ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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11話 新人ハンター

 

「これとこれと、後これもよろしくね」

 

「はい、確かにガラスホッパーの殻ですね。でもレオナさん、もうちょっと汚れてないのを持ってきてくれたって……」

 

「食べる時ならともかく、律儀に血抜きや掃除なんてしてられないって。必要なのはそっちの殻なんだし、どうせ磨くんだろうし。そもそもそんな決まりも無いでしょ?」

 

 ターマのハンターギルド内、カウンターを挟んで二人の女──レオナとマキノが顔を向かい合わせていた。

 カウンターの上には、ガラスホッパーというモンスターの一部が無造作に置かれている。

 獲れたてほやほやとでも言うべきなのか、透明な殻の内側には滴る体液が付いたまま何とも言えない匂いを漂わせていた。

 

「そりゃあ……ありませんけど」

 

「ならオッケーって事で。物の方はちゃんと罅入れないように獲ってきたんだから、依頼達成でいい?」

 

 ガラスホッパーは透明な殻をその身に纏ったバッタの変異体であり、鋭利な顎と翅を持った虫型モンスターだ。

 しかし、それよりも更に強い特徴と言えば、透明で光を透かしやすいその殻にある。

 ただのガラスよりもしなやかで強固であるそれは、加工をする事で様々な用途で利用されている有用な素材でもあった。

 ちなみに肉はシーチキンに近い味と、レオナには好評である。

 

「依頼人の方が確認しない事にはなんとも。でも多分大丈夫だと思いますよ、お疲れさまでしたレオナさん」

 

「こういう時面倒くさいよね納品依頼って。ボロ渡されると困るからだろうけどさ」

 

「あははは……昔そういう事があったんでしょうねぇ、多分」

 

 苦笑いを隠そうともしないマキノに、レオナも小さな溜め息と共に肩を竦めるしかなかった。

 

「これはもういいとして、この後どうしようかな。マキノちゃん、何かいい依頼新しく入ってない?」

 

「珍しいですね? いつもなら依頼を終わらせたら労働反対! とか言って帰っちゃうじゃないですか」

 

「働き者に宗旨替えするつもりはないけどね。でも今日はそういう気分なの」

 

『貴女が依頼に意欲的な時は、大抵は衝動的行動が理由です』

 

 愉快そうに笑っていた眉がピクッと動き、電脳からの音を拾っていった。

 

『嗜好品でしょうか? それとも酒場のギャンブルマシーンでしょうか?』

 

「……っさいな。それよりマキノちゃんどう? 無くても別にいいんだけど、それなら帰りにご飯でも食べに行かない?」

 

「ごめんなさい、今日は遅くなりそうだからまた今度にしてもいいですか?」

 

「働き者だね~」

 

「受け付けの人が一人居なくなっちゃったんですよねえ……その分まで仕事こなさなきゃいけなくって」

 

「そうなんだ、辞めたの?」

 

 暗に逃げたのかと聞き返していくレオナ。

 だが返されたのは苦い声色だった。

 

「いえ、そんな雰囲気は全然なかったんです。この前もイケてるハンターの人といい感じになれたから楽しみだって……でもそれから戻って来ないみたいで」

 

「……そっか」

 

 何と言った物だろうと考え込んだのか、レオナが視線を落とす。

 

「ごめんなさい、こんな事言っちゃって。一応、内緒でお願いします」

 

「分かった。こっちもごめんね」

 

 マキノが頷きを返すと、それで終いと話題を戻していった。

 

「それで依頼でしたよね。それなら丁度いいのがありますよ」

 

「丁度いい?」

 

「はい。誰にでも頼むって訳にもいかない物で、最近──」

 

「いいから大人しく付いてこいって言ってんだ!」

 

 その時、カウンターとは反対側にある酒場の方から怒鳴り声が響いてきた。

 驚き体を竦めるマキノと、平然と胡乱気な目線を向けるレオナ。

 

「ハンターのイロハを教えてやるっていってんじゃねえか。人の親切は受け取るもんだぜ嬢ちゃんたち」

 

「け、結構です! 僕たちは別に──」

 

「あんたみたいな怪しいレイダーみたいなおっさんなんて信用できるか! 変な鼻して!」

 

「ちょっ、ルゥ!」

 

