ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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18話 遺跡探訪 ニズカーサ基地 2

 

 砂塵の下、地下深く。

 そこは地上の大半と同様に、とうに人の気配がなくなった静寂の支配する世界。

 命無き人形が己の役目だけを果たしていた場所に、どういう訳か静謐を破る音が生まれていた。

 

「ねぇミラ、この基地って元々地下に作られてたのかな?」

 

『推測。風化や荒廃こそ見られますが、崩落の痕跡は見受けられません。データが無いので推測止まりでしかありませんが、地上部とは別に防空壕や地下司令部として建設された物かと』

 

「なるほど。それで上にあった基地か何かはドカーンと吹き飛んで、ここだけが地面の下に残ったと」

 

『その後、砂が堆積していき現在に至ったものと考えられます』

 

 ニズカーサの中、レオナはある一室で床に座っていた。残っていた金属製の机を背もたれにし、天井を見上げている。

 その視線は天井の先にある砂の大地を透かし見るように、或いはもっと先へ向けられている様にも見えた。

 

 ──タタタタタッ。

 

 そんな中に割り込んでくる乾いた連続音。

 だがそれを気にする事もなく、レオナは手の中で愛銃を弄り続けていく。

 

「そのせいでロボットなんかもずっと放置されてた訳だ。まぁ、人命じゃない上に代わりが利く物なら無理に掘り返そうともしないか」

 

『地上部が残っていればあるいは。限定的ですが設備や電源が今も生きているとなると、世界が滅びた直後の人類の避難場所や拠点となっていた可能性もあったでしょう。残念ながらそれは叶わなかったようですが」

 

「何にしろ放棄する前に全部綺麗にしておいて欲しかったな。アタシが動きやすかっただろうし」

 

『数十年か数百年以上先の人類を考慮する事はないのでは? それと会話もよろしいですが」

 

「はいはい、分かってるって」

 

 マガジンを取りだし、手早くリロード。スライドを引いてコッキング。

 一連の動作を終わらせると、レオナは静かに腰を落とし両足を屈めていった。

 豊かな胸元に"荒鷲"が構えられると、その頭上を通り過ぎて行く小さな何か。

 壁に当たり、チュンッと飛び散った火花が小さな模様を描いていた。

 

「……ほんと、仕事熱心だね」

 

「けけ、ケイ、警こ──入しゃ、しゃを発け──」

 

「令にに、従わな、なな────はは、ハ──砲が──」

 

 レオナの潜む机の反対側、入り口から顔をのぞかせるのは基地に遺された警備ロボットたち。

 ノイズ混じりの警告と同時に両腕の銃身から鉛弾が打ち出されては、深淵の中を音で彩っていく。

 

『彼らの存在意義からすれば当然の対応ではないでしょうか』

 

「どうせなら自己否定に目覚めて欲しいね。それで残業なんか放り出して欲しかった──っと!」

 

 軽快なやりとりに鋭さが混じると、鉛の雨が途切れた瞬間を狙い、机から金の雌獅子が飛び出していった。

 レオナが地を蹴ればその身は天高く舞い上がる。

 視界に捉えるは三機。強化された肉体とそれを支える電脳が瞬時に獲物を見定め──。

 

(手足を撃っても仕方ない、狙うのは制御ユニット! ……ってどこ!?)

 

「──あぁもう分かんないから頭! ついでに薄そうな所!」

 

 刹那にも満たない逡巡と投げやりな決断。

 それでも引き絞られた銀の牙からは、閃光と共に弾丸が放たれる。

 速射による人力三点バーストが一体の頭部を貫くと、落下が始まる前に別の機体へ照準を合わせ、再び撃鉄が落ちた。

 

 それは正に雷光の如き早撃ち。

 一瞬にして二体の頭が撃ち砕かれ、その身を停止させている。

 しかし、残った一体がそれで怯む事はない。

 すぐに狙いを付け直し、空中で無防備な姿を晒す目標へと鉛弾を浴びせていく警備ロボット。

 

「ったく、危ないなぁ!」

 

 だが、それは全て外れていた。否、外されていた。

 天井を床の代わりとし、地に向かって天から跳ねれば、銃弾の雨は虚空を切り裂いただけ。

 一瞬の攻防。

 再び地面に舞い降りたレオナがすぐさま身を低く構え直すと、今度は獣の様に飛びかかった。

 

