銃弾が効かない理由を、誰も知らなかった   作:もりもりバナナ

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それでも撃つ

ゲヘナの夜の校庭は静かだった

 

昼間の銃声が嘘みたいに__遠くではまだ騒いでいる音は聞こえる

 

でも、ここには風が芝を撫でる音だけがある

 

 

 

「………」

 

ユリは一人で立っていた。

制服の上からでも分かるほど包帯はまだ白い

 

銃を持つ手が少し震えている

 

普遍的なアサルトライフル。友達に進められたからでも、特にこれと言った理由を付けずに買った銃

 

「……やっぱり、重いな」

 

誰に向けた言葉でもない

 

それでも声に出した

 

今日は風紀委員会の演習はない。

彼女がここにいる理由もない

 

 

_あるとすれば

 

確かめたい

 

それだけだった

 

自分が、どこまで壊れやすいのか

 

「……ふぅ」 

 

昼の教室が脳裏をよぎる

 

距離

 

視線

 

優しさという名の後退

 

嫌われたわけじゃない。それは嫌でも分かっている

 

 

___でも

 

「同じじゃないんだ」

 

呟いた瞬間。胸の奥が熱くなった

 

銃を構える。

標的は設置されている

 

いつもの位置

いつもの距離

 

今までなら、引き金を引く前に何も考えなかった

 

避けて

当たって

痛くて

終わり

 

それだけ

 

でも今は違う

 

指先に力を込めると脳が警告を発する

 

やめろ

危ない

逃げろ

 

___怖い

 

それでも、私は引き金に指をかけた

 

「……撃たなきゃ」

 

理由は分からない

正しくもない

 

ただ、止まったらこのまま守られるだけの異物になる

 

それだけは嫌だった

 

 

ドォン!!!

 

 

銃声

 

衝撃

 

ユリは倒れた

 

ドサッ

 

土の冷たさが背中に伝わる

息が詰まる

視界が滲む

 

「……っ」

 

痛い

 

今までの、どの痛みよりもはっきりと

 

まだ治りきってない部位から、血が流れる

 

分かる。止まらない。喉が引きつる

 

「はは……」

 

笑ってしまった

 

「……ほら」

 

誰もいない校庭に、言い聞かせるように

 

「やっぱり、ちゃんと痛い」

 

怖かった

たまらなく恐ろしかった

死ぬかもしれないと思った

 

でも

 

それ以上に、生きてると思った

 

 

カツ、カツ、カツ…

 

足音

 

聞き覚えのある

慌てた足音

 

 

 

 

「__ユリっ!」

 

先生の声

 

駆け寄ってくる影

 

膝をつく

止血

必死な手

 

「…っ__何してるの!?」

 

怒っている

でも

震えている

 

ユリは、先生を見上げた

 

 

「先生」

 

 

声が掠れる

 

 

「私ね」

 

 

一度、息を吸う

 

 

「怖いよ」

 

 

涙が滲む

 

 

「死ぬのも_撃たれるのも_みんなと違うのも」

 

先生の手が止まる

 

「でも」

 

ユリは笑った

ちゃんと意識して

彼女は笑った

 

「何もしないで置いていかれるのが一番怖い」

 

先生は何も言えなかった

 

_代わりに

 

強く

強く

とても強く、止血を続けた

 

私から溢れ出る血は、すぐには止まらなかった

 

__それでも

 

ユリは

目を閉じなかった

 

逃げなかった

 

――危険を選んだのは、生きていたかったから

 

 

それだけだった

 

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