ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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6話 レオナとミラ

 

「う~ん……ミラ、そっちでなにか見える?」

 

『否定。この距離では動体を検知できず。スナイパーライフル、もしくは望遠鏡の使用を提案」

 

「今度探してみるかぁ」

 

 ターマの町から離れた荒野の高台。

 様子を窺うレオナの視線の先にあるのは薄い黄金色をした地平と廃墟群だった。

 崩壊著しい、朽ち果てる一歩手前の建造物がいくつも立ち並ぶそこは、かつては町か住居の集まる場所だったと思われる。

 

 こういった場所はレオナたちハンターにとって、旧文明の遺物を漁れる場所の一つとして重宝されている。

 そしてターマの町の様に、人々の新たな居住地候補としてもだった。

 だが、それは危険が付きまとわぬ楽な場所という事では、決してない。

 

 今回彼女の受けた依頼は、トレーダーと呼ばれる荒野の旅商人からの物。

 新たなキャンプ地として調査されていた遺跡──廃墟群近郊で確認されていたモンスター、スナイモムシの掃討だった。

 

「出来ればどれくらい居るか確認してからの方がよかったんだけど……まぁ、行くしかないか」

 

『提案、装備の購入を目的とした一時帰還。期限は設定されていない為、時間的な問題はありません』

 

「面倒臭いからパス。それに市場にあるかも分からないし、見つからなかったら燃料無駄にするだけじゃない」

 

 再びバイクに跨ったレオナが、砂混じりの風を全身で浴びながら溜め息を吐いた。

 全身を覆う薄手のボディスーツは弾丸と同様に砂を全て弾くものの、蓄えられた金髪に纏わり付いていくのだけは防げなかった。

 

「帰ったらシャワー浴びないとなぁ」

 

『提案。散髪、あるいはフルフェイスタイプのメットの装着』

 

「却下。折角の髪なんだしこうして伸ばして見せてる方がいいでしょ」

 

 入り込んだ砂を払う様に両手で長い後ろ髪を梳くと、どこか自慢げな色で答えたレオナ。

 

『何が()()かは分かりませんが、異性の目を惹く為という事でしょうか』

 

「アタシがいいの。それに折角こんな美人なんだから、それ相応の見目で居るのは当然だと思いませんこと?」

 

 今度はオホホと演技染みた高笑いを上げ、顔を天に向けて嘯き始める。

 しかし、そこへミラの不可視のナイフが抜き放たれた。

 

『二年前の発言を再生。なんでアタシが男を喜ばせなきゃいけないんだ。以前の発言と合わせて矛盾の発生を確認」

 

「……誰だって成長っていうか、変わってくって。それに色仕掛けの事なら意味合いが──」

 

『胸部および臀部の成長を記録。成人直前の設定で作られた端末としては脅威的です』

 

「そういう事じゃない!」

 

 ミラの言葉が刺さると、レオナの頬が僅かに赤くなっていった。

 覚えた気恥ずかしさを振り払う様に、視線を向かう先へと逸らしながらアクセルを回していく。

 

「もういい、さっさと仕事! 帰ったらシャワー浴びて寝る!」

 

『了解。作戦は?』

 

「高度な柔軟性を持って臨機応変に」

 

『行き当たりばったり』

 

 返事はエンジン音だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 荒野に遺された廃墟は、その寂しさを増すように静かな風が通り過ぎる音だけが支配していた。

 時折混じる瓦礫の崩れる音が、静謐とも言える静けさの中に唯一響いていく。

 

 そこには何者の気配も、息遣いすらもないかに思われた。

 しかし、一棟のビルの裏手へ視線が向かったのなら、その考えが誤りだと誰もが気付けた事だろう。

 

 影の中、蠢く音と共に何かを貪る様に地に這いつくばっている生物の姿。

 スナイモムシと呼ばれているモンスターである。

 それも一匹だけではなく、周囲の物影にも同族と思われる姿が垣間見えていた。

 

 どうやらトレーダーたちが調査した時とは打って変わり、この遺跡はスナイモムシたちの住処とされてしまっている様だった。

 そんな虫の巣になった廃墟群を、隠れるようにして静かに観察していた存在がひとつ。

 