「よい……しょお!」

 

 再び向き直ろうとするロボットの先を取り、そのままタックル。

 組み付いた後、100kgを越えるであろう重みなど物ともせず、勢いをつけながら体を一回転。強烈な遠心力と共に頭から壁に叩きつけていった。

 重量と加速に比例した、聴く者が眉を顰めそうな破壊音が木霊していく。

 

『カウントは取りますか?』

 

「これで要ると思う?」

 

『否定。当該機の通信途絶、機能停止を確認。ノックアウトです』

 

「観客かチャンピオンベルトでもあればよかったのにね」

 

 すくっと体を起こしたレオナは、何てことの無い様子だった。かすり傷一つ負ってはいない。

 しかし投げっぱなしジャーマンで叩きつけられた警備ロボットはというと、頭部はひしゃげ、受けた衝撃で胴体にまでめり込んでいる。

 これがもし生身の人間であれば、首が折れたどころでは済まない有様だった。

 

「う~ん……これで何体目だっけ?」

 

『7体目です。侵入地点でやり過ごしたのを含めれば、合計10体の警備ロボットとの交戦を行っています』

 

「また多いね。それにしてもロボットばっかり。こんな所までリストラの余波が来てるのかな?」

 

 戦闘後の弛緩した空気が周囲を包み、レオナは緊張と小さな疲れを吐息で逃がしていく。

 その一方で、先程の部屋も忘れず探索していった。

 

 朽ちたテーブルに古ぼけたキャビネット。錆び付いたロッカーに、書類か何かだった跡が残されたままのデスク。

 ありとあらゆる場所を探し、目的のインゴットが転がっていないかを確かめていく。

 ついでとばかりに、懐を温める為の遺物も取りに戻れる様にとマーキングだけはしっかりと付けていた。

 

「それにしても残念。折角銃無しで倒せてきたのに記録が途切れちゃったし」

 

『疑問。そもそもその様な記録を狙う意義が見出せません。貴女には安全な戦闘をするという認識がないのでしょうか?』

 

「戦闘に安全も糞も無いと思うけどね。それにしょうがないじゃん、弾の節約しないといけないんだし」

 

 ミラの声がいつになく棘のある様子なのは、恐らく先の戦いよりも前を見ていたからだろう。

 基地内部に入りこんだ後、敵に見つからぬ様、慎重に慎重に探索をしていたレオナ。

 だがしかし、見つかる前にしろ見つかった後にしろ、先程の一体にした様に徒手で立ち向かっていたのだ。

 

 それはレオナが言ったように銃弾の節約という理由でもあったのだが、それ以上に妙なこだわりを以てやっているというのが幾分正しかった。

 基地に潜入したらCQなんとかか、なんとかアクションで素手でやってく物でしょ、とは本人の弁。

 

『それについては否定しません。ですが──』

 

「はいはい、分かったから。ちゃんと使う時は使うから安心してってば」

 

 言葉を遮ったのは、この問答も何度目かになる事に飽きたからだろう。

 溜め息の代わりにビープ音が鳴らされるものの、レオナがそれに構う事は無い。

 彼女が部屋の中を検める間も通路の更に奥からは警備ロボットの駆動音がかすかに響いてくる。

 基地の広さに相応しているのか、少なくない数の機体が存在している事だけは間違い無さそうだった。

 

 全てをやり過ごすのは現実的ではなく、また、全てを相手取るのも非現実的な事だ。

 そしてその度に銃弾を消耗していては本末転倒。いくらレオナが準備してきたとはいえ、終わりの目途が立つ前から全てを浪費する訳にはいかないのだから。

 それ故のCQB。己の腕力が通用する事を考慮しての徒手戦闘だった。

 そこを決定的に違えていないのだから、ミラもそれ以上は何も言わず主の判断に任せる事にしていた。

 小言を忘れないのは、レオナの生命を守り、彼女を支援するのがミラの存在意義だからであった。

 

「それよりミラ、これどうする? 試しに覗いてみる?」

 

