ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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14話 荒野の遠足(ピクニック) 3

 

「ちょっと嘘でしょ!?」

 

「レオナさん! しっかり──」

 

「オイオイオイ、ちゃんと野郎の方を撃てよな」

 

 二人がレオナへ走り寄ろうとしたその時、荒野に下卑た声がいくつか響いた。

 音程に差こそあれど、そのどれにも品の無さが感じられる。

 

 声のした方へとリクが振り向くと、大きな瓦礫から四つの人影が現れた。

 油断なくリクたちへ向けられた銃口。砂と裂傷を避けるための厚手の服に、モンスターの爪牙を防ぐ為のプロテクター。

 その後方には装甲を増設された荷台付きのトラックと、その背に鎮座する重厚感溢れる機関銃。

 紛れもなくハンターだった。

 

「お、おれはしっかり狙った。そ、そしたら、あの女が、ガ、ガキを庇いやがったんだ」

 

 狙撃銃を構えた男が吃音交じりに言葉を発すると、他の仲間たちが笑っていく。

 

「ったく、使える女が一匹減ったじゃねえか」

 

「あ……あんたは!?」

 

「ギルドの……!」

 

 鼻の目立つ男がリクたちを指差すと、それに応えるように大柄の男が銃を突き付けていく。

 

「オスガキの方も使えるだろ? あの死体だって腐るまで楽しめそうだからいいじゃないか。ひひ……」

 

「はぁ……やっぱり普段と違う事するとこうなるんだな。おい、死体と野郎の方はお前にやるからそれで満足しとけよ? 節操無しが。メスガキの方は俺らのもんだ」

 

 リーダーらしき男──ハンターよりも女のヒモか食い物にしてそうな男が、甚振る様な目つきを向けていた。

 

「ヘマした二人は俺の後な。それまで壊れた女でも使っとけ」

 

「り、了解」

 

「分かってるよ」

 

「ひひ……楽しみだなぁ」

 

 鼻につく粘ついた気配が、その視線だけで少年たちに伝わっていく。

 

「クソッ、逃げてルゥ!」

 

「で、でも! ……起きて! ねぇ起きてよ!」

 

 咄嗟に判断するリクと、動揺して動けずにいるルゥ。

 混乱したルゥがレオナを起こそうとするものの、手で抑えられた胸からは血溜まりが作られていく。

 その瞳も虚ろに宙へと向けられたまま、時折チカチカとかすかな光を返すのみ。

 

「おーっと、動くなガキ共。動けば頭が吹き飛ぶぜ」

 

 四つの銃口を向けながら、ゆっくりと近づいてくる男たち。

 

「う、うわあぁぁぁ!」

 

 それに呼応する様にリクが構えた瞬間、バーンッと長い発砲音が耳をついた。

 構えられていた狙撃銃から鉛玉が吐き出されると、少年の銃だけを的確に撃ち飛ばしたのだ。

 衝撃と手から伝わる痺れに苦悶を浮かべるリク。

 

「っ……!」

 

「リク!?」

 

「う、動くなと、い、言っただろうが!」

 

「次はねえぞ、大人しくしとけよクソガキ」

 

 鼻の目立つ男と大男も、リクたちに向け引き金に指を掛けている。

 このままでは自分たちがどうなるかは、彼にも簡単に想像がついていた。

 生と死、どちらの未来にしろ碌でもないのは分かりきっていて、それでもどうにかしなければならないのも、どうにもならない事も理解していたのだろう。

 まだ幼さの残る顔を歪めると、痛みと悔しさに歯軋りをするリクだった。

 

 砂と埃臭さにまみれたエントランス。そこに混じる僅かな血生臭さの中、近寄ってきたリーダーの男が、レオナを遠巻きに観察しては身勝手な不満を零していく。

 

「あ~あ……本当に惜しい事したなぁ。これなら幾らでも楽しめただろうに……」

 

 その瞳に唾棄するべき物が見えてしまったのか、ルゥは無意識の内に離れようとした。

 だが男が逃がさぬとばかりにその腕を掴むと、彼女の手から銃を取り落とし二人へと宣告する。

 

「まぁ、その分は頑張ってくれよ? この女はお前らの代わりに死んだんだ。なら、お前らがこの女の代わりに俺らを楽しませてくれないとなぁ?」

 

「ひゃははは!」

 

