ポスアポ世界のお気楽TS娘   作:あるぺん

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9話 お掃除依頼はハンターギルドまで 1

 

 文明が隆盛する前も、その繁栄の頂点にいる時も、それが過去になった後であろうとも変わらない物がある。

 それはこの世から人類全てが滅ぶまでは決して無くなる事は無いのかもしれない。

 生き延びた人間のバイタリティなのか、将又緩やかな滅びを前にした焦燥の発露なのか、ターマの町の歓楽街ともいうべき区画には、多くのハンターやトレーダーが集っていた。

 

 ある者は仲間と酒を煽り、ある者は一夜の女と共に談笑しつつ諸々を食らう。

 またある者は、一人酒を楽しみながら手元の義手を弄り回しては修復を施している。

 

 そしてまた別の一角。

 薄暗い店の中、レオナがテーブルに突っ伏していた。

 

「おいおい、何をそんなへばってるんだよ?」

 

 そんな彼女の頭に掛けられるバリトン。

 声の主はブラッドだった。

 通り掛かった所なのか、その手には薄い琥珀に満ちたグラスが握られている。

 

「ん~? ……なんだブラッドか。用がないならさっさと行って」

 

「ひでえな、折角俺が声掛けてやってんのに。もうちょいと愛想よくして見たらどうだ?」

 

「愛想よくしろって、愛想の意味が違うでしょあんたは」

 

「違いねえや」

 

 視界にも収めたくないのか、レオナは体勢を変えることもなくぶっきらぼうに返していった。

 だが、彼女の反応には構うことなく、向かいのソファに腰をかけるブラッド。

 

「それでどうしたんだ? どこぞの流れもんと揉め事でも起こしたか?」

 

「してない。そんな程度でこんなに凹みもしないし。そもそもアタシがブチ切れる様な相手だったら、今頃そいつの財布で楽しく飲んでるって」

 

「確かになぁ。ん~、じゃああれか、上物と思ったら買い叩かれたか?」

 

「ノーコメント。でも色々厳しいのは否定しない」

 

 レオナの脳裏でそろばんが踊っていく。

 

 先の探索で手に入れた戦利品。トレーダー相手にそれなりに値を吊り上げる心算だったのだが、ショットガンは弾が足りないと言われ、おまけに懐事情まで見抜かれてしまい交渉の主導権を握られてしまったのだ。

 追い打ちとばかりに愛銃の弾の値上がりを告げられると、諸々の補給で足が出そうになる始末。

 彼女の銃と今も広く使われている物では規格が合わず、需要と供給の問題でどうにも割高になっているせいだった。

 

「ギリギリ赤字じゃないけどさぁ……。銃変えようかな……でもこれが一番馴染んでるし……やっぱりもうちょっと本気で働かないとダメか」

 

「おうおう、働け働け。若くて体も動く内にきりきりとやるもんだぜ」

 

『肯定。セクハラ等であまり褒められない男ですが、彼の言い分には同意します」

 

「うるさい。アタシの好きにさせてってば」

 

 二つの言葉に器用に返事をするも、その体が持ち上げられることはなかった。

 どうやらこのままだらだらと過ごす気でいるらしい。

 しかし、それを許すほど甘くもないのだろう。ミラからの追撃が繋げられる。

 

『警告。本格的に財政難です。活動資金調達の必要有り』

 

「面倒くさいなぁ……こんな世の中なんだから好き放題して生きてられればいいのに」

 

『行きつく先はレイダーか賞金首となります。推奨、労働』

 

「お前が賞金首になったら随分高値が付きそうだな。安心しな、そんときゃ仕留める前に楽しませてやるよ」

 

「はいはい分かりました! ちゃんと働けばいいんでしょ! 働けば!」

 

 自棄気味にレオナが顔を上げると、グラスを乱暴に呷っていく。

 そして、飲み込まれていく琥珀色を見ながら、ブラッドが不敵な笑みを浮かべた。

 

「なら丁度いい話があるぜ。財布の軽いお前にとっちゃ悪くない話だ」

 

