ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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12話 荒野の遠足(ピクニック) 1

 

「それじゃあ、これから君たちの野外学習に行こうと思います。はい拍手~、ぱちぱちぱち」

 

 何とも気の抜けた口上がターマの町に虚しく響く。

 当然ながら、そこに拍手も歓声もありはしない。

 

「なんなのそのノリ……」

 

「え、えっと……ぱちぱち」

 

「しないでいいわよリク」

 

 リクがお情けで乗ってしまった事で、ますます白けている様な空気が流れる始末である。

 

「もう……少しは盛り上げなよ。ピクニックなんだから楽しくいこう。ちなみに行き先はアタシが知ってる遺跡ね」

 

 レオナが呟けば、ルゥから刺々しい声が返ってきた。

 

「真面目にやってもらいたいんだけど」

 

「このくらいで一々気を張ってたら身が持たないって。リラックスリラックス」

 

『疑問。緊張の緩和とただのおふざけは別ではないでしょうか? それに貴女は──』

 

「……っさいなぁ。まぁ、やる時は真面目に、そうじゃない時は適当に、ついでに仕事は楽しみながらやりましょうって言うのがアタシの心構えだからよろしく。別に真似しなくてもいいよ」

 

「は、はぁ……」

 

「あっそ。まぁ、ちゃんと教えてくれるならなんだっていいけど」

 

 ミラの一言がグサリと来たのだろうか、一瞬だけ顔を引きつらせたレオナが早口で言い終えた。

 

「だけど正直教えるとかよく分かんないんだよね。とりあえずアタシが知ってる事を喋ったり、二人の様子を見て不味そうなら駄目出し、危なそうなら助けるってぐらいしか出来ないと思うんだけど、それでいい?」

 

「はい、お願いします」

 

「それでいいわ。その代わりサボってたら受付の人に報告するって事でもいいわよね?」

 

「オッケー。それじゃさっさと行ってササっと帰ろう」

 

 二人が頷いたのを見計らい、三人は町の外へと歩み始める。

 その道すがら、レオナが何の気なしに話しかけていった。

 

「そういえば二人はハンターになってから何かしたの?」

 

「いえ、依頼を受けようとしたらマキノさんに止められてしまって……」

 

「装備も揃えてこれからって時だったのよね」

 

「ふ~ん。じゃあモンスターと戦ったり遺跡に忍び込んだりとかした事は?」

 

 小首を傾げながら、二人に向けてレオナが更に聞いていく。

 

「アメーバを獲ったり、スクラップとかゴミ拾いはしてました。僕らみたいな親無しにはそれくらいしか食べてく方法がありませんから」

 

「あー、孤児なんだ二人とも。それで少しでも稼げる仕事に就こうと思ってハンターになったって所かな?」

 

「そうよ、どうせ他に行ける所もないしね。でもハンターとして名を上げられればそんなのともおさらばできるでしょ? 周りの目も変わるでしょうし。……それで何が言いたいわけ?」

 

「別に? ただの世間話」

 

 見下されたと思ったのか、あるいは哀れまれたと思ったのか。

 ルゥからの剣呑さを増した声をいなし、肩を竦めてレオナが続ける。

 

「そっちの事情がどうとか、そんなのはアタシに関係ないしね。でも一応、今日の面倒を見る相手の事くらい軽く聞いておこうと思っただけ。二人がトレーダーの置いてった子でも、ターマの偉い人の子供だったとしても気にしないよ」

 

「そんなのがハンターなんかするわけないじゃない」

 

「あははっ、そりゃそうだ」

 

 楽しそうに、あるいはどうでも良さそうに笑う姿を見て、リクとルゥの二人は顔を見合わせていく。

 その表情には、果たしてこの女を頼りにしても良いのかと言いたげな物が、ありありと表れていた。

 

「そうだ、二人に問題。ハンターとは、もしくはハンターの仕事ってなんでしょうか?」

 

「それも世間話?」

 