 下種な言葉に下卑た笑い声を重ねながら、男たちが愉悦に身を委ねようと二人に近づいていく。

 恐怖と絶望に支配され始めた二人には、それに抵抗する手立ても思い浮かばなかった。

 

 己の誇りの為に命を投げ出す事は、言葉にするほど容易く出来る事ではない。

 そこには間違いなく壮絶な苦痛と恐怖が同居しているのだから。

 さりとて未熟な自分たちが逆襲できるのかと問われれば、そんな事を何の根拠も無く確信できる程に二人は己惚れてもいなかった。

 

「いや……いやぁ……」

 

「……ごめんなさい……レオナさん……!」

 

 少年の口から、輩の少女の心まで代弁する言葉が零れ落ちる。

 力なく閉じられた少女の瞼には、大きな雫が満ちていた。

 そして四人の襲撃者が死体から注意を外したその時、

 

『銃口及び視線が外れたのを確認。対象からの警戒ゼロ。チャンスです』

 

 音の無い声が、その主へと届けられた。

 

 ──ガガガガンッ!

 

 刹那、50口径とそれに見合った火薬の爆ぜる音が四つ、間髪入れずに轟き渡る。

 

「ギャッ!」

 

「ガッ!?」

 

「グヘァ!!」

 

 そして襲撃者三人が弾けるように倒れ伏していった。

 三者三様に、胸を穿たれ、腹を撃ち抜かれ、あるいは頭蓋と脳漿を飛び散らせている。

 彼らが最後に残した物は、その顔に張り付けた驚愕のみであった。

 

「ぐああぁぁぁぁっ!!」

 

 そして最後の一人、リーダーの男も大きな悲鳴を上げる。

 それも当然の事で、男の右手は肘から先が消え失せていたのだから。

 

「てっ、手が……俺の腕があぁぁぁ!!!」

 

「な、なに!?」

 

「一体どうして……!」

 

 苦痛に喘ぎ、地に落ちた己の腕を見て叫ぶ男。

 助かりはしたものの、何があったのかと困惑するリクとルゥ。

 それぞれに混乱する三人に向けて、どこか呑気な声が傍らから投げられた。

 

「……どっこいしょっと。別に謝らなくていいんだけどね」

 

「レオナさん!?」

 

「レオナ!?」

 

「それより二人とも、さっさと銃を拾って構えた構えた。遠足は帰るまでが遠足なんだから油断しないの。ほらほら早く早く」

 

 声の方へと驚きながら振り向く二人。

 彼らの視線の先には、胸を撃ち抜かれた筈のレオナが何事も無かった様に立ち上がろうとしていた。

 

「あんた生きてたの!?」

 

「はーい、生きてますよー。っていうか生きてたも何も死んでないし。勝手に殺さないでくれる? アタシ百歳まで生きるつもりなんだからさ」

 

『重度の外傷と疾病を考慮しなければ、更に生命活動を維持可能です』

 

「いやいや、そんなエルフみたいに生きたいわけじゃないって」

 

 軽口のやりとりと立ち上がったその姿に、信じられない物を見たと驚愕するリク。

 ルゥもまた似た物を浮かべていたが、それ以上に目に入る光景に安堵を見せていた。

 

「でも一体どうやって……」

 

「そうよ、あんなに血が出てたのに……」

 

「てめぇ……なんで……!」

 

 驚く三者がそれを言葉として示すものの、答えとして返ってくるのは一つしかなかった。

 

「確かに撃たれたけど、別に胸に穴なんか開いてないしね」

 

 ほら、と見せたレオナの胸には、ある筈の大穴はどこにも見当たらない。

 青いバリアスーツが血に染まっていたものの、今も彼女の体から血が出ている様子はなく、むしろ何の変哲すらなかった。

 

 ただ一つ、かすかに獣の毛と尻尾らしき残骸がある事を除けば。

 

「撃たれた後にネズミを握りつぶしてたんだ、血糊の代わりにするためにね。お陰で食材が無くなっちゃったよ勿体ない」

 

「よ、よかったぁ……」

 

「二人が居なければこんな小細工しなくてよかったんだけどね。でもまぁ、アタシがやりあってる間に二人が撃たれるのもいい気分しないからさ」

 

「そうだったんですか……」

 

 二人が息を合わせる様に、安堵からくる物を吐きだしていく。

 

