「──うぷ。オロさん、これは……」
「ひどいなやっぱり」
毎日リーナを抱き、俺の魔力もみるみる成長していた。
流石にどこかで魔力を使わないと冒険者や衛兵に目をつけられると踏み、ダンジョン候補地の水路にやってきた。ほぼ使われていない管理用の通路から水路を見やる。
臭いがひどい。
当たり前か、ここは排水路であり、ところによっては下水にもつながっている。
ともあれ、俺はやることをやるだけだ。
「リーナのお陰で俺も力をつけてきた。ここいらで、淫魔としての能力も活用しようと思う」
「……よ、夜以外にあるんですか?」
もじもじしながらリーナは言う。やはりこの王女様ちょろ過ぎやしないだろうか? まあ、美人が可愛らしいのは俺的には問題ないわけだが。
「ここに最初に仲間にした蛇の魔物と、その配下の一番可愛い蛇の魔物を用意した」
「え、可愛い?」
「と、こいつが言っている」
蛇の魔物はフンスと鼻(?)を鳴らした。やけに意思の疎通がとれる。契約が繋がっているからだろうか。
「今から淫魔の魔術の一つである催淫を行い、そこに魔力で働きかけ、蛇の特性をさらに押し上げるように細工する」
「するとどうなるのです?」
「その子供には更に高度な蛇としての魔物に生まれ変わる。そうだな、掛け合わせることで種族ごと成長させると言えば分かるか? この力も慣れていけば、例えば鶏と牛なんかでも子供が作れるようになる」
「そ、それはすごい……そんな事ができてなぜ淫魔は下位魔族なのです?」
「それはそれくらい力を有するに至る淫魔が少なく、更に力を使う先が性感の為に行きがちだからだな。……さて、そんなこんなで他の配下の蛇も掛け合わせようか」
さっきから蛇2体が凄まじい体位で交わっているが、あれは俺が催淫したのもあるのだろうか? 蛇の性交に詳しくはないが、あんな固結びのようになるほど激しく動くだろうか。
「……でも、仮に蛇の性質が強くでたとして、それが何になると?」
「蛇は自分の体の何倍もある獲物を捕食する。そして、こいつらは魔物。極論、魔力を吸収できれば何を食っても多少生きるし、それを食って生き残れるよう身体を変化させる生き物だ」
「つまり……」
「コイツらで水路の壁を拡張し、ダンジョンを生成する」
ちょうどいいところの石レンガを抜き取り、蛇に放り投げる。蛇は「マジすか?」という顔をしたが、レンガを飲み込んだ。
「契約の魔術を介して魔力も送れるし、食えと命令しているので食う。世代を交代させていけば、どんどん石や土をくうことに躊躇いはなくなるだろうな」
「し! しかし地下に空洞ができるのまずいです! 上には街が……」
「考えてある」
俺が抜き取ったレンガの辺りを叩くと、そこから蔓の魔物がにょきっと生えてきた。
「この為にこいつには地下の至る所に根を張ってもらったり、蔓を自在に動かせるように魔力を与えた。こいつが力をつければ、ダンジョンを作っても問題ないくらいの強度になるだろう。あ、そうだ、蛇が食いやすいように石とか土を取り分けてくれ」
俺が頼めば、蔓は頷くようにぶんぶん振られ、次々に穴を掘り始めた。
「しかし次から次に……詳しいですね。淫魔について」
「これもヒロからもらった知識に入っていた。母さんから教わったのは夜の関係や魔族についての一般的な知識くらいだ」
「そ、そうですか……」
さて、続いて俺は配下の蛇たちに次々催淫を施し、蔓に魔力を流し込み続けた。どんどん卵も産まれきたので、リーナに頼んで掘れた穴に隠してもらう。
こうしてダンジョンづくりの第一歩である土木工事が秘密裏に始まった。
・・・
せっせこダンジョン用の土木工事を進めつつ蛇たちの交配を進めていると、当然気になることが出てくる。俺は精肉店のアマンダさんのカウンターで腕を組みながら考えた。
「どうしたんですか? 今日はもも肉を買うのでは?」
隣でリーナが放し飼いにされている鶏に目線を奪われながら裾をつまんできた。
この王女様はいったいどこでこういうのを学んだんだろうな。
「いや、空き部屋に何を入れるかを考えていた」
「空き部屋? ……ああ、領地の」
後半は小声で、かつダンジョンという言葉も伏せているところで彼女も大方は察したのだろう。カウンターで編み物をしているアマンダは肉の名前を言わない限り出てこないので、ほぼ気にしなくても良いのだが。
「蛇と蔓とスライムだけというのもな、嫌われそうだ」
「人が来ないと話になりませんからね……この間の線で行くなら」
「となるとやはり分かりやすい個体が要るんだが……ふむ」
俺はヒロに焼き付けられた知識や、母親の魔族こぼれ話、冒険者たちの居酒屋トークを思い返す。
放し飼いの鶏が、ブーツの紐をつついていた。
「アマンダさん。もも肉200グラムと、一匹雄鶏をください」
「自分で潰せるかい? 私がやってもいいが」
「いや、生きたままで」
「あの、潰すとは……?」
「肉屋ってのは生き物をおろすことを潰すっていうんだ。怖いよな」
「お代、早く払いな」
相場より1割増しの請求が来た。後が怖いので、素直に払って店を出た。
雄鶏を小脇に抱え、再び水路に降りる。すでにそこは蛇たちの巣窟と化しており、めいめいにネズミなどを捕食していた。
「ネズミはなあ……流石にダンジョンのイメージが悪くなるな」
「ネズミが多い町は病気も流行りやすいですからね」
蛇とネズミが襲い掛かってくるなんてちょっと汚い。おまけに排水路にあるのだから、輪をかけて汚いイメージが出来上がるだろう。
リーナの王族知識も手伝って、俺はネズミの採用を見送った。
そういうのもありかもしれないが、しかし自分の領地とするのだ。俺が感覚的に受け入れがたいものにはしたくない。
「まあいい。まずはお前だ」
くるくる喉を鳴らす雄鶏を下し、催淫を施す。見る間に雄鶏は落ち着きが無くなり、手近にいた蛇にのしかかった。
「……こうしてみると異常ですね。まさか本当にこんな……」
リーナは引いている。やった俺も少し引いてしまっていたので、この感覚は正常で良いようだ。むしろリーナが興奮していては俺が怖い。
そうこうしているうちに蛇が卵を産む。俺の催淫によって性交した生物は産むのが早い。
「この魔物は多分コカトリスになると思うな」
「……ああ、雄鶏に蛇の頭の尻尾がついた魔物ですか」
「本来は限られた魔族の領地に生息している魔物だけど、1から作れないかなと思って」
生まれた卵を預かり、家から持ってきた毛布にくるむ。
「持って帰るのですか?」
「ああ。ひよこだと蛇に食われるかもだし、本当にコカトリスになってるか確かめたいからな」
効果も見込めたので、ダンジョンの進捗を眺めて帰る。
鬱蒼とした蔓だらけの穴倉で、腹を丸くした蛇たちが眠っていた。
「……これうまくいくのかな」
「地下だけあって暗いですね。ランタンが必要です」
リーナは傍らに置いたランタンを持ち上げた。
確かに、こう暗いとお宝にも気づかれないかもしれない。
「改良が必要だな」
前途は多難そうだ。