「どこに向かっているのですか?」
「森だ」
父親と母親の昔の旅装を引っ張り出し、ついでに母親が残していった古い服をリーナに着せて、俺は街を出ていた。
今はまだ冒険者ならいる程度の魔力でしかないので、街を歩いて何ら問題は無い。むしろリーナが外見で高貴な方と露見しないよう、外套やフードを着せまくった。お陰でロールパン状態は継続中だ。
「森の中にダンジョンを作るのですか?」
何やら興味津々に話を聞いてくる。当然か、リーナは俺の魔王としての振る舞いを阻止する為にいるのだ。
「どんな思考をすればそうなるんだ」
「でも、魔術も教わったのでは?ほら、洞窟を掘ったり…」
「土木建築の魔術は教わっていない。俺が教わった魔術は2つだ。
魔物と魂を結ぶ契約の魔術。そして契約を元に魔力を吸収する吸魔の魔術だ」
俺の淫魔としての特性をよく踏まえた魔術だと思う。要は性交をはじめとしたまぐわいでしか発揮できなかった吸魔の特性を、魔術を通しても行えるわけだ。魔術で代替できるので淫魔が魔族の中でも下位に置かれている理由でもある。
だが、淫魔としての俺の素地により、その魔術の効果を最大限活用できる。
「この魔術でまずは魔物の配下を増やす。いずれは同じ魔族も加えたいが、契約は俺の力が上回る相手でないと厳しい。今の俺では無理だ。逆に契約した者が増えるたびに俺も力が増すようだな」
「……なるほど」
純血の魔族となればリーナの半分ほどの魔力量からが基準になるだろうが、とにかくそこを目指して力を付けつつ、ダンジョンをさっさと作るしか無い。
社会に紛れられる時間は有限である。
「ならダンジョンはどこに作るのですか?」
「手近なものを利用する。
──今住んでる街だ」
・・・
近くの森で魔物を数匹捕まえた。
動植物や、時には無機物に魔力が反応して生み出される魔物は種々様々で、森というのは本来魔境だ。
「──まあリーナにかかれば何てことは無かったな」
「なぜ私は魔族の領域作りに手を…ああ呪いが無ければ…」
リーナの手によって瀕死に陥った魔物3体を前に俺は腕を組む。
正直自分で戦うのも興味はあったが、まだまだリーナに比べば力も無く、そして武術の心得もない。俺は隷属の呪いに任せてリーナに頼んだ。
さて、目の前にはそれぞれ蛇の魔物、蔓の植物の魔物、粘性生物の魔物がいる。
俺は手近なものから順に契約の魔術を行使した。
「……街を使うとは、どういうことです?」
魔術をかけ終わった3体をカバンに突っ込み、街へと戻る。ものの数十分で戻ってきた俺達に門番は不思議そうな顔を浮かべたが、素知らぬ顔で通り抜けた。彼らも暇ではない。
その道すがら、リーナは俺にダンジョンについて問うてきた。
「簡単だ。魔族の領域とは、その魔族自身の魔力により生み出される“結界”のこと。魔物の縄張りのようなもんで、古来から力のある魔族は結界の中を領地と呼び支配し、人間はダンジョンと呼び攻略してきた」
「そして魔族はその領域の中だとより強大な力を行使できる、ですよね」
「ざっくりだが、領域の中は自分の体の中と同じだ。そこにある魔力は自分由来のものだから、魔術の効きが良くなる 」
街に入ってしばらく歩き、細い路地を抜けて我が家に到着した。中心街からは離れた安い家。それでも一軒家だったのは、父親と母親が終の住処に定める気だったからか。
「この街には大昔に作られた地下水路が通っていて、生活排水はその通路を通して街外れの川の下流に流れる」
「学んだことがあります。この国は歴史が長く、特に最盛期は土木技術が卓越しており、街の大きさは変えられない代わりにインフラが整っていると」
「それを掌握する」
「成程」
俺は家の裏の排水口に蛇と蔓を落とし、契約魔術を介して眷属を増やすよう命令した。
「領域化はどの魔族でも本能的に行うことが出来る魔術の一つだ。とはいえ街一体を領域化するのは骨だから、この排水口の入口だけにして、後は魔物達が仲間を作るのを待つ」
「ではいずれ地下水路を領域化すると?ですがすぐに見つかるのでは」
「目論見通りに行けば、まあ大丈夫さ。それより」
「?」
俺はよく分かっていないリーナに鍬を渡した。
