夜が明けきる前、境界線の霧はまだ薄暗く滲んでいた
静寂はあった
けれどそれは、死の前の吸い込みのような静けさだった
「ゲヘナ風紀委員会、配置完了!」
「確認、砲塔展開! 突撃体型を構えろ!」
風紀委員の重装部隊が、遮蔽物の裏に陣を取る
背後ではドローンが空を舞い、戦術情報がリアルタイムで回される。その情報は全て、ゲヘナ側の司令部に回されていた
一方、トリニティのも、既に展開していた
純白の制服に金属光沢のプレート
やるせない顔の正義実現委員会
「……やるのか」
誰かが呟く
やる
もう、止まらない
「砲列、展開!」
「リロード完了!全弾装填済み!」
「遮蔽物に被弾痕──接敵間近!」
その時
──ドン!
初弾が空気を裂いた
火線が走り、遮蔽壁が砕ける
「伏せろ! 前列崩れるな!!」
「機関銃、反応照準合わせてください!!」
怒号が走る
罵声と命令が交差する
耳鳴りのような連射音が、鼓膜を焼くように響く
「右側面! 突破してくるぞ──撃て撃て!!」
トリニティ側、白い制服の生徒が銃を構え前進
まるで祈るように静かに
しかし、その手の銃口は迷いなく火を噴いた
「皆さん!ゲヘナの悪魔に悔い改めさせなさい!」
ドドドドドッ!
パァンッ!パァンッ!
「っ──くそっ!こっちもやらせてもらう!!」
ゲヘナの生徒が反撃に出る。
風紀委員の黒いエンブレムが、炎に照らされ歪む
「主砲、後方まで下げろ! 広範囲で焼くぞ!」
「全員耳塞げ──撃つッ!!」
ズゥン!
「っ!」
「ぎゃぁっ!」
空気が振動し、大地が跳ねる
閃光と共に、トリニティの前列が崩れた
「前進止まるな! 突破路を開け──!」
白と赤の制服が、銃撃の中で交差する
一人が叫ぶ
一人が倒れる
誰も名を呼ばない。呼ぶ暇がない
「おらぁっ!」
「っ!」
「死ねっ!!!」
パァンッ!!!
ドドドッ!
____ズドンッ!
ゲヘナの生徒が、握った銃を投げ捨てナイフを抜く
その前に、閃光弾が炸裂した。光が全てを奪う
直後、聞こえた
「トリニティ正義実現委員会より宣告──」
声が、拡声器越しに響く。冷たく、儀礼的に
「ゲヘナ風紀委員会の行動は、明確な宣戦行為と認定」
「よって、交戦状態へ移行する」
その瞬間、空が爆ぜた
上空から滑り落ちてきたのはトリニティのエネルギー弾頭
迎撃の暇もなく、境界の地が火柱を上げた
何処から持ってきた兵器なのだろうか、きっと極秘で開発していたに違いない
「っ──っぐ……後衛、大破!」
「衛生班! 負傷者搬送急げ!盾壁!再構築急げ!」
煙の中で、誰かが叫ぶ
「これが……これが、あのユリがいた世界の続きかよ……!」
誰も答えない
答えられない
答えなんて、もうどこにもない
戦争は始まった
誰の意思でもない
誰か一人の死で火がついてしまうような──そんな世界で。銃声だけが、答えだった