「馬鹿言ってんじゃねぇ……こんな近距離で食らって平気なプロテクターなんて……!」

 

「馬鹿も何もあんたが見てる通りだってば。すごいよね、未来のスーツ」

 

『矢でも鉄砲でも、対物ライフルでも持ってこい』

 

「でも大砲だけは勘弁な、ってね」

 

 ツゥっと男へ見せつける様にスーツを摘まむと、指を離すレオナ。

 パツンと肌を叩きながら戻ったそれは、狙撃銃の一撃を受けた痕跡すら残っていなかった。

 

『ですが頭部に銃撃を受ける可能性を考慮するとあまり褒められない方法です。推奨、ヘルメットの装備』

 

「……当たっても平気なの見つかるかな?」

 

「クソッ……! クソッ……! なんなんだよお前は……!?」

 

「アタシが何だっていいでしょ。それよりあんたもハンターだよね? こんな事しといてどうなるか分かってる? ん?」

 

 報いを受けさせるべく、音がする程の勢いで銀の牙が突き付けられる。

 

「ま、待て……撃つな、撃たないでくれ……!」

 

「あんたジョークのセンスないね。撃たれたのに撃ち返さない馬鹿がいるわけないでしょ」

 

「頼む……! そうだ……俺の拠点に金がある、換金してない遺物もだ! 全部やるから勘弁してくれ! ここで俺を殺したらそれだって手に入らないぞ!? お前らにも関わらないって約束する……だから!!」

 

「ふーん…………血止めしてあげる。その代わり嘘だったりレイダーかモンスターの所に案内したら生きたままそいつらの餌にしてあげるから」

 

「レオナさん!?」

 

「そんな奴を信じるの!?」

 

『非推奨。禍根は残さず潰すべきでは?』

 

 驚きと戸惑いを見せる一行へ、レオナは笑みを見せるだけ。

 それ以上何も喋る事なく男へ包帯を巻き、ついでに拘束も施していく。

 そして男たちの戦車に乗り込むと、時折脅しながら荒野を進んでいった。

 

 リクたちがそれに不審な視線を投げかけていたが、レオナの事を信じる他なかったのか、疑問符を浮かべながらも反抗する様子はない。

 

「……レオナさんどうしたのかな?」

 

「……わかんないわよ。撃たれたせいで頭がどうかしちゃったのかしら」

 

「聞こえてるよー? それに当たったのは胸なんだから頭がどうにかなるわけじゃないでしょ、失礼な」

 

 漏れ聞こえた二人の声に答えたレオナの目が、荷台へ繋がる窓を向いた。

 

「ちょっと気になる事があってね、それ確かめたいの」

 

「……気になること? なによそれ」

 

「今あれこれ言ってもしょうがないから、まずはこいつのねぐらに着いてからだね。飛ばすから捕まっててよ?」

 

「分かりました」

 

 会話を切り上げる様にハンドルに腕を伸ばしていくレオナ。

 エンジンが唸りを上げると、荒野に黒煙を吐き出しながら戦車は更に進みを速めるのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一行はターマの町から少し離れた所にある廃村に着いていた。

 家や畑であった物も朽ち、生活道具や家財も持ち出されていたが、三人を襲った男たちは無人となったこの廃村を拠点としていたらしい。

 

 男を連れて建物の中に入ると、その言葉が間違いではないのだろうと分かる光景が広がっていた。

 彼らに持ち込まれたのだろう家財に食料と酒。漁った後、売りに出されてないだろう遺物に、壁面には剥ぎ取ったのだろう装甲片等がいくつも飾られていた。

 しかし、何よりもレオナの目を引いたのは、奥へと続く物々しい扉だった。

 ここにある物の中でも異彩を放ち、真新しい鉄材に幾つもの南京錠という組み合わせで閉じられているそれ。

 

「リク、こいつお願い。何か変な動きしたらその場で殺していいから」

 

「分かりました」

 

「レオナ、わたしは?」

 

「リクと一緒に居て。でも油断しないでね」

 

 レオナから託されたリーダー格の男を押さえつけると、リクは手にした銃を突き付けていく。

 それを横目に入れながら、ルゥもまた弾を詰め直していった。

 二人に任せたレオナがそっと扉へ近づいていく。

 

「……音は無し。ミラ、中は見れる?」

 

『スキャン開始……動体、1。ですが横になったまま大きな動きはありません』

 