「世間話兼、アタシからの授業ってところかな? まぁ、授業なんて大したもんじゃないけど」

 

 それを受け、即座に答えたのはリクだった。

 

「ギルドの依頼を達成する……ですか?」

 

「ふんふん、それじゃルゥちゃんは?」

 

「え? えっと……」

 

「深く考えないでもいいよ。合ってても間違ってても何かあるわけじゃないから」

 

「……依頼者の為にモンスターを倒したり遺物を探す事?」

 

 二人の回答を聞いた後、レオナが満面の笑みで頷いていった。

 

「うーん、不正解。でもルゥちゃんのはいいね。先に言われた答えが足りないと思ってなんとか付け足した感じが特に」

 

「ななな、なっ!?」

 

「お、落ち着こうよルゥ」

 

「むぅ~~~!!」

 

 今にも噛み付きそうな勢いに、レオナが愉快そうに体を揺らしていく。

 

「あはは、弄り甲斐ある子だなぁ。それじゃ答え合わせ。正解は……好きに生きる、でした!」

 

「はぁ!? なによそれ!」

 

「落ち着いて落ち着いて。はい、どうどう……」

 

「わたしは動物か!!」

 

 怒る少女を宥めるレオナ。それを苦笑しながらも見守るリク。

 どこか微笑ましい空気の中、レオナが尚も言葉を紡ぐ。

 

「よく勘違いしがちなんだけど、別にハンターって人種というか職には何の制限もないんだよね。ハンターがやる事なんて生きていく為に稼ぐ事。モンスターを狩ったっていいし、遺物を探したっていいし、勿論ギルドで依頼を受けたっていい。結局は自分の好きに生きて後悔しない事。それがアタシの考えるハンターってやつ」

 

 個人の感想です、諸説あります。

 と、締める姿に、少年少女が思う事は同じだったのかもしれない。

 

「……そんなので良いんですか?」

 

「良いも何も、決められた事なんて何にもないよ? ギルドに所属しなければハンターを名乗っちゃいけないわけじゃないし、遺跡を探索するのに誰かの許可が要るわけじゃない。町の為に働かなきゃいけないわけでもない」

 

 ギルド内や町でのルールはあるけどね、と更に続けるレオナ。

 そこには先程とは打って変わり真剣味が帯びているように感じられ、二人の視線もそれとなく変化していった。

 

「ギルドがあってハンターがあるんじゃなくて、ハンターが先にいて、必要だったからギルドが生まれたって事はちゃんと覚えておくといいかも。もしかしたらギルドが立場を利用して恩着せがましく──なんて事もあるかもしれないし」

 

「……」

 

「だから二人は、マキノちゃんに止められたからって律儀に待ってなくてもよかったの。その気があったなら自分たちの好きな様に動いてよかったんだ。目指す未来のために形振り構わずにね。勿論、これで二人のやる気とか素質が無いとかそういう事じゃないけど」

 

 息を入れた事に釣られたのか、リクとルゥも同時に大きく息を吐いていた。

 深い呼吸が、まるで胸のもやを外に出していくかのようだ。

 

「それじゃあ、どうして依頼を……」

 

「言ったでしょ? お金を稼ぐ為。後は単に行動の指針にもなるからかな? 依頼の分とは別に何か収穫があったりするしね」

 

「……ずいぶん適当なのね」

 

 呆れるような少女の声に、レオナの口からは乾いた笑みと共に言葉がこぼれ落ちた。

 

「アタシが? それともハンターが? でもそんなもんだよ。二人がやってきたスクラップ拾いやゴミ漁りとなーんにも変わらない。生きる為にやれることを見つけてればそれだけでハンターって事。その分、自分の事は自分で責任負わなきゃいけないけどね」

 

 そう締めくくり、レオナは再び歩を進めた。

 町の境目に付けば、彼女たちの目の前に広がる砂塵の世界。

 生き延びた者同士が手を取り、そして相食らい合う過酷な大地が広がっている。

 

