淫魔男とでかぱい魔術師による楽しいダンジョン造り   作:ぜぜ

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良いところまで書けたので。


男の来訪とでかパイ女

「なあ君! 魔王になってダンジョンを作って、人間を脅かさないか?」

 

 なんだ、こいつは。

 

 いつものように朝目を覚まし、朝食にパンを温めていたところ、鍵をかけていたはずの家の戸を勝手に開け放ち、勝手に上がり込んだ男の第一声がそれだった。

 

 全身深い紫色の珍妙な服──都にいけば通りで手品をしている大道芸人が着ているような──を着た男は、頭に被った煙突のような帽子のつばをステッキで押し上げた。

 

「おいおい、僕の服を妙な服と思ったろう。これにはスーツというれっきとした名前があるんだ。元は青山のだけど」

 

「……なぜ分かる」

 

「顔に書いてあるとも。ああ心配しないでいい。()()()()()のたぐいは使っていないとも」

 

 あおやまだのすーつだのは分からなかったが、男の返答はしっかりしているように思える。

 

 男は意外にも、きちんと俺と会話をする気があるらしかった。襟を正し、胸元に付けた珍妙なスカーフをキュッと締めて顔をしかめた。

 

「で、どう? 魔王やんない?」

 

「……何故そうなる。しかも俺なんかに」

 

 魔王。それは俺達魔族を統べる魔人の呼称だ。由緒ある名家の魔族がなるものであり、まかり間違っても俺のような半端者がなれるものではない。

 

「君には才能があるんだよ。僕が見たところ、到達できる領域は今生きている魔族の中でもトップクラスだ」

 

「俺は半端者だ。魔王なんかにゃなれない」

 

「そうかな? 何故そう思う」

 

「……俺は半分人間だ」

 

 父が人間で、母が淫魔。

 

 大した力のない魔族と、輪をかけて魔力に乏しい人間の子供なんぞに、名家の魔族達を超える力などありはしまい。

 

「バカだなあ。人間からは勇者が生まれる。魔王を倒す代名詞だぞ? 生まれなんてのは得られる力に何ら影響しないのさ」

 

「……」

 

 当たり前のようにそう言う男の顔をまじまじと見る。よく見れば珍しい顔立ちだ。黒い髪と瞳。しかし青白いその肌は、男が魔族であることをよく示している。

 

 対して俺は、茶髪に金の瞳。肌は父の影響で人間の肌色で、唯一魔族に多い色の瞳だけが魔族的な特徴だ。

 

「君は淫魔だ。交わった相手の生気……まあ正確には魔力を吸収し力をつける、吸引の魔人。僕の理論が正しければ、君は最高のダンジョン主になれるぞ!」

 

「……ダンジョンというのは?」

 

「君の城だよ。一国一城の主になるのさ、だって魔王だよ?」

 

「だが配下など作れないだろ。誰が混ざりものの淫魔の部下になる」

 

「だからさあ……聞いてた? 吸引の魔人っつったろ? んで、僕が見込む程の才能があるんだよ君は」

 

「……はあ」

 

 要領が得られず生返事を返すと、男はドアの向こうに隠していたらしい袋を担いで来た。

 

 ……何が入っているのか。人間の一人くらいなら入っているような……。

 

「ほら」

 

 ドサ、と男は袋から中身を出した。

 

 中から出てきたのはたいそう美しい、金髪碧眼の人間の女だった。出るところは出て、引き締まるところは引き締まっている。おまけに高級そうなドレスを身にまとっており、高貴な身分であることが見て取れる。だが意識もなくそこらじゅうボロボロで、どう考えても男に襲われ拉致されていた。

 

「抱け」

 

「は?」

 

「他人のを見る趣味はないから外にいる。終わったら声掛けてね」

 

「いや、ちょ……」

 

「君童貞臭いけど、やり方は分かるよね? 本能的に。避妊は忘れるな……淫魔はその辺選べるって聞くしな。あとその女には呪い掛けてるから今日中にヤらないと死ぬからね」

 

 そう言って、さっさと男は家を出て扉を閉めた。

 

 残されたのは、パンを片手に持つ俺とボロボロの女だけ。

 

「……呪い……」

 

 何が何だか分からないが、とにかく。

 

 確かに俺には経験はなかったものの、とにかく。

 

 魔王やらダンジョンやら、そもなぜこの女を抱けば分かるかなども分からないが、とにかく。

 

「……死ぬってんなら、まあ、いいか」

 

 俺は流れに身を任せることにした。

 

 美人を見殺しにするというのも、あれだ。

 

 短絡的なものだと、自分でも思う。

 

 

 

 

 

 

 

「よ、済んだ? まあ聞こえてたけどね」

 

「入ってくるのが早すぎるだろう。他人のを見る趣味はないんじゃなかったか?」

 

「あんだけよがらせておいてよく言う」

 

 謎の美人としけこみ、ベッドに女を寝かせたところで男は戻ってきた。確かに俺は淫魔であり、たとえ経験が無くとも、女に意識が無くとも快感を与えられるものらしい。もとより意識の無かった女だが、今度はよがって意識を飛ばしていた。

 

「さて、どうかな身体は」

 

「……ヤッたくらいで何が変わると……っ!」

 

