ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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10話 お掃除依頼はハンターギルドまで 2

 

 かつて滅び、そして荒れ果てた世界で生まれ、また滅びた町。

 そんな殊更に空虚感を増す静けさの中で一際強いエンジン音が木霊すると、キキィとブレーキ音を上げながら一台のバイクが停まっていく。

 

「もっとパーっと出てくるかと思ったけどあんまり見かけないね。シャイなのかな?」

 

『動体反応は検知。廃墟内や脇道に潜んでいると思われます。大通り付近が縄張りの境界線なのかもしれません』

 

「お行儀良いね。どっかのパーソナルスペース侵害してくる奴に爪の垢でも飲ませてやりたいかも」

 

『爪が無いモンスターもいるのでは?』

 

「そういう時は焼いた尻尾でもすり潰した甲羅でもなんでもいいんじゃない? お腹壊して大人しくなるかもね」

 

 脳裏に町の外にいる顔を思い浮かべながら、軽く鼻を鳴らして見せるレオナ。

 しかし目に込めた闘争心は些かも損なわれておらず、獲物を駆りたてる猟犬の様にその双眸を見開いていた。

 

 腰から愛銃を抜き、グリップを撫でながら握り込んでいくと、指の腹に馴染んだ手応えが伝わっていく。

 そのまま流れるように残弾と装填を確認した後、彼女の指が引き金とハンドルに掛かった。

 

「生憎とこっちはお行儀よく待ってらんないんだよね。いつまでも人様の家をねぐらにしてんじゃない……ってぇの!」

 

 瞬間、甲高い音を響かせて後輪が唸り、鉄馬がその首をもたげると地面を跳ねる。

 加速と共に自身を置き去りにしようとしたバイクを片手だけで強引に抑え、鋭く前を見据えていくレオナ。

 かつては町の周囲へ延びていただろう脇道へ車体を滑らせ、鉄の嘶きと共にその左手の猛禽が高らかに鳴いていった。

 

「ほらほら! 騎兵隊のお通りだぁ! 寝ぼけてる連中はさっさと起きて起きて!」

 

 無作為に撃たれた一撃に廃ビルの壁が砕け、衝撃の花が咲く。

 細い路地を鋼の馬が駆け抜ける度に、破砕の花束が町へと振りかけられた。

 それは町の住人と化していた異形への手向けであり、宣誓でもあった。

 

 そしてその意図を取り違えることなく、廃墟の町が一斉に蠢きだす。

 建物の影から飛び出す者、砂の下から這い出る者、廃墟の間でその身を高く翻す者。

 低い唸り声と共に姿を表したそれらは、皆一様にして、レオナへと鋭く眼光を送っている。

 

『敵影接近』

 

「さ~て、追いかけっこの始まりっと!」

 

 路地を颯爽と飛ばしていくレオナと追いすがるモンスター。

 すれ違う余裕のない中をバイクが爆音と共に駆け抜けては、硝煙と血の花がそこかしこで咲いていった。

 

 走り抜ける風と銃声だけがレオナの鼓膜を叩き続ける。

 すると、その正面から数体のモンスターが躍り出るのが見えた。

 大きな鋏に、長く尖った尾と針。アンタレスと呼ばれるサソリの変異体の一種が、挟み込む様に三方から迫っていく。

 だがレオナの顔に焦燥は欠片もない。

 

「遅いよ!」

 

 叫ぶやいなや、高速の三連射。

 先頭の一匹に三つの大輪を刻むと、迫る鋏と尾を躱しながらの強引な突破を試みる。

 

 靡く金糸を追う中に加わる者が増え、更に更にとその隊列を増していく。

 すぐ近くまで接近したモンスターへと引き金が引かれ、閃光が花開いては、一匹また一匹と蹴散らしていった。

 

「ミラ、ちょっとお願い」

 

『自動操縦モードへ移行』

 

 レオナが呟いた直後、小刻みにハンドルを切っていた手を放して腰のポーチへと滑らせる。

 不安定な地面で制御を放棄された筈のマシンは、しかし、一度たりともふらつくことはなく、その車体を保つどころか華麗に障害物(モンスター)を避けながら廃墟の中を走り抜けていた。