「さ、それじゃあハンターらしく今日を楽しく過ごしてみよっか。出来るかどうかはともかくね」

 

 軽い調子のレオナに対し、二人は気を引き締めるように足並みを揃えて足跡を刻んでいく。

 三つの音が交錯する世界の風は凪ぎ、静けさだけが耳を刺していった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 照り返す陽射しを受けながら、影が進む。

 時折舞う風に運ばれる細かい粒が、体に纏わり付いては小さくジャリッ、と音をその場に残していく。

 全身へ巻きついてくる熱が不快さを振りまくも、一行はそれらを無視するようにただ前へと足を向けていた。

 

「……あっっっつい!!」

 

「分かってるから言わないでよ。こっちまで暑くなってくるじゃない」

 

「確かに暑いけど……ふぅ」

 

 一人無視できていないのか、その唇から文句が垂れる。

 気持ちの上では三人とも同じであったのかもしれなかったが、レオナはそれを隠そうとせずに愚痴がこぼれている様だった。

 

『現在、外気温42度です。貴女及び現行人類の生命活動に支障はありません』

 

「あっつ! 今だろうが昔だろうが絶対暑いでしょこれ。こんな暑い中を歩いて遺跡目指すとか正気じゃないよね。言い出しっぺ馬鹿なんじゃない? 暑さで頭やられちゃったの?」

 

「言ったのはあんたでしょ……お願いだから暑い暑いって言わないでよ」

 

 言葉に釣られて認識し直してしまうのか、ルゥも辟易としているのがありありと感じられた。

 とは言え、そこに本気でへばってしまいそうな様子は感じられない。それはリクも同様だった。

 彼らにしろ、彼らの親だった者にしろ、生まれた時からこの環境なのだ。

 もはや今を生きている誰もがこの荒野に適応してると言ってよかった。

 

「レオナさんはマントかフード被らないんですか? 陽射しが強い日なんかはわりと違いますよ」

 

「それと、そんなピッチリした服で暑くないの? 見てる方が蒸れてきそうなんだけど」

 

 リクとルゥに続けざまに問われたものの、レオナは顔を顰めて返すしかない。

 体の機能ではなく心が暑気に負けている様だった。

 そこに少しばかりの悔しさを滲ませつつ、呟く様に返していく。

 

「フードって大体襤褸しかないから、髪が汚れるしぐちゃぐちゃになるから被りたくない。後ね、これって着てる分には全然暑くならないから。通気性抜群の上に汗も速攻で乾くし。便利だね、未来のスーツ」

 

「もしかして、それって遺物なんですか?」

 

 驚くリクの声に、レオナは大きく肩を上下させながら口を開く。

 もうこれ以上暑いと言いたくないが為に話をそらす様でもあった。

 

「そうだよ。昔シェル……遺跡にあったやつ。便利だからずっと着てるの」

 

「……それ恥ずかしくないの? ライン丸分かりじゃない」

 

「恥ずかしかったよ。今だってマジマジ見られると恥ずかしい。でもこれよりいい装備がなかったから慣れた。慣れざるを得なかった。……あーもう! バイク持ってくればよかったあ!」

 

 遂には大声で叫びながら頭をかきむしりだす。

 駄々をこねる仕草は子供のようで、それでいて妙に様になる姿だ。

 

「どっちか一人だったらアタシのバイクに乗っけても良かったんだけど……。でも流石に三人乗りになるとねぇ……」

 

『重量オーバー。通常走行にも支障が出ます』

 

「分かってるってば」

 

 独り言ちるレオナを訝しみながらも、しかしそれ以上気にする事も無くリクが質問していく。

 

「やっぱり戦車って必要になりますか?」

 

「そうだね、お金に余裕出来たら買った方がいいよ。二人で一台でも、ただのバイク程度でもね。なにせ車があるだけでやれる事が段違いになるから」

 

「確かに戦車の武装があればモンスターだって倒しやすくなるわね」

 

