「どっ! どどどっ……!! どうっ……! どうどうどう……!!」
「落ち着け、頼むから落ち着いてくれ」
ヒロが去ってしばらくして、ついに女が目覚めた。いや、王女様か。でも今は俺の隷属化に置かれている。ややこしい。
そんなややこしい王女様は、起きたことが受け止めきれていないのか、俺のシーツで裸の身を隠しながらも、見知らぬ俺に警戒して後ずさった。
「これが落ち着いていられますか! 王城で突然男に襲われたと思ったら、次は急激に気持ちよッ……また違う男性に襲われて、おまけに隷属の呪いだなんて!」
「なんだ、結構良かったのか」
「デリカシーどうなってます!?」
エキセントリックだが現実的な反応を見るに、混乱はしているものの理性はあるらしい。
「俺もこの数時間で状況が変わりすぎて説明できる気がしないんだが、隷属の呪いは何故知ってるんだ?」
王女様は確かに隷属の呪いについて把握していた。俺と同じようにヒロに知識を焼き付けられたなら分かるが、そんな様子もなかった。それに今気づいたばかりで、とても状況を整理する暇はなかったはずだ。
「……の、呪いならすぐにピンときます。これでも魔術師ですから。それに、貴方に何らかの供物を捧げるべきということも感覚ではわかります」
「おお、流石は凄腕の魔術師」
「……貴方、私を襲った男性とは違いますね……いえ、襲われはしましたが……ええと、あの男を手配したのは貴方ですか?」
「いや、それは違ってな。いや待て、俺も整理したい。順に話そう」
・・・
「──そ、そんな……私の純潔……それに魔王……ダンジョン……淫魔……どおりで……ああもう腹立たしい」
「そう落ち込まないでくれ。俺に出来ることがなさすぎる」
「でしたら少し放っておいてくれませんか……?」
朝起きたことを順に話すと、王女様はしおしおとシーツにくるまり、ロールパンのような姿で涙を流した。
「放っておく……王女様は俺を殺すなり何なりして助けを求めないのか? 呪いだって解けるかも分からないだろ」
俺は違和感を口にすると、簀巻きの王女様はため息をついた。
「隷属の呪いのおかげで貴方に直接危害は加えられません。体がそのように動かせない、というのが正確でしょう。おまけに貴方が死ねば私にも何らかの跳ね返りがあるような造りになっています。……ヒロという魔族は随分性格が悪いです」
「解けないのか?」
「私でも手の施しようがありません。呪いの分野で一段落ちるこちらの国には、取っ掛かりすら掴める魔術師はいないでしょう」
王女様は急に冷静な声でそう言った。姿はロールパンなのでシュールなことこの上ないが、とにかく、大陸有数の魔術師と事を構えずには済みそうだ。
「なので、私は出来ることをしましょう」
「とは?」
「貴方が魔王になって人間を脅かさないよう、管理します」
王女様はそう言って俺を見据えた。ロールパンのくせに、その表情は引き締まり、一定の威厳を醸し出している。
「リーナ・レオン・アルバトリアの名にかけて、魔王の誕生を阻止してみせましょう」
「ふむ」
王女様──リーナの宣言を聞きはしたが、俺はどうすれば良いか思案した。
こんな事を言っておいて、この女は結局俺に抱かれなければ身体の自由が奪われるのだ。シュールである。
そもそも──
「だが俺がダンジョンを作らなければお前は死ぬぞ」
「へ?」
「簡単な話だ
仮に俺がダンジョンを作らずに真面目に働き、お前を養うとする。「お前って……私王族」敬語は分からん「……続けて」
俺が真面目に畑を耕したところで、お前を抱かねばお前は身体の自由が無くなる。となると抱くしかないが、そうなると魔力を吸ってしまい、急激に力を得ることになる。
人間がそこまで急激に強くなることは稀だから、恐らく魔族である事がバレて迫害されるか、騎士団がやってくる。
この場合逃げるか隠れるかになるが、生憎街で育ったもので、人間一人抱えて逃げられる算段はつかないし、隠れるっても限界は来る。
となると魔族としてダンジョンを作って、辺りを俺の“領域”にするのが話は早いわけだ」
「…………」
隷属の呪いのせいで俺は日を追うごとに強くなることが確定している。
となると普通の人間として社会に馴染むのは難しくなるし、魔族とバレるならばバレても問題ない状態に持っていくしかない。
つまりはダンジョンである。
「……先の言葉を返すようですが、貴方、私を殺さないのですか?」
「うん?」
「貴方、よく分からず巻き込まれる形でダンジョンを作ることになったのでしょう? 魔族でない私には分かりませんが……自然な話ではありません。騎士団を迎え撃てる程のダンジョンを築くのは困難でしょうし、貴方が取れる最も簡単な解決法は、私を殺し、あの男の誘いを断ることです」
何とまあ、王族ともなれば、自分の命すら危険に晒すような問いをかけることも出来るようだ。
しかし、俺の頭は既にもう、自分のダンジョン作りのことでいっぱいだった。
「いや、お前は殺さない」
「なぜ?」
「美人が死ぬのはありえない」
「……貴方、単純ですね」
「単純なのはお前の性感──「わーっ!! わーっ!!!」
とにかくこうしてはいられない。
騒ぐリーナを抑え、俺は支度に取り掛かる。
「そ、そう! 貴方の名前は?」
「ああ、そういえば言っていなかったな。俺はオロという。よろしくなリーナ」
名を呼ぶと、リーナは思いの外小さな声で「はい……」と返事をした。
ロールパン状態でなければ可愛かったはずだ。
主人公は素直