 目を向けた先には一人の中年と思しきハンターと、それに相対する13~15歳程の二人組の少年少女。

 

「い、威勢のいい嬢ちゃんじゃねえか。だがまぁいい、若い内はそうやって色々()()()()()()成長していくもんだからなぁ」

 

「教わる相手は選ぶつってんの! 恩着せがましく言ってくるおっさんなんてゴメンよ! この変態!」

 

「だから言いすぎだってば!」

 

「止めないでよリク! こういうのはハッキリ言わないといつまでも付きまとってくるんだから!」

 

 リクと呼ばれた少年が、何とも威勢のいいルゥという名前らしい少女を諌めている。

 売り言葉に買い言葉と言うべきか、喧嘩腰の応酬が続けられているようだった。

 とは言え、男の方も本当に親切心からという表情ではなかったが。

 

 それを横目で見ながら、何とも呑気そうにレオナが息をひとつ吐いた。

 

「元気だね~、若いってやっぱりエネルギーあり余ってるんだ」

 

『貴女もあまり変わらない年齢の筈ですが』

 

「それって体の事でしょ。あれ? ……アタシって何歳になるんだろ。もしかしてうん百のお婆ちゃん? でも起きてからだと3歳?」

 

「あ、あのレオナさん……」

 

「ん? 何でもない気にしないで」

 

 手を振りながら小さな笑みを作ると、マキノが再び不安げに視線を送っていった。

 

「いえ、あの子たち止めて連れてきて貰えませんか? その、最近登録した子たちなんですけど……」

 

「別にほっといてよくない? 痛い目見て成長するのも新人の特権だろうし、喧嘩売る相手間違えて死ぬのも新人の(さが)でしょ」

 

「ええっと、そうじゃなくてですね、さっき言った依頼があの子たちの事なんです」

 

「どういう事?」

 

 少しづつヒートアップする応酬を尻目に、小首を傾げたレオナが問いかけていく。

 すると、手元に用意されていた書類が手渡された。

 

 それは一枚の依頼書。ただし依頼人が商人や個人ではなく、ターマのギルド名義の物だ。

 書かれている内容を読んでいくと、レオナはすぐにその意図を理解していく。

 

「子供のお守ねぇ……面倒臭そう」

 

『否定。新人育成は組織を維持するのに極めて重要な物です」

 

「そんな事言わないでくださいよぉ。今、他に頼める人がいなくて……」

 

「そうは言ったってさぁ……アタシたちハンターだよ? 知りもしない相手と手を取り合って仲良しこよしなんて柄じゃないと思うんだけど」

 

 レオナの言う通り、ハンター同士は同業であり同胞であり、そして競争相手でもある。

 ただの依頼であればともかく、遺跡の探索などでは商売敵になり、見つけた遺物どころか、遺跡に入る権利等と難癖をつけては己の我儘を通す為にやり合う事も良くある話だ。

 流石にいつでもどこでも構わずという事はないが、兎角ハンターとはそういった荒くれ者の集まりだった。

 

 お互いに困った様に眉を顰めるマキノとレオナ。

 しかし、鉄の女を口説き落とす為に、受付嬢から言葉の弾丸が飛び出していった。

 

「こういう所で手を差し伸べないと、新人の子が無駄に死んじゃうじゃないですか。レオナさんもやってきたんですし、昔の恩を巡り巡ってという事でどうか……」

 

「いや、アタシそんなの知らないし」

 

「えっ!?」

 

 しかし、それは敢え無く撃ち落されてしまう。

 だがマキノにとっても意外な返答だったらしく、呆気に取られた表情を浮かべている。

 

「ハンターになってからずっと一人だったしね。仕事を一緒にする事はあったけど」

 

「えっ、えぇ? 一応ギルドの方で新しく登録した時に声を掛けてるはずなんですけど……あれえ?」

 

『補足。当時、別の職員にその旨を伝えられましたが、貴女が忘れていただけです。推奨、協調性の向上』

 

「あ~……そういえば言われたかも。でもまぁいいでしょ、こうして今も元気でハンター続けてるんだし」

 

 電脳からの声を聴き、一瞬の空白の後、レオナはバツが悪そうに頬を指で掻いた。

 しかしすぐに気を取り直し、それよりも、と依頼書を軽く叩きながら尋ねていく。

 

