ユリの日常です。
ユリは、いつも人に囲まれていた。
理由を説明するのは難しい。特にこれと言った特徴も無い
派手なことを言うわけでもないし、特別に強気なわけでもない
言わば、ゲヘナに似つかわしくない生徒だった
_ただ、そこにいるだけで空気が少し柔らぐ。そんな子だったのは間違いない
「ねぇユリ!これ見てくれ」
トリニティの購買で買ったお菓子を、イオリが差し出す。
ゲヘナとトリニティの違いなんて、ユリの前では大した問題にならなかった
「なにそれ、可愛いね」
ユリは本当にそう思っている顔で笑う
取り繕わない。大げさに褒めない
でも、その一言で相手は満足してしまう
「手に入れるのに苦労したんだからな…半分こだぞ」
自然な流れで袋を開ける
誰か一人が損をすることがないように、当たり前みたいに
教室でも、廊下でも、演習の合間でも。
ユリの周りには必ず誰かがいた
「それよりもさ。さっきの動き、よかったよ〜ムグムグ」
「え、見てた?」
「見てた見てた。ああいうの、ユリ得意だよね。私も日々規則違反者を取り締まってると、しみじみ感じるなぁ……」
褒められると、ユリは少し困ったように笑う。
照れもあるけれど、否定はしない
「ふふっ、ありがとう。でも、次は私がイオリより前に出た方がいいかも」
「……そっか」
人気者特有の傲慢さはなかった。自分が中心だという自覚はあるのに、それを利用しない
だから、皆が自然と集まる
風紀委員会の詰所でも同じだった
「ユリ、今日どこ回る?」
「境界の方、ちょっと気になるかな」
「じゃあ私も一緒に行く」
「ありがとうね__」
断らない。押し付けない
一緒に行動することを、当然みたいに受け入れる
誰かがミスをしても、責めない。
代わりに笑って言う
「大丈夫。次、私がカバーするから」
その言葉に、どれだけ救われた人がいたか。ユリ自身はたぶん気づいていない。
放課後、校舎裏で座り込んでいると、誰かが必ず声をかける
「ユリ、まだ帰らないの?」
「うん、ちょっと休憩」
「じゃあ一緒にいよ」
理由はいらない
ユリと一緒にいること自体が、目的になる。
違う日も
「あ、ユリじゃん……ちょっと給食部寄ってく?」
「フウカ先輩、ありがとうございます」
また別の日も
「ヒナ委員長、私もやりますよ」
「……いえ、これは私が____」
「今まで頑張ってくれた委員長への恩返しです。それの一つとして見てくれませんか?」
「……………ありがとね」
「いえいえ_」
「ちょっと!ヒナ委員長を手籠めにしようとだなんて百年早いですよ!?!?!?
この甘雨アコ、全力でヒナ委員長をお守りs_____」
「アコ行政官もお疲れ様です。いつもコーヒーありがとうございます」
「〜〜〜っ!」
彼女はよく笑った
大声で笑うことも、肩を揺らして笑うこともあった。
でも一番多かったのは、静かな笑顔だった
相手の話を聞きながら、ちゃんと目を見て。ちゃんと、そこにいる。
「__ユリがいるとさ」
ある日、誰かが言った
「なんか、安心するよね〜」
ユリは少し驚いた顔をしてから、首を傾げる
「そう?」
「うん。理由は分からないけど」
ユリは少し考えてから、こう答えた
「じゃあ、それでいいんじゃないかな」
深い意味はなかった。
でも、その言葉を聞いた人は、しばらく忘れなかった
ユリは、特別なことをしなくても、特別だった
誰かの居場所を奪わず、自然と自分の居場所を作る
だから、みんなが思っていた
ユリは、ずっとここにいる
明日も、明後日も、当たり前のように
誰も、疑わなかった
――ユリがいなくなる世界なんて