ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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7話 瓦礫の中へ 1

 

 荒れ果てた大地に降り注ぐ陽光の下、どこか軽快な声が響いていく。

 声の周囲には、人と車のどちらも区別無く無惨な屍を晒していた。

 

「はい行くよ、せーの!」

 

「ちょっ!? 待っ──」

 

 背後から男を抱えたレオナが勢いよくその背を反らせていった。

 どこかから歓声が上がりそうな程に美しい軌跡のジャーマンスープレックス。

 グシャッという音を最後に男からの反応がなくなると、荒野に咲く一輪の赤い花。それがレオナを襲ったレイダーの唯一残した物だった。

 

 辺りには同じ様な光景がいくつもあり、どうやら彼女がレイダーの集団を返り討ちにした後のようだ。

 

「さーて、それじゃ次いこっか」

 

 腹筋だけで体を起こしたレオナの両眼が、もう一人生き残っていた野盗の男の顔を映していく。

 

「悪かった、こんな事もうしねえ! ハンターやトレーダーを襲ったりなんかしない、大人しく牢屋にぶち込まれてもいい! あんたの手下になったっていい! 靴だってケツだって舐める! だから助けてくれぇぇぇっ!!」

 

 必死の形相で命乞いする男。

 そんな相手を見下すように、レオナは静かに答えていった。

 

「ん~……まぁ、野盗だとか山賊だとかはそんなに気にしてないんだよね。こんな世の中だもん、誰かを襲った方が早いって考える人が出るのは当然だし? アタシも別に荒野の保安官気取りじゃないから、誰かが襲われたって関わりなければご愁傷様で終わらせるし」

 

「なら──」

 

 男の顔が安堵と喜悦に綻び始める。

 しかし、それが浮かべられたのは一瞬だけだ。

 

「でもこっちを襲ってきたなら別。舐められたらいかんって何かで言ってたし、それにはアタシも大賛成。ついでに言えばむさいオッサンにお尻を舐められたくもない。だからご愁傷様。こんな新鮮な肉だーって言ってそうな暮らししてたんだから、それなりの覚悟は出来てるでしょ?」

 

 彼女の態度はどこまでもにこやかな物だったが、そこに一切の慈悲は存在していなかった。

 

「で、技は何がいい? ジャーマン? それともパイルドライバー? おすすめしないけどシャイニングウィザードでもいいよ」

 

「や、やめ……」

 

「ただ、あれってアタシが滅茶苦茶汚れるんだよね、それがおすすめしない理由」

 

「助けてくれええええっ!」

 

『推奨、早期の決着』

 

「オッケー。内なるなんとかがさっさとしろって言ってるから、もう終わらせようか。あれ使ってあげる。愛用の武器だったから嬉しいでしょ」

 

 地獄絵図となったその場に落ちていたのは、パイプを元に作られた粗悪なピストル。

 レイダーによる手製なのか、拙い施条が彫られた銃だった。

 それを拾うとレオナは笑顔を見せながら逆さに持ち、そのまま勢いよく振りかぶって、

 

「そぉい!」

 

「ひでっ──!?」

 

 グリップが男の頭頂に振り下ろされる。

 鈍く乾いた音と共にグリップの大半が男の脳を貫くと、悪漢たちの魂は一人残らず地の底へと連れていかれたのだった。

 レオナはそのまま男だった物を放棄すると、死体が散らばった光景を見回していく。

 

「早めに今日の依頼が終わってラッキーって思ってたらこれだよ。参っちゃうね」

 

『提案。装備品の回収』

 

「ん~、折角だしそうしとくかぁ。あんまり良い物持ってなさそうだけど」

 

 血と脳漿でデコレーションされたガラクタを見やると、その場に捨てていき、辺りを探し始めていった。

 そして数分後。

 

「ほんとだめだこれ、全然使える物ないじゃん」

 

『予想通りではありましたが、彼等の装備品には何一つとして換金できそうな物がありません』

 

「せめて襲ってくるなら良い物持ってきて欲しいよね」

 

『疑問。そもそも襲撃されない方が良いのでは』

 

「それはそうなんだけど、気持ち的に」

 

 大穴の開いたジャケットを摘まみながら、レオナが軽く溜め息を吐く。

 レイダーの着ていた物だったが、彼女のハンドガンに撃ち抜かれ、その下の体ごと無残な姿を残していた。

 他を見てもどれも似た様な状態で、このまま捨て置くより他になく、仕方なしといった様子でバイクの方へと戻っていった。

 