 

 慣れた手つきで素早くリロードを済ませたレオナが、その手応えと共に再び元の姿勢に戻る。

 先程と見劣りしないスムーズな荷重移動で愛馬を操り、ブレる事無く銃口を振りかざしては鉄の雨を食らわせていく。

 それは最早、作業にも似た鮮やかさであった。

 

 そして脇道を抜け、大通りを横切り、また別の路地へ。

 時折響く銃声と共に町中を縫って走り回るバイクの背後には、いつしか数十の異形の供が付き従うまでになっていた。

 

『敵、凡そ40体を超過」

 

「結構いるね。取りこぼしは?」

 

『周辺は概ねドブ浚いが出来たと思われます。推奨、合流」

 

 ミラから電脳越しの返答を受けると、その意図に応えるべくレオナが方向を定めていく。

 大通りへと出るため、鉄の愛馬へと更に鞭を入れた瞬間、隘路の先に降り立つ影があった。

 

『敵影、ミラーボールを確認。警告、進路が塞がれています』

 

 陽光を反射し、その丸い体表を銀色に光らせる甲虫──ミラーボールが、道幅に綺麗に収まる様にして獲物を待ち受けていた。

 硬質の脚と2メートルを超す巨体は壁として機能するのには十分過ぎ、無理を通そうものなら、その体と構えられた前肢で容易く潰されてしまう事だろう。

 

「このまま突っ切る!」

 

『警告、衝突の危険あり』

 

「ハッ、あんなのとキスなんてするわけないでしょ!」

 

 だが、レオナは止まろうとはしなかった。

 更に速度をあげ、アクセルを限界近くまで開けていく。

 

 直後、ハンドルを廃ビルの壁へ向けて切ると、続いてバイクの頭が持ちあげられた。

 壁を大地とし、道なき道を駆けのぼっていくと、スタントさながらにミラーボールの上を通り過ぎたのだった。

 

「お先に失礼ー!」

 

 空を舞うバイクの影が、銀色の甲殻にかすかに映る。

 そしてレオナは着地した勢いのまま大通りを走り抜けていった。

 目指す先は、合流予定ポイントである外縁部。町の外と繋がるであろう大通りの終点だ。

 

「ここまでおいで! アタシのお尻にかじりつきたいんでしょ!」

 

 レオナが背後に群れる異形へ挑発的な視線と言葉を向けると、最後の加速に入っていった。

 転がりながら追いすがる甲虫に、忙しなく足を動かしては這いずる蠍。走る大トカゲに羽音を立てて飛び交う羽虫。

 そのどれもが逃げる獲物に食らい付くべく、一心不乱にその後ろ姿を追いかけている。

 

 そんな中、遠目にレオナの瞳に映ったのは砂埃と共に佇む一台のシルエット。

 一対の機銃を備えた戦車(SUV)が、太く重い排気音と共に彼女を出迎えた。

 運転席に陣取ったブラッドが迫るモンスターを確認すると、その指がトリガーに伸びていく。

 

『合流地点に到達。二秒後に交錯します』

 

「お客さん連れてきたよ! やっちゃえ!」

 

 バイクをギリギリまで傾け、地面と並行するようにスライドさせると、殺した勢いのまま擦れ違う。

 直後、ボンネットから伸びた黒筒が唸りを上げ、鉛のシャワーを吐き出していった。

 

「ハッハー!! ご馳走だぞクソったれども!」

 

 ブラッドの大口を切り裂いた様な狂相に、無慈悲な弾雨。

 先頭のモンスターを撃ち貫くと、その後方にまで流れるような制圧射撃を加えていく。

 

 鉛が肉と骨を断ち、砂が抉れては石礫が飛び散る中、それでもなお止まる事なく進軍するモンスター。

 その内の一つ、蠍の群れがブラッドの車両へ肉薄すると鋭い尾が振りかぶられ、

 

 ──ガォンッ! 