「今日の畑仕事が終わっていない。今日は八百屋のアンディにキャベツを卸さないといけないんだ、ついでに新しい畑も起こすから、手伝ってくれ」
「わ、私王族……」
「で、俺の配下な」
「そんな……」
へっぴり腰で鍬を振るリーナを尻目に、俺はせっせこ農作業をした。ふむ、なかなかいい尻をしている。
・・・
「はあ……ひどい1日です、本当に」
「畑仕事も最後の方はかなり良くなっていたぞ。流石学習能力が高いな」
作業がひと段落した夜、温めたパンと野菜スープを食べながらリーナと話す。
リーナは何故か前向きで、料理についても積極的だった。案外楽しんでいるのかもしれない。最終的に任せられるのは鍋を時折混ぜるくらいのものだったが。
「俺が言うのも何だが、リーナはこの状態でも自然体に見える。どういう心理状態なんだ?」
「貴方がそれを言いますか…」
リーナは呆れたようにため息をこぼすと、一拍おいて口を開いた。
「貴方が単純で毒気抜かれたのもありますし、呪いを解決する為にヒロという男に近づくには貴方に頼らざるを得ないというのもあります。それに貴方から目を離すとこの街が危険だという使命感も」
「全部話してくれるな、まあ理解は出来る」
要はくよくよしてもいられない、ということだろう。それ以外にも何かあるだろうとは思ったが、ひとまずそれで飲み込む。
「だがこんなオンボロの家で王族には苦しいんじゃないか?ベッド一つとっても作りが違うだろ」
「構いません、魔術師として野営の経験もあります。それでも、王族として丁寧に扱われた自覚はありますが」
「成程たくましい」
そういえば魔術師だった。畑仕事で肉体労働をさせてしまったが、魔術でやってもらうのも良いかもしれない。いや、突然魔術師を俺が家に住まわせているというのは近所の目もある。
やはり無しだな、鍬を握ってもらおう。そんな事を考えていると、リーナがおずおずとした様子でこちらを見ていた。
「どうした?」
「いえ…その。ベッドですが…お父上とお母上もいらしたのですよね?でしたらどちらかの部屋をお借りできれば…」
「ああ、問題ない」
俺はそう返して、カバンから瓶詰めを出した。
「それは……昼間の」
「粘性の魔物。一般にはスライムと呼ばれるものだ」
「はい、活性すると周囲を溶かす特性を持った、核を砕けば子供でも倒せるものの死没事故の絶えない魔物です」
「話は変わるが、俺の母親は淫魔でな。しかも絵に描いたような淫魔で、父親は骨抜きにされていた」
「ふむ」
「よって父親母親の個室は無く、キングサイズのベッドだけが鎮座する部屋がある」
「はあ…それはまた…」
俺は片脇に瓶を抱え、そしてリーナの手を取り階段を上がる。
キョトンとした顔でとことこついてくる姿が可愛らしい。
「ここだ」
「わあ大きい」
それはそうだろう、母親のおねだりに耐えかねて、父親が大枚はたいて買った良いベッドだ。貴族相手に商売する商人を札束で殴って買ったらしい。
二階をぶち抜きで作った両親の愛の巣の実に半分を占領する大きなベッドは、主を失いそこにただあるだけの、掃除の手間にだけなる置物と化していた。つい昨日までは。
「さて話は戻るが、このスライムは活性しない状態だとすさまじい潤滑油になると思わないか?」
「へ?」
俺はリーナの尻を掴んだ。ハリがあるにも関わらず柔らかな尻だ。そのまま引き寄せ、胸元に押し当てられる柔らかな胸の感触も味わう。
「スライムは魔術を介して自在に動かせる、今度もすごく面白いことになると思う」
「えっと、オロさん?何を…きゃっ!?」
俺はリーナをベッドに押し倒してのしかかる。体重を少しかけてやれば、リーナは縫い付けられたように動けなくなる。この辺りは淫魔の魔術も関わっているかもしれないが。
「えっと、もう今日は既に……していますよね…?私、初めてでしたし、整理もついてないですし…ああえっと、よく覚えてもないのですが…」
「俺がしたい。気持ちよかった」
「ちょ──」
かくして俺は処女を1日2回抱いた。
スライムの効果もあってか朝よりすごい声が出ていたものの、リーナも気持ち良さそうだったので問題は無いだろう。
翌朝確かめると睨まれたが。本当は叩きたいのだと文句を言われた。