ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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16話 怪しげな依頼 2

 

 気を取り直し意気込むレオナではあったが、すぐにどうにか出来る当てがあるわけもない。

 とりあえず手早く片付きそうな依頼をこなしては、砂煙の中で遺物を探す日々が続いていた。

 無論の事、徒歩で。

 

 当然、一攫千金や修理に使える様なパーツが見つかる事は無く、ただ時間が過ぎるばかり。無理のない範囲で歩ける場所では、モンスターにしろ依頼にしろ大した報酬が得られる事もなかった。

 目につく遺跡もどれもが漁られきった後。ガラクタや鉄クズすら残っていない。

 

 そんなこんなで数日経ったある日。

 町の雑踏の中、レオナは重苦しい息を吐き出していた。

 

「はぁ……参ったなぁ。まさか此処に来たばっかりの時みたいになるなんて」

 

 いつもより若干覇気がないのは、単純な疲れだけではなく精神的な疲れもあってだろうか。

 

『金銭的な余裕がない以上、贅沢は慎むべきです。提案、三等室への移動』

 

「却下。何が悲しくてゆっくり寝られない毎日に戻らなきゃいけないかな。もう目を開けたら汚い顔が目の前にあるのはぜっっっったい嫌だからね!」

 

 レオナの宿の三等室、あるいはそれと同等の場所では安眠など夢のまた夢である。

 男部屋、女部屋とわざわざ分けられている事はなく、雑多に置かれた寝台で各々が好き勝手に横になっているのが当然だった。

 そんな状態では何をするにもプライバシーは皆無であり、レオナの様な麗しい見た目では体を拭く事すらままならない。

 町の人間にしろ、ハンターやトレーダーにしろ、多少なり余裕がある女であれば個室を選ぶか、無理をしてでも何処かに居を構える事を選んでいた。

 

 稼ぎの心許ない女性が三等室を選ぶ事もあるにはあったが、大抵は娼婦に身をやつしている者か、その一歩前まで来ている者が客か寄る辺の男を捕まえる目的。それ以外は、もう本当に後がなくなってしまった者のみだ。

 

 目覚めた当時のレオナは、その一番最後に当たる。

 何も持っていなかった彼女が選べたのは、野ざらしで砂塵とモンスターに怯えるか、雨だけは凌げる中で男に怯えるかの差のみだった。

 今でこそ女としての自覚が諦めと共に芽生え、自身が男にどういう目で見られるのかよく分かっているものの、その頃は生きる事で手一杯だった上に、見ず知らずの男に襲われるという恐怖も上乗せされていた。

 

 如何にその身が人を凌駕して居ようとも、内に宿る物まで理外の存在になった訳ではない。

 トラウマとはいかずとも、レオナが強く嫌がるのも無理はなかった。

 

 もっとも、相応の報いを受けた男たちの山は堆く積まれる事になっていたが。

 

「車さえあればなあ……そしたらどうとでもなるのに」

 

 頭を抱えながら弾くそろばんには、今日の稼ぎとおよそ掛かる修理代をどうにかする見込み。

 当然ながら、良い顔色になる材料は一つもない。

 

「戦車譲ったの失敗したかな……。いやでも、あの時いらないのは本当だったし……」

 

 溜め息と共に零れたのは、リクたちと出会う切っ掛けになった時の騒動。不逞ハンターから巻き上げた武装トラックは二人に譲っていたのだ。

 

 まだ駆け出しも駆け出しだった彼らには、当然ながら遠出できる戦車など持っている筈もない。

 それ自体はハンターとして通過儀礼の様な物だ。

 地道に金を貯める中で力や知識を付けていき、一歩一歩、一人前への階段を上っていくのが、生き残ったハンターの大半が歩んできた道程であった。

 

 そんな二人へ半ば気まぐれで大きなプレゼントを贈っていたのは、レオナの記憶にもまだ新しい。

 

『提案。リク及びルゥへ車両の返却か貸与を頼んでは如何でしょうか』

 

「無理無理絶対できない。あれだけ格好つけてあげたんから。 二人の門出だからね、アタシからのプレゼント──だよ? 今更バイク壊れたから車貸してだなんて言えるわけないじゃん。アタシのイメージぶち壊れまくりでしょ」

 

『疑問。貴女の事をよく知る彼らにその様な幻想があるとは思えません』

 

「なんだとぉ……!」

 