 

 次の瞬間、けたたましい音が響いては折れる尾針。

 続いてもう一撃を浴びせられ、今度はアンタレスが体ごと吹き飛んでいった。

 

「お触りは厳禁ってね」

 

 それはレオナが放った"荒鷲"の一撃。

 バイクに陣取ったまま放たれた正確無比な射撃が、ブラッドへの攻撃を未然に防いでいた。

 

 鉛の雨を抜けたモンスターへと、正確無比なクイックショットとリロードが繰り返される。

 自動小銃にも劣らぬペースで銃弾がばらまかれると、あっという間に一体、また一体とモンスターが砂の大地に沈んでいった。

 

 その向こうでは体中に鉛玉を受け、死体の山を築いていく異形の群れ。

 だが次第に距離を詰め、肉の壁を乗り越えてはその包囲を狭めては勢いをつけていく。

 しかし、二人に慌てる様子はない。

 

「大人しく突っ立ったままで居るかよ、化け物風情が!」

 

 素早く車を後退させ、距離を開け直しながら機銃の掃射を再開するブラッド。

 それに遅れじと、アクセルターンを決めたレオナも一気に下がっていく。

 そんな二人の前に更なる新手が躍り出た。

 

『増援を確認。デザートリザードが三体。その後方からも多種複数が接近しています』

 

「ちょっとブラッド! いくら何でも多いんだけど!」

 

「知るかよ! 文句あるなら今まで寝ぼけてた連中に言え!」

 

 それらを迎え撃つ間にも、モンスターの数は更に増えていく。

 その大部分は蹴散らせる雑魚ではあったが、絶え間ない戦闘は確実に二人を疲弊させていた。

 すると、今度は機銃の空転する音が響き、銃身からは焦げ付いたような臭いが立ち昇る。

 

「チッ、弾切れか。装填し直す暇はねえ……おいレオナ!」

 

「なーにー!? 今忙しいんだけど!」

 

「車の後ろにいいもんがしまってある! 使え!」

 

「忙しいつってんでしょ! しょうがないなぁ……ミラ!」

 

『自動操縦に切り替えます』

 

 レオナが再び声を上げた後、バイクからSUVへ飛び移り後部座席へと身を躍らせる。

 置かれていたケースを手早く開けると、そこに入っていた物を手早く取りだした。

 

 ぽっかりと開いた銃口に短い銃身。その後ろには円柱状の六つの弾倉。回転式のグレネードランチャーだった。

 チャンバーの中には、装填済みのグレネード弾が計六発。予備も含めれば十分すぎる武装だろう。

 

「本当にいい物もってるじゃん!」

 

「無駄にすんなよ、弾がたけえんだ!」

 

「文句はあっちに言ってよ」

 

 再びレオナがその身を躍らせると、走り続けるSUVの天井に乗り上げ、迫っていたトカゲの一匹に向け引き金を引いた。

 

 ポンっと気の抜ける射出音。

 だが次の瞬間、爆風と共に地を抉る轟音が響き、砂と血の華が咲き乱れる。

 

「ん~、気っ持ちいい~!」

 

『後続、接近』

 

「オッケー、ミラも付いて来てよ。ほら、ネズミの御者さん! 馬車を走らせて!」

 

『貴女の場合は灰被りではなく眠り姫に近いと思われます』

 

「砂被ってるんだからシンデレラでもいいでしょ! ほら早く!」

 

 モンスターを見据えながら、ガンガンと屋根を蹴っては運転席へ野次を飛ばすレオナ。

 継母に負ける様子はどこにも見受けられなかった。

 

「ったく、好き勝手言いやがって……落ちるんじゃねえぞ!」

 

 ブラッドが苦い顔をそのままに、ギアをトップに入れていくと強くアクセルを踏み込んだ。

 それに追随するように、主無きバイクが寸分の狂いも無い動きで付き従う。

 走り抜ける鉄のかぼちゃと異形の群れ。互いに唸りを上げては、時折大地の爆ぜる音が混じっていく。

 

 再びシュポンっとまた気の抜けた音。

 そして直後の炸裂。

 

『命中。敵集団、被害甚大』

 

「はいはいお次は~……もいっぱぁつ!」

 

 三度の轟音。

 

「馬鹿野郎! 大事に使えっていってんだろう!」

 