「分かった。ねえ、鍵はどこ?」

 

 レオナの視線に男がビクリと身体を震わせる。

 男は、今下手を打てばどうなるかはよく承知していた。騙し討ちをする術がない事も。

 そして命乞いに成功している以上、この場は従うのが最も安全だとも理解していた。

 

「そこの机の中だ。まとめてある奴がそうだ」

 

 レオナが男の言葉通りに鉤を見つけると、一つ一つ取り出し錠前を外していく。

 開けた扉の先はベッドに椅子、そして採光用の小窓のみといった狭い部屋。

 しかしベッドの上には、手錠のみを付けた女が横になったまま、身じろぎもせずに虚ろな瞳を宙へと彷徨わせていた。

 その周囲にはいくつもの女物らしき服の残骸があり、彼女一人が此処に居たわけではない事を物語っている。

 

「……ミラ、この人分かる?」

 

『検索、該当有り。ターマ・ハンターギルドの受付嬢ヴィネット。先日マキノより伝えられた人物です』

 

「んー、やっぱりか」

 

 レオナが一人、納得した様に頷いていく。

 その女の名前こそ憶えていなかったが、レオナも何度かギルドで顔を合わせた相手だ。その表情には何とも言えない感情を覗かせている。

 

 先程の戦闘で死んだふりをしていた時に聞こえた男たちの会話。

 そこに男たちの毒牙にかかったのであろう存在を聞いた時、レオナの中に疑問が生まれていた。

 ハンターにしろレイダーにしろ、襲撃者の殆どは金目の物か食料を奪うために狙いを定めてくるのが常である。襲った相手に女が居れば都合がいいという程度の物だ。

 

 無論の事、女だけを狙ってくる者も居るが、それをするのにわざわざハンターを狙うのは効率が悪すぎる。

 トレーダーにしろ町の人間にしろ、襲い易い相手はいくらでも居るのだから。

 

 そしてマキノから聞いていた、彼女の同僚が姿を消している事。

 最後に会ったと思われる相手が顔の良いハンターだと言う事。

 始めから女を狙ってきた襲撃にしては、これを常套手段にしていないらしいチグハグさ。

 その答え合わせとしては、結果は上々と言えるのだろう。

 

 レオナがベッドに近づいていく。

 だが、虚ろなままの女は微動だにせず、その息遣いもか細く儚い。

 周囲やシーツには暴虐の跡が色濃く残り、痛めつけられたのだろう傷の手当もされないままであった。

 

「……どう?」

 

『体温、脈拍低下。その他、生命活動に著しい問題あり』

 

 添えられたレオナの手から読み取られ、淡々としたミラの診断が告げられる。

 

「町まで保ちそう?」

 

『否定。現在もバイタル低下中。医薬品も足りない為、応急処置は困難」

 

「…………」

 

『鎮静剤を用いた延命も可能ですが、あまり効果は期待できません』

 

「……そっか」

 

 小さな呟きと同時に女が咳きこんだかと思うと、吐息に赤いものが混ざり始めていた。

 ほんの僅かに眉を寄せ、一度瞬きをした後、いつもの物に戻るレオナ。

 

「ルゥちゃん、ちょっと銃貸して。アタシのだとちょっとさ」

 

「え? いいけど……はい」

 

「ありがと。でもこっちには来ないでね」

 

「う……うん……」

 

 部屋の中から顔を出すと、ルゥから拳銃を受け取っていく。

 そしてゆっくりと照準を定めると、迷うことなく引き金を引いていった。

 

 外から風が入り込む以外には物音一つしない静かな部屋。その静寂を破る様に、パンッという小気味のいい音が一つ響く。

 それを最後に、部屋からは一切の音が失せていった。

 

「おやすみ。辛かったかもしれないけど、天国でゆっくりね」

 

 誰にも聞かれる事の無い優しい音。

 哀れな女へと贈られた言葉は、どこまでも寂しそうに空気の中へ溶けていった。

 部屋の中で全てを終わらせると、レオナは二人の下まで戻っていく。

 

「ありがとね、リク。適当にお金になりそうな物見繕ってていいよ。帰る時に使うから車の荷台に乗せておいてね」

 

「は、はい」

 

「ルゥちゃんも一緒に行っていいよ。後はアタシがやっておくから」

 

「わ、わかったわ……」

 