 後悔が先に立つ事もなく、過去の行いも変える事は出来ない物だ。

 そしてその時よかれと確信した行動に後からケチを付けるのもまた違う物だろう。

 だがそれはそれとして、今のレオナにとっては頭の痛い問題が降りかかったままであった。

 

 陽も暮れ始めた中、町行く人々が立ち止まって頭を悩ませるレオナを目に留めていく。

 ある者は雑踏の一風景として、ある者は胡乱気な視線を投げ、ある者は美しくも艶めかしい姿に鼻を伸ばし、またある者は鼻を伸ばした後、誰かと言う事に気付いて顔を青ざめさせては足早に去っていった。

 そんな時、ふとレオナに声が掛けられる。

 

「むぅ~……」

 

「失礼、ちょっとよろしいかしら?」

 

「……ん? どちら様?」

 

 思考の海から帰還したレオナに見えたのは、一見して権力者の妻か愛妾とでも表せそうな身なりの黒髪の女。どこか陰のある顔と深い知性を窺わせる瞳からは、ただ生きてきたというだけではない風格が滲んでいる。

 しかし、この場に一人で居るのが似つかわしくない佇まいはどこか警戒心を抱かせる物があった。

 

「少々お頼みしたい事があるのですけど……」

 

「何かあるならハンターギルドにお願いした方がいいんじゃないかな。それか歓楽街の元締め辺りにね。あなたの場合は町のお偉いさんのが早いかな? まぁ、どれにしろ個人に持ち込むより話が早いと思うよ」

 

「いえ、貴女に──レオナさんに是非お願いしたいのです」

 

「……おば──お姉さんみたいな人と会った覚えないんだけどな。生憎だけどママ活とかパパ活なんてした事もする気もないし」

 

「ママ……? ごめんなさい、ハンターの流儀には疎い物でして」

 

 牙こそ見せないものの、内に抱いた物を隠す気が無いレオナ。

 怪訝な表情を見せる女性ではあったが、直ぐに気を取り直して艶やかな唇を開いていく。

 

(わたくし)、アイリーン・ローズと申します。ハンターやトレーダーという訳ではありませんが、旅の空を身上としている者です。この場でお話するのもなんですから、何処かへ移動しませんか?」

 

「ごめんね、アタシ忙しいんだ。これから──」

 

「そう仰らないで。食事でもしながらは如何でしょう? 勿論、支払いは私が」

 

「じゃあ行こっか。ターマにはいつから? 余所ってどんな感じ? アタシ良い店知ってるからそこまで案内するよ」

 

『レオナ』

 

 電脳からの呆れた声を他所に、二人は人混みの中を歩いていく。

 向かう先は一軒の食事処。ターマの町の中では上等な部類の店であり、レオナが贅沢したい時に通う場所でもあった。

 そこは遺跡で発見された、当時のまま保存された貴重な食材を使う事もある、この町では数少ないレストランと言ってもいい店だ。

 他の施設同様、元は旧文明期の店舗の遺構をそのまま利用しているのか、店内には壁の罅や穴を補修したと思われる箇所も散見できた。

 

 席に着き注文を終えると、テーブルの下で足を組みながらレオナが切り出していく。

 

「それでローズさんだっけ?」

 

「アイリーンで結構ですわ」

 

「じゃあアイリーン、何でアタシなの?」

 

 訝しむ視線に探る気配を更に乗せ、レオナが目の前の女を穿つ様に見返していく。

 そんな疑惑の銃火を前にしても、アイリーンと名乗った女は動じることなく微笑んだままだ。

 

「そうですね……まず一つに、ここ数年で貴女のハンターとしての評判が耳に入った事。私が調べた限り、依頼に対してとても誠実だそうで」

 

「そりゃ光栄だね。でもさ、自分で言うのも何だけどアタシがやってきたのって大抵は他の誰でも出来た事だと思うよ?」

 

 レオナの声に自慢に思う色はどこにもない。だが、謙遜が過ぎた嫌味という事でもなかった。

 そこにあるのは平和な時代を生きていた人間の仕事に対する責任感と誠実さだ。

 

 それ故か、彼女が選んできた依頼にしろ、ただ荒野へ赴く際にしろ、決して自ら危険な橋を渡ろうとはしてこなかった。

 多少名を成した者に有りがちな、背伸びをして恐ろしいモンスターで溢れる遺跡に飛び込む事も、強力かつ凶悪な賞金首に向かっていく事もない。

 いくら己の身体に旧文明の恩恵があろうとも、乗っているソフトが自分なのだからと、決して彼女の中の分水嶺を越えようとはしなかったのだ。

 