「しょうがない、せめて燃料ぐらいは頂いてこっか。どうせ同じガソリン擬きでしょ」

 

『推奨、品質の確認。粗悪品の合成燃料よりも更に酷い物の可能性があります』

 

「大丈夫大丈夫、どうせトレーダーから奪ったかなんかだろうし」

 

『臭気で確認したくないだけでは?』

 

「バレたか」

 

 バイクの後部に搭載していた燃料ポンプのホースを取り出し、レイダーの車に向かうレオナ。

 トタンやらドラム缶やらを繋ぎ合わせた歪なフォルムのバギーが放棄されていたが、こちらも連中の装備と同様にそこかしこに穴を空けている。

 

「よい……しょっと。それにしてもどうしようかなぁ。今ので結構使っちゃったし、そろそろ弾も補充したいんだけど」

 

 だがそんな事はお構いなしと、レオナが原始的なハンドポンプに力をかけていく。

 少しずつ流れていく燃料が彼女の愛馬の腹を満たしていった。

 

『疑問。迷う理由が見当たりません』

 

「回答。お金が見当たりません」

 

『理解不能。装備補充用の資金は別にしていた筈です』

 

 心底訳が分からないと言葉を放ったミラに、どこかばつの悪そうに視線を彷徨わせるレオナ。

 

「あー、その、ちょっと使っちゃったっていうか。美味しそうだったからさ? ついうっかり頼んじゃったみたいな?」

 

『……』

 

「いやほら! でもあのコーヒーとアメーバケーキは本当に美味しかったし? コーヒーなんて純正品だよ? 何年前のか分かんないけど…………ごめんってば」

 

『推奨、早期の資金確保』

 

「はい、分かってます……」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一仕事を終えたバイクが、風を切ってターマの町へと近づいていく。

 荒野の景色は変わり映えはしない物だったが、それでもその全てが同じと言う訳ではない。

 商業施設だったと思わしきビルや、居住区だったのだろう集合団地といった様々な建物の廃墟。

 巨人が砂浜に突き立てたかのように折れた鉄塔の数々に、砂地と化した道路と無惨な姿になった橋桁等々。

 

 かつて繁栄を謳歌し、今や忘れられた世界となった物が通り過ぎてはまた現れ、そして彼方へと過ぎ去っていった。

 

 そんな折、彼女の脳内から短い声が飛んで来ると、レオナはその問いかけに応じていく。

 

「どしたの? ミラ」

 

『報告。左前方に注目を。遺跡への入り口らしき場所が確認できます。探索を推奨』

 

「どれどれ……?」

 

 ハンターとしての本能か、それとも懐の寒さ故か。

 レオナがバイクを止め、視線をそちらへと向けていく。

 

 そこには崩壊したビルとそれに繋がっていたのだろう高架の跡があり、しかし、それ以上に特段変わった所も見えない。

 彼女にとっては見慣れてしまった風景の一つにしか思えなかった。

 

 離れているとはいえ、それでもターマの近郊にあたる場所。その多くは探索済みで、今更後追いしたところで得られる物は無さそうだ。

 

 レオナはそう頭の中ではじき出した。

 しかし、そんな彼女へ電脳より詳細が伝えられる。

 

『地下へ繋がっていると思われる箇所を認めます。恐らくは最近倒壊した際に露出された物と予測。ですがこの距離では正確に認識できませんので、現地へ向かわれる事を推奨します』

 

「アタシの眼使ってるのによく分かるよね。おんなじ眼の筈なんだけどなぁ? こっちだって遠くまでよく見えてはいるけど、そんなの全然気付かないよ?」

 

 不思議そうに首を傾げるレオナではあったが、その足取り自体に迷いはなかった。

 助言通りに、バイクを高架下へと向けてアクセルを開けていく。

 

『物の捉え方が違うのでしょう。建造物を視界に入れた際、危険が無いと判断した瞬間に興味を失っている様子が記録されています」

 

「無茶言うよね。何でもかんでも穴が開くくらい見てたら疲れるじゃん」

 

『その為に私が居ます。探知及び周囲警戒は任せてください。貴女の視界に限定されますが』

 

「後ろにも眼を増やした方がいい?」

 

 ついでにピキーンって音が鳴る様にも? と続けるレオナ。

 

『非推奨。視界及び四肢の増設は過剰なストレスが報告されています。人間としての基本形状を逸脱した場合、深刻な精神異常を引き起こす事例が認められている為、安易に施術する事は勧められません。また、現在では手術の安全性も確保が不可能。ですが警告音の類であれば今すぐにでも使用可能です』

 

「冗談だって。分かんないかあ」

 