「近づいてみれば居るわ居るわ。見える限りで十体……多めに見積もって十五って所かな。どっちにしても多いなあ」

 

『弾薬の消費が懸念。ワンショットワンキルでも予備の消耗が著しく、その後の継続的な戦闘が困難になります』

 

「これの弾高いしね。威力は折り紙付きだけど」

 

『骨董品や粗悪品ではない武装が手に入ればいいのですが』

 

「いつか言ってたSF銃(遺物)? でも中々見つからないしねぇ。誰かが見つけても大体お偉い連中が買いあげちゃうし」

 

 レオナとその頭部に潜むミラだ。

 スナイモムシから隠れて様子を窺うと、見えた数に更なる追加を見積もっていた。

 地中に潜る事は無いモンスターだったが、それでも見通しがよくないこの廃墟の中ではどれほど潜んで居るかはハッキリとしない。

 しかし依然として冷静に、むしろ余裕があるという程に彼女は落ち着き払ったままだ。

 

「ま、どうせ雑魚なんだしパパっとやっちゃおうか」

 

『了解。戦闘支援を開始します。表示と音声による警告の切り替えはご随意に』

 

 油断はしないが、宣言通り楽な相手という事なのだろう。

 相棒の声と共に愛車を離れ、更には拳銃を抜きもせずにゆっくりと歩いていくレオナ。

 途中、拳大の瓦礫を掴んだかと思えば大きく振りかぶっていき、

 

「ピッチャー第一球……投げましたっ!」

 

 未だ己に気が付かぬモンスター目掛けて、全力で投げつけた。

 強化された肉体による投擲。女の細腕どころか、その道のプロでも到底投げられないだろう速度で瓦礫が放たれる。

 放物線ではなく一直線の軌跡を描きながらスナイモムシの一体に命中すると、乾いた破砕音と共に肉の破裂する音が周囲へ響いていった。

 

 それが死んだのかと確認するまでもなく、レオナは更に別の個体へと振りかぶっていく。

 

「次!」

 

 まるで砲弾と見間違うばかりに凶器と化していく石の塊。

 瓦礫の大砲が叩きこまれる度、異形の肉が体液と共に散乱していった。

 

『ターゲット、マーク完了』

 

「よいしょぉ!」

 

 視界に示された光点目指して、レオナの手から放たれる投擲は止むことを知らない。

 

 再び剛速球が命中すると、瓦礫はスナイモムシの胴体を突き抜け、その後ろにある壁と共に破砕し砂を巻き上げた。

 

「ストラーイク!」

 

『申告。デッドボール』

 

「審判なんていないでしょ、もういっちょ!」

 

 そんなやりとりが繰り返されながらも次々と投げつけられる瓦礫。

 その威力は、着々と数を減らしていたスナイモムシへ更なる恐慌をもたらそうとしていた。

 

 音に驚き、何事かを窺うように顔を出す個体。すぐさまその場から逃げ出そうとする個体。はたまた敵の存在を察知し威勢よく体を震わせる個体。

 それぞれに反応を見せたモンスターだったが、それもレオナから更に投げられる瓦礫により、次々とその肉体が挽き潰されていった。

 

 遂には音が途切れ、訪れる静寂。静まり返る一角へと彼女は近付いていく。

 スナイモムシの残骸が無惨な姿を晒すだけだと思われたが、しかし、最後の一体が静かに、だが猛々しくその姿を覗かせてきた。

 

『警告。右方向より接近』

 

「わーお、こわーい」

 

『音声波形に変化無し。発言との矛盾が認められます』

 

「ジョーク分かる癖に野暮言わないの」

 

『ツッコミは重要との認識ですが?』

 

 ミラの警告にも動じる様子はなく、軽口を言い合いながらレオナは悠然と対処していく。

 