「でもさ、これ中身が曖昧すぎない? 新人の手助け、なんてさ。どんな事すればいいのかちっとも想像付かないんだけど」

 

 手取り足取りで銃の撃ち方でも教え、一緒に()()でも奪ってあげればいいのだろうか。

 どう思う? と、小首を傾げるレオナに返ってきたのは、マキノの苦笑だった。

 

「ええっと……例えば、初めての討伐依頼や遺跡探索の護衛とか、別のハンターと複数人で仕事をする時に注意してる事とかを教えて貰えれば」

 

「めんどくさ~」

 

『子飼いの戦力か同盟勢力を増やせると思えば悪い事ではないかと。信頼や信用は金銭と手間以上の価値があります』

 

「……めんどくさ~!」

 

「何で二回も言うんですか……」

 

 だら~っとカウンターに凭れる姿からは、どうにもやる気が感じられない。

 そんな二人を余所に、騒がしいBGMが周囲の耳朶を震わせていった。

 

「痛っ!? ちょっと腕掴まないでよ変態!!」

 

「んだとこの小娘! 人が親切で言ってやったら調子に乗りやがって!」

 

「何が親切よ! さっきからジロジロと人の体ばっかり見てきて! 何考えてるのか丸分かりなのよ、この脳みそチンポ野郎!」

 

「……ッ! このクソガキ!!」

 

「だから言い過ぎだってルゥ! あなたも手を放してください、ルゥに何かする様なら僕だって黙ってられませんよ」

 

 揉み合うような騒ぎにまで発展した光景。

 

「どこまで行くかなこれ。あんまり騒いでたら叩き出しだったよね? それでもし抜いたら最後はこれでしょ?」

 

 バンッと呟きながら指で作られた物を撃ち、レオナが目を細めて見せる。

 楽しんでるだけに見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

「喧嘩は止めてくださーい! リク君たちもいいからこっちに──」

 

「やれやれー! 女の子守ってあげなよー、男の子でしょー!」

 

「レオナさん!? 煽らないで止めてくださいよ!」

 

 煽るレオナに焦るマキノ。

 それもその筈で、ハンターギルドにも内容は少ないものの、幾つかの取り決め──つまりはハンターへの注意事項や罰則などがあった。

 その中の一つがギルド内での殺し合い、或いはそれに発展する程の喧嘩の禁止だ。

 只の喧嘩や外でやる分には止めない辺り、無頼漢が集う場所らしいと言えるだろう。

 

 だがしかし、マナーの類が重視されていなくとも、最低限の秩序を保つ為のルールだけは重視されていた。

 それ故に違えると厳しく問われる事でもある。

 

 具体的には違反者のハンターとしての権利と、最悪その命を以て。

 

 その未来を示す様に、ギルドの奥から顔を覗かせる不気味な影もチラホラと見えていた。

 

『警告。男の方から撃鉄を起こした音を検知』

 

「おっと、ここまでかな。それじゃちょっと行ってくるね」

 

 ミラの言葉に、レオナがそれまでとは打って変わって軽い動作で身を躍らせる。

 

「はーい、そこまで。それ以上やるとこわーいおじ……お兄……? とにかく怖い人に怒られるからストップね」

 

 言い終わらない内に男の腕を掴み、そのまま後ろへと腕をひねりあげていく。

 

「いっ、いででっ!? 何しやがる!」

「何って……助けてあげてるんだけど、アタシなんかしちゃった? それともこのまま放って置いた方がよかった?」

 

 男が全力で抵抗するものの、レオナはまるで揺れる素振りすら見せずに捻じ伏せたまま話す。

 

「頭冷やしなよ。カッカさせて子供に粋がって、それで頭撃ち抜かれたんじゃ割が合わないと思うけどな。それともそんな目に合ってもいいくらい碌でもない人生だった?」

 

「う、ぐっ」

 

 男の顔が苦悶と共に屈辱で歪みだす中で、レオナが更に言葉を重ねていった。

 

「ここで大人しく帰れば今日一日の恥で済む話なんだから、お酒飲んで綺麗なお姉さんでも買ってスッキリ忘れちゃいなよ。ほら、怖い人たちが見てるよ」

 

 顎で示された先には、黒い戦闘服の屈強な体をした者たちの姿。

 ギルドの用心棒として様々なトラブルに対処する為に雇われている元ハンターが、無骨な銃火器を手にして様子を窺っていた。

 