 結果として周囲から聞こえてくるのは、力はあるがやる気のない堅実な女ハンター。

 直にその美しさを使って、有力者の女にでも収まるのだろうと云う物。

 

 何とも的外れな事であった。

 仮に的を射ていようとも、それを選ばなければならない事態になったとしても、当人はアタシが選んだんだから好きにさせろと、周囲のガヤなど気にも留めなかっただろうが。

 

「その当然の事が出来ない人間が多いこと。貴女もご存じでしょう?」

「そこはノーコメントって事で」

 

 肩を竦めておどけるレオナ。

 言葉では濁していたが、それもまたこの荒野の事実だった。

 

 ハンターギルドを介さずに仕事を受けた結果、依頼主と揉めた末に血を見る騒動に発展した例は枚挙に暇がない。

 それ故にハンターギルドと云う物が生まれ、また、ギルドを介した物ですらそれが珍しくないのだ。

 

 それはハンターという人種に──この荒野に生きる人間に備わるバイタリティ故でもあった。

 一寸先は闇。一歩荒野に出ればいつ骸を野に晒そうとも不思議はない。帰ってきた所で、受けた傷が元で明日には死の縁に立っているかもしれないのだから。

 ハンターにしろ、そうでない者にしろ、この地に生きる人間は往々にして死を身近に感じ、その結果を間近で見てきた者ばかりだ。

 

 依頼、商売、そして命。

 彼らが何かの拍子に優先するのは、他でもない自分自身という訳だった。

 無論の事、それが全ての人間に当てはまっている訳でもないのだが。

 

「二つ目は貴女に興味がありまして」

 

「興味? アタシに?」

 

「ええ」

 

「悪いんだけど、アタシそっちのケはちょっと……」

 

 体を抑えながら退く素振り。先程の様におどけているのかと思えば割と真剣そうだ。

 レオナの来歴を考えれば相手が女であったとしても問題は無いと思われたが、今の彼女は既に女の感性になってきている。

 それが意識転送(生まれた)の時からなのか、生きていく中で体に引っ張られたのかどうかは知る由もないが、どうであれ今のレオナに同性愛の類を受け入れるつもりはなかった。

 

 その気の無い男が同性に言い寄られて引く事は不思議ではない。それは女同士であってもだ。

 偏見を持たない事と受け入れる事は同義ではなく、レオナにとっては己の心情がハッキリしない内にナニをするつもりはないという事であった。

 そんな彼女に返ってきたのは何とも愉快そうな声。

 

「ウフフ……そうではなく、貴女が女性の身でありながらとてもお強い方だという意味で興味がありますのよ」

 

「ああ、そういう事。確かに他の女の人よりは腕力あるかな」

 

 自身の秘密をさらけ出す気は無いと、曖昧な表情でイエスでありノーでもある答えを返していくレオナ。

 

「他にも細かい事はありますが、そう言った理由でこうして貴女にお頼みしています。ご理解いただけたかしら?」

 

「とりあえずはね」

 

 小さく頷くものの、レオナは完全に納得した訳ではないと言外に伝えていく。

 とは言え、全てを疑い跳ね除けては話の一つも前に進む事はなく、それは廻り廻って自らの首を絞めかねないとも理解していた。

 ついでに言うならば、今の彼女にとって儲け話は大歓迎である。

 

「で、アタシに何させたいわけ?」

 

「受けていただけます?」

 

「中身によるかな。アタシが気に食わない物ならお断り。付け加えるなら、聞いた後に後戻りできないとか言うんだったら代金払って帰ってもらっていい?」

 

「その心配はいりませんわ」

 

 クスリと笑うと、他に聞かれたくはないのか、先程より声を抑えてアイリーンが続ける。

 

「貴女に依頼したいのはターマから南に在る遺跡の探索。それなりに距離はありますが、車で半日程にある場所です。そこに保管されている遺物をお持ちいただきたいのです」

 

「遺物? 指定するって事は物が分かってるんでしょ、だったらどんな物か教えて。それは言えないとかも無しだよ、人の手で運んでヤバい物はいくらでもあるんだから」

 

 レオナの脳裏に過ぎるのは、過去の時代、人類が生み出した科学と欲望と悪意の数々。

 この時代にその毒性が全て失われているはずもないだろうそれらを警戒するのは、彼女にとって至極当然な思考だった。

 