「一晩付き合えとかだったら痛い方法で念入りに潰すから」

 

「安心しな、真面目な話だ。勿論そっちの方でも頼みたいっちゃ頼みたいが……」

 

「潰す? ねじ切る? それとも大奮発して撃ち抜いてあげようか? 大好きな女の子と同じになれて嬉しいでしょ」

 

 レオナが指で作った銃を向けていく。

 

「待て待て冗談だ。んで、さっきの話だが……ハノンって場所は知ってるな? ここから西に行った所にあった町だ」

 

「あった?」

 

 過去形という事は、何かしらの理由で放棄されたのだろうか。

 レオナもすぐに予想はついたものの、どうにも収まりが悪いようだった。

 

 この世界で町を築くことがどれ程難しい事であるのかは、レオナもよくよく理解している。

 そして、そうまでして作り維持してきた場所を放棄しなければならない事情であれば、それは並々ならぬ理由であろう事も。

 

 愁眉を作り訝し気な声が上がると、ブラッドは鷹揚な頷きで続けていった。

 

「なんだお前知らないのか、この辺りの連中なら大抵は聞いた事あると思ったんだが」

 

「ん~……ないかな。そこまで噂話に興味ある訳じゃないから何とも言えないけど」

 

「五年前に放棄された場所さ。ターマみたいに遺跡を利用して作られた町でな」

 

「五年って……そりゃ知らないか。アタシがこの辺に来て三年くらいだし」

 

「ん? そんなもんだったか? いかんな、年取るとどうも感覚が」

 

「そんなのはどうでもいいから続き。っていうか、年寄りアピールはカマロお爺ちゃんくらい格好いいお爺さんになってからやってくれない?」

 

「分かったよ。ったく、ちっとは年上を敬えってんだ」

 

 ブラッドがグラスの中身を舐めながら、軽くぼやいた。

 しかし、それを意に介さずレオナは先を促していく。

 

「それで、そのハノンって所で遺物探しか墓荒らしでもしようっていうの? あんまり望みなさそうだけど」

 

 副電脳ではなく、脳内で弾いたそろばんにはあまり良い未来が出ていないらしい。

 彼女が口にするのも半ば呆れ混じりの物だった。

 

 確かに遺跡には旧時代の遺物が残っている事がある。放棄された町やキャンプにも、持ち出されていない貴重品や遺品があったりするものだ。

 だが、それは他者に先を越されていないという前提ありきの事でもあった。

 

「だって今更じゃない? 流石に五年も前の事なら幾らでも漁りにいってる連中がいるでしょ。住んでた人にしろ、小銭稼ぎに行ったハンターにしろさ」

 

『付け加えるのであれば、再利用されていた遺跡の物品は全て発見された後と思われます』

 

 ミラからの補足に、レオナも肩をすくめて賛同と諦めを送る。

 

「そうじゃねえ、その辺りにのさばってるモンスターを狩るって話だ。場合によっちゃ寄ってきたレイダーもな」

 

「モンスターを?」

 

 今一度、整った眉が顰められた。

 

「ああ。ハノン周辺での討伐依頼があるんだが、一人じゃ手間がかかりそうだから手伝ってくれる奴を探してたってわけさ」

 

「ちゃんとした依頼なの?」

 

「ギルドを通した間違いなく正当なもんだぜ」

 

「ふ~ん……」

 

 レオナの双眸と電脳からの視線が目の前の男を見据えた。

 映る姿には、悪びれた様子も何かを企んでいる気配もない。

 

 グラスの中身を舐めながらブラッドが続けていく。

 

「最近そこを作り直そうって話が出てるらしい。一から始めるよりかはボロボロになっても町だった場所を利用したほうが楽に決まってるからな」

 

「それはまぁ、確かに。それでその先触れっていうか、下準備にモンスター退治をって話になったんだ?」

 

「そういう事だろうな。もっとも、詳しい事情までは知らねえが」

 

「話としては悪くないか……報酬と取り分は?」

 

