ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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13話 荒野の遠足(ピクニック) 2

 

 荒野には幾つもの廃墟が点在している。

 オフィス街に住宅街、あるいはショッピングモール等。その全てに、だった、と付く事にはなるが、それでも幾つかの色を持っていると言って間違いはないだろう。

 

 そんな過去の名残の中の一つ。レオナたち三人が訪れていたのは三階建ての建造物だった。

 塗装は剥げ、下地どころかその下の骨組みも所々剥きだしになっている有様であったが、辛うじて残る十字の痕跡が、かつてそこが病院だったのだろう事を窺わせる。

 

 砂にまみれた瓦礫が散らばるエントランスには残滓とでも言うべき人類の歴史が転がり、風雨に晒されて変色した機材だった物の山がいくつもあった。

 誰かを出迎えるには寂しい光景の中を、吹き抜ける風と錆びた金具の音が通り抜けていく。

 そしてそれとは別に、どこか明るく気の抜けた物も聞こえていた。

 

「整列、番号~、右から」

 

「いち」

 

「に……って二人しかいないじゃない! リクもノらないでいいわよ!」

 

「でもノってあげた方がレオナさん話が早いと思うし……」

 

「ノると調子に乗る類でしょ!」

 

 遠慮のないやりとりをする二人を見ながら、レオナが独り言ちていく。

 

「わーお、あんな事言って酷くない?」

 

『既に貴女の事をよく理解しているようです。人を見る目は有望かと』

 

「わーお……」

 

 こちらも遠慮もへったくれもない一言に、レオナが思わず天を仰いだ。

 広さはそこそこと言った所であったが天井は高めらしく、崩れたそこからは見上げた先に青空が覗いている。

 そしてその隙間から太陽がギラつくような光を振り撒いていた。

 

「それじゃ改めて真面目にいくよ。こういう遺跡は大抵モンスターがねぐらにしてるから注意していこう。それと装備のチェックはしっかりね? 弾切れとかセーフティが入れっぱなしで先手を取られるなんて馬鹿な真似はしないように。プロテクターや靴なんかも邪魔にならないか脱げたりしないか確かめてね、やって損する事は絶対にないから」

 

「はい、分かってます」

 

「大丈夫よ」

 

 リクがサブマシンガンを、ルゥが拳銃を確認しながらレオナの言葉へと耳を傾けている。

 

「二人が使ってるのは小口径の奴か……弾が小さいと相手によっては効かない時もあるから気を付けてね。その辺りは実戦で見極めるしかないんだけど……まあ、自分たちで頑張って」

 

「ちょっと」

 

 投げやりな言葉にルゥが思わずといった様に声を上げる。

 

「いやだって、本当にそう言うしかなくってさ。まさか親猫みたいにこれが狩りの練習台ですよ~、なんて持ってこれないでしょ? アタシも二人のお母さんじゃないからそこまでは面倒見れないし」

 

「誰が母親よ、誰が。でもまぁ……それはそうよね」

 

「だから自力でやってもらうしかなくてさ。ほら、アタシの銃だと効かないのなんて、もう戦車が必要なくらいだから参考にならないし」

 

「うーん、確かに……」

 

 レオナが掲げた"荒鷲"を見て二人とも納得したのだろう。

 そこにはどうやって扱っているのかと不思議そうな物が混ざっていたものの、異論を挟む事はなかった。

 

「それじゃゆっくり進んでいこう。二人で組んでやって行くんでしょ? それなら二人で周囲を確認しつつ進む練習もしようか。今後の為にもね」

 

「分かりました。どうやった方がいいとかありますか?」

 

 リクが問えば、それを受けたレオナが軽く肩を竦めていく。

 

「残念だけどアタシも独り者だし、特殊部隊とかそういうのはよく知らなくて。曲がり角とか入口みたいな死角には気を配ってとしか言えないかも。他には……何かあるかな?」

 

『回答。複数人の強みを活かす事でしょう。前衛と後衛に分かれ、同方向を見るのではなく背中や左右等、お互いをカバーしあうのが良いかと』

 

「ふむふむ」

 

『サインや合図は後で本人たちに決めさせるといいでしょう。室内に入る際はクロス、あるいはボタンフックエントリー等、同時に死角を潰し合っていくのをオススメします』

 

 レオナの視界に簡易的な図が投射されていく。

 

 それを元にリクたちへアドバイスしていくと、独り言を零していたレオナを不思議そうに見つつも二人は真剣に耳を傾けていった。

 

