神様ってやつがいるとして、そいつは意地が悪いんだろうな。
俺が「ここ」にいる時点で絶対にそうだ。
総帥の演説を聞きながら、そんなことを考える。
俺が「この世界」に生まれてから良いことなんて一つも無かった。
スペースノイドとしてコロニーの片隅に生まれ、ひもじい中でも毎日生きてきた。
だが、両親は俺に関心がなかったんだろう。とある「研究所」に売られたんだ。
その「研究所」でも最悪だった。
毎日薬漬け。変な訓練ばっかりだし、はてにはMSの操縦まで。
ここが「ニュータイプ研究所」だと気づくまでそう掛からなかった。
一応、そういった「記憶」はあるからな。
総帥の演説が終わり、俺達はルナツーに向けて艦隊を進めている。
ダミーの艦もあるが、本当に向こうの連中は気づかないんだろうか?
ヤクト・ドーガのコックピット内で目を閉じ、そんな回想めいたことをしていると、
『何だ、緊張しているのか?』
同じ「ニュータープ研究所」出身のギュネイ・ガスが声を掛けてくる。
「そんなんじゃない。ようやく始まるんだなって思ってただけだ」
『だよな。俺達にとってはようやく本領が発揮出来るってもんだ!』
そんな会話をしながら、発艦指示を待つ。
外から艦砲の音が聞こえてくる。
開戦したようだ。
エアロック解除されて、カタパルトに誘導される。
『お先に!ギュネイ・ガス、出る!』
「続いて出る!」
身体にGを感じながら宇宙に飛び出す。
無線から聞こえてくる内容だと、奇襲は成功したみたいだ。
あとは、残党狩りに近いな。
そう感じながら、敵艦砲の射線から外れ敵MSを落としていく。
向こうは焦りの「色」がありありだ。落とすのは難しくない。
「なんだ、こんなもんか連邦ってやつも」
そうぼやきながら、ヤクト・ドーガを敵艦隊の深くへ滑らせていく。
その後方の艦隊から逃げようとしている「色」を感じる。
「あの艦からか」
その艦に目掛けてファンネルを飛ばす。
「行けよ!ファンネル!」
ファンネルは俺の思ったとおりに動き、敵艦の艦橋を撃ち落とした。
撃ち落としても何も感慨はない。ただ敵を倒したというだけだ。
それに対する感情なんて、あの研究所で消えたよ。
その後、ルナツー戦はネオ・ジオン側の一方的な勝利で終わり
そのまま、アクシズへ向かう手筈だ。本命はそっちなのだ。
「この世界に『救世主』ってやつがいるなら、なんとかしてみせろよな」
俺の名前は、エミール・ラーン。
いる筈もない「救世主」ってやつを思いながら帰艦する。