 いつもの様にやり取りをしながら遺跡へ近寄り停車させると、レオナの双眸がビル跡へと向けられていった。

 

 高層部は大きく崩れその形を失くし、基部は支柱が崩れたのか、斜めに傾きながら地面に突き立っている。

 入口代わりに使われたのだろう壁の穴付近には、訪れたハンターかレイダーが残したらしい空き缶や放棄されたと思われる道具が転がっていた。

 それ自体は荒野では見慣れた光景に過ぎない物だ。

 

 だがそこから更に視線を動かしていくと、

 

「おっと、本当だ」

 

 砂と瓦礫で半ばまで塞がれてしまってはいたが、確かに地下へと繋がる穴が見えていた。

 恐らくは地下通路の一端だったのだろうと思われる箇所。

 上に被さっていた高架の瓦礫が崩れた為に、日の目を見る事になっていたのだ。

 

「でもどうなんだろ、先越されてる可能性ない?」

 

『新たな侵入口周辺に生物の痕跡は確認できません、倒壊以前に地下へ侵入したハンターが居た可能性は否定できませんが、推測する限りでは地下への侵入は困難だったと思われます』

 

 レオナの眼前、虚空へとミラによる解析情報が映し出されていく。

 これまでに入り口として使われていたのは2階部分の窓であり、内部から地下部分へと到達できる状態ではなかった様だ。

 外の瓦礫を動かした形跡もないことから、地下通路の探索自体がされていない可能性は高かった。

 

「それじゃ行くだけ行ってみようか。何かあればよし、何もなければその時はその時で」

 

『推奨、警戒レベルの引き上げ。モンスターの巣窟になっている前提で探索するべきかと』

 

「了解。でも忘れてないから大丈夫だって、遺跡はどこもそんなものなんだし」

 

『注意喚起は重要事項の一つです』

 

「指差し確認もした方がいい? ……ヨシッ。それじゃ行こっか」

 

 軽く装備の確認をした後、暗がりの中へと進み始めるレオナ。

 その手には既に銀の光沢を放つ拳銃が握られており、周囲を警戒する様に油断無く構えている。

 崩れた瓦礫を足場にし、慎重ながらも迷いのない動作で彼女が下へ下へと降りて行くと、そこには予想通り廃墟と化していた地階と通路が広がっていた。

 

「中は結構綺麗だね。入ってきた天井はともかく、壁とか床とかさ」

 

『推測。ある程度ですが閉鎖環境にあった為、風化が抑制されたと考えられます。また、入口周辺に敵影及び痕跡は無し。最大の懸念は下水施設の跡などからモンスターが侵入している可能性」

 

「オッケー、とりあえず進んでみよう」

 

 視認できる範囲では特に問題もなく、レオナは更に奥へと踏み入れていった。

 警戒しながらも探索を始めると、中の区分けを見て、どうやらここはデパートか何かだったのだろうと当たりを付けていく。

 

 しかし踏み入れた一画を軽く探るものの、これと言った物資は存在していなかった。

 壁や床はともかく、ショーケースや陳列されていたのだろう物品は大部分が風化や劣化を見せている。

 手に取った途端に崩れ落ちる何かの包装へ、諦観混じりの嘆息が贈られた。

 

「う~ん、駄目そうかなぁこれ。でも何のお店が入ってたんだろ。この感じからするとテナントが小分けに入ってたみたいだけど」

 

『報告。フロアマップの描かれた掲示物を発見しました。確認しますか?』

 

「どっち?」

 

『あちらです』

 

 レオナの眼を通して目的地を指し示したミラ。

 それに従い彼女が近寄っていくと、壁にはどうにか読み解く事ができる状態のフロアマップが残されていた。

 これも全くの無傷とはいかなかったのか、四隅は剥落し、テナント名の殆どが読みづらくなるほど風化している。

 しかしながら、それでも十分な情報が得られていた。

 

「なるほど。他はともかく、こっちは当たりかもね……残ってればだけど」

 

『ですが全てを捜索する手間は省けました。完璧な安全を確保できない以上、物資が期待できない場所等、探索に時間をかけるのは得策ではないと思われます』

 

「それもそうか。ポジティブシンキングで行こう、うん」

 

 レオナの目が泳いだ先には、食料品店や雑貨屋などがあったと思わしき表示があった。

 だが、それ自体はあくまで確認するだけに留まっている。

 

 泳いだ目の落ち着いた先。

 落胆半分、満足半分に呟いた彼女の瞳には、ガンショップ・モリタという文字が映っていた。

 

 

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