「大事に使ってるってば。まだリロードしてないんだから」

 

「こいつ……!」

 

「でもこれでラスト!」

 

 四度目の炸裂と衝撃波。

 数を減らした群れが吹き飛び、最後に群れの中でもっともしぶとかったミラーボールへと爆風が襲いかかると、銀の破片を撒き散らしながら砂の大地に斃れていく。

 

 戦場に響いた爆音が静寂に変わった時、周囲には無数の物体が横たわっていた。

 夥しい数の死体と残骸。その中心に立つ影はただ二つであった。

 車が停められると、今度は銃声ではなく二人の笑みが漏れる音が風の中に混じっていく。

 

「今ので終わりか?」

 

 車から降りると、ブラッドが生き残りが居ないか周囲を確かめていく。

 それに合わせるように、レオナも天井に乗ったまま辺りを探り始めた。

 

『周辺に反応無し。まだ潜んでいる個体は居るかも知れませんが、この場の戦闘は終結と判断します」

 

「居ないって……じゃなくて居なさそうだね。まぁ、まだ隠れてる奴はいるかも知れないけど」

 

「そればかりは仕方ねえな。後は定期的に間引きしていくしかねえだろうよ」

 

 ブラッドが機銃に装填をしながらレオナの方を見ると、彼女も伸びをしながら応え頷いた。

 

「ん~!お疲れ様。そうだ、これ返すね」

 

「バカスカ撃ちやがって……ったく」

 

「後生大事に取っておくもんじゃないでしょ?」

 

「ハッ、ちげえねえ」

 

 憎まれ口を叩きながらも、そこに暗い物はない。

 それは互いの実力への信頼なのだろう。

 疲れや緊張からか、少し震える手でグレネードランチャーを手渡した後、レオナが肩を竦めながら続ける。

 

「それで、この後はどうするの?」

 

「疲れたなら休憩でもしてくか? 俺のホテルでしっぽりってのはどうだ」

 

 先程までの勇ましさはどこへ行ったのか、コンコン、とSUVのボディをノックしながらの誘いの声。

 それを見たレオナがわざとらしいくらいの渋顔を作り、深い溜め息と短い毒を吐いていく。

 

「バーカ。討伐証明どうするのって聞いてんの!」

 

「チッ、つまらねえな」

 

「一々つまらないとか言うなら、こっちがその気になるくらいの口説き文句でも考えてみたら? ヤりたい盛りの猿じゃないんだからさ」

 

「お? 言ったなこいつ」

 

「……ったく、いいから早く」

 

「分かったって、ちょっと待ちな。……こいつを使ってくれだとさ」

 

 ブラッドはそう言うと、運転席から何かを放り投げた。

 受け取ったレオナが確かめるとそれは、

 

「おっとと……なにこれ、カメラ?」

 

 ポラロイドカメラだった。

 相当な骨董品のはずだが、どうやらまだ動くらしい。

 

『形式は相当な古さですが、恐らく当時のリバイバル品の類でしょう』

 

「どっちにしても古びたカメラだけどね、遺物だし」

 

「そいつで写真を撮ってこいだとよ。ハノンの町も入れて撮る様にも言われたぜ」

 

「なるほど。まぁ、あれを漁れって言われても困っちゃうからいいんだけどさ」

 

「……だな」

 

 二人が流し見た先には、血と臓物に彩られた死体の山があった。

 おまけに戦いの最後に出来た物はその殆どが原型すら留めていない。

 

 モンスターの牙や顎など、討伐した際の証拠として、或いは売れる部位として持ち帰るのがハンターの基本。だがこの有様では一日がかりの作業になってしまう事だろう。

 下手をしなくとも、先の戦闘よりも更に長引きそうであった。

 

 無言で目を合わせると、レオナはすぐさまそのカメラを向けていった。

 モンスターだった物を何枚か収めた後、今度は全てを画角に収めようと四苦八苦していく。

 

(やっぱりこいつと仕事をするのは楽だな。任せときゃしっかりやってくれる。何よりいい女だ)

 

 そんな後ろ姿と揺れる尻を見ながら、どこか満足げな物と好色な目で頷くブラッドだった。

 

 

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