一階に降りたタキオンはさらに駆け回り、いつしか食堂の近くまで辿り着いていた。
そこに、待ち受けているウマ娘たち。
「待て。事情は知らないが、とにかく止まってもらおう」
『オグリキャップだ――っ!』
「ターボ師匠のかたきはボクが取らせてもらうよ!」
『トウカイテイオー!メジロマックイーンもいるぞ!』
「逃がしてはあげません!」
『スペシャルウィーク!サイレンススズカぁ――っ!』
校内でも上位の強豪ウマ娘が五人、一斉にタキオンめがけて襲いかかる。タキオンはまだ余裕の笑みは崩さず、くるっと後ろを向いて走り出した。
だが、これではいつカフェたちが現れて挟み撃ちになるか分からない。
『逃げるアグネスタキオン!
そこにトウカイテイオー、サイレンススズカが迫っていくぞ!スペシャルウィーク、オグリキャップ、メジロマックイーンは後方で脚を溜めている!』
『ふ……ふひゅゅゅゅゅ……♡』
デジタル君は大丈夫なのだろうかと思いながら、タキオンは懐に手を入れ、何かを取り出した。
「おやおやあ? こんなところに駅前の新装開店レストランの、一時間食べ放題、スイーツ、特濃はちみー半額チケットがあるねえ!?」
そう大声で後ろに告げると、タキオンはばっと後ろにチケットを放り投げる。
そのチケットは……三枚。
「スイーツ!!」
「はちみー!!」
「「食べ放題!!」」
マックイーン、テイオー、スペ、オグリの目の色が変わった。食欲に目がくらんだウマ娘は四人。チケットは三枚。
誰か一人が取り遅れる!!!
『あーっとタキオンそっちのけで半額チケット争奪戦が始まった――!これは物凄い戦いだあああ!!』
裏門でエアグルーヴの「たわけ――――っ!!」の叫びが轟き渡った。
『だが食べ物に目をくれず、タキオンを追い続けるのはサイレンススズカ!これは速い!サイレンススズカ、アグネスタキオンを射程距離に捉えた!』
タキオンの後ろから凄まじい風を感じる。これがターフの上で一着を争うレースであれば、寒気すら覚えるであろう速さだ。
おそらくはポッケ君よりも、ダンツ君よりも、カフェよりも速い――サイレンススズカ。その脚もいずれ実験に使わせてもらうよ。
そうタキオンは心を燃やしつつ、走る脚を少し緩める。そのすぐ脇をスズカは駆け抜け――タキオンを抜き去った先頭の景色に、本当に心から嬉しそうな笑みを浮かべながら――廊下をはるか先まで、タキオンを置いて走り去っていった。
『ああーっ!?サイレンススズカ、タキオンを捕まえずに行ってしまった――っ!これはタキオンの作戦勝ちか!アグネスタキオン、食堂付近から校舎入り口まで逃げ延びていった――っ!』
裏門では「スズカぁぁ――――っ!!」とエアグルーヴが頭を抱えている。
「だが、まだいるねえ!」
玄関を越えて、校舎の天井の下から太陽の光のもとに出て視界が変わる、その一瞬。
絶対にここには伏兵がいる、そうタキオンは読んでいた。
予想の通り、サングラスとマスクで顔を隠したウマ娘が三人。中央の長身の芦毛は大きなずだ袋を構えている。
「ウオッカ!スカーレット!やあっておしまい!」
ゴールドシップの号令一下、三方向からウマ娘たちが包囲にかかる。
あれスカーレット君なのかい、とグラサンマスク姿に少し呆れつつ、タキオンは大きく脇に逸れてスカーレットの手をするりとかわした。
「ああっ!?」
「ふふっ、君の動きの癖はなんとなく分かってしまってねえ。悪いね、スカーレット君」
『アグネスタキオン、校舎から脱出――っ!オグリキャップとチームスピカも突破されたぁ――――!』
『だが、問題はここからだ!グラウンドにはナリタブライアン!ヒシアマゾン!テイエムオペラオー!オルフェーヴル!エルコンドルパサー!まだまだ強豪ウマ娘たちが待ち構えている!
今、遅れて校舎から飛び出してきたのはマンハッタンカフェ!ダンツフレーム、ジャングルポケットが続いてくる!
裏門にいるエアグルーヴは怒り爆発寸前!正門にはシンボリルドルフが!
この完全包囲、アグネスタキオンは学園から脱出できるのか――――っ!!』
『タ…………タキオンしゃん……♡ がんばって……くだしゃい……♡』