『否定。既に大破、機能停止している為アクセスは不可能です。事前に駆動部だけを停止させて欲しいとお願いしていた筈ですが』

 

「気軽に言ってくれるなあ……そこまで余裕ないってば、もっとイモムシみたいな雑魚ならともかくさ。こいつら結構硬いんだよ?」

 

『ですが動力やCPUが破壊されていない物でなければ、警備ロボットにしろコンピューターにしろアクセスはできません」

 

「そりゃそうだけど。……いっそハッキング終わるまで抱きついてみる?」

 

『非推奨。負傷の危険性、大」

 

「だよねー…………しょうがない、次行こうか」

 

 破壊する事になっているのはどちらかと言えばレオナが熱くなって忘れるせいであったが、態度で余裕を見せている程、実際の戦闘にそこまで余裕がある訳でもなかった。

 確かにレオナは只の人間が敵わぬ領域に足を踏み込んでいる。

 だが、決して無敵でも超常の存在ではないのだ。

 

 分厚い鉄板や大地を拳で割る事が出来なければ、その身一つで宙を飛び続けられるわけでも無い。

 杖を振るって不可思議な魔法を唱えられるわけでも無ければ、その手から放つエネルギーで星を壊す事も出来はしない。

 あくまでも人の身に人の魂。人間と云う枠組みを超えてはいないのだから。

 そしてそれを超える為にスーツや銃を始めとした装備があり、それを理解した上での戦いであった。

 

 再び通路へと戻れば、ゆっくりと奥へ進み始めるレオナ。

 暗闇と埃に満ちた静寂の中でかすかな音を聞き分けると、電脳からの警告と同時に駆け出していく。

 

『警告。前方に敵影有り』

 

「一気に行く!」

 

「──てて、停し、しし」

 

 暗闇の先から現れたロボット。その場で警備に勤しんでいたのか、それとも哨戒にあたっていたのか。

 だがレオナを見咎めると、即座に火線を開いていた。

 

『推奨、退避』

 

「出来る場所なんてないでしょ! 」

 

 ミラが銃撃をやり過ごす事を提案するも、レオナが居るのは長く続く一本道。彼女の言葉通り、隠れられる壁も逃げ込める部屋も見当たらなかった。

 両腕を顔の前にかざし、頭を庇いながらそのまま全力で駆けて行き、放たれる弾丸を避ける事無く進んでいく。

 

「──あいたたた!?」

 

 レオナの胴体と腕へ一斉に当たる鉛の雨。だが、そのどれもが彼女の身に着けるバリアスーツを貫くには至らない。

 もっとも、全ての衝撃を無効化できている訳ではない様だが。

 さながら豆を投げつけられる青鬼である。

 

「ったいなぁもう! 痣になったらどうすん……のっ!!」

 

 しかし、それでも大事には至らない。

 銃弾の中を突破したレオナが"槍"となって警備ロボットに組み付くと、タックルした勢いのまま壁へと叩きつけた。

 鈍い衝突音が通路に木霊する。

 だが、頭部など重要な部分は無事なのか、未だ機械人形は動きを止めていなかった。

 

「ミラ! 腕とかタイヤ壊せば良いんだよね!?」

 

『関節部への攻撃を推奨』

 

「了解!」

 

 体勢を立て直そうとする警備ロボットにレオナが飛びつくと、両腕の死角になる様に背後を取っていく。

 藻掻く相手を抑えながら腕をねじ上げると、装甲の薄いジョイントに銃口を突きつけ、

 

 ──ガァン! 

 

 トリガーが引かれ銃声が響くも片腕を壊すには至らない。だが一発だけで終わりではないと、続けざまに通路へ轟音が満ちていく。

 数度の銃撃を以てようやく一本。それでも止まらず残った片方も捻り上げると再びの銃声。

 先程と同じ光景が繰り返されれば、鈍く重い音の後にロボットが両腕とも失っていった。

 

「はいはい、よいこはお休みの時間だよ、っと」

 

 抵抗の術を失った機械人形を蹴り倒すと、今度はタイヤの接合部に全力の踏みつけていく。

 脚部が歪んでしまえば、ロボットは走る事も立つ事もままならない。

 銃さえ要らぬとの判断。荒野の世界で培われた経験は、どこまでも冷静な物だった。

 

