ダンジョンを作ることになり、そしてリーナが家に来てから数日が経過した。
隷属した魔物達も好調らしく、蔓の魔物は水路の養分を吸ってどんどん根を張っており、蛇もまた、水路にいる同族達に勝利し続け一大勢力を築いているようだ。契約を介して力を送っていた甲斐もある。スライムもまた、リーナの弱点をどんどん見つけており、リーナはスライムを見せるだけで腰が砕けるようになった。俺が負けた気がするので、頑張らねばならない。
「──んで、お前は魔王にかあ…すげえなあおい」
「正直よく分かってなかったが、日を追うごとに強くなってるのでヒロの話は本当かもしれない」
「こんなにあけすけに話して問題無いのですか?いくらご友人とはいえ…」
俺の家には今、野菜を卸している取引先の一つで仲良くなった、商人のニックが遊びに来ていた。
ニックの商会には父親も在籍していたことがあり、そのよしみで付き合いのある幼馴染だ。そのニックに、ここ数日の事を洗いざらい話した。どうせ仲の良いこいつにはいずれバレるし、それならば共犯になってもらおうと踏んでのことである。
もちろんニーナの本当の身分と呪いのことは隠してある。ヒロのせいで身分を追われた令嬢を匿っていると説明した。
「良いんだ、いずれニックにはバレることだし、俺も隠し事が得意じゃない」
「元々半魔ってのは知ってたからな。俺以外に知ってる人は商会長くらいだけど」
「そう…ですか、ですが、ダンジョンなんて…」
リーナは心配そうにしたが、対してニックは面白そうと言いたげにニヤリと笑った。
「そうだ、オロ。お前は農業ばかりしているくせに、俺にわざわざ話を持ちかける時は商売の話しかしない。言えよ、何考えてやがる」
流石は人生の殆どを共に過ごした幼馴染だ。ニックのニヤケ顔につられて口角が上がる。こいつなら乗ってくると思ってきた。
「簡単なことだ、俺はこの街の地下にダンジョンを作る。すぐには無理だが、準備は着々と進んでいる。本格的にダンジョンとして動かせるようになれば、この街以外からも冒険者が来る。となると」
「俺達の商売も儲かるってことか。しかしそりゃ、他のところにも言えるだろ」
ニックは少しつまらなそうに鼻を鳴らした。商人は自分だけの利益を喜ぶ。
「だが、客は冒険者だけじゃない。俺達もだ」
「詳しく」
「まずは俺自身。街の住民オロの顔は持っておきたいし、魔王として姿を出すなら装備はお前のところで買いたい」
「購入元の足がつかねえことにしろってことだな、だが取引はそう多くないだろ?」
「そしてもう一つ。ダンジョンにはお宝が付き物だ」
「うむ」
「お前のところの商会、密造酒やら盗品取引やらの裏帳簿があるだろ」
「ぶぼ!!?!??!」
「きゃ!?」
ニックが飲んでいた茶を吹き出し、それに驚いたリーナが俺の腕にすがる。この王女様、気を許すのが早すぎる。
「な、何故それを…」
「どこの商会も税金逃れの裏帳簿があるもんだと小耳に挟んでな、カマをかけたが正解だった」
「バカっぽく見えてお前は……で、それが?」
「人間が言うところのダンジョンのお宝とは…領域を持った魔族が、領地を倉庫代わりにしていた物品を盗んだものに過ぎない。だが、これが転じて人間社会では、ダンジョンにはお宝があると言われている」
「そうなのか…いや、うん。まあお前が言うならそうなんだろうが」
「お前の商会の裏商品を俺が買い取り、ダンジョンのお宝として発見させる」
「続けろ」
「そしてダンジョンから帰った冒険者が出口で見つけるわけだ、お前の商会がお宝の買取も請け負うってことを」
「ダンジョンだから流通の元を辿れないし、おまけに裏で金を得られたうえで、その商品を自分で買取り、“表”の商品になる…」
「ついでにダンジョン名産の酒やら装備、宝石に魔具やらと付加価値つけて売れたなら、仮に少々お前たちの商会以外に流れたとしてもお釣りが来ると思うが」
「ダンジョンの発掘品なんて専門家もいるようなとこしかやってねえよ。そも件数が多くないから大々的に買取をするっていう商会はねえ。おまけに俺達は裏で利益を得た上で、それを安く買取り表で値段を上げてまた販売できる……これはあくどい手だ」
「嫌か?」
「いや、大好物」
そう言ってニックはニヤリと口角を上げて立ち上がった。
「まずはダンジョンを形にしろ、それまでは俺が私費で支援もしてやる」
「助かる」
「だがお前に元手は無いだろ。どうやって俺達の裏商品を買い取るんだ?」
「冒険者ぶん殴って身ぐるみ剥いで放り出す」
「ははははは!!!確かにそうすりゃ金は取れるな!なんたって魔王に人間の罪は適用されねえ!」
「良いのでしょうか…これ…」
良くはないだろうが、しかし、俺は魔族で、魔王で、これからダンジョンを作る悪だくみをしているのだ。
リーナに笑顔を向け、俺はニックと固く握手をした。
さて、次はどう手を打つか。