トレセン学園には触れてはならないとされる謎がある。
たとえば、学園の広告動画の中にある一番古いものには誰も知らないウマ娘が何人か映っていたり、シンボリルドルフとオグリキャップの熱愛関係を思わせるシーンがあるが、あれはいったい何だったのか。
あるいは、ウマ娘以上の脚力を誇るたづなさんはいつも帽子で頭頂部を隠しているが、本当はウマ娘ではないのか。その正体は、「幻のウマ娘」と今も伝説に語り継がれる名駿トキノミノルではないか。
そうした噂話をしていると突然背後にたづなさんが現れ、しばらくの間の記憶を失っていたという怪談がさらに憶測を広げていく。
特に、トレーナーと担当ウマ娘の間に
だが、アグネスタキオンはそんな噂について問われると、あまり興味もなさそうに「ふぅん」と鼻を鳴らす。
「私はたづなさんはトキノミノルではないと思うねぇ」
いつもマンハッタンカフェとの溜まり場になっている研究室。そこにはタキオンとカフェ、そしてタキオンを慕う後輩ダイワスカーレットの三人がとりとめもない雑談に興じていた。いろいろと話題が移り変わり、そこにたづなの秘密について、学園内によくある、そして決して結論は出ない会話になったのだ。
「いいかいスカーレット君、トキノミノルが現役を退いたのはかなり前の話だ。確かハイセイコーよりも昔のウマ娘だろう?そのトキノミノルと同一人物と考えるには、たづなさんの容姿は若すぎると思わないかい。さすがにそれは無理があると思うねえ」
スカーレットはううん、と答えあぐねるが、言われてみればその通りだ。
カフェは特に言う事も無いので、口を挟むことなく静かにコーヒーを味わっている。
話題はすぐに別のことに移り変わっていった。
しかし、タキオンは頭の片隅に今の話をとどめておいた。たづなさんのウマ娘をも上回る脚力の正体そのものについては、興味が湧いてきた。
その話題をした日は、なぜか一日たづなさんの機嫌が良かったらしいとタキオンは後で聞いた。
まさか、あれも聞かれていたというのか。もしも「同一人物で間違いない」と言っていたら、噂のとおりたづなさんが研究室に飛び込んで来て三人とも記憶を失う羽目になったのか。
それは逆に、真実に近づく傍証になる。
タキオンはにやりと笑みを浮かべた。
「これは私の研究にも大きな進展が見込めるねえ!さあ、実験開始だ!」
タキオンは研究室に並ぶ試験管の一本を手に取り、自らの口に薬を流し込んだ。