『私が製造された頃を鑑みても、過去の放射性物質や核廃棄物の半減期は全て過ぎていない筈です。また、その他劇物も現在まで残っている可能性は高いでしょう」

 

 そこにミラからも念を押されていく。

 当然、レオナもそれは十分承知していた。何せ状態さえよければ、当時の食料ですら問題なく食べられる程なのだ。

 一概に同じではないにしろ、食材よりも遥かに自然劣化がし難い物であれば尚の事である。

 

「ええ、それもご心配なく。探していただきたいのはこちらです」

 

 レオナに負けず劣らず豊かな胸元から取り出されたのは一枚の写真。

 そこに写っていたのは、何かの延べ棒の様な金属の塊であった。

 

「何これ? 何かのインゴット?」

 

「ある特殊合金です。勿論、貴女が危惧している様な毒性はありません。食欲旺盛な方には別かもしれませんけど」

 

 クスリとした笑いがレオナの少し手前、テーブルに並ぶ注文の前に落ちていった。

 遠慮なく頼んだのか、届いた皿が幾つも並び湯気を立ち上らせている。

 

「いくらなんでも金属なんて食べたりしないってば。それで、これをその遺跡から持ってくればいいわけ?」

 

「その通りです。それ以外に見つかった物は貴女のお好きにしてくださって結構ですわ。ただし、目的の物だけはこちらに」

 

「ふぅん……」

 

 写真を手に取ると、ジッとそれを見つめている。

 

「いいよ、受ける」

 

「ありがとうございます」

 

『警告。依頼内容には不審な部分があり、受ける仕事として適当ではないと思われます』

 

 電脳の声を他所にレオナは頷いていく。

 しかし、ただ唯々諾々と引き受けた訳ではなかった。

 

「他にも知ってる事あるんでしょ? 全部言って。でないとこの依頼は無かった事にするから」

 

「あら、どうしてかしら」

 

「物も場所も分かってるなら自分で取りに行った方が早いでしょ。そうしないって事は誰かに頼まなきゃいけない何かがあるってこと」

 

「……ウフフ、流石ですわ」

 

 微笑みながら小さく手を鳴らしていくアイリーン。

 レオナの目には、その笑みがどこか人を食った様な物に見えていた。

 

「目的の遺跡があるのはニズカーサと呼ばれる場所。大昔の基地とそれに付随した工場なのですが、内部にロボットやモンスターが徘徊する危険な場所でもありますわ」

 

「ロボット? そんなのがいるの?」

 

 驚きからか眉を上げ、レオナが窺うように尋ねた。

 

「ええ、旧時代の物がいくつか。そのせいで並みのハンターでは手も足も出ないという訳です。とはいえ、腕が立つような方にお願いするのは実力以外の面で不安が残ってしまいます。ギルドを通すのも同じ理由」

 

「なるほど。手つかずの遺跡だけど業突く張りが出てくるのも困る訳だ。でもその辺の雑魚じゃ話にならないから、腕はあって依頼者を裏切った事のない相手を探していたと……」

 

「付け加えるなら依頼の報酬を抑える事が可能な評判の、ですね」

 

「そこはあんまり応じる気はないけどね。それで条件は?」

 

 話を詰めるためか、顔を間近で突き合わせる二人。

 艶とした女の声が、凛とした女の耳に落ちていった。

 

「成功報酬で200000クレジット。先程申し上げた通り、依頼の物以外は貴女の好きにして頂いて構いません」

 

「随分美味しい話だね、ありがたくて涙が出そうかも。でもそっちの旨みが全然なさそうだけど?」

 

 あまりに都合のいい話に怪しんでいるのか、声量を落としながらも問い詰める音に変わっていく。

 だが、アイリーンの微笑が崩れる事はない。

 

「それだけ目的の物がこちらにとって価値ある品だと思ってくだされば。合金の数は全部で五つ。全てお持ちいただけない場合は一切払えませんのでご注意を」

 

「……」

 

「それでよろしいかしら?」

 

 店の喧騒の中に訪れる静寂。

 しかし、それもすぐに破られる事になった。

 

「オーケー、交渉成立ってことで。さて、話が済んだ後はゆっくり夕食としようかな」

 

「ええ、ごゆっくり。支払いはしておきますので後はお願いいたします。それと此方は目的地への地図です」

 

 最後は打って変わって陽気になるレオナ。

 地図と差し出された手を受け入れると、久しぶりの温かいご馳走へと向き直っていく。

 彼女の手に残る指先の感触は、どこか冷たい物だった。

 

 




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