「ん~、それもそうなんだけど、単純に足が出来るのが便利なんだよね。遠出するにしろ何にしろさ」

 

「足……ですか?」

 

 再びリクが頭の上に疑問符を浮かばせる。

 

「そう、足。考えても見なよ、到着して疲れたまま遺跡を探索したい? 売れそうな遺物を見つけたのに足が棒になったまま荒野を帰りたい? モンスターやレイダーがいる中をさ。今のアタシたちの状況を見たらよく分かるでしょ」

 

 少年たちが押し黙りながら首を動かし、それにレオナも頷き返す。

 

「もし何かに襲われたって、どんな車でも人が走るよりはずっと速いしね。最低限動くのって注釈は付くけど」

 

「でも壊れる事だってあるんでしょ?」

 

「ルゥ、そこは考えても仕方ないって。なんだって壊れる物なんだし、それに少なくとも相手と同じか上の条件に立てるってだけで違うと思うよ」

 

「……それもそっか。何も選べないよりは選択肢がある方がずっといいものね」

 

「そう言う事。それに行動範囲が広がれば受ける依頼だって選べるようにならない? まぁ、こっちは個人の好き好きでいいと思うけど。ターマ近辺の依頼しか受けない人だっているしね、アタシとか」

 

 あっさりした言葉の割に、その奥には様々な知見と苦労が窺える。

 まだそれを知らずにいる少年たちには、彼女の語りが心を打ったのだろう。

 二人はそれぞれに感嘆した様に息を吐いていた。

 

「そうなるとやっぱり最初は車を目標にした方がいいのかな?」

 

「でも先に自分たちの装備とか部屋を確保した方がよくない? いくら安い戦車でも、わたしたちじゃそう簡単に買えないだろうし」

 

「お互いの欲しいものだってあるし、どうしようか……」

 

「うーん……何か一度でお金になりそうないい仕事とか遺物とか……?」

 

 頭を付き合わして相談する二人に、先達が釘を差していった。

 

「初めの内からそういう風に考え出すと、大抵死ぬか身持ち崩すから地道にね~」

 

『経験者は語る』

 

「うっさい」

 

 それは彼女が味わった苦渋だったのかもしれない。

 レオナの瞳にはどこか達観するように影が差していた。

 

『警告。目標ポイントに近づいています。注意を怠らない様にしてください』

 

「ん、オッケー。さてと、もう少しで目的地だから気を引き締めていこうか」

 

「はい」

 

「分かったわ」

 

 一人と一機に二人の若人。互いに注意を促され、一同が気持ちを切り替えていく。

 まだ成りたての殻付きだが、リクたちもここから先は命の危険があると認識しているようだ。

 この荒野に生きる人間として、生と死が隣り合わせであるという事実が彼らの中にも刻まれているのだろう。

 

 まだ幼い顔立ちに油断のない物が乗っていくのを見届けると、レオナも軽く肩を回して気を引き締め直すのだった。

 

「……ねえ」

 

「ん? どうしたの?」

 

 そんな中、ルゥがレオナに声を掛けた。

 不意を突かれたレオナが傍らの少女に向けて小首を傾げていく。

 

「あんな事注意してくるなら何でこんなに歩いてきたのよ? もう少し近い所にするとか、別の何かを選ぶとかあったでしょ?」

 

 それは純粋な疑問だったのだろう。

 例として挙げた事をレオナ自身が真っ向から否定する様な行い。

 つい先ほど教えられた身からすれば、馬鹿にされているとすら思ったのかもしれない。

 そんな彼女の心の内が視線に乗せられていた。

 

「何でかって……そりゃ決まってるでしょ」

 

 しかし、レオナがそれに怯む事も気負う事もない。

 ホルスターから銀の閃きを覗かせ、不敵に笑っていく。

 

「アタシ一人でも二人の事を十分見てあげられるから。上げ膳据え膳にお尻拭きまでね。こう見えて強いんだよ?」

 

 

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