 どこか気圧されている二人へ、レオナは気遣う様に儚くも明るい笑みを向けていく。

 そして男の方へ向き直ると、リクたちに向けていたのとはまた違う物を見せていった。

 それは雌獅子の獰猛さを宿した、恐ろしいまでに凄艶な笑み。

 

「……か、金はあっちの棚に──」

 

「うるさい」

 

 短い言葉と共に男の膝が前に曲がる。

 しなやかな足に膝頭を踏み抜かれると、不格好な人形の様にその場で崩れ落ちる男。

 それを冷めた視線で見送りながらレオナは更に近づいていく。

 

「もう一本いこうか、どうせもう要らないでしょ」

 

「ま、待って──」

 

 ボキっと骨が砕けた音が響くと共に、男の口から悲痛な呻きが上がる。

 次いで肘、肩、と間髪入れずに砕いていくと、更に男が絶叫していく。

 

「助けて、助けてくれるって!!!」

 

「血止めしてあげるって言っただけだよ。あんたを助けるなんてアタシは一言も約束してない。それにさあ……こんな事しておいて、のうのうと生きていけると思ってたわけ?」

 

「たす、け……ぐふ……っ!?」

 

 言葉は遮られ、その口に銃身が捻じ込まれていく。

 

「こんな体でこんな世界に生きててよく分かるよ、あんな目に遭いたくないって女の気持ち。ついでに言えば好きな男と結ばれたくなるのもね。まぁ、こっちはアタシには実感ないけど」

 

「ひが……まっへ……」

 

「だけどお前はそれを全部踏みにじった。それも自分たちの欲望の為だけに。酷い事するのは妄想の中だけにしましょうって習わなかった?」

 

「んーーっ!」

 

 更に奥へと捩じ込まれると、辛うじて回っていた舌もその役目を果たせなくなっていた。

 

「好きに生きるって事は、自分で自分のケツ拭く事になるって事も分かるでしょ。あんたはこれからそのツケを払うの。よかったね、最後にあんたが楽しみにしてた女の顔が見れてるんだから」

 

「ん゙ーーっ!! ん゙ーーーーっ!!!」

 

「何言ってんのか分かんないからもういいや。じゃあね」

 

 バンッと再び破裂音が鳴った。

 欠けたマリオネットの糸が切れると、吹き抜ける隙間風が鉄の匂いを静かに運んでいった。

 それを一瞬だけ見送り、何かを落とす様に肩を回していくレオナ。

 

「ん~……まぁ、マキノちゃんに教えられるくらいにはスッキリ出来たかな」

 

『ベストだったと断言するのは難しいですが、最善を尽くせた物と思われます』

 

「そうだね。ありがと、ミラ」

 

 その後、一通り戦利品を漁った二人が戻ってくると、レオナたちは最後に一仕事をしてから帰路へ着いた。

 遠ざかる車の背後では昇る炎が哀れな者への鎮魂に燃え上がり、天高く黒煙を吐き出していくのだった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「ほらほら、もっと焼いてよマスター」

 

「うるせえ大人しく待ちやがれ。うちは焼き鳥屋じゃねえんだぞ」

 

「え~? おつまみ用の鳥肉沢山持ってきてあげたんだから感謝してよ」

 

「いきなり持ち込んだのはお前だろうが。わざわざ焼いてやってるだけ感謝しろ!」

 

 それから数日後。

 ターマの酒場には今日も陽気な声が上がっていた。

 普段の夜よりも混みあった店内では、それぞれに酒と肴に舌鼓を打っている。

 その中でカウンターに居座るレオナとマキノが、グラスを交わしながら喉と瞳を潤わせていた。

 

「ありがとうございました、レオナさん」

 

「ん? あ~、お礼なんていいよ。ついでに……っていうか成り行きで見つけただけだし」

 

「でも、その成り行きがあったからです」

 

「じゃあお礼の代わりにもう一杯どうぞ。嫌な気分はお酒で飲んで流しちゃおう、安物だけど」

 

「おいコラ」

 

「事実じゃん。それよりはーやーくー、焼き鳥ちょうだいってば」

 

「チッ」

 