 体を振るわせながら、獲物へ噛み付こうと勢いのまま突進していくスナイモムシ。

 当然の如く、その顎は彼女を容易に砕ける大きさと鋭さを持っていた。

 しかし、それが相手に触れる事はない。

 レオナが一息でゆうに数メートルは飛び退くと、必死の突撃もあえなく空振りに終わり、勢いを止められぬ巨体はその先にあった壁へと衝突していく。

 

 それでもなお獲物へと襲い掛からんとするスナイモムシ。

 勇敢な敵を見据えながら、レオナが"荒鷲"を抜き放つ。

 片手に余るほど大振りな拳銃が、鈍色の銃口で獲物を睨めつけた。

 

「バイバイ、ガッツのある虫さん。三分くらい忘れないよ」

 

 直後、響き渡る銃声と共に吐き出された弾丸がモンスターの巨体を穿ち、その体を吹き飛ばしていった。

 後に残るのは風の音。

 静けさを取り戻した遺跡には、異形の骸だけが転がっている。

 

「……もう居ないかな?」

 

『動体反応無し。この場所は安全と思われます』

 

「オッケー、お仕事終了っと。さっさと帰ろっか」

 

 銃把からマガジンを落とし、残弾を確認してから嵌め直すと、レオナが周囲の確認も早々に歩き始める。

 しかし数歩進んですぐ、彼女は振り向き足元に転がっていた物を掴みだした。

 

「おっと、これがあれば弾と燃料の足しにはなるか。お肉も食べられればよかったんだけど」

 

 銃の代わりに手に収まったのは、倒したスナイモムシの顎。

 その鋭さから刃物などにも流用され、町でも需要が見込まれている物である。

 

 他のモンスターであっても同様に、食料として、あるいは部品として利用する為、それらを持ち帰るのがハンターの収入源の一つだった。

 

 荒野に生まれたモンスターが人を襲い、荒野で生き延びた人間がモンスターを利用する。

 何とも皮肉ながら、それがこの時代、この荒野での新たな理だった。

 

『警告。その物体に食料として必要な成分が見つかりません』

 

「それは知ってるって。砂と石の味で食べられたもんじゃなかったし」

 

『味の問題ではないかと』

 

「味の問題でしょ?」

 

 経験から零したレオナだったが、その時を思い出したのだろう。苦虫と砂を同時に噛み潰した様な顔になってしまった。

 嫌な物を忘れる為に首を何度か横に振ると、彼女は愛車の元へ歩いていく。

 そのまま町へ帰ると思われたが、ふと足を止め、廃墟を見上げていった。

 

『何かやり残しがありますか? それとも探索を?』

 

「そうじゃなくて……」

 

 静かな瞳に、遠く過去へ思いを馳せるような色を浮かべ、

 

「今更だけど、寂しい光景だなぁって」

 

 そう呟いた後、更には遠くの空へと視線を向けていく。

 

「アタシが生きてた時代よりもずっと凄かったんだろうにこんなになるくらい昔に滅んじゃって。……本当なにしたんだか昔の人──じゃない未来の人かな? ま、どっちでもいいか」

 

 一転して苦笑と共に肩をすくめると、再び彼女は歩き始めた。

 

「何だろうが知ったこっちゃないよね。救世主でもなければ竜退治に飽きる事もなかったし、汚染水を浄化しなきゃいけない訳でも、子供を探す因縁がある訳でもないんだから」

 

『質問。その例はなんでしょうか? 過去に貴女が行ってきた事ですか?』

 

「昔そういうフィクションがあったの」

 

 そして鉄の馬に跨るとアクセルを一吹かし。

 鋼鉄の車体から響いた嘶きと共に、荒野の中を突き抜けていった。

 

「あー……やっぱり無理この臭い。安物のガソリン擬きはだめだね。いっそどこかの工場でも探し出してアタシだけの物にしてみようか」

 

『推奨、粗悪品への順応。無主かつ今も健在な物を探すのは極めて困難。方針の転換をお勧めします』

 

「食べ物はマシな物探せって言うくせにこいつ……」

 

『バイクの燃料と違い、食物は貴女の生命維持に極めて重要な要素です』

 

「はいはい、考えときます」

 

 過酷な世界で、そんな他愛の無い会話を交わしながら。

 

 

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