「まあ、結局大事なのは慣れる事かな? 二人での動き方にしろ、敵と戦う時に焦ったり興奮しすぎないとかね。探索してる時なんかも視界は広く保って、しすぎない程度に緊張感を維持って感じで」

 

「視界に緊張感……なんだか難しそうですね」

 

「最初は大変だと思うけど、遺跡の中に居る時は気を張って損する事はないよ。何度もやってると、どうしても慣れて無意識に判断しちゃうんだよね。それで大事な物を見過ごしたりしたりとかさ。音や気配とかの何かが潜んでる兆しだったり、瓦礫だと思って遺物を見落としたりね」

 

 例えばこんなのとか、と、レオナが足元の廃材の中から小さな破片を拾って二人に見せた。

 それは見た所、何の変哲もない小さな円盤。

 ぱっと見では何かの破片にしか見えないそれに、二人が目を凝らしていく。

 

「これって……」

 

「もしかしてコインですか? 多分旧時代の」

 

「当たり。昔使われてた物だね。これは……穴が空いてるし五円か五十円玉かな? まさかセントじゃないでしょ」

 

 判別がつかない程に掠れたそれ。指で弄んでいたレオナに疑問の声が掛かる。

 

「円? セント?」

 

「ん~、ん? 聞いた事ない? 円は多分、昔の此処のお金。そうだね……クレジットのご先祖様かな」

 

「へぇ……セントは?」

 

「別の場所のお金かな。例えば、"お米の国"とか」

 

「お米って……あの米ですか? 食べ物の。その国って事は一杯あったのかな……」

 

「偉そうな連中がトレーダーから高いお金で買ってく奴よね。あんなのが沢山あるって、これで買えたのかしら……?」

 

「ぶふっ!」

 

 不意を突かれたのか、堪えきれずに吹きだすレオナ。

 

「ちょ、ちょっと何よ?」

 

『レオナ、知らないが故の無邪気を笑うのは感心しません』

 

「くく……なんでもない。話を戻すね。今はお金としては使えないけど、こういう古い硬貨とか、他にも色んな物を集めてる人が居たりするからね。金属クズで買ってくれる人も居るし拾っておいて損はないよ。まぁ……資源としては纏まった量じゃないと価値はないけど」

 

 彼女なりの考えを伝え終わると、コインをポーチへと落としていった。

 笑みの収まった後には、どこか郷愁のようなものも浮かんでいる。

 

「それじゃ後は二人でやってみよう。以前来た時に此処のモンスターは大体片付けたけど、その後に何が来てるか分からないから、何かが居るものとして、ね」

 

「はい」

 

「分かったわ」

 

 力強く頷くリクとルゥ。二人は言葉を交わす事もなく役割分担をしていたらしい。

 銃を構えて進み始めた少年の後ろを、少女が付かず離れずついて行く。

 

「ゴールはエントランス。上まで行ったら此処まで戻ってきて、そしたらピクニックもお終い。一応後ろから付いてくけど、油断したり誰かに助けて貰えるって甘えは持たない事」

 

 最後の声に二人が振り向くことは無い。

 その眼には、年頃の若者が持ち得ない真剣味を帯びていた。

 ハンターとしての始めの一歩と言うだけではなく、これから命を賭けるという認識の現われだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 朽ちかけながらも残る壁面や天井から、廃病院の廊下へ陽光が差しこんでいる。

 所々に落ちている瓦礫は足取りを鈍くするものの、それでも少年たちの歩みを止めるまではいかない。

 そんな中、廊下を舞う土煙や砂埃と共に、バサバサと羽ばたく音が割り込んでくる。

 

「また出たわよ、リク!」

 

「分かってる!」

 

 パパパッと軽快な破裂音が廊下に響いた。

 リクが構えるサブマシンガンから鉛玉が吐き出されると共に、それを受けたエコーバードという鳥型モンスターが地面へと落ちていく。

 しかし、射撃を避けた数匹が嘴を開くと、

 

「しまっ──」

 

「キーーーーー!!」

 

「うわっ!?」

 

「くぅぅ……!」

 

 鼓膜を抜け、脳まで揺さぶるような甲高い音が二人を襲う。

 至近距離で浴びせられたリクは膝を付いてしまい、控えていたルゥも思わず耳を抑え、その可憐な顔を顰め面に変えていた。

 

「ほらー、うるさいのは分かるけど我慢我慢。耳塞いでると突っつかれるよー」

 

「わ……かってるわよ!」

 