 レオナの態度に悪態を返すものの、それ以上言い合う様子はない。

 その証拠に店主が手早く肉を焼く手は動いたままだった。

 もっとも其処にあるのはレオナへの気遣いでは無く、格安で良い鳥肉──エコーバードの肉を仕入れられたからであったが。

 店の為になるのであれば大抵の事には目をつぶるのも、また経営者の条件とも言えるのかもしれなかった。

 

「それじゃ、え~と……ヴィ……ヴィ……あの子に献杯」

 

『ヴィネット』

 

「ヴィネットさんですよ」

 

「あ~、そうそう、それそれ」

 

 静かにグラスを傾けていく二人の女。そこに悲哀こそあれど、悲壮感や憂鬱さはない。

 あくまでも自然な、当たり前の日常の一部。

 死した人間へ何の気なしに杯を掲げる光景もまた、この荒野の現実だった。

 

「そういえばあの二人はどうでした?」

 

「ふたり? 誰だっけ?」

 

「リク君とルゥちゃんですよ。もう酔っちゃったんですか?」

 

「あー……あー、はいはい。まぁ何とかなるんじゃないのかな? 知らないけど」

 

 グイっと飲み干すと、すぐさま二杯目を注いでいくレオナ。

 隣から呆れた声が聞こえたものの、今更なのか、そちらもグラスに手を付けていった。

 

「依頼受ける前にも言ったけど、そもそも教えるとか分かんなかったしね。とりあえずアタシが気をつけてる事を言うくらいしかできなかったと思うよ。だけどまあ、あの二人に駄目そうな雰囲気とかはなかったし……でも強い人や有望そうな子だって何があるのか分からないからなぁ、ハンターなんて。いや、むしろこの世界がか」

 

「適当ですねぇ、レオナさん」

 

「だからそう言ったじゃん。アタシ適当だけどいい? って」

 

「それは聞いてないです」

 

「あれ? じゃあ今言ったって事で」

 

「もう……」

 

「でもま、案外悪くないんじゃない? ほら」

 

 カランと出入り口のベルが鳴り、一組の客が現れた。

 まだ年若い、酒を嗜むには早くも思える少年と少女の二人組。

 リクとルゥである。

 

「マスター、これ頼まれてた物です」

 

「確認したらライムジュース貰える? お代は報酬から引いておいて」

 

「ああ、ちょっと待ってろ。おいレオナ、お前のもんなんだから自分で焼いとけ」

 

「はぁ~? 客にやれっての? ひっどい店だね」

 

「一々焼きがどうのとうるせえんだよお前は。コンロ貸してやるから好きに焼いて食ってろ」

 

「はいはい、わかりました」

 

 それで決着を見たのか、レオナが若干ふらついた足取りでカウンターへと回っていく。

 立ち昇る肉の焼ける匂いを皮切りに、各自が思い思いに過ごし始めていった。

 マキノが静かに飲み、レオナがそれに絡み、若きハンターたちは小さな成功を噛み締める。

 時折、共通の話題が出ては笑いと酒にかき消され、夜はゆっくりと、だが確実に更けていく。

 

「そういえばリク、あの車はどう? ちゃんと使えてる?」

 

「はい。ちょっとアクセルが踏みにくいんですけど重宝してます」

 

「あはは、そればっかりは背が伸びるまで我慢かな」

 

「でもレオナ……さん。あれって本当にわたしたちが貰って良かったの?」

 

「お? ルゥちゃんどうしたの? アタシにさん付けだなんて。もっと小生意気な感じだったじゃん、無理しないで戻していいよ?」

 

「なっ……! 折角人が気を遣ってるのに!」

 

「あはは、ゴメンゴメン」

 

「あんた適当に謝れば済むと思ってるでしょ!」

 

「まぁまぁ、そんなに怒んないで。ほら、焼きたてどうぞ」

 

 プンスカと擬音が付いていそうな少女へと、出来立ての焼き鳥が差し出される。

 むしろ口にねじ込むと入ったほうが適当かもしれない。

 

「むぐっ!? ……()()()ひゃ()しのひへ(きげ)ん──」

 

「あっはっは! 何言ってるか分かんないや。弄り甲斐あるねー、ほんと」

 

 満面の笑みでレオナが実に愉快そうな声を上げると、それに釣られるように周囲へと笑いの輪が広がっていく。

 そんな中、ルゥだけが一人憤怒に燃えていた。いつかこの女に吠え面をかかしてやると。

 その手から焼き鳥を手放すことはなかったが、強くそう誓っていた。

 

 

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