 彼らの頭には元が付くが、怪我等で引退したハンターという訳ではない。

 様々な事情でギルドに直接雇われた、むしろそこらのハンターでは到底お目に掛かれぬ装備や経歴を持っている歴戦の兵であった。

 

「……分かったよ。今回は勘弁しといてやる」

 

「うん、良い返事。それじゃねおじさん」

 

 レオナの手が離されると、男は乱れた服もそのままにフラフラと端へ寄っていく。

 それを見届ける事もなく普段の姿に戻っていくギルドの中、レオナが残る二人と向かい合った。

 

「そっちも大丈夫? 駄目だったからってヨシヨシして上げるわけじゃないけど」

 

「余計なお世話よ! 別に私たちだけで解決できたんだから!」

 

「もうちょっとで頭に穴開く所だったのに? すぐ野垂れ死ぬような稼業だけどせめて納得できる死に方の方がいいんじゃない? 喧嘩してハンターとして何するでもなく死ぬよりはさ」

 

「……」

 

 少女がグッと押し黙り、それを少年が宥めながらレオナに向けて頭を下げた。

 

「ありがとうございました。すみませんでしたお騒がせして」

 

「いいのいいの、お礼ならアタシじゃなくてあっちのお姉さんにね」

 

 そう言いながらレオナが指差した先は、安堵している様な困った様な、なんとも微妙な顔をしたマキノだった。

 リクに続きルゥもペコリを頭を下げたのを見計らい、カウンターの中から声が飛んでくる。

 

「遊ばないですぐ止めてくださいよぉ」

 

「ごめんごめん」

 

「もう……それより三人ともこっちに来てくれませんか?」

 

 マキノに手招きされるまま、ぞろぞろと三人がカウンターに集まっていく。

 

「それじゃリク君、ルゥちゃん、この人が言っていた色々教えてくれる先輩ハンターのレオナさん」

 

「初めまして、えっと、僕はリクって言います」

 

「……ルゥ、です」

 

 マキノの声に促されたのか、二人がレオナへと挨拶をしていった。

 どこかぎこちないのは、先程の一幕があった所為だろうか。

 

「マキノちゃん、アタシやるって言ってないんだけど?」

 

「まさかレオナさんは揉め事起こしたり、私のお願いを断ったりしませんよね。ギルドから評判悪くなる様な、そんなどうしようもない事するはず無いですよねえ?」

 

「あれ? もしかして怒ってる?」

 

 恐る恐るレオナが問えば、笑顔なのに威圧感を感じる視線が向けられた。

 

「別に~? 私が知ってるレオナさんはふざける事はあっても強くて真面目で、ハンターの中ではしっかりしてる人のはずですから。まさか新人のよく分かってない子の喧嘩を煽って楽しんだりしませんもんねぇ?」

 

 どうやら逆鱗に触れたらしいと本能が警告し、違う事無くそれに従っていくレオナ。

 

「やる。やります。やらせていただきます」

 

「ありがとうございますレオナさん」

 

 大輪の花が咲いたと思えば、安堵からレオナの肩から力が抜けていく。

 そこで再びマキノの口が動き出した。

 

「改めまして、今回二人のサポートをしてくれるレオナさんです。こう見えてすごく強い人だから、分からないことがあったら遠慮せずにどんどん聞いてみてください」

 

「とりあえずよろしくね。正直アタシもよく分かってないからなんとも言えないんだけど」

 

「本当に大丈夫なの? この人で」

 

 ルゥが疑わしい視線を飛ばしながら、マキノへと問うていく。

 

「大丈夫ですよ、本当にしっかりしてる人ですから。依頼に関しては三年間一度も失敗してませんよ」

 

「ただし、一人で手に負える物しか受けてないって注釈は付くけどね。アタシ無茶な冒険しない主義だから」

 

 何とも言えない発言を大きな胸を張りながら言いきる姿に、リクとルゥがお互いの目を交わしながらこそこそと会話していく。

 

「……大丈夫かな?」

 

「……なんか、ね?」

 

「聞こえてるよー? どっちにしろハンター歴数日のあんたたちよりはずっと経験豊富なんだから言う事聞いときなって。誰かにおんぶだっこしていられるのなんて今の内だけだよ?」

 