「こんなもんでどう?」

 

『脅威の排除を確認。そのまま押さえつけてください』

 

「はーい、了解。ごめんねロボットさん、頭の中の妖精さんが乱暴しろっていうから」

 

『否定。その表現は誤解を招く為、訂正を求めます。ですがそれよりも接触を」

 

「はいはーい」

 

 倒れ伏し動けなくなった警備ロボットがビープ音を響かせている。

 そこにレオナが遠慮無く踏みつけると、そのまましゃがみこみ手で触れていく。

 

『これよりハッキングを開始します。ですがその前に忠告を。過度の被弾はスーツの使用限界を超える可能性があり、スーツ自体の耐久性を損なう事にも繋がります。また、無敵と絶対という言葉は存在し得ません。貴女のポリシー同様、過信は禁物という事をどうか忘れない様にお願いします』

 

「はーい……気を付けます」

 

 それと同時に、電脳より真剣な言葉が贈られていた。

 元が自身の強引な突破であり、そして自分の命を心配をしているのだと承知しているからか、レオナもそれ以上言い訳はしなかった。

 

 触れた指先と手の甲がほんのりと光り、ナノマシンの僅かな発光がアクセスの成功を告げている。

 レオナの視界が僅かにチラつき、そして目の前に展開されたARウィンドウがハッキングの進捗を伝えていた。

 

『ロックを破壊──防衛プログラムの停止に成功しました。データの吸い上げまで残り60秒。しばらくそのままでお願いします』

 

「はいはい。……さっきからはいはいばっかり言ってるけど、チャーン、とかバブーって言った方がいいかな?」

 

 何かをぼやく様に呟くと、直に何でもないと頭を振り天井を見上げていった。

 レオナの目に埃とカビにまみれたコンクリートが映る。珍しくカビが繁殖しているのは、残されていた水気や閉鎖された空間の所為だろうか。

 だが、そこにあるのはただそれだけ。荒廃した現実の中にある、過去の時代を映した光景だ。

 僅かな間に思い起こすのは遠い昔。彼女の元居た世界だった時代。

 

(…………皆とっくの昔に死んじゃってるけど、どんな生き方したのかな。寿命? それとも病気? どっちにしても、コールドスリープなんかの実験に手を上げるのはアタシくらいだったか。死ぬものかと思ったら成功しちゃった挙句にこれだもんね。人生何があるのか分からなさすぎでしょ)

 

 自重気味に漏れた笑いは誰の元に届く事なく、静まりかえった空気へと霧散する。

 それと同時に、視線も再び地面へ下ろされて行った。

 そこにあったのは懐古の情ではなく、現実を睨む猛禽の眼。

 ただ前を──自分が進んでいかなければならない場所を見据えていた。

 

『データ転送が終了。お待たせしました』

 

「どの位掛かるのかと思ってたけど、案外短かったね」

 

『今に関して言えばこの機体の情報を取り出しているだけですので。この基地に遺されたサーバー等になると更に時間を要します』

 

「もし見つけてもやる前に安全確認しとかないとね。お約束でしょ? ハッキング中に敵兵が入ってくるとか」

 

『叩くキーボードもストレージデバイスも必要ありませんが』

 

「便利さと浪漫は等価交換かぁ……」

 

 カチャカチャターンってやりたかったな、と、ぼやくレオナが立ち上がる。

 警備ロボットは既に機能停止しており、わずかに空転する壊れたタイヤが音を奏でるだけ。

 それを少しだけ哀しそうに見る主へと、電脳が変わらぬ調子で報告を行う。

 

『ハッキングで得られた情報をお伝えします。予め言っておきますが、あまり成果はありませんでした』

 

はじめてのおつかい(ハッキング)は失敗ってこと?」

 

『否定。初めてではありません。ですが説明の前にまずはこちらから』

 

 ブン、とレオナの視界に映される一枚のARウィンドウ。映っているのは何処かの地図。

 それはニズカーサ内の見取り図だった。

 周囲から更に奥まで表示されているのを見て、レオナが不思議そうに眉を上げていく。

 

「これって地図? なんだ、成果あるじゃん。でもこの赤い点は……」

 