「成功報酬で100000クレジット。取り分はフィフティ・フィフティだ。もし人が増えるようならその分均等に分ける。面倒が少ないからな」

 

『悪くない内容と思われますが』

 

 ミラの意見も後押ししたのか、それとも最初から気が変わっていたのか。

 どちらにしろレオナは小さく頷いてみせる。

 

「ま、受けてもいいかな。でも何でハノンが放棄されたのか教えてもらえる?」

 

「構わねえが……それがどうした?」

 

「興味半分、仕入れ半分。手に負えないモンスターから逃げ出したとかなら、そいつがどんな相手なのか知っておかないと危そうだし。町一つで敵わないとかそんなの賞金首レベルでしょ」

 

「ハハッ、そういう事か。なら安心しな。あそこが潰れたのは、モンスターの群れに手を焼いてたらレイダーまで来て手が回らなくなったからさ」

 

「なるほど。結構面倒臭そうな場所じゃん」

 

「当時のままいつまでも溜まってる事もねえだろう。以前近くを通った時はどっちもそこまで見かけなかったしな。だがそれでも少しは辺りを浚って退治しなきゃいけねえんだ、多く見積もるに越したことはねえ」

 

 それで得心したのか、今度は大きく頷いたレオナ。

 

「オッケー、理解した。それで出発はいつ?」

 

「準備を入れて三日後だ。他にも適当に声を掛けてみるが、お前はどうする?」

 

「ハンターの知り合いは居ないしそっちでよろしく。でもあんまり増やさないでね、報酬減るし」

 

「分かってるよ」

 

「それじゃアタシは帰ろうかな。集合は町の入り口でいいよね? じゃあね~」

 

 グラスに残った酒を一息で飲むと、席を立ち上がっていくレオナ。

 そのまま軽やかな足取りで去る彼女へと軽口が向けられた。

 

「"足"は忘れんなよ。無けりゃ乗せてやるが、そんときゃ往復で料金とるぜ」

 

 手で何かを揉む動作を見せつけ、下衆な意味合いが乗せられていく。

 

「ふ~ん……でも随分高くつくんじゃない? その時はあんたの頭ぶち抜いた後で車と報酬貰ってあげるから」

 

 挑発的な笑みと言葉を返すレオナ。

 それが本心で言われたのだろう事は、誰が見ても明らかであった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 それから三日後。

 太陽が空の上へと昇り、地平の彼方に向かって廃ビルの長い影が差していた。

 荒野の上に軌跡が刻まれると共に、一対の砂埃が上がっていく。

 

 少し軽めのエンジン音を響かせながら走るのはレオナのバイクだ。その背に主である金を乗せて、目的地を目指して駆け抜けている。

 その少し後方、付かず離れずという距離にはブラッドの戦車──大型のSUVが続いていた。

 重めの駆動音を轟かせながら、今では追加装甲の鎧と機銃の槍を身につけ、荒れた大地を駆ける軍馬としてその存在を誇示している。

 

『目的地まで凡そニ十分。戦闘開始後、自動操縦に切り替えますか?』

 

「平気平気、まずは運転に集中するつもりだから。それよりこの辺りの地形と警戒ポイントを記録しておいて、帰りに何があるか分からないし」

 

『了解。周辺情報を表示します』

 

 電脳から送信される情報が、レオナの網膜を通しその視界にマーカーと地図が投影される。

 それを見ながらも周囲に視線を走らせていき、油断なくバイクを操っていった。

 もっとも、それは手書きの地図の写しとそれを元に推測された物で、旧文明の遺産であるミラからすれば実に粗雑なデータであった。

 レオナが未だ何かしらのデータベースと接触出来ていない為、それも仕方ない事であったが。

 

 ハンターギルドにある端末は、金銭の保持とそのアカウントの管理しか行えない簡易的な銀行と言った物。地図や情報の提供といったサービスが行える事はない。

 情報の提供自体はあるにはあるのだが、あくまでも聞き取った情報を口頭で伝えたり、今の時代に作られた精度の低いアナログの地図という程度。

 だが、それでもハンターにとっては十分価値のある物ではあった。

 