 レオナからの茶化しに怒鳴り返しながら、ルゥがハンドガンの引き金に指をかけていった。

 脳を揺さぶる耳鳴りに耐えながらも、銃口は正確に敵の姿を捉えていく。

 しかしその先では、エコーバードが外敵を排除しようと襲いかかろうとしていた。

 

「ルゥ!」

 

「任せて!」

 

 再度の発射音。

 パンパンッ、と断続的な破裂音が響くと、金切り声を悲鳴に変えエコーバードが地に落ちていく。

 態勢を立て直したリクがそれに続けば、辺りは静寂さを取り戻していった。

 

「ふぅ……危なかった」

 

「リク、大丈夫?」

 

「うん。ルゥこそ怪我してない?」

 

「平気よ。それにしても随分いるのねこの鳥。もう十匹以上仕留めたのに」

 

 お互いを労っていくものの、ルゥの声と視線には若干の苛立ちがある。散々、脳と鼓膜を揺さぶられたのだから無理はないのかもしれない。

 

 エコーバードはモンスターの中では小型に入る種類だ。

 体長50cmにも満たない程度の大きさで、人を積極的に襲う事もなく、テリトリーにさえ入り込まなければ早々手を出される事もなかった。

 だがしかし、一歩彼らの縄張りに入り込めばそのけたたましい鳴き声で自由を奪うと、鋭い爪と嘴で外敵を殺すべくモンスターとしての顔を露わにしてくる。

 そして元になった種の習性か、この世界の異形としては小さいからか。

 どこに現れようとも群れを成していて、その上、数を活かして狡猾に襲いかかってくるのだから何とも質が悪い。

 

「空き家だった所に巣でも作ったみたいだね。でもまぁ、このくらいなら二人でも何とかなるでしょ」

 

「レオナさんは随分平気そうなんですね……何かコツとかあるんですか? こう、音で攻撃されそうな時の心構えとか装備とか」

 

 少し離れた所から呑気に見守っていたレオナに、リクが疑問を飛ばしていく。

 しかし、返ってきたのはあっけらかんとしたものだった。

 

「そんなの無いし、耳栓もしてないよ。だからさっきからず~っと我慢してる。でもアタシって他の人より耳が良いから余計にうるさくってさ」

 

「えぇ~……」

 

「もう頭の中がキーキー、キーキー、反響してるみたいなんだよね。いっその事、泣いて葉っぱを潰したくなってくるね」

 

 ザーって感じに、と彼女の中だけで分かる何かを呟くと、レオナがゆらゆらと頭部を揺さぶっていく。

 それは頭蓋の裏にこびり付く不快感を追い出す様でもあった。

 

 それで気を取り直したのか、二人ともう一人は行軍を続けていく。

 戦いの音や同胞の声に集まってきたのだろう。その後も断続的にモンスターが襲いかかってくるものの、二人がそれに臆する事も無かった。

 

 リクが前衛として露払いをし、ルゥがその援護を。

 地形の把握や戦闘への瞬時の判断等、新人にしては十分早く確かな物を持つリク。そんな頼もしい少年へ時折先に気付き伝えるのは、ルゥの耳や第六感が冴えているのだろうか。

 恐らくそれは、二人が生きてきた中で培った役割分担でもあったのだろう。

 再び現れたモンスターを難なく仕留めると、互いに笑みが向け合い喜んでいた。

 

(うん、良く見えてるし二の轍も踏まない。いい感じなのかな? ……にしても見てて面白いね、この子たち)

 

 喋ってる時とは逆なんだなぁ、とレオナが内心で感心をしていたその時、ほんの僅かな物音が彼女の耳に入り込んでいた。

 それと同時に頭の奥から報せが届けらえる。

 

『警告。後方より飛来音』

 

 チラリと喜ぶ二人を見やると、少しの間見届けた後、

 

「…………息を入れるのも喜ぶのも良い事だけど、ここがモンスターの巣だって事は忘れないようにね」

 

「えっ?」

 

 ガガンッと銃声が轟いた。

 振り向きながらレオナが抜き放った銃火が閃くと、後方にあった横道から転げ落ちてくる影。

 回り込んでいた二匹の怪鳥が飛んできた勢いのまま肉片となり、飛び散る血が埃まみれの壁を塗り直していった。

 

「嘘っ! モンスター!?」

 

「後ろに来てたんですか!?」

 

「ちょっと頭が回るモンスターだとこういう事やってくるからね。それと、これがさっき耳栓しないって言った理由」

 

 レオナが己の耳元を指差すと、二人の顔にも理解の色が表れていた。

 耳を潰す様な甲高い叫びに、不意に近づいて来た襲撃。

 その意味する事の怖さに気付かない筈も無いだろう。

 