『基地内に残っている警備ロボットです。この機体がリンクしていたネットワークを傍受しました。接続されていた限りの機体を探知できていますが、完全なリアルタイムとは行きません。予期せぬ動きやネットワークから切り離されている機体の有無に留意してください』

 

「やるじゃんミラ。支援AIの面目躍如って感じ」

 

『ありがとうございます』

 

「それでこっちの離れた場所のマークは?」

 

 レオナの興味が移ったのは、現在いる通路ではなくその更に奥側にマークされた一角だ。

 敵機を示す赤いマークではなく黄色く光るそれ。何か特別な意図がなければこの様にはならないだろう。

 

『そちらは──』

 

「ちょっと待った! 自分で考えたい。……この基地の重要区画! 司令室とかサーバールームとか!」

 

『肯定。依頼されたインゴットの所在は不明ですが、まずは基地内を把握、或いは掌握する方が早いと判断しました』

 

「よっし正解。どうよアタシの推理力は」

 

『問題として出した物でも無ければ、話の流れから殊更難問ではなかったと思われますが』

 

「ぐぬぬ……!」

 

 電脳の返答に拳を作るが、言われた事が真っ当なのも確かなのだろう。

 軽く息を整えると、レオナは再び目の前に浮かぶ物へと向き直っていった。

 

「それにしても結構な数居るね。全部倒すとなるとちょっと大変そうかな」

 

『あくまで自己診断プログラムに依って近くの機体と情報交換しているだけの物です。これまでの様に戦闘になったとしても、その場の敵機を倒してしまえば事が済むでしょう』

 

「そうだといいんだけど。それで、これだけ分かって何が()()()成果が無いの?」

 

 レオナが心底不思議そうに尋ねていく。

 

『データベースの更新が出来る物と期待していましたので。……残されていたデータから、この機体が稼働して10年程。恐らく基地に遺されていた全てが似た様な物と推測します。その他詳細なデータは破損したのか不明ですが、今の私のデータベースにある土星三号がロールアウトされた時期が20年程前。新型の開発や配備等を考慮した結果、データとの空白に然程年月は経過していないと思われます」

 

「つまり?」

 

『大破壊と呼ばれる事象は、私という存在(プログラム)が作られてからあまり間を置かずに起こったのでしょう。もっとも、世界が滅びた後に何十年以上経っているかは不明ですが』

 

「ん~……まぁ、10年でも100年でも、1万と2000年でも気にしても仕方ないかな。もう起こっちゃった物はどうしようもないし」

 

 レオナは、肩を竦めながらあっけらかんに答えた。

 それは彼女にとって自身と相棒の過去がどこまで昔の事なのか、大破壊という物が何時、何故起きたのか気にはなるものの、それが現状を打破するのに役立つ事ではないからだ。

 過去は過去。現在(いま)現在(いま)。遥か過去から、本来の己よりも未来の技術で生まれたのが自分なのだ、と。

 その身に宿る物は過ぎ去りし日の記憶。されど、荒野で刻んだのは明日を掴むための一歩。

 ならばそれで構わなかったのだ。

 

『そのポジティブさは失わない様に。遺物同様に得難い物でしょう』

 

「今は大体の人がそうでしょ」

 

『肯定。いえ、否定はしませんと言い換えます。今の世界にもそうではない人間は居ますので』

 

「ちょっと、アタシが馬鹿みたいに言わないでくれる?」

 

 レオナのぼやきに、言葉ではなく電子音と視界に浮かぶスタンプで返答が行われる。

 それはいつものやり取り同様に小気味良い物であり、それが聞けたレオナは笑みと共に踵を返していた。

 

「さ、まだまだ見てない所はあるんだし、突っ立ってないで先に進まないとね」

 

『肯定。ですが一つだけ注意を』

 

「何? トラップでも見つけた?」

 

『そうではありません。あくまで先程の機体にという注釈は付きますが──』

 

 ミラの報告へ耳を傾けながらレオナが歩を進めていく。

 暗がりの中へと消えてゆく金獅子の姿を見送る物は居ない。残されたのは沈黙した機械人形だけ。

 

『モンスターとの戦闘記録、つまり未確認生物と接触したログは確認されませんでした。どうかより一層の警戒を』

 

 

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