 そんな中、後方より近付いて来た車からレオナに向かって声が掛けられる。

 

「レオナ!」

 

「なーにー!?」

 

「作戦はちゃんと憶えてるな!?」

 

 エンジン音にかき消されない様、互いに声を張り上げながら確認に入っていく二人。

 手慣れているのは、何度かこうして手を組んでいたからでもあった。

 

「大丈夫ー! まずはアタシが町中をかっ飛ばして釣りだす!」

 

「そしたら俺が蜂の巣にする! よーし、町の手前まで行ったら一度止まってくれ! 合流ポイントを決める!」

 

「りょうかーい!」

 

 会話の終わりと同時にアクセルを開けていく二台。

 ただ踏み固められただけの荒道の先に、朽ち果てた遺跡と新しく建材で補強された建物がいくつか見え始める。

 二人が目指す先、遠目に映るハノンの影が段々と鮮明になりつつあった。

 

『戦闘開始後、ルートの記録及び誘導を開始します』

 

「お願いね、ミラ。数が少ないといいんだけど」

 

『提言。希望的観測、ポジティブシンキングは日常生活の上では歓迎すべき事ですが、戦闘行動においては命取りとなり得ます。想定、モンスターの巣窟。最悪を念頭に行動しましょう』

 

「当たって欲しくないなぁ……でもそれならあっちの機銃が頼りになるか」

 

『高みの見物を?』

 

「まさか」

 

 言い切ったレオナは不敵に微笑む。その目は戦意と興奮で燃えたぎっていた。

 ハノンの外周部付近へと近付くと、二台とも道の脇で停車していく。

 吹き抜ける風を聞きながら、二人の目が戦場となるポイントへと注がれていった。

 

「あの大通り、あれなら回り込もうと考える奴も少ねえだろ」

 

「でも一度に来ちゃうんじゃない? 脇道で逐次引き付けて潰してくとかは?」

 

「頭が回る奴に横を突かれる方が面倒だな。射角を取り直した分の遅れが出るし死角も多い。どっちにしろ最後は動き回りながらぶち殺す事になるだろうが」

 

「それもそうか、了解」

 

 二人の視線の先には車が数台は横に並べるだろう大通りがあった。

 元は旧時代の都市の中心部だったのか、道の両側を廃墟に挟まれ、その間を細い脇道が走り町の中を繋いでいる。

 

「デカいのいるかな?」

 

「大砲が必要になるようなのか? この辺りにゃ居ねえと思うが……ゼロとは言い切れんか」

 

 モンスターの中には堅い甲殻やらその巨体によるしぶとさで、機銃や小銃を意に介さない強者も存在している。

 そういった類と交戦した際に必要となるのが、大砲や歩兵用の対戦車兵器だった。

 

 レオナの"荒鷲"も大半のモンスターには通用するのだが、それでも大砲と比べれば流石に見劣りしてしまう。

 当然ながらそれ自体が貴重かつ高価な代物であり、弾薬を含め、入手するのも運用するのも簡単な事では無かった。

 

「いざって時のモンは一応持ってる」

 

「あっ、そうなんだ」

 

「だがそんなのとやり合っていい事なんざねえし、本気でヤバいのが出たらケツ捲って逃げんぞ」

 

「オッケー。まぁ、そもそもそんなのがいたら町の中ももっとメチャクチャだろうしね。見える限りじゃそんな気配もないし」

 

「だな。それじゃ頼むぞ、俺は通りの手前で待機してる。もし何かあった時もそこまで戻ってこい、援護してやる」

 

 ブラッドの言葉を背に受けながら、レオナが再びエンジンを唸らせていく。

 

「りょーかい! こっち撃たないでよー!?」

 

「ケツと前以外に穴を増やしたくなけりゃしっかり避けるんだな!」

 

 二人が不敵な表情を送ると共に、互いのマシンへと足が掛けられていく。

 排気音と共に砂埃が吹きあがり、遠く廃墟の中では何かの嘶く声だけが響いていた。

 

 

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