「でもまぁ、この辺は少しずつ覚えたり慣れて対処するしかないかな。本当に耳栓しないと駄目な相手だって居ないとも限らないし」

 

「……勉強になります」

 

「後は……あれは10式だったっけ? 本物の戦車の砲撃とか、他にも爆発物とかも耳が潰れちゃうくらい凄いしね」

 

「あんた、"戦車"見た事あるの?」

 

 不思議そうな声のルゥに、レオナは肩を竦めて笑うだけに留めている。

 そこには真実を話した所でどうせ信じないだろうという諦念があった。

 

「まあいいじゃない。そんなことよりもほら、後は帰るだけだよ」

 

 一行が居るのは三階部分の中程だ。

 一通りの探索は済み、後はエントランスまで戻るだけで今日の遺跡探索は終了である。

 モンスターの気配は鳴りを潜め、静けさに満ちた通路を引き返していけば、程なくして三人は一階まで降りていく。

 

「分かってたけど、遺物はちっともなかったわね」

 

「うん。何かの金具に瓶……まとめて売らないと買い取ってもらえそうにないかなぁ」

 

 リクとルゥが、虚しそうに回収した廃品を手の平で弄ぶ。

 それ目的ではなかったにしろ、やはり収穫の無かった寂しさという物は付きまとってしまうのだろう。

 

「まぁまぁ二人とも、そもそも今日はピクニックに来ただけなんだから。それに、これだけお肉も手に入ったんだから少しはお金になるでしょ」

 

 そこへレオナがエコーバードの死体が入った袋を掲げて見せてきた。

 おまけにその手には大きめのネズミらしい生き物も掴んでいる。非常に活きが良いのか、その手の中で頻りに藻掻いていたが。

 

「ねえ、どっちか鳥肉持ってってくれない? このままじゃ銃抜けないからさ」

 

「あ、はい」

 

「ありがと。一応これで終わりのつも──っと、もう一個あったっけ」

 

 エントランスの目の前まで戻ってきた時、レオナが何かを思い出した様に言葉を零す。

 

「遺跡を出る時は注意してね、誰かが来てる形跡がある場所なんかは特に」

 

「どういう事?」

 

 見当がつかなかったのか、少女が不思議そうに問い返していく。

 

「誰かが待ち構えてたりするかも知れないからね。見つけてきた遺物を掠め取ってやろうなんて考えてる人とか」

 

「レイダーが、って事ですか?」

 

 今度は少年が回答を求め、レオナもそれを肯定する様に口元を緩めた。

 

「ん~……半分正解。だけど今回の答えはハンター」

 

 意味を理解した途端、二人の間に動揺と緊張が広がり始める。

 

「でもハンター同士は助け合うんじゃ……」

 

「そ、そうよ!」

 

「基本的にはね。でも全部が全部そうじゃない。依頼がかち合えば喧嘩はするし、そうじゃない時だって儲け話は自分たちの物だってなったりするから。二人だってゴミ拾いしてた時に憶えがない? 同じ様な子が二人から奪おうとしたとかさ」

 

「っ!!」

 

 リクたちの顔色が変わった。

 思い当たる節でもあるのか、驚きと同時に、苦虫をかみつぶした様に強く唇を結んでいる。

 それを目に止めながらも、気楽に言い放ちつつ外へ向かっていくレオナ。

 

「こんな世界だからねー。どうしたって自分さえよければなんて人間が多いのは仕方ないよ、アタシだって近いもんだし。だから自分の事は自分で守らないとって事だね。まぁ、だからって──」

 

 ──カチリ。

 

 三人が並んで外へと足を進めた時、レオナの人並外れた耳が何かの音を聞き取っていた。

 多種あれど、それは彼女が荒野で生きる事になってから欠かさず聞いてきた物。

 しかし、それはリクたちの装備からでも、己の愛銃からでもない。

 一瞬の中で彼女の思考が思い至った。

 

「下がって!!」

 

「えっ? きゃあっ!?」

 

 ルゥが投げ飛ばされる形で後ろへ払いのけられると、その直後、

 

「ッ──!」

 

「レオナさん!?」

 

 野性的な感を発揮したか、咄嗟にリクの前に出たレオナへ鉛の死神が襲い掛かる。

 胸を突き息が詰まるような衝撃を受け、勢いのまま吹き飛びうつ伏せに倒れた彼女からは血溜まりが少しずつ広がり始め、流れ出す赤は遺跡の砂を黒く染めていった。

 

 

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