く、生半可な攻撃では削り切れない。

 きっと真正面からの対処には熟練の探掘者が複数人で対応が必要になるだろう。

 

 トカゲのようなすばしっこさと、竜種特有の耐久力で最下層の隠れ強モンスターとして存在しているのが俺の見解だった。

 

 それが上層に現れたものなら、狩場をそこに持つ探掘者にとっては悪夢も良いところだろう。

 特に上層の探掘者はソロかデュオで潜ることが多いので、多人数対処が必須のダークドラゴンは逆立ちしても勝てない――という言葉が、決して誇張ではないのがこのモンスターな訳だ。

 

 きっとそろそろ有志による討伐隊が組まれた頃合いだろう。

 

 事実。

 

「我々はダークドラゴン討伐隊である!」

「きっと、恐らく、多分討伐できる!!」

「いや、なに不安を煽るような事言ってんだテメェ」

「でもね先輩、自分はダークドラゴンとか初めてだし……」

「いやいや、ワタシたち一応探掘者の上位何パーセントとかだろ」

「そうかな? そうかも?」

「……あーもううっさい! こんなロビーで言い争うな。しかも討伐隊って三人だけかい」

「しゃーねーだろ。平日なんだから。それにこんな目に見えて面倒な藪蛇、誰だって避けるでしょ」

「アー、仕方ないよね~」

 

 先ほどから杉並西迷宮ダンジョンのロビーでは騒がしい討伐隊が組まれていた。

 装備の金属音、端末の操作音、そして今しがたのやけに士気だけは高い討伐隊の声。反面言葉の中身は心配を誘うような内容だったが。

 

 ただ、先ほどの言葉を鵜吞みにするならば恐らくダークドラゴンは今日中に討伐されるだろう。

 成否はともかく、少なくとも上層からは姿を消すに違いない。

 

 で、あれば。

 比較的上層でダークドラゴンが猛威を振るうこのダンジョンを攻略できる最後のチャンスでもある訳だ。

 

『攻略補佐AIより情報共有:ボスエリア周辺に存在していたダークドラゴンが現在上層に上がってきており、最下層攻略の上で最も問題であった当竜種を気にする必要は無くなりました』

「ただ、帰り道に問題が先延ばしになっただけだがな」

 

 ふーむ、と独り言のように呟く。

 結局、最下層のボスエリア前に存在していたダークドラゴンは攻略の上で最も邪魔な存在だった。

 何せ無視をするのにそれなりに手間がかかる上に、ダンジョン構造上そこを避けて進むことができなかったからだ。

 

 結果的に自分で種を蒔いてしまったとは言え、この状況は渡りに船と言う奴だった。

 

『攻略補佐AIより補足:ボスはデュラハンタイプの中小型モンスターです。宝箱は情報によれば最奥の玉座の上に鎮座しているとのこと』

「ルートの剪定は?」

『攻略補佐AIより返答:既に完了しております。マスターの検証した情報を含めた最新版です』

 

 軽く肩を回し、足首を鳴らす。

 さて、始めるか――そう思ったところで。

 

 再び、先ほどの騒がしい声たちが聞こえてきた。

 

「……そういやARU子ちゃんは? あの子いつでもいるのに今日は見当たらないんだけど」

「もう先行ってなかったけ? 昼食のハンバーガー食ってた時にダンジョン入るの見たよ~」

「マジかよ」

「ほら、さっさと行くよー」

「はーい! #ダークドラゴン討伐隊@前衛1募集、ファイアー!」

「へいへい。てか変な部隊名付けんな」

 

 そんな雑談交じりに討伐隊がエスカレーターに乗って下へ去って行き、ロビーは少しだけ静かになった。

 いや、頭でもぶつけたのか誰かが鈍い音と共に「いてっ」と情けない声が落ちていった。

 

 それを見送って、決して不安になったとかではないが。

 

『攻略補佐AIより情報共有:討伐隊によって討伐ではなく撃退となってしまった場合、ダークドラゴンが元の場所に戻ってくると推測』

「マー、そうだな」

 

 それはいただけない。

 

『攻略補佐AIより質問:決行は?』

「勿論、今すぐにでも」

 

 目標はボス部屋に眠る宝箱の奪取。それを以てこの杉並西迷宮ダンジョン攻略を完了とする。

 




配信要素はちょっと待ってくださいねー
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