 その指摘に二人の肩が小さく跳ねた。痛いところを突かれたのだろう。

 揺れた瞳がレオナへ向けられると、観念した様に頷くのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ターマの町の路地裏では、二つの影が人目を避けるように佇んでいた。

 

「悪い、活きが良いのが居たんだが……逃がしちまってな」

 

 片方は丈夫で厚手の服に銃を携えた、鼻の目立つ中年の男。

 なんて事の無い、どこにでもいるハンターの一人だ。関節を痛めているのか、右腕を少し庇う様にしている。

 もう片方もハンターの様だったが、先の男よりも軽装で整った顔立ちのせいか、どこか軽薄な印象のする男である。

 

「逃がす……ねえ? お前が釣りたいって言ったから任せてやったのに随分じゃないか。それともなにか? まさか誤魔化せると思ってんの? 俺が見てねえとでも思ったか?」

 

 ギロリと睨みながら詰め寄っていく軽薄な男を、中年の男が宥めていく。

 

「い、いや、俺がしくじったんだ、すまねえ。だがちゃんといい女だったんだぜ? まだ男も知らなそうな感じでよ」

 

「んなこたどうだっていいんだよ。ったく、前の奴が駄目になってきたから新しいのを探しに来たってのに。……次は連れて来ねえ方が良さそうだな」

 

「だから謝ってるじゃねえか。だがよ、それについちゃ悪くねえかも知れねえぜ」

 

「どういうことだ?」

 

 続きを促す様に顎をしゃくっていけば、その仕草に男が口元を歪ませる。

 そして路地の向こうを窺うような視線と声量へ切り替えた。

 

「そいつらにもう一匹付いて外に出ていくらしい。野郎とメスガキ、ついでに馬鹿みてえにいい女だ」

 

「それを馬鹿正直に後をつけて、相手に警戒されてドカンってか? ったく、本気で使えねえな。何のために俺が一々面倒な事やってると思ってんだ。女は油断させた方が楽だからに決まってんだろ。馬鹿みたいに浮かれた面が泣き叫ぶのがおもしれえからだろ。ちょっとは考えろよ阿呆。その場で押し倒すならいつだって出来んだろうが」

 

「じゃ、じゃあなんでそうしねえんだよ」

 

「馬鹿みたいに暴れて、馬鹿みたいな醜態さらして、町から追い出された馬鹿なレイダーになりてえのか? なら止めねえからてめえだけでそうしててくれよ。それともなにか? てめえは町の人間とハンターを敵に回し

ても平気だと思ってんのか? 砂まみれでまともな飯も食えないで生きたいのか?」

 

「う……そっ、それは……」

 

 言葉と共に向けられた冷たい目に、男の声も弱く小さくなっていった。

 その肩を軽装の男はポンポンと叩き、それに顔を上げれば嘲りの笑みがあった。

 

「だったら俺の言う事聞いとけよ。人生楽しみたいから俺の仲間になったんだろ? 女に金払って腰振るんじゃなく、女に頭下げさせて腰振らせたかったんだろ?」

 

 下種な物言いに男が強く頷いて答えていく。

 それを鼻を鳴らしながら受け取り、軽薄な男は踵を返した。

 

「なら賢く行こうぜ。レイダーなんて碌なもんじゃねえ。だからって俺らはハンターとして成り上がれるって程強くもねえ。だったら上手くやって愉快に楽しく生きようじゃねえか」

 

「あ、ああ……そうだな。悪かったよ、次はもう余計な事はしねえ」

 

「ならよし。今回だけ許してやるよ、新入りだしな」

 

 最後にポンと一つ肩が叩き、路地を後にするかという時、その足が止まった。

 その視線が追う先には、棚引く金とそれよりも少し低い頭が二つ。

 

「あれは……」

 

「どうしたんだ? ……ってさっきの連中じゃねえか」

 

 足を止めた男に、疑問を浮かべて中年の男も声を投げかけていった。

 

「ちょっと前言撤回だ。確かにいい女じゃねえか」

 

「だろ? このまま見過ごすのも勿体ねえって」

 

「ちょくちょく見かけたが、確か一人で動いてる奴だったな……足手まといが二匹……たまには強引にってのも悪くねえか」

 

 常であれば欲を覆い隠したまま女の警戒心を解きほぐす柔和な目が、ギラギラとした本来の色を帯びていた。

 

 

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