 男に言われてようやく、俺は自分の体にかつてないほどの魔力が流れているのに気づいた。

 

 劇的な変化に驚き、女を見る。魔族としての目で見て初めて、女が人間にしては多くの魔力を備えているのに気がついた。

 

「アルバトリア王国の第二王女だ。魔術においては大陸でも有数の名手で、母胎としても引く手あまたの女だった」

 

「……隣の国のプリンセスじゃないか。よく攫ってきたな」

 

「君という才能がこっちの、しかも人間の街で燻ってたんでね」

 

 男は何でもないことのようにサラリと言ってのけた。王女となれば警護も相応で、本人も名うての魔術師なら攫うのは骨だと思うが。

 

 戸惑う俺のことは無視するように、男は話を続ける。

 

「それより気づいたろ? 君の才能に」

 

「才能」

 

「君の母親は半魔の君を人間社会に隠れ住ませようとしていたようだが、僕にしてみれば全く以て見る目がないとしか言いようがない。まあ、君をある程度育てて出ていったところを見るに、最初から君のことに関心がなかったのかもしれないが」

 

 そう言われて少し傷付く。母親は確かに俺の成人と共に父親とでていったが、父親と手にしたこの家を残してくれるくらいには、俺に良くしてくれたと思う。

 

「……まあ良い。とにかく、君には吸魔の才能がある。それも並外れた。その力があれば、どんな名家の魔族が持つダンジョンよりも強力なダンジョンが作れる!」

 

「……それは分かったが、何故それがしたいんだ。アンタの理由は?」

 

「理由?」

 

 男は訝しげにこちらを見返した。

 

「なぜダンジョン何かを作らせたい? ダンジョン……魔族風に言うなら“領地”だろ? 俺にそんな高位魔族の真似事をさせて、何がしたいんだ」

 

 こちらも見つめ返す。

 

 どこか飄々とした表情の男だと思っていたが、俺がした質問には見るからに忌々しいという反応を示した。

 

「近くに魔の領域があれば、人間は身構える。勝手に境界を引き、そして魔に挑む。聖なる教会なんてのも出てきて、聖戦だなんだと宣い、勝手に引いた境界の中に潜むようになる。

 

 そして魔が勝ち続ければ、人間は損害を被り続ける。人間と魔族とはそういうものだ」

 

「……よく分からんが、アンタは人間に滅んで欲しいのか?」

 

「……今はまだその時ではないとも。人間なんて虫みたいなもんで、殺し尽くしたつもりでも、どうせどこかに生き残ってるんだ」

 

「答えになってないぞ──」

 

「──う……ん……」

 

 いよいよ押し問答の気配を感じていたところに、女の声が聞こえた。

 

 男とハッと目をやったが、まだ完全に起きてはいない。

 

 しかしこれ以上騒いでは、女が起きて面倒なことになるだろう。

 

「──とにかく、頼んだよダンジョン。手はずは僕が整えるし、やり方も君の頭に叩き込もう、いいね?」

 

「……俺は……」

 

 男の顔を見る。次に、自分の手を見つめた。

 

 かつてないほどの力だ。街を歩く冒険者がこのくらいの力量ならば、ほう、と一目は置くだろう。一度吸った程度でここまでなるのなら、あるいは──。

 

「くく、君も魔族だな。力を得られて嬉しいと顔に書いてある。ま、やってみて損はないさ。とにかく条件を整えよう」

 

「条件?」

 

 男はついてこいとでも言うように顎をしゃくり、ベッドに横たわる女の元に向かう。

 

「そりゃ魔王になろうってんだ。一回食っただけで捨てられるほど、この女は安くない」

 

 男は女に手をかざし、呪文を唱えた。高度な魔術だ。とてもではないが、半魔の落ちこぼれとして育った俺には分からない。

 

 男が呪文を唱え終わると同時に、女の首には首輪のような痣が浮き上がり、同じものが俺の左手首に巻き付いた。

 

「これは?」

 

「隷属の呪いだ。吸魔の力を使わない日が増えるごとに、隷下の対象の身体の自由を奪う」

 

「それは何とも……」

 

 男は今度も何でもない事のように宣い、次に俺の頭に手を翳した。

 

「……俺にも呪いか?」

 

「野郎の隷下なんていらないよ。僕から君に呪文を2つと、これからすべき事、それと必要な知識を教える。口で伝えても君バカそうだから、脳に焼き付けることにする」

 

「おい、失礼だ……っ!!?!」

 

 男がまた呪文を唱えると、言われた通り焼け付くような痛みと共に、知らなかった知識や目的が頭に浮かんでくる。

 

 とはいえ男の真意を推し量るほどのものではなく、ダンジョンを作ることに役立つ知識程度のものでしかなかった。

 

「それじゃあ頼んだよ。せいぜい人間を苦しめてやってくれ」

 

 頭の痛みに悶えて膝をつく俺を尻目に男は立ち去っていく。

 

 家の扉に手をかけ、もうすぐにいなくなるタイミングで声をかけた。

 

「……アンタ、名前は?」

 

 男はつまらなそうに吐き捨てた。

 

「あ? どうでもいいだろ……。ヒロだよ」

 

 扉はついに閉められ、代わりに女の寝息が耳をついた。

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